夜に咳が止まらない、咳止めが効かないといったことに悩んでいる人は多くいます。咳そのものは必ずしも止めなければいけないものではありませんが、咳と痰の色によっては重い病気が潜んでいる可能性もあります。咳の原因に応じて適切に対処することが大切です。咳の原因と対処方法を解説します。

更新日:2017年06月12日

この記事について

医師(小児科専門医)

執筆:当サイト編集部(看護師

咳とは?咳の必要性

咳とは、呼吸によって口や鼻から体内に侵入した異物(ウイルスやほこり、分泌物など)を気道の外へ排除するため、気管や横隔膜が連動して起きる反射のことを言います。

唾液や食べ物などを誤って気管に入れてしまい、咳込んだ経験(誤嚥と言います)というのは誰もが一度くらいはあると思いますが、これも咳の一種になります。

医療分野においては「咳嗽(がいそう)」と呼ばれており、通常は上記のような理由から、咳は生体の防御反応として必要なものですので、第一選択として止める治療は行われないのが一般的です。

咳は一時的に起こる場合がほとんどで、異物が取り除かれると咳止めの薬を使用しなくても自然に咳も治まります。しかし、咳が長期に渡って続いている時は何かしらの病気の可能性が示唆され、咳の原因検索が必要になることもあります。

咳が止まらない原因・病気

では、咳がなかなか止まらない場合には、一体どのような病気が考えられるのでしょうか。また、その病気は何が原因で発症するのでしょうか。

風邪

咳が出る病気として、最も認知されているのが風邪ではないでしょうか。

風邪は、病原体が鼻や口の粘膜に付着し増殖することで発症し、主に上気道(鼻や喉)に炎症が起こるものの総称を指します。多くの場合はウイルスにより引き起こされます。

風邪ウイルスは、細かく数えると200種類を超えると言われています。

代表的なものとしては、

  • 大人の風邪の原因の約半数と言われる「ライノウイルス」
  • 夏に多く発症し下痢や腹痛などお腹の症状と同時に現れる「エンテロウイルス」
  • 高熱や喉の腫れ・痛みが出る「アデノウイルス」
  • 乳児や心臓・肺に持病を持ちのお子さんなどが罹ると重症化する恐れのある「RSウイルス」

などがあります。

なお、冬場に大流行するインフルエンザも気道の感染症ということで、風邪の一種と位置付けられています。

風邪による咳は発症から一週間程度で治まると言われていますが、ウイルスの種類によっては3週間ほど続く場合もあり「感冒後咳嗽」の病態で知られています。


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急性気管支炎

気管支炎とは、気道の中で左右の肺に分かれるY字部分に起こる急性炎症のことを言います。

炎症の反応として細胞がむくんで気道が狭くなり、免疫反応の結果として痰が増えます。痰は微生物や傷ついた細胞等の塊であり、生体にとって不要なものとして外に出すために咳が出ます。

急性気管支炎は、前述した風邪などのウイルスや細菌による感染症によって起こるものがほとんどで、数週間程度までで症状は治まります。また、上述した「風邪」と同様の急性気道感染症の一種として考えることもできます。

咳喘息

咳喘息は喘息の亜型として知られており、少しの刺激に対しても過敏に反応して咳が出てしまうという疾患です。

とは言え、喘息の大きな特徴である喘鳴(ゼイゼイ、ヒューヒューといった呼吸音)はなく、また痰もほとんど出ずに代わりに乾いた咳や空咳が出ます。

寒暖差や運動、喫煙、花粉などによって発症すると言われていますが、特にアレルギー体質の方が風邪を引いた時に、併発して起こることが多いと言われています。

風邪を引いた後、熱や鼻水、喉の痛みなどは治まったのに、咳だけがなかなか抜けない場合は、咳喘息の可能性があります。

また、日中は咳が治まっているにも関わらず、夜になると眠れないほどひどい咳が出る方が多いのも咳喘息の特徴です。

これには自律神経が関係しており、睡眠時に副交感神経が優位になることで、気管支が収縮して発作が起こりやすくなってしまいます。

なお、咳喘息を放置しておくと、典型的な気管支喘息に移行するケースもあるため、このような症状がある時は早めに病院へ行って適切な治療を受けるようにしましょう。

アトピー咳嗽

咳喘息同様、咳が長引く病気の一つにアトピー咳嗽をあげることができます。

咳喘息では気管支拡張薬が有効ですが、アトピー咳嗽においては効果がありません。その名前から判る通りアトピー体質をもつ方に認められ、典型的には中年以降の女性に多く発症します。

アトピー咳嗽は喫煙、運動、精神的な緊張によって生じることが多く、寝入りばなや起床前後に認めやすいです。また、喉の違和感(イガイガ)を感じることも特徴です。

咳喘息と比較すると喘息に移行することはないと考えられていますし、治療方法も異なります。そのため、両者を正確に区別して適切な治療を受けることはとても大切です。

咽頭アレルギー

花粉症では鼻を中心にアレルギーが生じることは有名かと思いますが、喉を主体としてアレルギーを起こすことも知られるようになっており、咽頭アレルギーと呼ばれます。

アトピー咳嗽と同様にアトピー体質の方に発症し、PM2.5や黄砂、ハウスダストなどが誘因となり咳嗽や喉の違和感を生じます。アトピー咳嗽と比較して、炎症は主に咽頭に限定されることから両者は区別されます。

逆流性食道炎

逆流性食道炎と言うと、胃酸が多く出て胸やけや食欲不振といった症状が認知されていますが、実は慢性的に咳が出るといった症状もあります。

胃から食道へ胃酸が逆流する際、気道(喉や気管)が直接刺激されることで咳が誘発されます。

慢性的に咳が遷延することから喘息と思う方も多いようですが、喘息特有の喘鳴はなく、えずくような空咳になりえるのが特徴です。

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマに感染することで起こります。

喉の痛みや鼻水、咳、発熱など、一見すると風邪とよく似た症状で、場合によっては3~4日で治まってしまうこともあるのですが、風邪様症状が治まっても体調の回復が芳しくなく、咳も抜けない状態が続く時はマイコプラズマの感染が疑われ、注意が必要です。

マイコプラズマ肺炎は幼児期から学童期にかけてのお子さんに発症することが多く、中には心筋炎や髄膜炎などの合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。

百日咳

百日咳菌という細菌に感染することで起こる疾患で、その名の通り長い期間咳が出ることからその名前がつけられました。

子どもが百日咳に罹ると、風邪によく似た症状が2週間程度続いた後、百日咳の特徴と言える「痙咳発作」が起こります。

これは、短い咳を連続してした後に、息を吸う時にヒューと呼吸音がするもので、息が苦しいため顔がむくんだり、乳児の場合は無呼吸になって痙攣が起こることもあります。

乳幼児に感染すると重症化しやすいと言われていますが、大人の場合は典型的な痙咳発作を起こすことは少ないです。

単に風邪が少し長引いているだけかな?と思う程度で終わることが多いですが、周囲に感染を拡大させるリスクがあるため注意が必要です。

副鼻腔炎

風邪による咳と鼻づまり、鼻水がなかなか治まらない場合は、副鼻腔炎を発症している可能性があります。

副鼻腔とは鼻の周囲にある空洞で、鼻と口は副鼻腔を通じて繋がっています。風邪を引いて副鼻腔に炎症が起こると、通常はサラサラとしている鼻水が粘り気を帯びた鼻水に変化し、それが鼻から口へと落ちることで喉に粘着質の鼻水が絡まり(後鼻漏と言います)、咳が出ます。

慢性閉塞性肺疾患

慢性閉塞性肺疾患とは、主に喫煙による長期間の有害物質の吸入が原因で、肺及び気道に炎症が起こる病気です。

慢性の咳や痰、体を動かした時の息切れなどが初期症状として現れますが、加齢に伴う衰えと感じるも多く、この段階で病院を受診する方は決して多いとは言えません。

しかし、病状が進むと呼吸不全などの重篤な状態に陥るケースもあることから、喫煙歴の長い方は一度、肺機能検査を受けてみるのがよいでしょう。

慢性閉塞性肺疾患の罹患者は世界中で増えており、2030年には死亡原因の3位になると予測されています(WHOの資料参照(英語))。

薬剤性咳嗽

心臓病及び高血圧の治療で使用される「ACE阻害薬」と呼ばれる薬を服用した場合、副作用として咳が出ることも知られています。

肺がん

日本人の死因のトップであるがんの中でも、死亡者数が最も多いのが肺がんとなっています(2015年厚生労働省報告)。

肺がんは症状がある程度進行しないと、体の異常を感じることはなかなか難しいと言われていますが、初期症状として長く続く咳があります。

痰が絡む激しい咳や喘鳴など、明らかに体に異変が起きていると感じる場合もありますが、乾いた咳が続くことも多いため、風邪だと見過ごされるケースもあります。

しかし、風邪の場合、3週間以上咳が続くことは稀のため、咳がなかなか抜けない時は一度検査に行ってみるのがよいでしょう。

特に白い痰の中に少しだけ血が混ざっている場合や体重が急激に減った等の場合は、肺がんの可能性が出てきますので注意してください。

咳の対処法

咳が止まらない病気には、数多くの種類があることがわかったところで、ここでは病気別の対処法をご紹介したいと思います。

なお、多くの病気においては、咳止めの薬で無理に咳を抑えることは根本的な治療にはなりえないことに留意することは大切です。

風邪

風邪によって咳が長く続くと、睡眠不足に陥り、体力の回復が遅くなることから風邪の治癒にも時間が掛かってしまいます。

では、咳がひどくて十分な睡眠がとれない場合は、どのような方法を行うとよいのでしょうか。一般的な咳の場合の対処は次のような方法があります。

ハチミツを摂る

風邪などの一般的な咳については、ハチミツの摂取に一定の効果があるとする研究があります。

ただし、咳の薬と比較して必ずしも効果があるというわけではありませんので、ご注意ください。

ハチミツの効果に関する資料
ロイター2007.12.4
米ペンシルベニア州立大学の研究(米国国立医学図書館)(英語)
カラバール教授病院の研究(米国国立医学図書館)(英語)

特に2017年4月にはハチミツ摂取により乳児がなくなるという痛ましい事件も起きました(産経ニュース2017.4.7)。1歳未満の赤ちゃんにハチミツを与えてはいけませんので、注意してください。

横向きに寝る

横向きに寝ると、仰向けやうつ伏せで寝るよりも気道が広くなり、咳が出にくいと言われています。

加湿器を使う

部屋が乾燥していると、咳が出やすくなってしまうことから、加湿器を使って湿度を高く保つとよいでしょう。

身体を温める

身体を温めることで風邪に伴う寒気にも対処でき、咳の症状を鎮めることが期待できます。

急性気管支炎

気管支炎の場合は、対処法として風邪と同様に、乾燥に気を付け、体を温めることで症状をやわらげることができます。

ただし、喉の周囲で炎症が生じる風邪などに対し、急性気管支炎はより肺に近い部位で炎症が起こることから、特に子どもは呼吸が困難になるなどリスクがあると言えます。

そのため、症状を見極めつつ重症化の様子があれば、早めに病院へ行き適切な治療を受けることが大切です。

なお、気管支炎の治療としては、抗生物質(原因に応じて)や去痰剤、鎮咳剤などの服用があります。

咳喘息

咳喘息は、風邪を引いた時に併発して発症するケースが多いことから、風邪を始め感染症にかからないようにすることが最も大切です。

その上で、急な気温の変化に気を付け、外出時は服装によって温度調節をしっかり行いましょう。

また、就寝時に咳がひどくて眠れない時は、水分を摂ることも有効です。咳の程度によっては嘔吐をすることもありますので、コップ一杯の飲み物を一気に飲むのではなく、口や喉を湿らせる程度の量を少量ずつ、こまめに飲む方が安全です。

また、寝具(布団)やカーペットの掃除も大切です。寝具が原因で夜間に咳が出ることがあります。

なお、咳喘息は放置していると気管支喘息に移行してしまう恐れがあることから、症状が治まらない場合は早めに病院へ行きましょう。

治療法としては、気管支拡張剤を用いて気管を広げ、咳の症状を鎮めます。発作の程度によってはステロイドを追加することもあります。

アトピー咳嗽

アトピー咳嗽が疑われる場合、対処法としては抗ヒスタミン薬を用います。

アトピー咳嗽は咳喘息とよく似た病気とされていますが、気管支拡張剤を使っても症状が改善することがありません。

アレルギーを抑えるために使用される抗ヒスタミン薬が、治療の中心となります。またステロイドが併用されることもあります。

咽頭アレルギー

アトピー咳嗽と同様、抗ヒスタミン薬によってアレルギーそのものを抑える治療が有効になります。

ただし、アトピー咳嗽以外の咽頭アレルギー疾患では、抗ヒスタミン薬が効かないケースもあり、その場合は漢方薬を用いることもあります。

外出時はマスクや眼鏡など、粘膜を守るよう心掛け、外出から戻ったらうがい・手洗いをして、アレルゲンを体内に侵入させないように対処しましょう。


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逆流性食道炎

逆流性食道炎による咳を予防するためには、逆流性食道炎のリスク(肥満、過度な運動、飲酒など)を避けることの有効性が指摘されています。

また、食後2時間程度は体を横にするのを避けることで、症状が改善することもあります。これは、体を横にすることで胃酸が胃から食道へ逆流しやすくなるためです。

また、ベルトでお腹を締め付けるのも、胃酸が逆流しやすくなるため注意が必要です。

一般的な胃薬が適応になることもあり、症状によっては手術が必要になることもあります。

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマは、咳や唾液などを介して人に移る感染症です。

以前は3~4年に一度小流行することから「オリンピック病」とも言われていましたが、2000年以降はこの傾向が変わりつつあり毎年集団感染が発生しています(国立感染病研究所)。

対処法としては、風邪と同じようにマスクや、うがい・手洗いなどが有効です。

また、症状によっては抗生物質の内服が必要になることもあります。

百日咳

百日咳に感染したら、抗生物質による治療が有効とされていますが、咳がひどい時期に服用してもあまり効果はないとされています。そのため病初期に治療を開始することが大切です。

また、一度百日咳にかかると、百日咳菌の消失後も気管支粘膜が修復されるまでは様々な刺激で咳が出やすくなります。そのため、感染後数ヶ月は風邪を含む感染症にならないよう注意をして下さい。

なお、百日咳は重症化しやすい乳幼児期に、四種混合の予防接種(※)によって感染を防いでいます。

※生後3か月から四種混合ワクチンが定期接種(無償)として受けられるようになっています。(四種混合ワクチン=ジフテリア(D)、百日咳(P)、破傷風(T)、ポリオ(IPV))

副鼻腔炎

副鼻腔に溜まった膿の排出を促す治療を受けたり、抗生物質によって菌を死滅させる治療が有効となります。

なお、就寝時は仰向けで寝ると副鼻腔に溜まった膿が喉に落ち、咳き込みやすくなるため、横向きになって寝るのがよいでしょう。

慢性閉塞性肺疾患

慢性閉塞性肺疾患の発症原因の多くは喫煙によるものです。そのため、タバコを止めるのがもっともよい対処法となります。

また、受動喫煙や大気汚染、粉じんなどにも十分に気を付けましょう。

慢性閉塞性肺疾患では、風邪などの呼吸器感染症に罹ることで症状が一気に悪化する危険性があります。

呼吸器感染症にかかる可能性を低くするためにも、インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種を受けておくことが大切になります。

薬剤性咳嗽

薬剤性咳嗽は、発症の原因となるACE阻害薬の服用を止めることで治まりますが、元々病気を改善するために飲んでいるもののため、咳の程度によっては副作用を許容しつつ医師の判断で服用を続けるケースもあります。

咳がひどく、睡眠不足などの二次症状がある場合には、同じ作用が期待できる別の薬に変更されます。

肺がん

8週間以上咳が続いており、さらに胸が痛む、血の混じった痰が出る、息が切れやすいなどの症状がある場合には、呼吸器の病気が強く疑われます。

中でも、生命に関わりうる肺がんは、いかに早期に発見するかが大切になります。

気になる症状がある際には病院を受診師、検査(画像検査、血液検査、喀痰細胞診など)を積極的に受けるようにしましょう。

痰からわかる病気の疑い

必ずしも当てはまるとは限りませんが、下記に痰の性状から推定される典型的な病気を記載します。

ご自身の状況と比べ病気の疑いがある場合には、すぐに医療機関を受診するようにしてください。

痰の色が透明

正常な状態で特に心配はありません。正常時でも人はある程度の痰が出てきます。

痰が泡状(白やピンク色)

心不全の疑いがあります。肺に水が溜まっている状態で、少しでもその水を外に出そうと咳と痰が出てきます。夜中に咳が続いたり、起き上がると楽になったりする(起座呼吸と言います)ような場合に要注意です。

痰の色が黄白色・緑色

呼吸器感染症を来していることを示唆します。副鼻腔炎や肺炎などの疑いがあり、鼻水が喉にたれる後鼻漏という症状がでることがあります。

この場合は内科や耳鼻科を受診することになります。また大量に痰を認める時には、気管支拡張症と呼ばれる病気の可能性もあります。

痰の色が錆色

肺炎球菌と呼ばれる細菌に感染していることが疑われます。

白に血が混じる

気管支拡張症、肺がんや結核が疑われます。

最後に

咳や咳に伴う痰について説明してきました。通常の風邪による咳であれば、長くても2週間程度で自然に治まることが期待できますが、長引く咳の場合は病院へ行き原因を検索することが大切です。

その場合、何科へ行けばよいのか悩む方も多いと思いますが、ご紹介した通り、様々な原因があるので症状だけで受診する科を決めることは難しいと思います。

そのような時は、内科、もしくは総合診療科を受診しましょう。問診や検査によって、おおよその原因が突きとめられると、その原因に応じて呼吸器科、耳鼻咽頭科、消化器科、アレルギー科など専門の科を受診するように勧められます。

主な参考文献・サイト

咳が止まらない悩みに関して多くの質問や回答が寄せられています。こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:気管・心臓・肺, 食道]

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