水中毒は一度に大量の水分を摂取する事などで生じる病気で、体の様々な場所に不調をきたしてしまい、最悪の場合、死に至ります。水中毒とはどういうものなのか。そのメカニズムや原因、症状、注意点などを説明します。

更新日:2017年06月26日

この記事について

監修:大見貴秀医師

執筆:看護師(当サイト編集部)

水中毒とは

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水中毒とは、多くの水分が体の中に溜まってしまった結果、体内の液体成分がバランスを崩してしまい、命にも関わる様々な症状が出てしまう状態のことです。

水中毒と深い関係のある「ナトリウム」

私たちの身体の60%は水分です。

水中毒の症状には、血中に含まれている、
「ナトリウム」という成分の濃度
が大きく関係します。ナトリウムとは塩のことで、血液検査では「Na」と表示されます。

ナトリウムの正常値は138~146mEq/Lとなりますが、水分を摂り過ぎてナトリウムの濃度が下がり、120mEq/Lを下回ると、水中毒として深刻な症状が出てきます。


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体内の水分が薄まると「水中毒」になる

私たちの体内では、細胞の中に塩分の薄い水、細胞の外に塩分の濃い水があります。たくさんの水を体内に一気に取り込むことで、細胞外の水の濃度が薄くなると、細胞の中と外の境があいまいになります。その結果、細胞の中に水がどんどんと流れ込んでしまい、身体に悪い影響が出てしまうのです。

成人の人間の腎臓は、1分間に約16mlの水分を排泄できるといわれています。単純計算で、1時間に1リットル以上の水を飲み続けると、身体の中が薄い水であふれ、水中毒の状態に近づくことになります。

ただし、人間の身体は尿以外にも、不感蒸泄といって、吐く息や汗などから水分が発散しています。その量は人によって、また運動量や環境によっても違うので、水中毒になるリミットの水分量は、一律の量として言い切ることはできません。

水中毒が引き起こす病気

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体内・細胞内の水分が増えると、身体のいろいろな場所で「むくみ」が生じます。この「むくみ」(医学的には、浮腫といいます。)が肺に生じたり、脳に生じたりすることで、呼吸困難が起きたり、意識がもうろうとしたり、命に関わる危険な状態が起きてしまうのです。

脳のむくみ「脳浮腫」

ナトリウムの濃度が下がって、細胞が膨張する現象は、脳でも起こります。脳浮腫が起こると、頭痛を始め様々な症状が起こります。

また、脳浮腫の状態が長く続くと、脳が回復できないくらいのダメージを負ってしまい、水中毒が改善した後も、後遺症が残ってしまうことがあります。

肺のむくみ「肺浮腫」

肺浮腫が起こると、息切れ、ぜーぜーするなど、呼吸困難の症状が出てきます。

心臓がおぼれる「心不全」

肺浮腫が起こると、心臓と肺の間で血液の循環がうまくいかなくなり、結果として心臓のポンプ機能が損なわれます。心不全により、さらに呼吸状態が悪化し、全身状態が悪くなります。

横紋筋融解症

血中のナトリウムが急激に低下することで、筋肉にもダメージを与えます。その結果、筋肉の成分の一部が血液に溶けだし、筋肉の痛みなど様々な症状を引き起こします。

水中毒の症状

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おしっこが増える

水中毒で最初に現れる症状は「多尿・頻尿」です。

体内に余分な水分があることを感知した身体が、成分バランスを保とうとして、余分な水を排出するのです。

結果、おしっこの量と回数が増えます。人によっては、おねしょや尿失禁も、症状としてあらわれる場合があります。

行動がおかしくなる

水中毒により脳浮腫が起こると、初期段階では食欲不振や、頭痛、ぼんやりしたり、身体がだるくて、すぐにうとうとしたりする、という状態になります。

そして、悪化すると、吐き気や嘔吐、錯乱、幻聴で人格が変わったようになってしまったり、意識がもうろうとしたりします。

この段階で病院に行くと、ナトリウム値が明らかに低下しているので、ナトリウムを補う点滴や、脳浮腫を改善する薬を投与することで、症状を改善することができます。

しかし、その後もナトリウムの低下が止まらないと、痙攣を起こし、最終的には脳浮腫が原因で、呼吸など生命を維持するための機能すら破たんしてしまい、死に至ります。

多くの水を飲んで様子がおかしい時には注意

水中毒の進行が急激に起こると、特に危険な症状が出ます。

血液中のナトリウムが急激に低下してしまうと、意識消失や呼吸障害など、命に関わる症状が出るので、継続的にたくさんの水を飲んでいるときに様子がおかしい場合は、特に注意が必要です。(※通常、そこまで水をがぶがぶと飲むと気持ち悪くなり、体が受け付けなくなります。薬の副作用で口がやけに渇く症状が出ている場合や、精神疾患等によって水を飲むのが止められない場合に起こります。)

筋肉も溶かす水中毒

水中毒により筋肉の細胞が壊れると横紋筋融解症となり、手足の脱力感、しびれ、筋肉痛を感じることがあります。

また、筋肉に酸素を貯蔵するミオグロビンという成分が血中に溶け出すと、おしっこで体外に排泄されていきます。ミオグロビンは赤いことから、尿が赤くなり、血尿のように見えることがあります。

自分が水中毒であるかチェックする方法

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水中毒であるかどうかは、飲んだ水の量と内服している薬、そして血液検査で低ナトリウム血症が起こっているかを確認することになります。

そのため、水中毒の確認には、病院を受診して血液検査を行うことが必要になり、自分だけで判断することができません。

病院での診察(内科が専門です)が前提となりますが、自分でできることを以下で説明します。

飲水量のチェック

受診する前に飲んでいる水の量を確認できる場合は、一般的に次の手順で行います。(ただし、下記のようなことをする以前に体調が心配な場合は、すぐに受診して医師の診察を受けてください。)

  • 24時間で水分を何リットル摂っているのかを計量カップで測り、ノートに記録します。
  • ありのままの状態で数日間記録します。
  • 次にできるだけ水分摂取を我慢した状態での飲水量を記録します。

この結果を持って受診することで、医師と具体的な状態、今後の治療などについて話し合うことができます。

水分を経口補水液にしてみる。

「病院は受診したくない。でも、水分はたくさん摂っているし、このだるさや体調不良は水中毒かもしれない。」と思う場合は、まずは水分摂取量を減らしてみましょう。

そして、どうしても水を飲みたい場合は、水の代わりに経口補水液を飲んでみましょう。

経口補水液には、水中毒を起こさないだけの塩分が入っています。

いつも飲んでいるものを経口補水液に置き換えることで、気になる症状が消えた場合は、水中毒、軽度の低ナトリウム血症から起こっている症状だったと知ることができる場合があります。

ただし、自己判断は禁物ですので必ず医師の診察を受けるようにしてください。また、たとえ経口補水液でも、飲み過ぎると溢水になり命に危険が及ぶ場合もありますので、注意しましょう。

飲水量を正常に近づけよう

水中毒であるかが具体的に診断されなくても、「水中毒ではないか」と自分で疑うことができた段階で、1つのステップです。

通常、1日500ml程度の尿が出ていれば、水分と一緒に体に不要な物質を除去することができます。概ね1000ml程度も尿が出ていれば、ちょうどよいと考えましょう。

自分の水分摂取量と尿量が正常に近づくよう、努力することが大切です。

水中毒の原因

統合失調症など精神の病気

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水中毒の大きな原因となる病気として、「統合失調症」という精神の病気があります。原因は明らかになっていませんが、統合失調症など精神病を長く患い、精神病の薬を長く飲んでいると、水中毒にもかかってしまう確率が高くなります。

大食い、ダイエット・・・で飲みすぎる、心因性多飲症

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水中毒に繋がりやすい病気として「多飲症」という病気があります。この病気の大きな特徴は、「水を飲みたいという衝動が抑えられない」という点です。

本来、水にはタバコやアルコールのような中毒性はありません。しかし、様々な理由で「水を飲みたい。」「水を飲まなければ。」と自分を追い込んでしまい、結果的に「心因性多飲症」と呼ばれる状態になってしまうのです。

心因性多飲症は、ストレスや強迫観念が原因になることの多い病気です。心因性多飲症から、結果として水中毒になりやすい人には、以下のような人があげられます。

間違ったダイエット

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近年、食事前に水を飲んだり、食事代わりに水を飲んだりすることで、空腹を紛らわせるダイエットが流行っています。結果として、急激に大量の水を飲んでしまうことが水中毒に繋がります。

また、水をたくさん飲むことが直接ダイエットに繋がるような気になってしまい、喉は乾いていないのに、ことあるごとに水を飲んでしまうようになることがあります。それで飲みすぎたり、飲むのを抑えられなかったりする場合は、心因性多飲症といえます。

大食いを辞めたい

ダイエットと同様に、水を飲むことで、大食いの要求を抑えようと、急激に水を飲んでしまいます。また、大食いしたくならないように、と予防的に水でお腹をいっぱいにしておくクセがついてしまうことがあります。

禁煙や禁酒

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タバコやアルコールなどを絶つ時には、どうしても口寂しさがあります。それをまぎらわすため、飴をなめたり、ガムを噛んだりするのと同じように、水を習慣的に飲むようになってしまうことがあります。

飴やガムのように糖尿病や虫歯のリスクがないため、水を飲むだけなら大丈夫だろう、という気安さがあるのですね。


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水中毒の治療法

病院を受診する場合は、内科を受診します。

体内のナトリウムのバランスを正常に戻す

急性の水中毒は、痙攣や意識障害など、命に関わる危険があるため、救急病院を受診する必要があります。病院では、ナトリウムを補うための点滴や、おしっこを出すための点滴、脳浮腫を取るための点滴などの治療がされます。

長い間続いている水中毒は、飲水量の制限を行います。また、飲みすぎとわかっても、減らせない水分の一部を、経口補水液に変えたりして、ナトリウムが下がりづらくなるようにします。

飲水量のコントロールが大切

水中毒の人の飲水量の制限は、本人の意思だけでは難しく、また、だからといって周囲が厳しく制限してしまうと、本人との関係を壊してしまいがちです。

昔から病院では、水中毒と分かると個室に隔離して、なんとか水から遠ざけようとしてきました。しかし、すでに心因性多飲症が重症になっていると、トイレのウォッシュレットの水でも隠れて飲みたい、というまでに、衝動は抑えきれなくなってしまうのです。
 
心因性多飲症が進んでしまっている場合、本人と家族のどちらもが水中毒の恐ろしさを理解し、一緒になって状況の改善に向けて取り組む姿勢が大切です。

最近では、病院でも家庭でも飲水を厳しく制限するばかりでなく、飲水量を把握して前向きにその量をコントロールすることの大切さが重視されつつあります。

赤ちゃんの注意点

薄めたミルク、白湯の飲ませすぎに注意

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赤ちゃんの場合、体内の水分の成分バランスを保つ機能が未熟のため、大人よりさらに水中毒を起こしやすい状態といえます。

腎臓の機能に問題がなく、母乳や正しく調乳したミルクを飲んでいる分には、水中毒の心配はありません。

しかし、たくさんの白湯や薄めたミルクを赤ちゃんに飲ませてしまうと、水中毒になってしまいます。アメリカでは実際に、薄めたミルクを一気に飲ませたことによって、10か月の赤ちゃんが死亡してしまった例もあります。

症状が急激に進み、命を脅かしやすいのも、赤ちゃんの水中毒の特徴です。ミルクを与える場合は、正しく調乳したものを飲ませましょう。また、母乳とミルク以外に白湯などを与える場合は、月齢に合わせて一度に多く与え過ぎないようにします。

看護師からひとこと

近年、健康志向やダイエット志向の広まりから、必要以上に水を「飲まないといけない」と考える人が出てきました。本来、水は「のどが渇いたから、必要なだけ飲む」ということで十分なはずです。
 
メディアに惑わされず、のどの渇き具合、気温、おなかの膨れ具合などを総合的に判断し、適切に水と付き合うことが、一番の健康の秘訣です。自分の適性飲水量を知り、それを大きく超えないように、調整しましょう。

水中毒について、質問や回答が多く寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:尿, ]

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