百日咳に特有の症状や治療、予防接種、妊婦の注意点などについて

百日咳は百日咳菌による呼吸器の感染症です。独特の咳などの症状があり、乳児の場合は重症化すると呼吸障害に陥ることもあります。大人の感染では軽いことが多いのですが、気づかずに子どもにうつす心配があります。百日咳について大切なポイントをまとめました。

  [感染症, 肺・呼吸器の病気]

更新日:2017年11月22日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部

百日咳とは

百日咳は、百日咳菌という細菌に感染して発症する呼吸器の感染症です。痙攣のような独特の咳が特徴で、乳児や乳幼児では、咳のほかに嘔吐や無呼吸発作などが起こり、重症となることがあります。

完治するまで3か月以上かかることもあり、病気の期間の長さから百日咳と呼ばれています。

大人も感染することがありますが、咳が長く続くものの、軽い症状ですむことが多くなります。ただし、症状が軽いことによって医療機関への受診が遅れてしまい、知らずに赤ちゃんや乳幼児へ感染させてしまうことがあります。

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百日咳の原因・感染

百日咳の原因は百日咳菌です。感染経路としては、主に飛沫感染となります。感染している人の咳やくしゃみに含まれる菌によって感染します。

百日咳の診断・検査方法

百日咳を診断するための検査方法には、次の方法があります。

血液検査

血液により百日咳の診断を行います。この方法では基本的に間隔を開けて二回の血液検査を行う必要があります。ただし、一回目の検査を感染の初期に行う必要があるため、初期に病院を受診していないと、確定診断が行えない可能性があります。

鼻汁の中の百日咳菌を培養する方法

鼻に細い綿棒を入れて鼻汁を採取し、百日咳菌を培養する方法です。結果が判明するまである程度(数日程度)の期間がかかります。この場合も、感染後の早期に診断を受けることが必要となります。

百日咳菌のDNAによる検査

こちらは百日咳菌のDNAにより検査します。この場合、感染からある程度日数が経過しても確定診断を行うことが可能です。

百日咳の潜伏期間、症状

百日咳の潜伏期間や症状などは次のように移り変わっていきます。

1. 感染、潜伏期間

感染すると、発症まで1週間程度(長いと3週間)の潜伏期間があります。

2. カタル期(2週間程度続く)

風邪のような症状が出て、しだいに咳の回数が増えていきます。

3. 痙咳期(2〜3週間程度続く)

痙咳期(けいがいき)では、百日咳の特徴である発作を伴う咳が出てきます。

スタッカートと呼ばれるコンコンという連続した咳がかなり激しく続き、咳がおさまるとヒューという音(笛声(フープ、フーピング)と呼ばれます。)を出して息を吸い込みます。

こうした発作の繰り返しが、特徴的な症状となります。(繰り返して発作を起こすことをレプリーゼと言います。)

また、発作には嘔吐を伴うこともあります。

この時期は、発熱はあっても微熱程度となります。百日咳に独特の咳は、咳の時間も長く、とても苦しそうにみえます。連続性の激しい咳が発作的に起こり、息を吸う間がないため、顔の静脈圧が上昇し、目の充血、鼻血、舌の筋が切れることなどがあります。他にも、顔面浮腫、点状出血などが見られることがあります。

発作は夜間に多くなる傾向があり、年齢が低いほど症状は一定でなくなり、ひどい場合は無呼吸発作やチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展し、死亡することもあります。発作がないときは、症状はほとんどありません。

4. 回復期(2〜3週間程度)

痙咳期の百日咳に特有の激しい発作は、徐々になくなっていきます。ただし、この間に風邪などにかかると、再びせき発作が起こることがあります。

5. 回復期以降

回復期以降も、時折発作が出ることがあります。完全に発作がなくなり、咳もなくなるまでには2〜3か月くらいかかります。

他人への感染させてしまう期間など

百日咳に感染した人が、他人へうつす可能性のある期間は、咳が出てから約3週間です。

ただし、その期間に医療機関を受診し、適切に薬などを飲むことで、菌の排出期間が短くなります。

百日咳の合併症

百日咳は合併症を起こすことがあります。特に生後12か月未満の子どもには合併症が多く、入院治療を要することも多くあります。

合併症の中でも、深刻なのが生後3か月以下の乳児が起こしやすい無呼吸です。

呼吸が止まる場合には人工呼吸が必要になり、死亡する例もあります。その他にも血液中の酸素が減少し、脳症を発症したり、痙攣、知能障害、肺炎などを起こしたりすることがあります。

百日咳の治療

百日咳菌に対する治療として、マクロライド系抗菌薬が用いられます。これはカタル期に有効とされます。

感染者から百日咳菌が排出される期間は、通常、3週間程度ありますが、薬を飲んでから5日目くらいには菌の排出がほとんどなくなります。ただし、薬を飲まなくなると再度排菌しますので、2週間程度は飲み続けることになります。

百日咳の症状である咳に対して効果的な薬はないため、咳止めはあくまでも対症療法であり、完全に咳を抑えることはできません。

対症療法では、鎮咳去痰剤、場合によって気管支拡張剤などが使われます。重症化した場合には、細菌やウイルスを中和するガンマグロブリンの投与なども行われます。薬の内服期間などは医師の指示に従ってください。

また、感染している人と同居している家族や、濃厚に接触した人については、予防的に抗生物質を処方するといった対応もあるようです。心配な場合は医療機関を受診して医師と相談してください。

嘔吐を伴う場合は、1回の食事量を少なくして、食事の回数は多くして消化の良いものを食べるようにしましょう。

百日咳の予防接種

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百日咳にはワクチンがありますので、予防接種を受けることができます。

百日咳のワクチンは四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)として、生後3か月から接種できます。このワクチンは副反応が少なく、安全に接種することができます。

また、定期接種として受ける場合、費用は市町村が負担してくれますので、無料となります。

標準的な予防接種の時期は、以下のとおりです。

  1. 生後3か月から12か月の間に、3~8週の間隔で3回接種
  2. 3回目の接種が終わった後の1年から1年半の間に4回目を接種

他人に感染させない配慮が大切

百日咳に感染した場合は、他人にうつさないよう配慮することが大切です。ひどい咳を伴うことがありますので、マスクをしないで人前に出たりすると、他人へ感染させてしまいます。

飛沫感染させないためにも、咳やくしゃみをするときには、ティッシュやマスクを口と鼻にあてて、他人へ飛沫がつかないように注意してください。

学校、保育園などへは出席停止の期間があります。

百日咳は、学校保健安全法により第二種の感染症に定められ、学校保健安全法施行規則第19条において、「特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで」は出席停止とされています。

学校保健安全法施行規則抜粋
(出席停止の期間の基準)
第十九条  令第六条第二項 の出席停止の期間の基準は、前条の感染症の種類に従い、次のとおりとする。
二  第二種の感染症(結核及び髄膜炎菌性髄膜炎を除く。)にかかった者については、次の期間。ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りでない。
ロ 百日咳にあっては、特有の咳が消失するまで又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで。

また、次の場合についても出席停止となりますので、注意してください。

  • 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
  • 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
  • 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

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大人の感染

百日咳は、子どもだけでなく、大人への感染も増加しています。大人が感染した場合の留意点を以下に記載しておきます。

  • 大人の場合はあまり症状が重くならないため、百日咳に感染したことに気付きにくい。
  • 感染に気付かないため、大人から子どもに感染しやすい。
  • 生後12か月未満の子どもに感染すると重症化する傾向があるので、他人へうつさないよう配慮が必要。
  • 場合によっては、一定期間は乳幼児から隔離することも必要。

百日咳のみならず、小さなお子さんのいる家庭では、周りの大人は体調に異変を感じた際には、できるだけ早めに医療機関を受診することをお勧めします。

妊婦さんへの影響について

妊婦さんが感染した場合

妊婦さんが百日咳に感染しても細菌自体は胎児に対して悪さをすることはないとされていますが、必ず医療機関を受診して医師に相談してください。

妊婦さんの予防接種について

妊婦さんも子どもの頃に様々な予防接種を受けていると思いますが、予防接種による抗体は10年程度でかなり弱くなっています。百日咳は大人になってから自分が感染する分にはいいのですが、それを乳児にうつしてしまっては大変です。

この場合、百日咳のワクチンを妊婦さんが接種するという方法があります。

現在、成人用の百日咳のワクチンとして、Tdapと呼ばれる3種混合のワクチンがあり、アメリカでは妊婦への予防接種は積極的に推奨されていますが、現在の日本では認可されていません。

ワクチンの接種により、お母さんから胎児へ百日咳に対する抗体が移行するとされていますので、ワクチンの接種により生後間もない赤ちゃんを百日咳から守ることができると言われています。

また、仕事で海外へ行く人や留学する人は、ワクチンの接種を求められることがありますので、国内でも対応している医療機関があります。

必要と感じる方は医師と相談してみるといいでしょう。

看護師からひとこと

百日咳にかかり、カタル期に入ると、子どもがひどい咳で心配になり、不安なお母さんも多いと思います。

親の心配は子どもに伝わりやすく、不安や興奮は、酸素消費につながりやすいため、子どもが安心感を得られるような環境を整えることが重要だと思います。

また、咳による体力消耗も激しく、簡単に脱水に陥りやすいので、適宜、水分補給、食べやすいものを摂取できるように用意をお願いしたいと思います。

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まとめ

  • 百日咳は、百日咳菌という細菌に感染して発症する呼吸器の感染症です。
  • 主に咳やくしゃみにより感染します。
  • 症状は2週間ほど風邪のような状態となり、その後に百日咳に独特の咳が続きます。
  • 完全に回復するまでは、2〜3か月ほどかかります。
  • 合併症を起こすことがあり、中でも無呼吸が深刻で、死亡する例もあります。
  • 治療は、菌に対する抗生剤の投与や、症状緩和のための対症療法を行います。
  • 百日咳には予防接種があります。このワクチンは副反応が少なく、安全に接種することができます。
  • 四種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)として、乳児の定期予防接種となりますので、無料で接種できます。
  • 感染した場合は、法令により、特有の咳が消失するか、5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまでは、保育園や学校などへの出席はできません。
  • 百日咳は大人も感染しますが、症状が軽いため、百日咳と気付かないことがあります。そのため大人から子どもに感染しやすいため、注意が必要です。
  • 妊婦さんが百日咳に感染しても胎児に影響はないと言われていますが、必ず医療機関を受診して医師に相談をしてください。
百日咳に関するみなさんの質問や回答も参考にしてください。

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