セルフチェックで胸にしこりを見つけた場合は、乳がんの可能性を考えて、すぐに病院での検査が必要です。ただし、乳腺症のしこりには乳がんとは異なる特徴や症状があります。ここでは、しこりや症状が乳腺症と乳がんでどのように異なるのか、乳腺症の石灰化や痛み、治療法などについて説明します。

更新日:2017年11月19日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部(看護師

乳腺症とは

乳腺症とは

乳腺症は病気ではない

乳腺症とは、女性ホルモンのバランスが乱れ、乳腺の働きが活発になることにより起こる病気です。30代以降で閉経前の女性に起こりやすく、予後の良い良性疾患です。乳房のしこりのおよそ半数は、乳腺症が原因です。

従来、乳腺症は「乳がんではないけれど、乳腺に異常が起こっている状態」という大きな意味で使われてきました。しかし、最近では「一部を除いたものは病気ではなく正常あるいは正常からの逸脱」という考え方が主流になりつつあります。

つまり、明らかな病気ではない、という考え方もあるのです。

乳腺症は他の病気との鑑別が大切

乳腺に異常があるものの、検査で疾患がないと判断されたときに、広い意味で「乳腺症」と診断される場合があります。

乳腺症では、乳腺がさまざまな変化をするため、一目で「乳腺症である」と断定することが困難です。この多様な変化が他の病気との区別を難しくしています。

乳腺に異常があったり、他の疾患と似ている症状が出たりしたときには、それを丁寧に検査して「悪性のものではない」と区別(これを病気の「鑑別」といいます)していくことが大切なのです。

乳腺症の症状

症状

乳腺症の症状は、ホルモンの分泌の量と強く関係しています。

数種類ある女性ホルモンのうち、エストロゲンとプロゲステロンのバランスが乱れることにより、乳腺症の症状は起こります。

乳腺症の症状には周期性がある

エストロゲンとプロゲステロンはどちらも卵巣で作られるホルモンです。生理周期に合わせて交互に分泌することにより、女性の体のバランスを保ち、生理から妊娠出産へと女性機能を助ける働きをしています。

エストロゲンとは

エストロゲンは生理の終わりから排卵期(通常、生理終了後2週間程度)にかけて分泌が多くなるホルモンです。子宮を整え、排卵や妊娠の準備の手伝いをします。

プロゲステロンとは

一方、プロゲステロンとは、エストロゲンの分泌が少なくなる排卵後から生理が始まるまでに多く分泌され、基礎体温を上げるなど体を妊娠に適した状態に整えるホルモンです。プロゲステロンの分泌が多い時期は、頭痛やイライラ、むくみなど、生理前の不快症状が強く起こることがあり、このような状態は月経前症候群とも呼ばれます。

乳腺症ではプロゲステロンが多くてもいい

月経前症候群の女性からは迷惑に感じられるプロゲステロンですが、乳腺症では逆です。

本来プロゲステロンが多く分泌される時期にも、エストロゲンの分泌がプロゲステロンの分泌を上回ってしまい、このことで乳房の張りや痛みなどの症状が強く出てしまいます。

このように、ホルモンの分泌量に応じて、症状が強く出たり弱まったりすることから「症状に周期性がある」と言われます。これは初期の乳腺症の大きな特徴です。一般的に、生理前には乳腺症の症状が強く出て、生理が来ると治まる傾向があります。


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乳腺症のしこりの特徴

乳腺症の主な症状のひとつは「乳房のしこり」です。ほとんどの人は乳がんのセルフチェックで気付きます。しこりは、たいてい両側の乳房に起こりますが、片側だけに起こることもあります。

しこりが生理の時に小さくなると乳腺症の可能性が高くなりますが、しこりを発見したときに自己判断は禁物です。しこりに気付いた時には、すぐに医療機関を受診してください。

ほとんどは自然に軽快していく

乳腺症は発生から時間がたつと、徐々にその特徴的な周期性がなくなってきます。そして、閉経前後のエストロゲン分泌の減少に伴い、ほとんどが自然に軽快していきます。

乳房全体の張りが特徴

乳がんのしこりは1つの箇所に固まって局所的に触れやすいのですが、乳腺症のしこりは乳房全体の乳腺が広範囲に腫脹し、乳房全体が張るというのが特徴です。時折、一か所に分泌液が多くたまる「乳腺嚢胞」ができると、乳がんのしこりと同じように局所的に触れることがあります。

脇の下のしこりは要注意

乳腺症のしこりは、あくまで乳腺がある場所にできます。柔らかい乳房の部分と、その上の鎖骨までの、体の前面に近い部分です。

腕を上げると、脇の下に指が入るくらいに柔らかく、凹んだ部分があります。この部分が、乳がんでよく聞く脇の下といわれる部分です。

この部分はリンパ節が通っており、乳腺は通っていないので乳腺症とは関係ありません。脇の下のしこりは、乳がんのリンパ節転移によるものの可能性があるので、早めに医療機関を受診する必要があります。

主な検査はエコーとレントゲン

エコー検査

検査は主にエコーとレントゲンを行います。検査による見え方は、乳がんと乳腺症では異なります。

乳腺症 乳がん
エコー 乳房内全体に楕円形の黒い斑点状に映る 黒いかたまりとして映る
レントゲン 乳房全体に乳腺が網目状に広がっているのが白く映る 白いかたまりとして映る

一般に、エコー検査やレントゲン検査での乳腺症の所見は、乳がんの所見とは明らかに異なります。ただし、乳腺嚢胞が大きく固く触れる場合や、乳がんと鑑別しにくい場合は、さらに詳しく検査する必要があります。

石灰化した場合は詳しく調べる

乳腺が石灰化すると、エコーやレントゲンの検査では乳がんの石灰化と区別できなくなってしまいます。そのため、中の組織を取り出して詳しい検査を行います。

細胞診と組織診

エコー検査やレントゲンで悪性の所見と区別がつかない場合に、乳がんでないことを確認する必要があります。乳がんとの鑑別には、乳房の組織や分泌液を検査します。

針で検体を採取する細胞診

針を乳房に刺して、乳房嚢胞から分泌液を採取します。乳頭から分泌液が出る場合は、それを採取することもあります。短時間で済むため外来でも検査は可能ですが、病理医が検体を評価するため、結果が出るまでは数日~2週間の時間がかかります。

しこりの中身が確実にわかる組織診

細胞診で十分な結果を得られなかった場合、組織診を行います。より多くの組織を採取するので、しこりが悪性か良性か、どんな種類のものかを正確に知ることができます。

細胞診より太い針で組織を取り出す場合と、手術のように皮膚を切開して組織を取り出す方法があります。

しこり以外の症状

症状

痛み・激痛

乳腺症では、乳腺が活発に働いて乳房内の血流が増えるため乳房が張ります。乳房が張ると、パンとはち切れるような痛みが出ます。人によっては激痛となり、歩いたりする振動や、ぶつけることによって痛みが増すため、日常生活に支障をきたすことがあります。

分泌液が出る

乳房から透明なミルク状の分泌液が出ることがあります。乳腺の中に溜まりきらなかった分泌液が出ているだけなので、基本的には心配ありません。

肩こり

乳房が張ることや、痛みにより、肩こりを感じる場合があります。乳房を刺激すると痛みが出てしまうので、首や肩のストレッチを静かに行ってみましょう。肩周辺の血流を促進することで、肩こりの苦痛を軽減できます。

治療は経過観察と対症療法

治療法

治療は経過観察がメイン

乳房の異常を感じた時は、まずは乳腺外科を受診しましょう。

ちなみに婦人科は卵巣や子宮の病気を扱う科であり、乳腺については専門ではありませんので注意が必要です。

乳腺症は基本的には良性の病気なので、治療の必要はありません。乳房が柔らかい状態で、痛みが強くないときは経過観察となります。

乳腺症治療は、痛みへの対症療法

乳房の痛みが強い場合は、分泌物の量を抑えるため、ホルモンの分泌を少なくする薬を使うことがあります。

また、乳腺嚢胞が大きくなり、痛みが強い場合は、注射針で中の液体を抜くことで、症状を軽くすることができます。

乳がんとの違い、乳がんとの関係

乳腺症と乳がんのしこりの違い

乳腺症と乳がんのどちらも、乳房のしこりが主な自覚症状ですが、大きな違いは、乳腺症の痛みやしこりの大きさには、周期性の変化があることです。

初期の乳腺症のしこりは生理前に大きくなり、生理になると小さくなる特徴があります。それに対し、乳がんのしこりには、大きさの周期的な変化はありません。

また、しこりの触れ方が違います。乳腺症のしこりが、乳腺全体がデコボコなのに対し、乳がんはコロっとしたかたまりが触れます。

ただし、乳がんのしこりにもさまざまな種類があるため、乳腺症のしこりが固く触れる場合は、詳しく調べる必要があります。

しこりを触れた時に痛みがあるかどうかも、乳がんと乳腺症を自分で判断する材料になるでしょう。乳腺症のしこりは圧迫した時に痛みがあるのに対し、たいていの乳がんのしこりは痛みを伴いません。

しこりの違いをまとめると表のようになります。

乳腺症 乳がん
しこり 生理前に大きくなり、生理時に小さくなる 生理による変化はない
しこりの感触 乳房全体にでこぼこした感触 コロッとしたかたまり
しこりの痛み 圧痛 痛みはない

乳腺症は乳がんにはならない

乳腺症からごくまれに乳がんに発展することはありますが、これは乳腺症自体の症状ではなく、たまたま合併した結果といえます。乳腺症自体は良性の疾患で、ほぼ正常な状態ということができます。


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定期的に診察をうけましょう

乳腺症で一番危険なことは、乳腺症の症状により、乳がんの発見が遅れてしまうことです。

乳腺症では乳房全体が固く張ったり、乳腺の容積が増えていたりするので、乳がんのしこりがあってもセルフチェックでは発見しづらくなります。

また、乳腺症がある場合、集団検診で行われる触診やマンモグラフィーでは、乳腺症の所見が乳房全体に映ることにより、初期の小さな乳がんを見逃してしまう可能性があります。

乳腺症がある場合は、乳がんの集団検診で十分とは考えずに、乳腺症でかかりつけの病院で、定期的に診察を受けることが大切です。

乳腺炎との違い

乳房が熱くなったら乳腺炎

乳腺炎とは、乳房内で分泌液(母乳や膿)が溜まり、排出されないまま炎症を起こしてしまった状態のことです。乳腺炎では乳房が赤く、固いほど腫れて、強い痛みと熱感を伴います。乳腺炎の炎症がひどくなると、全身の発熱につながります。

それに対し、乳腺症は炎症が起こっていないので、熱が出たり乳房が赤くなったりすることはありません。乳房の張りと痛みがでますが、乳腺症と乳腺炎では全く異なります。

強い痛みには鎮痛剤も

乳腺症による乳房の痛みは、食事で摂る脂肪を減らすことで、ある程度軽減させることができます。海藻類に多く含まれるヨードを多く摂ったり、カフェインを控えることでも、症状の緩和が期待でるといわれています。

また、乳房の痛みは、ストレスによって強くなることもわかっています。睡眠と休息を十分取るように心がけましょう。

痛みが強い場合は痛み自体がストレスとなり、悪循環になってしまう場合があります。主治医と相談して、ホルモン療法の調整や、鎮痛剤の処方などを検討してもらいましょう。

妊娠・出産への影響

妊娠・出産への影響

乳腺症は30代以降の女性に起こりやすいため、妊娠、出産、授乳など、女性のライフステージが大きく変化する時期に、発症することも少なくありません。

妊娠への影響や、乳房が張っていて授乳に影響はないのかなど、不安に感じる方も多いと思います。

乳腺症で不妊になることはない

乳腺症はエストロゲンが、プロゲステロンの分泌量に対して多く分泌されたときに起こります。エストロゲンは妊娠準備のためのホルモンで、プロゲステロンは妊娠を継続するために体を整えるホルモンです。

妊娠中はプロゲステロンの量が多く分泌されますので、妊娠していないときよりも症状が落ち着く傾向があります。

また、乳腺症によって妊娠しづらくなるということはありません。

乳腺症でも母乳は出ます

乳腺症は「乳腺の状態が正常~少しだけ逸脱した状態」と定義されています。乳腺はほぼ正常な状態ですので、乳腺症のせいで母乳が出づらいということもありません。

看護師からひとこと

乳腺症で最も危険なことは次の2つです。

  • 乳腺症と思ったら乳がんだった
  • 乳腺症に隠れて乳がんの発見が遅れてしまった

乳腺症自体が悪性になる可能性は、ほとんどありません。しかし、乳腺症のために、別の原因で発生した乳がんの発見が遅れることは十分に考えられます。

大切なことは、医師と共に経過観察を行っていくことです。症状に周期性があっても、乳房にいつもと違う点があれば、早めに医師に相談しましょう。

30代以降の女性の乳房は、大切な役割をたくさん担っています。診察時には、医師に症状の変異や生活への影響など、多くのことを確認して不安を残さないようにしましょう。医師からしっかりと説明を受ければ、不安は解消すると思います。

乳腺症について、質問や回答が多く寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:上半身, 女性の病気]

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