起立性調節障害とは?原因やチェックの方法、治療法について

起立性調節障害の症状は午前中に調子が悪く、午後から夜には調子が良くなります。そのため、ご両親はお子さんに対して「怠けているだけでは?」と思い、お子さんとしては「頑張っているのになぜ怒られるのか」といった気持ちになり、親子関係が悪化することもあります。病気の理解が重要で、協力して治療をしていく必要があります。ここでは、原因や治療法を中心にポイントを説明していきます。

  [自律神経, 自閉症]

更新日:2017年10月31日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部

起立性調節障害とは

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文部科学省の発表によると、年間30日以上欠席した小中学生の数は11万9617人(2013年調査)に上り、前年に比べて7,000人も増加していることがわかりました。

いわゆる不登校と呼ばれる状態ですが、もし、あなたのお子さんが学校を休みがちになった時、どのような対処を行いますか?

多くの方は、何とか学校に行けるように努めるのではないでしょうか。中には、お子さんを叱咤し、無理矢理でも学校に行かせる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、単に気持ちの問題と片付けてしまうのは危険な場合もあります。

なぜなら学校に行けない原因が、起立性調節障害の可能性があるからです。

思春期の発症が中心

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起立性調節障害は、思春期(10~16才頃)に多く、小学生の5%、中学生の10%に発症が見られ、男女比率は1:1.5~2と女子が高い傾向にあります。

重症化すると、体調不良によって通学が難しくなることから不登校になるケースも多く、実際に不登校児の3~4割に起立性調節障害が認められるというデータがあります。

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脳へ回る血液の不足が原因

人が立ち上がると、重力の関係で下半身に血液が集中し、そのままでは血圧が下がってしまいますが、通常はこれを避けるために、交感神経によって下半身の血管を収縮させて、上半身や脳への血液量を増やす調節機能が備わっています。

しかし、この機能が上手く働かなくなると、起き上がった時に脳に回る血液が不足してしまい、様々な症状を引き起こしてしまいます。

これが起立性調節障害です。

怠けではない

起立性調節障害は、朝起きられないにも関わらず、夕方から夜にかけて体調がよくなるため、周囲から誤解をされやすいと言えます。

そのため、本人は症状に苦しんでいるにも関わらず、「サボりたいだけ」「根性が足りない」「学校に行かなくていいから気楽でいいよね」など、心ない言葉によってさらに傷付いてしまい、うつ状態に陥ることも少なくありません。

症状を悪化させないためにも、保護者を始め周囲の理解が必要になります。

症状は主に午前中に現れる

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朝起きられない

朝起きようと思っても体がいうことをきかない、起き上がれないというのは、起立性調節障害の特徴的な症状と言えます。

中には、親が無理矢理起こしても、その時の記憶がないという場合もあります。

朝ご飯が食べられない

朝起きた直後は気持ちが悪くてご飯を食べることができない、午前中はお腹が空かないなどの症状があります。

夜眠れない・寝つきが悪い

朝は起きられない反面、夕方から夜にかけては元気になるというのも起立性調節障害の大きな特徴です。

特に夜は、眠気がこなかったり、寝つきが悪くなったりするなど不眠症のような症状があらわれることもあります。

立ちくらみ・めまい

体を起こしたり立ち上がったりした時などに、目の前が真っ白もしくは真っ暗になって、体がふらつくなどの症状が起こります。

起立性調節障害では、特に午前中にこの症状が強く出ることが多いのです。

吐き気

通勤・通学時の電車やバスの中で立っている時や、立ちながら何かの作業をしている時などに気分が悪くなることがあります。

倦怠感

疲れが抜けない、疲れやすい、体が重いなどの症状が現れます。ただし、午前中は症状が強く出るものの、午後からは比較的軽くなり、夜はほとんど見られなくなります。

頭痛

起立性調節障害では、脳に必要な酸素が不足することで頭痛が起こることがあります。

ただし、頭痛には一般的に脳の血管の拡張による片頭痛や、肩こりや背中の筋肉の緊張によりおこる緊張型頭痛が多く、頭痛があったからといって必ずしも起立性調節障害によるものとはいえません。

動悸・不整脈

心臓がドキドキとして、脈拍が速くなります。特に、立ち上がった時や階段を上がった時などに動悸が出やすいのが特徴です。

起立性調節障害によって下半身に血液が溜まりやすくなると、心臓に戻る血液量が減るため、心臓から全身に送り出す血液も当然ながら少なくなってしまいます。

すると、心臓はできるだけ多くの血液を送り出そうと動きを速めることから、それが動悸となってあらわれます。

思考力・集中力の低下

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物事をじっくりと考えたり、一つのことに集中して取り組んだりする力が低下してしまいます。

また、午前中はこうした状態が続きやすいため、授業に出ても覚えることができないなどの支障が生じやすくなります。

イライラなど精神的な影響

思考力や集中力が落ちると、考えがまとまらずにいらいらしやすくなり、不安感が強くなるなど、精神的に不安定になりやすくなります。

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原因には自律神経が大きく関わっている

起立性調節障害の発症のメカニズムについては、まだ詳しくは解明されていない状態ですが、自律神経の作用が大きく関わっていると考えられています。

自律神経の働きには交感神経と副交感神経のバランスが大切

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自律神経は、私達の意思とは関係なく、外部からの刺激や情報などによって体の機能を一定に保つために働いているものです。

呼吸や体温調節、食べ物の消化や排泄などをコントロールしていて、交感神経と副交感神経という2つの神経がシーソーのように交互に働くことで、体のあらゆる機能や器官のバランスを取っています。

交感神経の働き

活動時に優位になる神経です。

血管の収縮や血圧の上昇といった心拍数の上昇によって、仕事やスポーツ、家事などを積極的に行うことができます。

副交感神経の働き

休息時に優位になる神経です。胃腸などの消化器官の働きを活発にすることで、食事の時の消化や吸収を促進したり、眠気を起こしたりします。

午前中に調子が悪くなる理由とは

交感神経と副交感神経は、それぞれ優位に働く時間帯というものがあります。

交感神経は、早朝から活動量が増え始め、昼にピークを迎えると夕方にかけて収束します。

しかし、起立性調節障害になると、朝になっても交感神経の活動量が増えないため、その状態で起き上がろうとすると、下半身の血管の収縮が起こらず、脳に必要な酸素の量が足りなくなり、起きたくても体を起こすことができなくなってしまいます。

さらに、交感神経の活動量のピークが通常よりも5~6時間ほど遅れて訪れるため、必然的に夕方から夜間にかけて優位になる副交感神経のピーク時間もずれてしまい、夜になっても眠くならないといった症状が現れます。

思春期特有の心理も要因となる

起立性調節障害が思春期に多い理由として、二次性徴に伴うホルモンのバランスの変化に対応できないことがあげられます。

また、自我が芽生え、親や友達といった周囲との人間関係が複雑になり、ストレスを感じやすい時期に入るため、自律神経が乱れやすい傾向にあります。

特に、真面目で周囲に気を配るといった性格の子どもは、慢性的にストレスを抱え込みやすいことから、起立性調節障害を発症しやすいと言われています。

診断・チェック

日本小児心身医学会のガイドラインによれば、次のようなことを確認していくことで、起立性調節障害の診断をしていくことになります。

起立性調節障害の症状の確認

  • 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい。
  • 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる。
  • 入浴時、あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる。
  • 少し動くと動悸、あるいは息切れがする。
  • 朝なかなか起きられず、午前中調子が悪い。
  • 顔色が青白い
  • 食欲不振
  • 強い腹痛を時々訴える。
  • 倦怠感がある、疲れやすい
  • 頭痛をしばしば訴える。
  • 乗り物に酔いやすい

この11項目のうち3項目以上が当てはまる場合は、起立性調節障害の可能性が疑われます。

ただし、これだけですぐに起立性調節障害と診断されるわけでありません。

他の病気が起因していないかを調べるため、血液検査やレントゲン、心電図などを行う必要があります。

そのような検査を行っても特に異常が認められなかった場合は、起立性調節障害の確定診断をするため、続いて次の検査が行われます。

新起立試験(サブタイプの判別)

診察台に仰向けに寝た状態で10分間安静にした後、起き上がって1分後、3分後、5分後、7分後、10分後の血圧と脈拍を計ります。

検査によって算出された測定値を、日本小児心身医学会から出されているガイドラインに照らし合わせ、以下の4タイプのどれか一つでも該当する場合は起立性調節障害と診断されます。

起立直後性低血圧

起立直後に血圧が著しく低下している場合や、血圧の回復が遅い。

体位性頻脈症候群

起立中に血圧低下はないものの、著しい心拍の増加が認められる。
起立時の心拍数が115以上、または起立中の平均心拍増加が35以上の場合に該当する。

神経調節性失神

起立中に突然、意識低下や意識消失を起こすもの。

遷延性起立性低血圧

起立直後は血圧・脈拍ともに正常ですが、起立後3~10分以内に血圧が低下します。

病院は何科を受診すればよい?

子どもの起立性調節障害が疑われる場合には、小児科を受診するようにしましょう。

しかし、中学生ともなると小児科に行くのはちょっと・・と思ってしまいますよね。

小児科は基本的に15歳までを対象としていることが多いので、中学生が行っても問題がありませんし、肝心なのはその部分ではなく、小児科医は起立性調節障害の専門知識を持っている方が多いという点にあります。

逆に、内科や心療内科を受診しても、体にどこも異常がなければ「気の持ち様」や「心の病気」と診断されてしまうことがあります。

そのため、中学生であっても小児科を受診することをお勧めします。

日常生活・運動・食事療法

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水分を多く摂る

体重が30kgの子どもなら一日1.5ℓ、45kgなら2ℓ程度の水分を摂ることで、血流が維持され血圧の低下を防ぐことができます。

ゆっくりと起きる

起立時は30秒くらいかけてゆっくりと起きることで、脳の血流低下を防ぐことができます。

過度に汗をかくことは避ける

発汗し過ぎると体の水分量が減り、血圧低下を招いてしまうので注意しましょう。

散歩をする

心拍数が120を超えない運動を定期的に行うことで、自律神経の働きを安定させる効果が期待できます。

また、歩いている時に頭を少し前方に傾けることで、脳の血流が下がらずに失神を防ぐことができます。

食事に塩を取り入れる

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塩分の濃い食事をすることで、浸透圧の関係で体内に水分が溜まりやすくなり、血圧が下がりにくくなるため症状を抑えることができます。

弾性ストッキングの使用

下半身を圧迫することで、下半身に流れ込む血液の量を抑えることができます。小さなお子さんの場合、逆に血流を悪くすることもありますので、使用する際には医師に確認した方がいいでしょう。

病院での治療

薬の使用

薬物治療は、先に上記の日常生活の改善など、薬物を使わない治療で効果がなかった場合に用いられます。主に血管を収縮させて血圧を上げる昇圧剤が使用されます。

入院することもある

起立性調節障害の検査を行う時、2~3日の入院をすることがある他、自宅での生活が難しいと判断された場合や、生活リズムを整える方法として入院によって治療を進めることがあります。

完治について

起立性調節障害の場合、一度は症状が治まったに見えても再発することもあることから、何をもって完治というべきか定かではありません。

しかし、症状が多少あっても薬を服用しない状態で日常生活が支障なく送れるのであれば、それを完治とする場合もあります。

なお、起立性調節障害は、秋から冬に掛けて寒くなり血圧が高くなる時期には比較的症状が軽減し、逆に春から夏にかけて悪化する傾向にあると言われています。

また、症状の程度によって予後は異なり、遅刻しながらでも学校に行けたり、欠席日数がそう多くない中程度の症状の場合には、発症から一年後には約50%の子どもが回復を見せることがわかっていますが、学校に殆ど行くことができないなど重症になると、復帰までに2~3年ほど掛かることもあります。

整体やツボ押しも効果が期待できる

整体による治療

整体によって筋肉のコリや骨格の歪みを正すことで、血液の循環がスムーズになり、症状を改善する効果が期待できます。

ツボ

目が疲れた時に目頭を押すと気持ち良く感じ、リフレッシュした感覚になりますが、これはツボを押すことで気の滞留が解消され血の巡りがよくなるから、と言われています。

ツボ押しによる健康効果はWHO(世界保健機構)も認めており、起立性調節障害に効くツボも存在します。

サプリメント

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近年は体調管理をサプリメントで行う方が増えていますが、起立性調節障害にはL-テアニンというアミノ酸の一種を摂取するとよいという研究発表があり、L-テアニンが配合されたサプリメントを摂取することも、セルフケアの方法の一つとして注目されています。

看護師からひとこと

起立性調節障害で大切なことは、生活と運動のリズムを整えることです。スマホやゲームで、夜遅くまで起きていませんか?

寝る3時間前からはノーメディアで過ごし、早寝早起きを心がけるだけでも、少しずつ変わっていきますよ。

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主な参考文献・サイト

起立性調節障害の質問や回答が多く寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

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