認知症とは正常な記憶・学習・判断・計画といった機能が、脳障害により低下し、日常生活などに支障をきたす状態です。進行すれば寝たきりになってしまいますが、根本的な治療法は確立されていないため、予防が重要になります。

更新日:2017年11月20日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部(看護師

認知症とは

シニア夫婦

高齢社会を迎えて問題になっているのが、年金と介護ですね。中でも身体介護以上に大変なのが、認知症患者さんの介護です。最近では、芸能人や著名人も重度の認知症であることを公表されていたりします。

認知症というと、一般に知られているのがアルツハイマー型認知症を思い浮かべるのではないでしょうか。後段で説明しますが、アルツハイマー型の他にも「型」があります。

また、認知症と、年を重ねると避けられない記憶力の低下・物忘れには、どのような違いがあるのでしょうか?

認知症とは、一旦正常に発達した記憶・学習・判断・計画といった知的な機能が、脳の障害によって低下し、日常・社会生活に支障をきたす状態を言います。

認知症の原因

老夫婦

認知症と判断される条件は、次の3つに当てはまる場合です。

認知症の条件

  1. 明らかな記憶障害がある。
  2. 記憶以外の認知機能(考えること・判断すること)の障害がある。
  3. 生活に支障がある。

あなたの周囲に認知症の方がいたら、この3つの条件を備えているはずです。加齢によるただの物忘れは、病気ではないので認知症にはなりません。

物忘れと認知症の違い

では、物忘れと認知症がどのように違うのでしょうか?

  • 食事の内容を忘れるだけでなく、食べたこと自体を忘れている。
  • 昨日着た服を覚えていないだけでなく、服の着方(袖の通し方)そのものがわからなくなる。

こうしたことがあるようであれば、認知症の疑いが強いと言えます。加齢によって忘れっぽいとは言っても、それは単なる老化現象ということもあります。

また、トイレに行くことや食事をすることは、手足が動く限り自立しているはずです。ところが、認知症は手足に障害がなくても、日常生活動作に介助が必要になってしまい、生活に支障が出てしまいます。

認知症の原因は大きく二つに分けられる

原因は次の2つに分けられます。

  1. 変形性認知症・・・脳そのものの変形によるもの
  2. 脳血管性認知症・・脳に栄養を与える血管の障害によるもの

変形性認知症の代表的なものがアルツハイマー(Alzheimer)型認知症で、認知症全体の約半数を占めると言われています。他にもレビー(Lewy)小体型認知症や、前頭側頭型認知症があります。

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害による後遺症で起こります。


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認知症の分類

認知症といっても、脳の障害となる部位が違えば、症状も違います。「認知症」とひとくくりにした対策がとれないのが、難しいところです。

アルツハイマー型認知症

大脳が全体に萎縮(縮んでしまう)してしまうもので、特に前頭葉と側頭葉が多い。65歳以上の特に女性に多いと言われているが、まれに若年性の発症もある。

新しいことを覚えられず、年月日が定かではなくなり、物を盗られたという妄想、言葉が出にくくなり、服を着る方法・箸の使い方もわからなくなってきます。進行すると肉親もわからなくなり、会話もできなくなります。

レビー小体型認知症

高齢者に発症し、主に脳の後頭葉の血流が低下することで起こります。認知機能の障害と幻視(幻覚が見える)などの症状に加え、パーキンソン病のような症状(小刻みな歩行・手の振え・手足が突っ張るなど)が出ます。
 

前頭側頭型認知症

初老期(40~60代)で発症し、人格変化や行動の異常が特徴的な症状となります。

脳の前頭葉・側頭葉が委縮し、血流も低下することで発症します。進行すると自発的に動くことも話すこともなくなり、寝たきりとなってしまいます。

脳血管性認知症

脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血後に起こる認知症です。

それぞれの障害を負った血管の部位に相当する症状が出てきます。症状にムラがあることから、まだら認知症とも言われています。

認知症そのものの治療ではなく、脳梗塞の再発予防が治療となります。

認知症の症状

シニア夫婦の手

認知症は、脳の中のどの部分がどのように障害されたかによって、症状のあらわれ方が違います。

たとえば脳の中でも前頭葉(脳の前の部分)は、人間らしさを保つための場所です。ここが障害されると、感情を抑えること、注意力、考えること、他人とコミュニケーションをとることも難しくなります。

同様に、側頭葉は主に言語の場所、頭頂葉は感覚の場所、後頭葉は視覚の場所ということがわかっています。

また、認知症による症状の現れ方は大きく分けて2つあります。脳の障害そのものによる症状で、これを中核症状と言います。さらに、中核症状によって起こる症状をBPSD(行動・心理症状)と言います。

  • 中核症状 : 記憶障害・見当識障害・失語・行動異常
  • BPSD : 幻覚・妄想・うつ状態・昼夜逆転(不眠)・不潔行為・徘徊・過食・興奮・暴力

それぞれの型の認知症は、症状の現れ方にどのような違いが合出るのでしょう?4つの型に分けて症状をみていきます。

アルツハイマー型認知症

  • 記憶障害(新しいことが覚えられない)
  • 見当識障害(年月日、場所がわからない)
  • 物盗られ妄想(お金を盗られたということが多い)

レビー小体型認知症

  • 幻視
  • パーキンソニズム(パーキンソン病に類似した症状)

前頭側頭型認知症

  • 人格変化(自発性の低下、感情が鈍くなる)
  • 言葉をしゃべらなくなる。
  • 行動異常
  • 同じ言葉を繰り返す。

脳血管性認知症(血管の障害した部位に応じた症状)

  • 四肢麻痺(運動障害・感覚障害)
  • 失語
  • まだら認知症

認知症の予防法

シニアの食事

認知症は現在も研究が進められていますが、これといった根本的な治療薬はなく、症状を軽くするか、進行を遅くさせることしかできません。そのため、何よりも予防が大切になります。

厚生労働省も、国をあげての認知症対策に乗り出しています。実際、どのようなことが認知症の予防になるのでしょうか?

認知症の中でも約半数を占めると言われているアルツハイマー型認知症は、生活習慣や運動習慣に予防の効果あることが解ってきました。脳の委縮を防ぐためには、常に人と接していたり、知的・文化的な行動を生活に取り入れたり、脳に刺激を与えることが重要です。

認知症予防のための生活習慣

  • 食習慣   :野菜・果物・魚を意識して摂る
  • 運動習慣  :ウォーキングなどの有酸素運動を行う、指先・身体を動かす
  • 知的習慣  :文章を書く、本を読む、頭を使うゲームをする、美術・芸術に触れる
  • 対人接触習慣:家の中にこもらずに、人と接する機会を多く持つ

ピアニストは認知症になりにくいと言われています。指先を動かすことで脳を活発にさせますし、音楽を聞くことも知的習慣になっています。

また、ピアニストは人に演奏を観られる機会が多いですね。そのような緊張感や対人接触習慣も、認知症予防になっていると考えられます。

定年後の生活に注意が必要

一方で、定年退職後に急に認知症を発症する人もいます。

このタイプの人は元来仕事人間で、仕事以外に趣味を持っていない人が多くいます。定年を迎えた後、特にやることもなく1日中家の中で過ごしていると、急に脳も身体も使わなくなり、認知症を発症させることになるのです。

高齢社会を迎え、65歳で定年退職した後も人生はまだまだ続きます。健康な老後を送るためには、上にあげた認知症予防のための生活習慣を意識して取り入れるようにしましょう。

厚生労働省の取組み

厚労省は、認知症対策として早期発見早期診断事業を進めています。認知症の予防や、進行を遅らせる取り組みで、できるだけ自宅で過ごせる期間を延ばそうというものです。

そのために、これまで通りのデイサービスに加え、認知症対応型の通所介護、在宅介護の整備を重点的に進めています。高齢者の日常生活自立度によっては、グループホームの入所など、1人暮らしの高齢者を支えるための施設も増えています。

認知症サポーターキャラバンについて

また、厚生労働省では、認知症患者を社会全体で支えることを目標として、認知症サポーターキャラバンという取り組みを実施しています。

認知症サポーターとは、認知症に関する正しい知識と理解を持って、地域や職域で認知症患者・家族へできる範囲での手助けをする人のことで、この講師役をキャラバンメイトと言います。これらの活動は、都道府県や市町村が主体となって実施しています。

認知症をもっと知ってもらうため、サポーター養成講座も随時開かれており、平成28年12月現在では、キャラバンメイト・サポーターは800万人を超えています。

認知症を家族内だけで対応しようとしても無理があります。逆に進行を早め、家族が疲弊することも考えられます。社会全体で認知症をサポートすることが重要なのです。


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認知症の経過、合併症などについて

認知症は、どのような経過をたどっていくのでしょうか?

初期の頃には騒いだり、徘徊したり、食事を1日に何食も摂ったりしますが、症状が進んでいくことで、意欲の低下(食欲の低下、動かないなど)がみられてきます。動かないと筋力の低下が進んでいきますので、寝たきり状態になってしまいます。

食事についても、食べる気力がなくなってきますので、食事を口元までもっていっても、口を動かしたり、飲み込んだりすることができなくなります。

寝たきりで、食事がとれない状態になった場合は、点滴や経管栄養といって管を通して栄養を取り入れるといった処置をすることがあります。

肺炎がもっとも危険

認知症を問わず、寝たきりで一番怖いのは、肺炎です。寝たきりの高齢者は、自分の唾液で肺炎になってしまうのです。痰を自分で出すことができませんから、余計に肺炎を悪化させるという悪循環を起こすことがあります。

認知症患者さんは、認知症そのものではなく、肺炎で亡くなることが多いのです。

認知症の検査

医師

認知症も癌と同じく、早期発見と早期治療が大事です。早期に治療を開始すると、健康でいられる期間(上の合併症を起こすまでの期間)を長くすることが可能です。

でも、初期ほど認知症なのかどうかわからないもの。おかしいなと思ったら、医療機関を受診して専門的な検査を受けましょう。

本人の自覚がない場合は受診が難しい場合があります。本人が受診できない場合は、家族だけでも受診し医療機関に相談するようにしましょう。

医療機関で行う認知機能検査は主に下の3種類です。簡単なテストですが、見当識や言語の理解、行動などの状態を把握することができます。

これに加えて、頭のMRIやCT、脳派検査、PET検査なども行い、認知症を確定します。

認知機能検査

改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

見当識・計算・言葉などの質問を行い、30点満点中20点以下で認知症の疑いと判断します。日本で最も普及している認知症の検査です。

→ 長谷川式簡易知能評価スケール(アリセプト)のリンク(医師のもとで行うものですが、参考としてリンクをつけておきます。)

時計描画検査(CDT)

視空間や構成能力、また数の概念、言語理解も評価できる検査です。ただの○しか書いていない絵に、数字や時計の針を書き込むことで評価します。特にアルツハイマー型認知症ではこの検査が用いられます。

MMSE

長谷川式に似ている質問内容に加え、図を描写させたり、言葉で指示を出したりという検査も加わります。30点満点中23点以下で認知症の疑いと判断されます。

ADAS

記憶を中心とする認知機能検査です。アルツハイマー病の認知機能の評価をします。

FAB

脳内の前頭葉の機能を検査します。前頭側頭型認知症の鑑別をします。

認知症の治療法

入院

認知症のどの型も、未だ根治的な治療薬はありません。認知症の進行を遅らせることや、認知症に伴って出てくる精神症状(暴力・不眠・幻視等)に対して対症療法的に薬が処方されます。

脳血管性認知症に関しては、一度起こした脳血管障害はもとに戻せません。脳梗塞や脳出血の再発予防が治療となります。

下に示す認知症治療薬のなかでも、アルツハイマー型治療薬として有効な抗認知症薬は、飲み始めは段階的に量を増やす必要がありますし、吐き気などの副作用も出ることがあります。これらが落ち着くまでは入院治療が必要となることもあります。

具体的な治療法

  • 抗認知症薬
    内服薬:アリセプト、メマリー、レミニール、メマリー
    貼付薬:リバスタッチ、イクセロンパッチ
  • 精神症状に対して:抗精神薬、漢方薬
  • パーキンソニズムに対して:L-dopa(レボドパ)というパーキンソン病治療薬

その他の治療法

  • 脳梗塞予防:高圧薬、抗血小板薬、抗凝固薬
  • 糖尿病コントロール
  • 運動療法
  • 音楽療法
  • リハビリテーション
  • レクリエーション
  • アロマセラピー(アロマオイル)

リハビリについて

認知機能の低下をできるだけ遅らせる方法として運動やリハビリを取り入れることも重要です。

認知症患者さんの対応は家族の精神的・身体的負担も大きく、更に自宅でリハビリをとなると難しいので、デイサービスを上手に利用してケア専門士に相談するといいでしょう。

介護者の負担を軽減するには

介護者の負担はとても大きなものです。負担を軽減する策として、介護保険で認められるだけショートステイを利用することや、急な認知症発症の場合は介護環境が整うまでの間、短期の入院を利用する方法もあります。

また、要介護3以上になると自宅での介護がかなり大変なものになりますから、ショートステイやデイサービスをいくつかの施設で、はしごして利用するという方法もあります。

看護師からひとこと

認知症になっても、進行を抑える治療や予防サービスを利用しながら、安定して在宅で生活されている方も多くいらっしゃいます。

普段と違う言動や行動などがあらわれましたら、まずは医療機関や地域の保健センターなどの窓口などにご相談ください。

認知症のまとめ

  • 認知症には4つの種類がある。
  • 認知症は現在の医学では根本的な治療法がない。
  • 認知症の進行を遅らせるためには、早期発見・早期治療が重要。
  • 記憶障害、認知機能(考えること)障害、生活への支障がそろって認知症である。
  • 進行すると意欲低下、筋力低下から寝たきり状態になることがある。
  • 認知機能検査にはHDS-R、CDT、MMSEなどがある。
  • 認知症の診断は、認知機能検査に加えて頭のCT・MRI・脳派・PET検査などを組み合わせて行う。
  • 認知症治療は薬物療法だけでなく、生活の中にリハビリ等を取り入れる必要がある。
  • 脳血管性認知症の場合、脳梗塞の再発予防や糖尿病コントロールも必要。
  • 認知症は患者と家族の問題ではなく、社会全体で支えるべき問題である。
認知症に関して多くの質問や回答が寄せられています。こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:介護, 生活習慣, ]

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