結核は予防接種や生活水準の向上などにより、昔に比べれば減少してきた病気ですが、近年では再度患者数が増加してきています。日本は先進国の中でも結核の感染者が多い状況もあり、私たちも他人ごとではありません。結核に関する正しい知識を付けて感染予防に努め、感染しないようにしなければなりません。

更新日:2017年08月19日

この記事について

監修:大見貴秀医師

執筆:当サイト編集部

最近の結核事情

結核グラフ

出典:大阪府結核予防会(世界の結核の現状について)

結核は生活水準の向上やBCGの予防接種により急速に減少したため、過去の病気と思っている方も多いかもしれませんが、数年前から患者数が増え、今では年間数万人が感染している病気です。

結核は「感染」と「発病」がイコールではなく、結核に感染しても80%から90%の人は発病せず、残りの10%から20%の人は1~2年以内もしくは免疫力が低下した時に発病します。

患者の大半を占めるのは高齢者で、若い時に感染した結核菌が免疫力の低下などの影響で再び活動を始め、発病すると考えられています。

しかし、結核を発病していることに気づかず結核菌をばらまき、結果的に感染を拡大してしまうケースが多く見られるため厚生労働省や結核予防会などが中心になり結核予防の啓発運動を進めています。

大阪結核予防会によると、世界的にみて、日本は結核の感染者が多いことが示されています。また、厚生労働省によれば、結核の患者の7割以上が60歳以上の年齢ということで、結核患者は高齢者に多いのが特徴です。

【参考】結核の統計資料(厚生労働省)


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結核の原因

結核は抗酸菌の一種である「結核菌」が体内に入りみ、引き起こされる感染症です。感染には大きく2種類あります。

  • 飛沫感染・・・結核に感染して排菌している人のくしゃみ、咳から感染する。
  • 空気感染・・・咳やくしゃみのしぶきが蒸発して空気中を浮遊する菌から感染する。

結核菌は感染してから発病するまでの期間が決まっているわけでありません。また、感染した人の全員が発病する訳でもありません。

感染した時に免疫力が低いとすぐに発病(一次結核症)しますが、健康であれば免疫システムが働くため、結核菌は息を潜め、免疫力が低下した時に活動を再開し発病します(二次結核症)。

一次結核症・二次結核症ともに、体外に結核菌を排菌している状態を「活動性結核」と呼びます。

結核に感染・発病しやすい人

次の人は結核に感染・発病しやすい人になります。

結核患者に接する機会が多い人

  • 医療従事者(医師、看護師、臨床検査技師など)。
  • 家族に結核感染者がいる。
  • 結核患者を診察する医療機関を受診している。

免疫力が低下している人

  • HIV感染者。
  • 長期間ステロイド治療を受けている。
  • 免疫抑制薬を使っている。
  • 糖尿病、慢性肝炎を患っている。
  • 血液透析を受けている。
  • 高齢者、乳幼児、妊婦。

医療従事者の感染に伴う労災について

人と接する機会の多い職業や医療従事者の場合、「いつ、誰から感染したか」を特定するのは難しいため、結核での労災認定は難しいこともあります。

結核の症状

結核のうち8~9割は、呼吸により吸い込まれた結核菌が最初に到達する肺で起こります(これを「肺結核」といいます)。残りは肺以外の臓器で起こります(これを「肺外結核」といいます)。

結核は発病してしまうと、最悪の場合死亡してしまう怖い病気です。気になる症状がないかチェックしてみましょう。

肺結核

初期は風邪の症状とよく似ていますが、症状が2週間以上続くようであれば、肺結核の可能性も出てきますので、医療機関を受診し、医師の診断を受けた方がいいでしょう。

  • 感染部位:肺
  • 症状:数週間続く頑固な咳、倦怠感、血痰、発熱、胸痛、喀血、呼吸困難、体重減少など。

肺外結核(肺以外の結核)

腎・尿路結核

  • 感染部位:腎臓、腎盂、尿管、膀胱、尿道
  • 症状:排尿痛、頻尿、残尿感、血尿、尿の混濁、腰痛など。

腸結核

  • 感染部位:腸
  • 症状:便通異常、腰痛、発熱など。

性器結核

  • 感染部位:男性器、女性器
  • 症状:男性→症状はあまりない。女性→結核性卵管炎、子宮内膜炎など。

皮膚結核

  • 感染部位:皮膚
  • 症状:発疹、紅斑、膿瘍、潰瘍など。

粟粒結核

  • 感染部位:血流に乗って全身にひろがるが肺に多い。
  • 症状:高熱、頭痛、息切れ、胸痛、衰弱など。

結核性髄膜炎

  • 感染部位:脳の髄膜
  • 症状:発熱、強い頭痛、嘔吐、倦怠感、意識障害、片麻痺、痙攣など。

結核性リンパ節炎

  • 感染部位:リンパ節
  • 症状:発熱、倦怠感、頸部の腫れ、疼痛など。

結核性関節炎

  • 感染部位:股関節、膝・足・肩・手・仙腸関節など。
  • 症状:関節の腫れ、痛み、こわばりなど。

結核性脊椎炎(脊椎カリエス)

  • 感染部位:脊椎
  • 症状:腰痛、微熱、食欲不振、猫背、脊髄麻痺など。

結核性胸膜炎(結核胸水炎)

  • 感染部位:胸膜
  • 症状:胸痛、発熱、食欲不振、倦怠感など。

結核性腹膜炎

  • 感染部位:腹膜
  • 症状:倦怠感、食欲不振、微熱、貧血、腹痛など。

その他「非結核性抗酸菌症」について

結核のレントゲン写真と同じように影が映り、症状・検査法・治療法なども結核とよく似ている病気に「非結核性抗酸菌症」があります。

結核菌とらい菌を除いた抗酸菌が原因で起きる病気で、人から人への感染はありませんが、結核と同様に肺への感染が多いのが特徴です(肺非結核性抗酸菌症)。

治療法が確立されていないので、非結核性抗酸菌症は、死亡率は少しずつ増加しているといわれています。

結核の予防法

結核は「感染」と「発病」の両方を予防することが重要です。感染しないようにすること、そして、感染した場合に発病しないようにすること、もしくは発病しても軽い症状で済むようにすること。こういったことが重要になってきます。

感染予防

  • 定期的に健康診断を受診する(健診の結果は個人票にして5年間保存されます)。
  • マスクを着用する。
  • 室内にいるときは換気を心がける。

発病予防

BCGワクチン接種

  • 対象者:生後5カ月以降で定期接種(無償)
  • 目的:人工的に免疫を作り、感染した場合の重症化を防ぎます。
  • 方法:ツベルクリン反応検査陰性者に対して、毒素の弱い結核菌(ワクチン)を1回注射します。

BCGワクチンの接種後に気をつける必要があるのがコッホ現象です。接種した場所に本来の反応より早く赤身や膿が出てきます。こういった現象が出た場合、既に結核菌に感染していて反応している可能性がありますので、すぐに医師の診察を受けてください。

化学予防(予防内服)

  • 対象者:感染していても発病していない状態の人
  • 目的:将来の発病リスクを小さくします。
  • 方法:結核の治療薬を約6ヶ月服用します。

接触者健診

  • 対象者:結核患者と接触した可能性のある人
  • 目的:対象者が感染・発病していないかを調べます。
  • 方法:院内で結核患者に接した時は病院で検査します。一般の人が結核患者と接触したときには、市町村の保健センターなどで行います。

その他の発病予防

結核は感染してしまっても免疫力を高めておけば発病を防ぐことが出来ます。発病させないための予防法は次のようなものになります。

  • 規則正しい生活を心がける。
  • 十分な睡眠。
  • 適度な運動。
  • バランスのとれた食事。
  • タバコを吸わない。
  • 過労を避ける。


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結核の合併症

結核が影響を与えると考えられる病気には、次のようなものがあります。

肺外結核

結核性髄膜炎、結核性リンパ節炎、結核性関節炎、結核性胸膜炎、結核性腹膜炎などになります。

  • 原因:肺に感染した結核菌が血液やリンパ液に乗って全身の臓器に移動することで起こります。
  • 症状:感染部位によって様々です。(<結核の症状>の項目参照)

結核性膿胸

  • 原因:結核菌により胸膜が炎症を起こし胸膜内に膿状の液体が貯まることで起こります。
  • 症状:胸痛・呼吸困難・発熱・痰の増加など。

肺アスペルギルス症

  • 原因:肺結核によってできた空洞性病変にアスペルギルス(真菌の一種)が感染・増殖することで起こります。
  • 症状:咳、胸痛、呼吸困難、血痰など。

結核の検査

注射

結核の検査は以下に分類されます。

3つの検査

  1. 感染の有無を調べる検査
  2. 病巣を確認する検査
  3. 結核菌を検出する検査

1. 感染の有無を調べる検査

ツベルクリン反応検査

結核菌から抽出した成分を腕に注射し、48時間後に注射した部分が直径10mm以上に赤く腫れれば陽性と判定されます。

しかし、BCG接種を受けた人も数年間は陽性になるため、この検査だけでは結核に感染していると断定できません。

インターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)

患者から採取した血液中の「インターフェロンガンマ」の値を測定し、結核感染の有無を調べます。

ツベルクリン反応検査と違い、BCG接種の影響を受けずに結核感染の有無を調べることが出来ます。

IGRA検査にはクォンティフェロン検査(QFT)やTSPOT検査があります。

2. 病巣を確認する検査

胸部X線検査・胸部CT検査

病巣の存在(影)や広がりを観察します。画像診断だけでは結核と断定できないため、他の検査結果と合わせて総合的に診断します。

3. 結核菌を検出する検査

肺結核の場合は喀痰を、肺外結核の場合は感染部位の体液や分泌物を検体として検査します。

塗抹検査

検査の対象となる喀痰などの検体をスライドガラスに塗り、顕微鏡で観察します。

見えた菌の数に応じて0~10号までの番号をつけ、結核の結核菌のガフキー○号と表現します。結核菌の数が多くなると、号数が大きくなり、周囲への感染の危険度が高くなります。

分離培養検査

顕微鏡での確認が難しい場合、検体を結核菌だけが増殖する培地に塗り増殖させ肉眼でコロニー(菌の塊)を観察します。

>増殖分裂の速度が遅いため結果がでるまで8週間かかりますが、

遺伝子増幅検査(PCR検査)

結核菌の遺伝子を抽出し、増幅して結核菌の有無を調べます。分離培養検査と同精度の結果が2~3日で判明します。

結核の治療法

「不治の病」として恐れられていた結核ですが、今では適切な治療をすれば治る病気です。治療は主に結核内科又は呼吸器内科で行われます。

結核には公費負担制度があり「結核指定医療機関」で治療を受けると、医療費を公費で負担してもらえます(公費負担額については個人差があります)。

隔離治療の印象が強い病気ですが、排菌していなければ他者への感染リスクは低いため、通院による薬物治療を行うことが可能となります。

薬物治療

抗結核薬を長期間服用します。同じ薬剤を長期間使用するとその薬剤が効かなくなる「耐性化」という現象が起きやすくなります。

これは、結核菌が薬剤に対して抵抗性を持つことが原因と考えられています。複数の薬剤に対して耐性を持ってしまうような「多剤耐性結核」になると治療が困難になり治癒率が低くなります。この場合、数種類の抗結核薬(2~4剤)を、飲む時期を変えながら約6ヶ月間服用します(多剤併用療法)。

入院治療

活動性結核や塗抹検査の結果が陽性などの場合、他者への感染を防ぐため入院して治療を行います。結核病室が設備基準に適合した施設に入院することが望ましく、期間は数週間~数ヶ月に及びます。

手術

肺の一部を切除します。現在ではほぼ行われていませんが、薬物治療で効果が認められない場合に検討されます。

結核と妊婦の関係

結核は早期発見と免疫力を下げないことで予防が可能ですが、妊婦さんは胎児への影響からX線検査を積極的に受診しないため、発見が遅れることや、妊娠で免疫力が下がったりすることで感染・発病しやすい状態にあります。

結核治療中の子作りについては、薬の影響が不明瞭なため避けたほうが無難ですが、すでに妊娠している場合は薬の副作用よりも、未治療の方が妊婦・胎児共に悪影響があると考えられるため、適切な治療が必要です(母親→妊娠高血圧症候群・帝王切開率が高まるなど、胎児→低体重・先天性結核など)。

母親が活動性結核の場合、出産後に化学予防やBCGワクチン接種を行わないと、乳児の約半分は生後1年以内に発病します。

いずれにしても、医師と相談しながら治療を行っていくことが大切です。

結核と子どもの関係

子どもは免疫力が大人と比べ低いので、結核菌に感染するとすぐに発病してしまうことが多く、その期間が短いのも特徴です。

特に1歳未満の乳幼児は抵抗力が弱いため、結核性髄膜炎や粟粒結核など重症になりやすく、生命の危険にさらされる場合もあります。

子どもによく見られる症状

  • 咳、発熱、嘔吐、頭痛など風邪とよく似た症状。
  • 痙攣(結核性髄膜炎の場合)。
  • 呼吸困難(粟粒結核の場合)。
  • ミルクを飲まない。
  • 身体のだるさを訴える。
  • 何となく元気がない。
  • 笑顔が減る。

結核のまとめ

  • 結核は過去の病気ではない。
  • 結核菌を吸い込むことで感染する。
  • 感染しても発病するとは限らない。
  • 免疫力が低下すると発病しやすい。
  • 治療の中心は薬物治療。
  • 風邪と症状が似ているが2週間続いたら結核を疑ったほうが良い。
  • 結核は肺だけではなく、全身で起きる可能性がある。
  • 公費負担制度がある。
  • 検査は画像診断と検体検査(血液や喀痰)が中心。
  • 子どもの結核は重症化しやすい。
結核に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:免疫, 気管・心臓・肺, 生活習慣]

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