肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)は主に喫煙を原因とする病気です。多くはゆっくりと進行していきますので、初期段階では気づきにくいのが特徴です。また、一度、肺気腫となった肺はもとに戻ることはなく、進行を食い止めて、残っている肺で機能を維持することとなります。肺気腫について知るとともに、禁煙を考えてみてはどうでしょうか。

更新日:2017年08月03日

この記事について

監修:山浦真理子医師(上用賀世田谷通りクリニック)

執筆:当サイト編集部

肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは?

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺気腫と慢性気管支炎の総称です。ここでは、肺気腫について説明していきます。

肺気腫は肺を通る気管支の末端にある「肺胞」が破壊される病気です。

肺胞は、ブドウの房の様に数多く集まっていて、ガス交換を担っています。肺胞の1つ1つには毛細血管が網目のように張り巡らされ、全身を巡った血液はここで二酸化炭素と酸素を交換します。

肺気腫のメカニズム

肺胞が喫煙などの影響を受けて潰れる。

潰れた肺胞がくっついて大きな空洞を作り、肺の中がスカスカになる。

肺胞の数が減ることで毛細血管が分布している表面積も小さくなる。

呼吸の効率が悪くなり息切れなどの症状が現れる。

肺気腫は喫煙との関係が深く、多くは中年以降の男性が発症します。近年では健康志向が高まってきたことにより、喫煙者は減少していますが、肺気腫は発症まで長期間要するため、死亡者数は現在も増加傾向にあります。

成人喫煙率

出典:成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査)

COPD死亡率

日本におけるCOPD死亡率の推移 出典:一般社団法人GOLD日本委員会

肺気腫の原因

肺気腫になる最たる要因は「たばこ」です。

禁煙については、こちらで詳しく説明していますので、参考にしてください。

たばこ以外にも外的要因・内的要因の幾つかが複合して肺気腫を誘発します。

そして、たばこを吸わないから安心というわけではなく、他者の喫煙により生じた副流煙を吸いこむことでも肺気腫になる可能性があります(受動喫煙)。「受動喫煙」は大事な家族は元より、ペット(犬や猫など)にも影響を及ぼす恐れがあります。

外的要因

喫煙イメージ

呼吸により吸い込んだ有害物質に対する免疫反応の結果、肺がダメージを受けてしまいます。

  • 喫煙
  • 受動喫煙
  • 大気汚染
  • 職業暴露(粉塵や化学物質など)
  • 寒冷

内的要因

元々の肺の機能が弱ってしまうことで正常な状態を維持できなくなります。

  • 加齢
  • 呼吸器疾患を患っている
  • 体質(遺伝により先天的にα1アンチトリプシンという酵素が不足している)


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肺気腫の症状

肺気腫は基本的に治らない病気です。

進行は遅いため、発症するまでに数十年かかる場合もありますが、発病してしまった人の寿命は、たばこを吸わない人より吸う人の方が短いといわれ、その場合の5年生存率は40%〜60%、10年生存率は40%程度とも言われています。

初期の肺気腫は自覚症状が乏しく、症状の進行も緩やかなため放置しがちです。しかし、軽度→中等度→重度と進行していくと、軽い運動でも呼吸困難や息切れの症状が出現し、呼吸がしにくくなっていきます。

肺気腫によく見られる具体的な症状

  • 慢性的な咳
  • 息切れ
  • 痰がよく出る。
  • 動悸がする。
  • 浮腫(むくみ)がある。
  • 嚥下障害(食べることや飲み込むことがうまくできない)がある。
  • 食欲不振よる体重減少。
  • 息を吐くときに違和感がある。
  • 空気が抜けて言葉がしゃべれない。
  • 肋骨の裏側に痛みを感じる。
  • 運動時(家事・散歩・階段・坂道など)の息切れ。
  • 呼吸時に「ヒューヒュー」、「ゼーゼー」と音がする(喘鳴)。
  • 吸った空気がうまく吐き出せない(チェックバルブ現象)。

急性増悪について

肺気腫には、気道感染や大気汚染など(原因が特定できないものもあります。)がきっかけで悪化する「急性憎悪」というものがあります。急性増悪になると、咳、痰、息切れが急にひどくなります。そして、肺や体全体が急激に悪化していき、苦しくなっていきます。

肺気腫になった患者さんのうち、ひどい場合は年に2、3回も急性増悪を起こす人もいます。

急性増悪を起こすと、酸素吸入や、抗生物質の投与、ひどい場合は人工呼吸器を付けるまでに至ることがあります。

命に関わる状態となることがありますので、対策を取らなければなりません。医師の指示にしっかり従うことが大切です。また、次の予防法をしっかりと確認してください。

肺気腫の予防法

禁煙

肺気腫の一番の予防法は「タバコを遠ざける」ことです。

その他にも下記の点に注意して体調を整えましょう。

喫煙習慣を絶つ・受動喫煙を避ける

タバコの煙を吸わないことが一番の予防でもあり、進行を食い止めるためにも重要なことです。どうしてもやめられない場合は、禁煙外来での治療をお勧めします。

定期的に健康診断を受ける

胸部レントゲン検査やCT検査で早期に発見できる可能性があるため、自覚症状がなくても40歳を過ぎたら定期的に健康診断を受診しましょう。

手洗いやうがいをきちんとする。

風邪などの感染症が引き金になり肺気腫が悪化する場合があります。呼吸器感染症を予防しましょう。

ワクチン接種(予防接種)

肺気腫の患者が感染症(肺炎やインフルエンザ)にかかると命に関わる場合があります。肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンなどを接種して、予防に努めることが大切です。

生活習慣を改善する

適度な運動や栄養バランスの良い食事を心がけ、抵抗力をつけましょう。

肺気腫と合併しやすい病気

肺気腫は合併症の多い病気です。

肺気腫は生きていくために最低限必要な機能である「呼吸」に障害が出るため、その影響は肺だけでなく、全身に及びます。

肺気腫患者の2/3は合併症で亡くなっています。

肺の合併症

慢性気管支炎、呼吸器感染症(肺炎・インフルエンザ)、胸膜炎(肋膜炎)、喘息、肺がん、肺気胸などがあります。

肺以外の合併症

心不全、心筋梗塞、肺性心、骨粗鬆症、うつ病、肺高血圧、動脈硬化などがあげられます。

肺気腫の検査

検査

肺気腫の検査では肺の機能を調べる「肺機能検査」と、肺の見た目の変化を調べる「画像診断(胸部X線やCT検査)」が中心になります。

肺機能検査(スパイロ検査)

スパイロイメージ

測定用のマウスピースをくわえ、検査担当者の合図に合わせて息を吸ったり吐いたりする簡単な検査です。

 スパイロメトリーと呼ばれる計測器で「努力性肺活量」と「1秒量」を測定し、計算式により「1秒率」を算出します。肺気腫の場合、1秒率が70%未満になります。

  • 努力性肺活量(FVC):吸えるだけの空気を吸いその空気を勢い良く吐き出した時の空気量
  • 1秒量(FEV1):吐き始めの1秒間に吐き出した空気量
  • 1秒率(FEV1/ FVC)=1秒量(FEV1)÷努力性肺活量(FVC)×100

胸部X線写真

X線を照射し透過したX線を可視化します。

肺気腫の場合、肺の膨張、横隔膜の平坦化、両肺気腫性透過性亢進、両肺肺尖部のブラ(のう胞)などの画像所見が見られます。

CT検査

CT検査

身体にX線を照射して得たデータをコンピュータ処理して画像化します。肺気腫の場合、肺胞構造が破壊されている所見が認められます。

心エコー検査

心臓に超音波をあて、その反響を画像化します。肺気腫の場合、心機能(特に右心機能)に異常が見られます。

心電図

心臓の電気的活動をグラフの形に記録します。肺気腫の場合、低電位を示します。

聴診

呼吸音を聞きます。肺気腫の場合、正常の呼吸では聞こえない副雑音が聞こえます。

視診

患者の患部や顔色などを観察します。肺気腫の場合、ビア樽状胸郭やばち指が認められます。

血液ガス検査

血液中の酸素と二酸化炭素の濃度を測定します。肺気腫の場合、PaCO2が上昇し、PaO2は低下します。


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肺気腫の治療法

肺気腫の治療は、内科もしくは呼吸器科が中心になります。

一度機能を失った肺胞が元に戻ることはないため、完全治癒ではなく、進行を食い止めて、残っている現状の肺胞だけで肺機能を維持することが治療の目的になります。

生活指導

  • 禁煙の指導。
  • 埃の多い場所ではマスクを付ける。

薬物療法

気管支を拡張させ呼吸困難を緩和する「気管支拡張薬(抗コリン薬・β2刺激薬・メチルサンチン・テオフィリンなど)」が中心に処方されます。

その他必要に応じて去痰薬(痰をとる)、鎮咳薬(咳を止める)、抗生物質(感染症を防ぐ)、ステロイド薬(炎症を防ぐ)などが処方されます。

栄養指導・食事療法

肺気腫は呼吸に多くのエネルギーが使われるため栄養が不足し痩せていきます。呼吸筋を維持するために、十分なカロリー及び高たんぱく質の摂取が必要です。

運動療法

弱い運動から少しずつ強度を上げていき、限られた身体条件の範囲内でより効率的に動かせるように身体を慣らしていきます。

呼吸リハビリテーション

現状の肺機能を最大限生かせるように呼吸トレーニングをします。

  • 口すぼめ呼吸:気道閉塞の症状を緩和し、息切れを緩和する呼吸法です。
  • 腹式呼吸:エネルギー消費を少なくする呼吸法です。

呼吸リハビリテーションに関する動画をご紹介します。

在宅酸素療法

症状が進行し呼吸困難が強い場合、自宅に酸素を作る器械を設置して自宅で酸素吸入を行います。在宅看護が負担になる場合は訪問看護サービスを自治体などに相談してみましょう。

若年性肺気腫について

喫煙の有無にかかわらず55歳以下で肺気腫を発見・発症した場合、一般的な肺気腫と区別して「若年性肺気腫」と呼びます。

しかし、肺気腫は60歳を超えてからの発症がほとんどなので、若年性の肺気腫は極めて少ないと考えられています。

肺気腫との経過の違いははっきりしておらず、予防法・治療法・症状・合併症などは通常の肺気腫と同様です。

異なる点は、5年生存率が40~60%と言われている通常の肺気腫と比べて、「若年性肺気腫」の余命は10~30年とばらつきがあります。

「若年性肺気腫」は厚生労働省により特定疾患(難病)に指定されています。

若年性肺気腫になる原因として考えられるもの

  • 未成年時代からの喫煙。
  • 幼児期の感染症(肺炎や気管支炎)。
  • 気管支喘息を患っている。
  • 遺伝的要因(α1アンチトリプシン欠損症のみ)。
  • 大気汚染。
  • 有害物質の吸入。
  • 受動喫煙してしまう環境に身をおいていた。

子どもでも肺気腫のリスクはある

子どもイメージ

肺気腫の原因は長期間の喫煙によるものが多いので、子どもが肺気腫になることは非常に稀です。しかし、幼少時にから受動喫煙などにさらされると将来的な肺気腫に罹患するリスクも高まります。

子どもが肺気腫になる原因として考えられるもの

家庭での受動喫煙

成長段階の乳幼児期に受動喫煙の影響を受けると肺胞の出来方に障害が出る場合があり、このダメージは60歳になっても肺に残ると言われています。

子どものいる家庭では家族全員が協力して禁煙を心がけましょう。

胎便吸引症候群(MAS)

体内の胎児が胎便を排泄し、体内もしくは出産後にそれを気管支や肺につまらせることが肺気腫につながります。

先天性の心臓病

生まれつき心臓に奇形があると肺への負担が大きくなり肺気腫になる場合があります。肺気腫の手術や心臓病自体の手術が行われます。

新生児期または乳幼児期の重い呼吸器疾患

肺胞の大部分が作られる時期にダメージを受け十分に発育できないことが将来的な障害につながり肺気腫を誘発します。

子どもの肺に関する病気については、こちらを合わせてご覧ください。

肺気腫のまとめ

  • 肺気腫は「肺胞」の病気。
  • 肺気腫の90%はタバコが原因。
  • 一番の予防・治療は「禁煙」。
  • 進行性の病気なので完治は望めない。
  • 合併症で命を落とす場合が多い。
  • 主な症状は、咳・痰・息切れ。
  • 治療は軽度のうちから始めるのが重要。
  • 若年性肺気腫は難病に指定されている。
  • 喫煙していなくても「受動喫煙」で肺気腫になる可能性がある。
肺気腫に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:気管・心臓・肺, 生活習慣, 男性に多い]

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