バセドウ病は「甲状腺ホルモン」が過剰に分泌され、新陳代謝が活発になりすぎることで体に様々な症状が出てくる病気です。バセドウ病の根本的な原因ははっきりしていませんが、一定のコントロールが可能です。バセドウ病についてわかりすく解説します。

更新日:2017年09月24日

この記事について

監修:豊田早苗医師(とよだクリニック院長)

執筆:当サイト編集部

バセドウ病とは?

バセドウ病(グレーブス病)は、甲状腺の機能が亢進する病気です。スポーツ選手や芸能人がバセドウ病を患っていると報道されることもありますので、一度くらいは耳にしたことがある病名かもしれません。

甲状腺は新陳代謝を促進するホルモンを作る重要な臓器で、首の前面に蝶が羽を広げるような形で気管を包み込むようにくっついています。

バセドウ病は甲状腺が産生する「甲状腺ホルモン」が過剰に分泌され、甲状腺機能が亢進している状態なので「甲状腺機能亢進症」とも呼ばれます。女性が発症する割合が多く(男性の3~5倍)、20~40代に多いのが特徴です。


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バセドウ病の原因

バセドウ病の原因を考える上で重要になるのは「免疫系の異常」です。

本来免疫は体内に侵入した外敵(ウィルス等)をやっつけてくれる大事な仕組みなのですが、何らかの原因で自分自身の細胞や組織を異物とみなして攻撃してしまうことがあります。これが「自己免疫疾患」と呼ばれるもので、バセドウ病もその中の1つです。

通常、甲状腺は脳下垂体から分泌される「甲状腺刺激ホルモン」に刺激されて甲状腺ホルモンを分泌します。しかし、免疫システムに異常が起きると、何らかの原因で甲状腺を敵とみなす「甲状腺自己抗体」が作られ、通常の「甲状腺刺激ホルモン」に加えて「甲状腺自己抗体」が絶え間なく甲状腺を刺激することになり、甲状腺ホルモンを過剰に分泌してしまいます。

バセドウ病の症状

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甲状腺ホルモンは体の新陳代謝に関係します。バセドウ病はこの甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、新陳代謝が活発になりすぎることで体に様々な影響を及ぼします。

バセドウ病の代表症状(メルゼブルク三徴)

  • 眼球突出(目が前に突き出てくる)。
  • 頻脈(脈が速くなる)。
  • 甲状腺腫大(首が腫れる)。

バセドウ病の自覚症状

  • 動悸・息切れがする。
  • 手足が震える・しびれる。
  • 体がだるく、疲れやすい。
  • 微熱が続く。
  • 寝付きが悪い・不眠。
  • 食欲が旺盛なのに体重が減る。
  • 汗をかきやすい。
  • イライラする。
  • 月経不順・無月経。
  • 精神が不安定になる。
  • 暑がりになる。
  • 血圧が高くなる。
  • 下痢をしがち。
  • 毛が抜けやすい(ホルモン量が安定したら自然におさまります)。
  • 喉が乾く。
  • 階段を降りる時に足が震える。
  • 目やのどに痛みがある。

症状には個人差があり、上記の全てが当てはまるわけではありません。

治療せずにいると重症化してしまい危険ですが、適切な治療を受け甲状腺ホルモンの値が正常値に戻ると症状はおさまっていきます。

バセドウ病の予防法

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バセドウ病の原因自体がはっきりしていないので、これをすれば予防できるという確実なものはありません。ただ、引き金として考えられることがいくつかあります。

引き金になる可能性のあるもの

  • 遺伝
  • 妊娠・出産
  • 更年期(女性)
  • ストレス
  • 過労
  • ヨウ素の大量摂取
  • 喫煙

上記の中で遺伝・妊娠・出産・更年期は避けることが難しいですが、運動や趣味活動を行うなどしてストレス発散に取り組んだり、睡眠時間は最低限確保し、週に1回は休養日を設ける、ヨードを多くふくむ海藻などの食品の摂取を控える、1日に吸うタバコの本数を決めるなど、自分で意識することで減らすことも可能なものもあります。

バセドウ病の合併症

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甲状腺の機能が亢進した状態が長く続くと、合併症になる可能性があります。バセドウ病の代表的な合併症には、次のようなものがあります。

甲状腺クリーゼ

原因

バセドウ病の症状が突然悪化し、甲状腺が極端な機能亢進を起こします。

症状

激しい頻脈・高熱・悪心・下痢・嘔吐・意識障害など。最悪の場合、死亡する場合もあります。

甲状腺中毒性ミオパチー

中年以降の男性に多く見られます。甲状腺中毒性ミオパチー単独での発症はないと考えられており、重症筋無力症・筋ジストロフィー・周期性四肢麻痺などを伴いながら発症します。

原因

甲状腺のホルモンの異常分泌が筋肉に刺激を与えることにより筋肉が障害を起こします。

症状

著しい筋肉の萎縮・けいれん・筋肉痛・筋力低下・脱力感・疲労感など。

甲状腺中毒性周期性四肢麻痺

男性に多く見られます。

原因

甲状腺ホルモンの過剰分泌が原因で低カリウム血症になり四肢麻痺を起こします。

症状

起床時・激しい運動や過食の後に突発的に手足に力が入りにくくなり、しばらくすると戻るということを繰り返します。病状は数分から数時間続くことがあります。

心臓の病気

原因

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されていると血流量が増えるので心臓に負担がかかります。

症状

心不全、不整脈など。血栓による脳梗塞を引き起こすこともあります。

バセドウ病眼症

原因

自己免疫の異常が原因と考えており、まぶたや眼球の後ろの組織に炎症が起こります。

症状

まぶたの腫れ、眼球突出、物が二重に見える、視力低下、目の乾燥などがみられます。

バセドウ病の検査

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典型的なバセドウ病の場合、問診や触診でおおよその見当はつきますが、病状の程度や確定診断を行うためには検査が必要となります。検査は血液検査が中心になります。

血液検査

甲状腺に関係する血中成分4種類を主に調べます。

  • 甲状腺ホルモン(FT3・FT4)
  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
  • TSH受容体抗体 (TRAb)

検査結果が「FT3・FT4→正常値より上」かつ「TSH→正常値より下」の場合、甲状腺の機能が亢進しているということを意味しています。しかし、バセドウ病以外にも甲状腺機能が亢進する病気があるため、これだけではバセドウ病と判断はできません。

自分の体を攻撃するため通常体内には存在しないはずのTSH受容体抗体 (TRAb)を調べ、この自己抗体が体内に存在すればバセドウ病と確定されます。

超音波検査

検査したい部位に超音波をあて、その反響を画像化します。甲状腺の腫れ、甲状腺内の血流、しこりや腫瘍の有無を調べます。

甲状腺ヨード接種率検査(アイソトープ検査)

甲状腺にヨウ素が集まりやすい性質を利用しており、血液検査と超音波検査の結果だけではバセドウ病と診断できない場合に実施されます。

ヨウ素のアイソトープ(放射性ヨウ素)を服用し、アイソトープが甲状腺全体にたくさん集まればバセドウ病と診断されます。

この検査には以下の注意点があります。

  • 放射線を使用する検査なので妊娠中・授乳中は検査を受けられない。
  • 検査1週間前からヨードを含む食品(海藻類・うがい薬など)を避けないといけないなど。

その他、必要に応じて心電図・尿検査・頚部レントゲン撮影・シンチグラム検査・CT検査・穿刺吸引細胞診などを行います。


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バセドウ病の治療法

バセドウ病の治療はバセドウ病や甲状腺の専門病院、もしくは総合病院などの内分泌科で受けることができます。

バセドウ病の治療法は主に3種類あり、どの治療法も甲状腺ホルモンが過剰に分泌されないようにすることが目的です。治療法にはそれぞれ長所短所があるので、患者さん本人の希望や症状にあった治療法が選択されます。

薬物療法

定期的に血液検査を行い、甲状腺ホルモンを抑える薬剤(抗甲状腺薬:メルカゾール、チウラジール)を規則的に服用することで、甲状腺ホルモンの量をコントロールします。

服薬は少なくとも1~2年間は続ける必要があり、自己判断で中断すると悪化することがあります。

薬物治療により甲状腺ホルモンの濃度が正常になれば症状もおさまり、普通の人と変わらない生活ができるようになります。

  • 長所:年齢に関係なく治療できる、薬をのむだけなので簡単、外来通院で治療が可能。
  • 短所:完治は難しく寛解(症状が落ち着いて病状が安定する)という状態を目指す、再発が多い。

バセドウ病と関節の痛みの関係は、主に薬の副作用が考えられ、それ以外にもかゆみ・肝機能障害・無顆粒球症などの副作用があります。

手術

甲状腺をすべてとる全摘手術と一部を残す亜全摘手術があります。甲状腺を切除することで甲状腺ホルモンの量を調節します。

  • 長所:完治までの期間が短い、再発しにくい。
  • 短所:入院が必要、傷跡が残る、手術による合併症(嗄声・副甲状腺機能低下症など)の危険がある、甲状腺機能低下症に移行する場合がある。

アイソトープ(放射性ヨード)治療

放射性ヨードの飲み薬を使用し、放射線で甲状腺の細胞を減らします。手術を受けられない人、再発した人、薬であまり効果がない人に対して行われることが多い治療法です。

  • 長所:安全性が高く再発の少ない治療法です。
  • 短所:細胞が減りすぎて甲状腺の機能低下(甲状腺機能低下症)が発生することがあります。治療を受けた患者さんの大半がなるといわれ、甲状腺ホルモン剤を飲んで安定させます。また、子ども(18歳以下)、妊娠中の人、授乳中の人はこの治療が受けられません。

妊婦とバセドウ病

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バセドウ病であっても妊娠・出産を諦める必要はありません。

甲状腺機能亢進状態になっていれば流産・早産などのトラブルが起きるリスクが通常よりは高くなりますが、抗甲状腺薬により甲状腺機能が正常化していれば問題はありません。

安全な妊娠・出産に必要なことは甲状腺ホルモンの数値を安定させることなので、妊娠中でもバセドウ病の治療は薬物治療が中心になります。

妊娠中の薬物治療は胎児への影響が心配され、薬をやめたいと思うのが親心ですが母親が自己免疫疾患の状態にあるとその攻撃対象は胎盤を通り胎児にまで及ぶため、薬物を使用して数値を安定させることがひいては胎児を守ることにもつながります。

自己判断で断薬などはせず、薬の種類や量など、医師の指示に従い状態に合わせてホルモン量をコントロールしていきましょう。

子どもとバセドウ病

バセドウ病はある程度遺伝が関係するといわれており、幼児期の発症例も稀にありますが、小児における好発年齢は思春期以降です。大人と同様に女児の方が多く発症すると言われています。

家系にバセドウ病や橋本病の方がいる場合は、定期的に検査を受けると安心です。子どものバセドウ病は身体的な症状(眼球突出・手の震え・頻脈など)よりも、情緒・行動面に症状が現れる場合が多く、思春期特有の反抗期と間違えやすいため、注意が必要です。

バセドウ病の子どもによく見られる行動など

  • イライラしやすい。
  • 集中力が低下し、すぐ飽きる。
  • 落ち着きが無い。
  • 不登校になる。
  • 成績が下る。
  • 人間関係がうまくいかない。

看護師からひとこと

私自身のことですが、小学2年生の時に首の腫れ、落ち着きのなさ、異常な食欲があったため、看護師だった母親が気づいて受診しました。1週間の検査入院を経てバセドウ病の診断がつきました。原因は不明です。

眼球突出、手のふるえ、甲状腺腫大、頻脈、異常な食欲なのに痩せていくなどの症状もありましたが、薬物療法を行い、寛解まで5年ほど服薬しました。

病状の重いときは運動制限があり(走るのは禁止)、ヨード類の制限で、のり、わかめ、ひじきなどの一切の海藻類を食べることができませんでした。

成人してから現在まで再発はありませんが、定期的な血液検査は行っています。

バセドウ病の治療は長期間にのぼることがありますが、コントロールがつけば日常生活だけでなく、スポーツも妊娠・出産も可能となります。焦らずに治療するようにしましょう。

バセドウ病のまとめ

  • バセドウ病は甲状腺の病気。
  • 検査は主に血液検査
  • 代表的な治療法は薬物治療。
  • バセドウ病は女性がなりやすい。
  • バセドウ病の根本にあるのは免疫の異常。
  • 代表的な症状は眼球突出・頻脈・甲状腺腫大の3つ。
  • 原因が不明なので確実な予防法はない。
  • バセドウ病でも治療をすれば妊娠・出産は可能。
  • 治療は長期間に及ぶことが多い。
  • 子どものバセドウ病は反抗期と間違えやすい。
バセドウ病に関する質問や回答が多く寄せられています。こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:健康習慣, 免疫, 生活習慣, 目・鼻]

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