憩室炎は、大腸の壁が外に飛び出してできる「憩室」で細菌が繁殖して炎症を起こす病気で、手術が必要になることもあります。また、憩室炎の人には便秘の人が多く、予防には便秘の解消や、食事を考慮する必要があります。憩室炎について重要な事項を説明しますので、参考にしてください。

更新日:2017年06月06日

この記事について

監修:山浦真理子医師(上用賀世田谷通りクリニック)

執筆:看護師(当サイト編集部)

憩室炎(大腸憩室炎)とは

憩室という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?

憩室とは、大腸の壁が袋状に外に飛び出すことでできる、小部屋のようなものです。

憩室は身体に何か悪さをするかというと、本来何もしないので、基本的には放っておいて大丈夫です。

ただし、憩室は外に飛び出ている分、腸の中身(つまり便)が流れにくく、そこで細菌が繁殖することがあります。

そして炎症を起こした状態が、憩室炎という病気です。

普段は悪さをしない憩室ですが、一度炎症を起こすと様々な症状が現れ、放っておくと最悪の場合、命に関わることもあるのです。

憩室炎とは

憩室炎の原因

大腸にできる憩室は一つではなく、大腸の中のあちらこちらに多発します。

大腸は食物が流れて行く順に、上行結腸(右腹)・横行結腸(腹部)・下行結腸(左腹)・S状結腸(肛門直前)となっています。憩室ができやすいのは上行結腸です。(この場合は、近い部分が痛くなる虫垂炎(盲腸)との区別が必要になってきます。)

最近では食事の欧米化に伴い、欧米人に多いS状結腸と下行結腸での発症が増加しています。

原因

上行結腸の憩室炎では右の腹部が痛くなりますが、S状結腸と下行結腸の場合は、左下腹部が痛くなります。

では、憩室はどのようにできるものなのでしょう?

憩室には先天性(産まれつき)のものと後天性(後からできる)のものがあります。

先天性のもの

先天性のものに多いのはMeckel(メッケル)憩室と言われるもので、胎児のときの、卵黄腸管(へその緒と腸をつなぐ管)の一部が残ってしまうことでできます。

ほとんどが無症状ですが、大量出血や憩室炎を起こすことがあります。

後天性のもの

大腸憩室に多いのは後天性で、これは成因によって更に2つに分けられます。

牽引性

大腸の外側から引っ張られてできるものです。

大腸の周囲(大腸の壁に近いところ)に炎症が起こり、その炎症で腸管が引っ張られて憩室が形成されます。

圧出性

大腸の中の圧力が高まった時に飛び出すことで形成されます。大腸の中から外への圧力でできるものです。

近年の食事の変化などから繊維質のものをあまり食べなくなったこと、便秘、トイレでいきんだりすることなどにより、腸内の圧力が上昇します。

大腸の圧が過度に高まると、憩室ができることにつながります。

また加齢により腸壁が弱くなることも憩室ができることに繋がります。

憩室炎の症状

症状

では、憩室が炎症を起こすとどのような症状が現れるのでしょうか?

典型的な症状としては、下記の3つがあげられます。

典型的な3つの症状

  • 微熱
  • 下腹部痛
  • 圧痛(押されると痛い)

他には、憩室からの出血(憩室出血といいます)による下血・血便、便秘、腹部膨満感(おなかの張り)といったものがあります。


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憩室炎の予防法

大腸憩室炎は、約25%の確率で再発します。

また、中年(40歳以降)~高齢者と、普段から便秘気味な人によく発症します。

憩室そのものは年齢を重ねるごとにできてしまい、これは誰にも止められません。

また、一度できてしまった憩室がなくなることはありません。

そうなると、予防としては便秘を予防すること=快便を維持することが一番の方法です。言い方を変えると、これしかありません。

便秘の人は、いつまでも古い便が細菌の温床となって残っているため、憩室の細菌感染が起こりやすいのです。

また、毎日快便の人はよいのですが、数日に1回という頻度の排便習慣の場合、いきんで排便することが多く、その腹圧で腸管内圧も高まり、憩室が形成されやすくなります。

こうしたことから、便秘の人にはもとから憩室が多いのです。

では、便秘予防のためには、どうしたらよいでしょうか?

これには、食事を含む生活習慣の改善が必要です。

憩室炎を予防する生活習慣の改善

  1. 食物繊維をたっぷり摂る
  2. 運動をする
  3. 水分をたっぷり摂る
  4. 決まった時間にトイレに座る

一つずつポイントをお話していきましょう。

食物繊維をたっぷり摂る

食物繊維

食物繊維をとると便のカサが増して腸を刺激したり、柔らかくなって出しやすくなったりします。

日本人も昔はたくさん食物繊維を摂っていましたが、最近は食の欧米化に伴って繊維質が不足しています。

食物繊維は、果物・野菜・豆類・(精製されていない)穀物に多く含まれています。

憩室炎予防のためには、かなり意識してこれらの食材を取り入れる必要があります。

とは言っても、いきなりやりすぎは禁物。急に食物繊維を増やすと、お腹が張ったりガスが出やすくなったりしてしまいます。

少しずつ野菜や豆類を食べる機会を増やすようにしましょう。

運動をする

運動

便秘がちな人は、運動の習慣のないことが多いです。

運動をすると、腸の動きが活発になります。小腸で栄養を吸収されたあと、食べ物は大腸で水分が吸収されて、塊となって最終的に便として出て来るので、腸がうごかなければいつまでも腸の中で停滞してしまうのです。

そして、停滞した食べ物のカスは水分だけが吸収されて、カチカチの塊となってしまいます。

これがさらに便秘を悪化させ、無理に出そうとすることで腹圧をかけることになってしまう(憩室を形成しやすくする)のです。

水分をたっぷり摂る

水分摂取

便は長く大腸にとどまっていると、水分が吸収されてカチカチになってしまいます。

バナナのような便が理想ですが、これには水分が不可欠です。

水分を摂ること自体、腸の動きを良くします。特に朝起きてすぐにコップ1杯の水を飲むことで腸が刺激されて動き出します。

起きてすぐ飲むには、常温で置いておく方が飲みやすいでしょう。

決まった時間にトイレに座る

トイレ

食物繊維を多く含む食事、運動、たっぷりの水分、これに加えて最後の「出す」ことにも習慣が必要です。

起床後のコップ1杯の水で刺激された腸は、さらに朝ごはんを食べると便意を催します。

それなのに、朝時間がなくて慌ただしく過ごしていると、トイレに座る時間がなくなってしまいます。

出ないかも・・・と思っても、毎日朝決まった時間にトイレに座る習慣を付けましょう。

ただし、その時に5分以上いきんではダメです。

憩室を形成しやすくなったり、痔になったりしてしまいます。

また、憩室炎を予防するためには、憩室をこれ以上作らないことも大切です。大腸の憩室炎は、腹圧がかかったときに、飛び出てしまうことで憩室ができます。

そのため、無理な腹筋運動やウェイトトレーニング、重い荷物を運ぶなど、過度に腹圧をかけたり、思い荷物を持ったりすることは避けた方がよいでしょう。

憩室炎の治療法

治療法

憩室炎の大部分は、薬物を使用する保存的な治療(外科手術を必要としない治療)で対応できます。

しかし、重症例や再発を繰り返す場合には、緊急手術になることもあります。

保存的治療

手術や大きな処置をせず、薬物治療で済む場合を保存的治療と言います。

ごく軽症な場合には、自宅療法で抗生剤を飲むということもありますが、基本的には保存的治療でも入院になります。

腸の安静のため絶食が必要なので、点滴をして抗生剤を投与します。

内服の抗生剤はフロモックス錠100MGやクラビット錠500MGが多いですが、これら抗生剤を処方する際には胃薬(胃の保護剤)が必要なこともあります。

抗生剤と一緒に胃薬を服用する場合、飲み合わせによっては抗生剤の効果を減少させてしまうことがあります。

もし抗生剤を内服すると吐き気や胃痛がするという場合は、市販薬(ガスター10など)を自己判断で使用せず、必ず医師に相談して適切な処方を受けましょう。

膿瘍形成・消化管穿孔を起こしている場合

合併症(詳しくは後で説明します)として、膿瘍形成(憩室に膿が溜まる)や穿孔(腸に穴があく)を起こしている場合には、保存的治療では対処できません。

溜まった膿を出すことや、穴があいた腸管の切除が必要になります。

出血している場合

憩室から出血していると、血便が現れることがあります。

憩室出血は本人には自覚症状(痛み)のないことが多いのですが、程度のひどい場合には大腸内視鏡検査をして、出血場所にクリップをかける止血処置を行います。

憩室炎を繰り返す場合

重症憩室炎を繰り返す場合には、状態の落ち着いたときを見計らって、手術で憩室を切除します。

憩室のある部分の腸管を切ってしまえば、そこから飛び出ている憩室も一緒になくなりますから、一番根本的な治療になると言えます。
 

入院期間と退院について

入院治療を行った場合は、入院時に確定診断で行った血液検査やCT検査をもう一度行い、状態が改善していれば退院することができます。

入院期間は人によって個人差がありますが、最低5日は必要でしょう。

糖尿病がある場合には、炎症の改善には時間がかかりますので、更に延びることもあります。

手術後の生活や再発防止について

治療は、手術や内視鏡治療が必要になってくると、傷もできますし、身体の負担も大きくなります。

したがって、飲み薬が効くうちに治すことが望ましく、それ以上に炎症を起こさないように再発防止に努めることが重要です。そのためには、高繊維食と便通コントロールが不可欠です。

ただし手術をした場合、切除後の食事は、いきなり高繊維食では腸への負担が大きいので、落ち着いて自宅療養になったら食物繊維を多く摂るよう心がけましょう。

憩室のある人は切除した部分以外にも憩室がありますし、これからできることもありますから、予防のために生活習慣を整えることが大切です。


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憩室炎の合併症

憩室は、それ自体が悪さをするのではありません。そこに細菌が繁殖して炎症を起こすまでは、何も身体に悪さをしません。

ところが、感染を起こしているのに放置しているとどうなるかというと、ただの腹痛では終わりません。

重症化すると、以下の合併症を起こすことがあります。中にはショック状態となり、命に関わることもあります。

膿瘍形成

憩室に膿が溜まってしまいます。

穿孔

破裂して穴が開いてしまい、腸の中身(つまり便)が飛び出してしまいます。

腹膜炎

腹膜とは、腹部にある臓器を覆っている膜のことです。

憩室に穴が開いたりすることで、腹膜にまで影響を与えてしまい、感染症を起こしてしまいます。

腸閉塞(イレウス)

憩室炎を繰り返していると大腸が狭くなり、硬い便が通過できなくなってしまいます。

腸閉塞が悪化すると、穿孔(穴が開く)を起こすことがあります。

大腸が膀胱へ繋がることも

膀胱や、小腸・子宮・腹壁・膣へ腸から繋がってしまうことがあり、腸の内容物が流れ込んでしまいます。

膀胱へつながってしまう例では、大腸からガスが膀胱へ流れ込むことがあります。

この場合、残尿感などの症状とともに、排尿の際にガスも出るため、おならのような臭いがします。

症状を医者へ告げるのが恥ずかしいこともあり、なかなか診断がつかないことがあります。悪化する前にしっかりと症状を伝えることが大切です。

便秘を放置しておくだけで、このような自体になってしまうこともあるわけです。

便秘予防・憩室炎予防の必要性がおわかりいただけたでしょうか?

憩室炎の検査

検査

腹痛、微熱、圧痛の3つが重なったら、憩室炎の疑いが出てきます。

しかし、場所によっては盲腸との鑑別が必要ですし、腸閉塞(イレウス)や癌の疑いも出てきます。では、どのような検査をしたら、憩室炎という診断がつくのでしょうか?

血液検査

炎症反応を示すCRP(血液検査炎症反応)や白血球の増加があるか検査します。

腹部レントゲン

一番簡単な画像検査で、腸閉塞(イレウス)かどうかの鑑別になります。

腹部CT

憩室周囲の壁の肥厚や、周囲の臓器への波及具合がわかります。また、盲腸との鑑別や膿瘍の有無もチェックできます。

注腸造影

造影剤を肛門から流して検査を行うと、腸全体の形を観ることができるので、憩室がリアルな形で映し出されます。炎症が落ち着いた後に行うことがあります。

大腸内視鏡

特に出血を起こしている場合には、観察しながら出血部分にクリップをかけて、止血処置を行うことができます。
 

妊婦さんについて

妊婦さん

妊娠期間中は、普段便秘でない人も便秘で悩まされることがあります。理由は諸説ありますが、大きくは下に挙げられます。

  • 大きくなった胎児が腸管を圧迫して、便の通過を妨げる。
  • 運動量が減るため、腸の動きが弱くなる。
  • つわりなどで食事量が減る。
  • 妊娠中活発になるホルモンが、腸の動きを抑制する。

では単純に、便秘なら下剤を飲めばいいのかというと、そうではありません。

使い方によっては、赤ちゃんへの影響が出る場合があります。また、早産の原因になるとも言われています。

便秘をほっといたあげく、もし妊娠中に消化管穿孔や腹膜炎になんてなってしまったら大変です。

お腹の赤ちゃんを守ることができなくなってしまいます。緊急手術にでもなってしまったら、妊婦さん自身の命も脅かされるのです。

ですから、妊婦さんがどうしても便秘になってしまった場合は、「たかが便秘」と放置せず、しっかり医師の診察を受けて、適切な薬を処方してもらいましょう。

妊婦さんは、産まれてくる赤ちゃんのことを第一に考えなくてはなりません。

便秘がちかも・・・と心あたりのある方は、からだにやさしい方法で便秘を解消しましょう。

できれば食生活で改善したいものですが、それでも不十分なら市販のオリゴ糖を足してみるのもいいでしょう。

憩室炎のまとめ

大腸にできた憩室は、それ自体は病気ではありませんが、憩室炎になり重症化すると命に関わることもありますので、十分に注意しなければなりません。

また、25%ほどの人が再発している状況ですので、治療が終わっても予防や再発防止を心がけた生活がとても大切です。

特に毎日の快便が一番重要で、食物繊維をとることや運動、水分の摂取など、便秘対策をしっかりとしましょう。

憩室炎についてたくさんのQ&Aが寄せられています。こちらも合わせてご覧ください。

[カテゴリ:下半身, 胃腸]

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