胃潰瘍は、主にピロリ菌が原因となって起こる病気で、ストレスなどが加わることによって、悪化していきます。大人に多い病気ですが、近年では子どもにも見られるようになりました。禁煙や飲酒などが危険因子となるので、生活習慣の改善が大切です。胃潰瘍についてポイントをまとめました。

更新日:2017年08月22日

この記事について

監修:大見貴秀医師

執筆:当サイト編集部

胃潰瘍とは?

胃潰瘍イメージ

胃は胃壁から胃酸を分泌し消化活動を行っています。

胃酸の破壊力は強力なため、胃酸と同時に胃粘液を分泌し、胃酸が直接胃粘膜に触れないように保護しています。

健康な状態の胃は胃酸と胃粘液のバランスが保たれ、少しくらい胃粘膜が損傷しても、すぐに修復されますが、何らかの原因でバランスが崩れ修復が間に合わないと、胃酸によるダメージが増し、胃壁が損傷していきます。この胃壁の粘膜が深く傷ついてしまった状態を「胃潰瘍」と呼びます。

なお、粘膜筋番を超えた深く組織が欠損した状態を「胃潰瘍」、それよりも浅い病変を「びらん」といいます。

胃潰瘍は十二指腸潰瘍とあわせて「消化性潰瘍」とも呼ばれ、強い症状が急に現れる「急性胃潰瘍」と慢性的な痛みが続く「慢性胃潰瘍」があります。

複数の胃潰瘍ができる場合もあり、このような状態を「多発性胃潰瘍」と言います。

好発年齢は40~50歳ですが、高齢者や子どもの胃潰瘍患者も増加しています。


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胃潰瘍の原因

胃潰瘍の主な原因は「ピロリ菌感染」と「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)の服用」によるものです。

胃潰瘍患者の7割以上はピロリ菌が原因と考えられていますが、ピロリ菌に感染したからといって全ての人が胃潰瘍になるわけではありません。

少し前まで胃潰瘍の原因として考えられていた「ストレス」や「暴飲暴食」などが危険因子となって加わることで、胃潰瘍発症の危険性が高まります。

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染

慢性胃潰瘍の原因のほとんどはピロリ菌感染によるものです。

酸性の強い胃の中に住み着くために、ピロリ菌は尿素からアンモニアを作り胃酸を中和しています。

この時作られるアンモニアは胃粘膜を傷つけ、さらにピロリ菌が出す毒素によって胃粘膜はよりダメージを受けます。

そして、ピロリ菌の影響でできた傷が胃酸の刺激を受け続けることで慢性胃炎を発症し、その一部が胃潰瘍に進行します。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)の服用

薬が粘膜を傷つけたり、薬の副作用で胃粘膜に異常(血流低下など)が起こり修復力の低下がおきたりすることで胃酸が胃壁を荒らし胃潰瘍が発症します。

ロキソニン(ロキソプロフェン)やイブプロフェンなど、一般的な解熱鎮痛薬のほとんどが非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)に当てはまります。

高齢者の胃潰瘍が増加している原因は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)である抗血小板薬や解熱鎮痛薬の服用が影響していると考えられます。

危険因子

その他、胃潰瘍へ繋がる危険のあるものは、主に次のものになります。

  • 喫煙
  • 飲酒
  • 過労
  • 早食い
  • 精神的ストレス
  • コーヒー
  • 暴飲暴食
  • 睡眠不足
  • 緊張や不安
  • 刺激物(香辛料など)の過剰摂取
  • 熱いものや冷たいものの食べ過ぎ

胃潰瘍の症状

腹痛

ほとんどの人が上腹部(みぞおち付近)の痛みを感じられるようですが、中には痛みを全く感じない人もいます。

胃潰瘍の痛みには個人差があるため、痛みの強さで胃潰瘍の状態を判断してはいけません。

軽度の胃潰瘍であれば数日で治ることもありますが、市販薬を飲んでも痛みがおさまらなかったり、長引いたりする時は医療機関を受診しましょう。

主な症状

  • 胃、背中の痛み
  • 食欲不振
  • 貧血
  • 吐血や下血
  • 吐き気や嘔吐
  • 胸焼けや胃もたれ
  • 酸っぱいげっぷがでる
  • だるい
  • 黒い便がでる(タール便)
  • 体重減少
  • おなかが張った感じがする(膨満感)

危険な症状

胃潰瘍の合併症である「出血」や「穿孔」が起きると命の危険があるため、素早い対処が必要になります。

  • 出血 → 頻脈、冷汗、血圧低下、吐血や下血など。
  • 穿孔 → 持続性の強い腹痛、発熱、反跳痛、吐き気、筋性防御など。

胃潰瘍の予防法

予防法

胃潰瘍の予防法で大事なことは、ストレスの少ない規則正しい生活を送ることと、食事の内容に気をつけることです。

心がけたい胃潰瘍の予防法

  • 禁煙をする。
  • よく噛んで食べる。
  • 暴飲暴食を控える。
  • ピロリ菌を除菌する。
  • アルコールを控える。
  • ストレスを発散する。
  • 腹六分目を心がける。
  • NSAIDSの乱用を避ける。
  • 香辛料や高脂肪食を避ける。
  • 食後30~60分は休憩する。
  • 刺激の強い食べ物や飲物は避ける。
  • 定期的に健康診断(胃カメラ)を受ける。

胃潰瘍と合併症

胃潰瘍には三大合併症というものがあり、これらの合併症が起きると命に関わる場合も多く緊急手術が必要になります。

三大合併症とは次の合併症です。

(1)出血(下血・吐血):出血性胃潰瘍

潰瘍部分の血管が破れて出血を起こします。大量出血は血圧低下やショック状態を招きます。

(2)狭窄

潰瘍の後にできる瘢痕がしこりのようになることで幽門部が狭くなり、食物の通過障害が起きます(幽門狭窄)。

食欲不振や嘔吐などから栄養状態が悪くなり、徐々に衰弱していきます。

(3)穿孔

潰瘍が進行し深くなることで胃に穴が空きます(胃潰瘍穿孔)。多くの場合、急性腹膜炎を発症します。

胃潰瘍の検査

胃カメラ

胃潰瘍の検査は胃カメラ検査が中心になります。

検査では潰瘍の進行度や深さを調べます。胃癌などが疑われる場合は病理検査のために組織採取を行います。前日からの食事制限が必要です。

病理検査

検査の目的

癌細胞がないかを確認します。胃潰瘍だと思っていたら潰瘍を作るタイプの癌であることがあります。

検査の方法

胃カメラ検査で採取した胃の組織を顕微鏡で観察します。

ピロリ菌検査

検査の目的

ピロリ菌感染の有無を調べます。

検査の方法

ピロリ菌検査には4種類の方法があります。

  • 尿素呼気試験 → 検査薬の服用前後の呼気(吐いた息)を集めてその中に含まれる二酸化炭素の量を調べます。
  • 迅速ウレアーゼ試験・鏡検法・培養法 → 胃カメラ時に採取した組織からピロリ菌の存在を調べます。
  • 抗体測定法 → 血液・尿・唾液などからピロリ菌感染時に作られる抗体の有無を調べます。
  • 便中抗原測定法 → 便からピロリ菌抗原の有無を調べます。

胃潰瘍の治療法

薬

胃潰瘍の治療法には内科的なものと外科的なものがありますが、新薬の開発が進み最近では薬物による治療が主流となっています。

薬物治療

薬にを服用することにより、胃酸を抑えたり、胃粘膜の防御機能を高めたりします。

薬の服用は、医師の指示に従い、症状が治っても続けましょう。自己判断で服用をやめてしまうと再発する恐れがあります。

止血治療

胃の粘膜部分からの出血を止めます。

先端に治療器具が付いた内視鏡を胃の中に直接入れ、特殊なクリップを使用して、出血を止めます。レーザーを用いて患部を焼き、止血する方法もあります。

外科手術

重篤な合併症(穿孔や狭窄など)が認められる場合や、内視鏡での止血が困難な場合に行われます。通常全身麻酔で行われ、入院が必要となります。

外科手術により、胃の一部又は全体の切除や、胃を支配する迷走神経を切断します。

手術の方法には開腹手術や腹腔鏡手術などがあります。

ピロリ菌の除菌治療

胃潰瘍の原因として考えられるピロリ菌を除菌し、再発を予防します。

ピロリ菌の除菌には、抗生物質2種類を1週間服用し、3ヶ月後に除菌の成否を確認します。ピロリ菌の除菌成功率は70~80%程度といわれています。

除菌に失敗した場合は、再度除菌することが可能ですが、2回目は抗生物質を変えて行います。

食事療法

食事療法では、なるべく胃に負担をかけないような食事をとるようにします。

方法としては、一日の食事回数を増やす(4~5回)ことや、消化の良い薄味のレシピを心がけるなど、食事の量・バランス・成分を調節していきます。

【参考】胃腸の調子が悪い時の食事(東京都病院経営本部)


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胃潰瘍と妊婦さんについて

妊娠中は初期のつわりに始まり、ひどい人では出産まで胃の不快感が続きます。

この時に感じる胃の不快感は胃潰瘍の症状ともよく似ていますが、ホルモンバランスの乱れにより胃腸の働きが弱まることや胎児が胃を圧迫することが原因です。

妊娠中は胃酸の分泌量が少なくなるため胃潰瘍になることは稀ですが、危険因子であるストレスを抱えがちになってしまうため胃潰瘍にならないわけではありません。

「妊娠中の胃の不快感はつわり」と思い込んで我慢してしまうのは危険です。

胃潰瘍の治療で処方される薬の中には、プロスタグランジン系(ミソプロストール、エンプロスチルなど)のように、子宮収縮作用があり流産を引き起こす可能性があるため、妊娠中には服用できない薬があります。

市販薬や家族が処方されて余った薬を安易に使用せず、きちんと医療機関を受診しましょう。

妊娠中の胃の不快感を和らげる対策法

  • ガムを噛む。
  • 良く噛んで食べる。
  • 空腹の状態を避ける。
  • 刺激物(香辛料など)を控える。
  • 量を少なくして食事の回数を増やす。
  • 消化の良い物を食べる(おかゆ、うどんなど)。
  • 消化を助けてくれる食材を食べる(キャベツ、大根、山芋など)。

子どもの胃潰瘍について

最近子どもの胃潰瘍患者が増えています。

急性胃潰瘍の発症が多く、新生児・乳幼児の胃潰瘍は治癒しやすく再発することもほとんどありませんが、学童期の胃潰瘍は慢性の経過をたどる場合もあります。

原因

子どもの胃潰瘍は年齢により原因が異なると考えられています。

  • 新生児 → 出生時の低酸素血症
  • 乳幼児 → ステロイドなどの薬剤、身体的ストレス(やけどや感染)
  • 学童期 → 精神的なストレス

症状

  • 新生児 → 下血や吐血
  • 乳幼児 → 下血や吐血、繰り返す嘔吐、腹痛
  • 学童期 → 上腹部痛

検査

胃カメラ検査など(薬によって眠らせるなどして行います。)

治療

  • 薬物療法
  • 食事療法
  • 外科手術(出血が続く場合や症状が重い時)

子どもは症状を上手に伝えることができません。大人が子どもの異変をいち早く察知してあげましょう。

胃潰瘍のまとめ

  • 胃潰瘍の主な原因は「ピロリ菌感染」と「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)の服用」によるものです。
  • 胃潰瘍の三大合併症は命にかかわることがあります。
  • 検査はバリウム検査と胃カメラ検査が中心となります。
  • 妊娠中は服用できない薬がいくつかあります。
  • 胃潰瘍とは胃の粘膜が傷ついたりただれたりする病気です。
  • 薬物治療が主流で、よほどでないと外科手術は行われません。
  • 胃潰瘍の予防は体調を整え食事内容に気をつけることが重要となります。
  • 近年では子どもの胃潰瘍が増えています。
胃潰瘍に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:精神・神経, 胃腸, 貧血]

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