牛乳を始めとする乳製品を摂取すると下痢や腹痛等の不調を覚える方も多いと思いますが、もしかするとそれは「乳糖不耐症」という状態かもしれません。
乳糖不耐症は日本人に多く、中には赤ちゃんのうちから下痢などの症状が出ることもあり、身近な問題として捉えることはとても大切です。本記事では乳糖不耐症にまつわる様々な疑問にお答えできるよう、多角的に説明してみようと思います。

更新日:2017年06月12日

この記事について

執筆:医師(小児科専門医)

乳糖不耐症とは?

乳糖不耐症(にゅうとうふたいしょう)とは、牛乳を始めとした乳製品を摂取することによって、下痢などの消化器系の症状を引き起こす状態のことを指します。

ちなみに「不耐」とはその成分に対してうまく身体が順応できないことを意味します。乳糖不耐症の場合は、乳糖に対して身体が適応しきれずに何かしらの症状が出ることを示しています。

糖質の一種である「乳糖」は母乳や牛乳を始めとしたあらゆるタイプの乳に多く含まれていますが、この乳糖をうまく消化するためには小腸中に存在する「乳糖分解酵素」が非常に重要な役割を果たしています。

乳糖不耐症は、この乳糖分解酵素がうまく働かないことが原因となっています。


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乳糖不耐症に伴う症状

1. 乳製品摂取によるお腹の症状や頭痛など

乳糖不耐症においては乳製品を摂取してから30分から2時間後までに腹部症状があらわれますが、その症状はお腹が痛い、酸味かかったにおいを伴う下痢便、お腹がはった感じなど、誰でも一度は経験したことがある非常にありふれたものがほとんどです。

また乳糖不耐症の症状は腹部症状に限る訳ではなく、頭痛やめまい、関節痛、口内炎など多岐に渡ることも報告されています。

2. 乳幼児期では特におむつかぶれを生じることも

後に説明しますが、胃腸炎の下痢症状に関連して乳糖不耐症があらわれることもあります。

この場合、数週間下痢が続くことから乳幼児のお子さんではオムツかぶれを引き起こすこともあります。

オムツかぶれがあると、オムツを交換する度に痛い思いをすることになり、お子さんにとって不快な症状と言えます。

3. 偏った乳製品摂取制限による栄養障害

乳糖不耐症による消化器症状は乳糖を摂取することで比較的すぐに生じることから、因果関係を認識しやすいものです。

その一方で、乳糖を過剰に制限しすぎることから生じる長期的な影響が懸念されることもあります。

こうした長期的な影響は乳糖不耐症との関係性をすぐには結びつけることは難しいこともあり、意識的に目を向けることが大切です。

具体例として、「牛乳を飲むとお腹を壊すから」と言う理由から乳製品を避けている方もいることが想像されます。

しかし、過度に乳製品を避けると、身体に必要なカルシウムやビタミンDを始めとした重要な栄養分が不足することが懸念されます。

不足した栄養分を他の食物からうまく補充できていない場合には、骨の成長・形成に悪影響が及び、長期的に骨粗しょう症を発症するリスクも伴います。そのため、年齢に応じた必要栄養摂取量を心がけることが大切です。

以下にカルシウムの摂取量の推奨量・目安量の例を提示しますので、参考にしてください。

カルシウム摂取量の推奨量・目安量(mg/日)
性別 男性 女性
0〜5(月) 200 200
6〜11(月) 250 250
1〜2歳 450 400
3〜5歳 600 550
6〜7歳 600 550
8〜9歳 650 750
10〜11歳 700 750
12〜14歳 1000 800
15〜17歳 800 650
18〜29歳 800 650
30〜49歳 650 650
50〜69歳 700 650
70歳以上 700 650

※日本人の食事摂取基準2015年(厚生労働省)から抜粋


※日本食品標準成分表2015年版(七訂)をもとに当サイトで作成

乳糖不耐症を引き起こす原因

前述の通り乳糖を消化するためには、小腸中に存在する「乳糖分解酵素」と呼ばれる物質が必要です。

乳糖分解酵素の働きが不足することが、乳糖不耐症につながります。

乳糖分解酵素が不足する時期やきっかけに応じて、乳糖不耐症は主に以下のように4種類に分類することができます。

1. 原発性乳糖不耐症(primary lactase deficiency)

離乳食を終える1歳半までの間は、乳製品(=母乳、ミルク)の摂取は命に関わる重大事です。

そのため、乳製品の消化吸収に必須の乳糖分解酵素は、生後数ヶ月は充分な量が体内で作られます。

しかし、乳製品以外から栄養源を摂取できるようになると、母乳やミルクから栄養を摂取する必要がなくなってきます。こうした食生活の変動に沿って、乳糖分解酵素が体内で作られる量は年齢と共に低下します。

そのため、年齢を経るにつれて(中には思春期後半や成人になってから)乳製品を摂取しにくくなる(=乳糖不耐症の症状が出やすくなる)というのは、ある意味正常な身体の成長過程を反映していると考えられています。

こうした経過で乳糖不耐症の症状が出てくることを「原発性乳糖不耐症」といい、ほとんどの日本人を含むアジア人の体質だと考えられています。

ある特定の遺伝子が関与していることも判明しており、結果として乳糖不耐症の体質が両親から子どもに引き継がれることも知られています。

この点については以下の「乳糖不耐症は遺伝する可能性がある」にて詳しく説明します。


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2. 二次性乳糖不耐症(secondary lactase deficiency)

乳糖分解酵素は小腸で作られますが、感染性胃腸炎や薬剤等、小腸へのダメージをきっかけとして一時的に作られる量が低下することがあります。

小腸がダメージを受けることに伴い乳糖不耐症の症状があらわれることを、「二次性乳糖不耐症」と呼びます。

二次性乳糖不耐症は、特に胃腸風邪が流行しやすい乳幼児期によくみられます。

胃腸風邪の発症初期はウイルスなどの病原体そのものを原因として下痢などの症状を起こすことがありますが、通常は1週間弱で治まります。

しかしそれ以後も下痢などの消化器症状が持続する場合には二次性乳糖不耐症が疑われ、特別な治療が施されることがあります。

一次性乳糖不耐症と異なり、小腸の障害を引き起こした原因を取り除くことができれば、再度乳製品を問題なく摂取できるようになります。

3. 先天性乳糖不耐症(congenital lactase deficiency)

年齢を経るにつれて乳糖分解酵素が減少するのは、ある意味正常なことであると説明しましたが、生後間もなくから作られていないことがあり、これを「先天性乳糖不耐症」と呼びます。

これは日本人においては非常に稀であると考えられています。

4. 発達性乳糖不耐症(developmental lactase deficiency)

早産児においては乳糖分解酵素を作る量が少ないと言われており、「発達性乳糖不耐症」と呼ばれ、生後短い期間で改善することが期待できます。

乳糖不耐症と食文化の関連性

乳糖不耐症を考える上で、「食文化」との関係に注目することは重要であり、酪農文化やそれに伴う乳製品の摂取が食生活の主体となっている地域においては乳糖不耐症が少ないということが知られています。

北欧諸国では、ミルクを始めとした乳製品から必須栄養分の摂取を依存している部分も大きく、乳糖不耐症の方は少ないと言われています。

その一方、米や魚を主体とする日本食では、栄養学的に乳製品以外からもカルシウムやビタミンDを摂取する機会は多くあります。

そのことを反映して、ほとんどの日本人が程度の差はあれども乳製品に対して下痢などのお腹の症状を起こすようになっているとも考えられます。

乳糖不耐症は遺伝する可能性がある

食生活と乳糖不耐症の関係は、遺伝的な側面から説明をすることもできます。

日本人に多い原発性乳糖不耐症では、乳糖分解酵素を調節をする「MCM6遺伝子」と密接に関連していると考えられています。

この遺伝子と関連した乳糖不耐症では、ご両親のうちどちらかが「乳製品を飲める」遺伝形態を持っている場合は、お子さんも問題なく飲める可能性があります。

その反面、親御さんいずれもが「乳製品を飲める」遺伝形態をもっていない場合は、お子さんも同様の体質になりやすく乳糖不耐症である可能性が高くなります。

「乳製品を飲める」遺伝形態をもつ日本人は非常に少なく、ほとんどの日本人が、程度の差はあれども乳糖不耐症であると考えられています。

しかしながら、「遺伝的に乳製品を飲めない体質」であっても、「乳製品を全く摂取できない」という訳ではないことにも留意が必要です。

遺伝的に飲めない人であっても一定量の乳製品は問題なく摂取できることも多いです。

乳糖不耐症の診断

乳糖不耐症の診断は血液検査を含めて一つの検査のみで確定できるものはなく、問診や検査を含めて総合的に診断します。

1. 問診

先に述べた通り、乳糖不耐症の腹部症状(お腹のはった感じ、下痢など)はとてもありふれたものですので、乳製品摂取によって症状が出ているのかを確認することが大切です。

乳製品を短い期間完全に摂らないようにしたり、乳児であれば乳糖フリーのミルクを飲む等して、腹部症状が改善するかどうかを確認することもあります。

保育所や幼稚園に通う乳幼児ではウイルス性胃腸炎が流行することもあり、このことをきっかけとして乳糖不耐症になることもあります。周囲の感染流行状況も、有益な情報になります。

お腹の症状そのものは、食物アレルギーや過敏性腸症候群等でも出ることがあります。これらを区別し適切な治療を決定するためにも、症状があらわれる状況を整理することは非常に重要です。

2. 検査

乳糖不耐症を一回で確実に確定できるような簡便な血液検査は、残念ながらありません。

乳糖不耐症の診断のために、便を検査したり、実際に乳糖を摂取した時に身体がどのように反応するかをチェックする呼吸検査(呼気中水素ガス濃度測定)などが行われることもあります。

いずれの検査も必ず行われるものではなく、特に症状が強い方に対して実施されます。医師の指示に従って適切に検査を受けることが重要になります。

乳糖不耐症の対応方法

乳糖不耐症の場合には、以下のような対応策がとられます。

1. 乳製品摂取の方法を工夫する

乳糖不耐症においては、乳製品の摂取方法を工夫することが大切です。

液体成分である牛乳は胃の中に留まる時間が短く、小腸に流れ込みやすい傾向にあります。小腸の乳糖分解酵素の量が少ないと、突然大量の牛乳が流れ込んできたときに効果的に消化しきれず、下痢などを起こしやすくなります。

そのため、牛乳を飲む場合には少量ずつゆっくり飲むことが有効です。また牛乳を調味料として使用したり、他の食物と一緒に摂取することも症状緩和の効果が期待できます。

一般的にヨーグルトや乳酸菌飲料(ヤクルトやカルピス)は、牛乳よりは症状が出にくいと考えられています。

牛乳に含まれる必要成分を摂取するためには、チェダーチーズやスイスチーズ等を取り入れることも有効です。

2. 乳糖分解粉乳や乳糖分解牛乳を使う

乳糖不耐症は成長と共に症状が明らかになることが多いのですが、中には赤ちゃんであっても母乳やミルクに対して症状が出ることもあります。

乳児においては母乳や通常のミルクの代わりに、乳糖不耐症を想定して特別に製造された粉ミルクを使用するのもいいでしょう。

具体的な商品名としてはラクトレス、ノンラクト、ボンラクト、アカディなどが挙げられますが、乳糖が始めから分解されていたり、牛乳の代わりに大豆が使用されたりしている粉ミルクです。

実際に使用するかどうかについては、乳糖不耐症の程度にもよりますので、必ずかかりつけの先生の指示に従うようにして下さい。

3. 乳糖分解酵素剤を使用する

乳糖の分解を補助する目的でガランターゼやミルラクトと呼ばれる薬が処方されることもあります。調整方法に工夫が必要なこともありますので、指示に従って使用するようにして下さい。

なお、乳糖不耐症の症状は、他の疾患(過敏性腸症候群や食物アレルギーなど)と似ている部分があります。

診断が曖昧なまま下痢止めを内服するのではなく(別の病気の可能性もあります)、診断を確実にすることが根本的な治療方針を考える上でとても大切です。

4. 乳糖を含む製品を避ける

乳糖不耐症の症状が強い方の場合は、極少量の乳糖でも症状が出ることがあります。

そのため、乳糖を少しでも含む可能性のある食品(例えばパンやシリアル、ベーコン、ドレッシング等)を避けることが必要です。

また薬の中にも乳糖が含まれるものがあり、市販薬を含めて常に成分を確認することが大切です。

お子さんの粉薬を例にとってみると、薬の調剤を少しでもしやすくすることを目的として乳糖が混ぜられることがあります。

薬剤中の乳糖は「ホエイ」と記載されていることもあり、それと気付きにくいこともありますので注意して下さい。

番外編:牛乳アレルギーと乳糖不耐症との違い

いずれもミルク・牛乳の摂取によって下痢などの腹部症状があらわれることがあり、しばしば牛乳アレルギーと乳糖不耐症は混同されます。

しかし牛乳アレルギーは免疫の異常が原因となるアレルギー反応であり、乳幼児に多くみられます。腹部症状以外にも湿疹を始めとした全身に症状を伴うことも多いです。

乳糖不耐症では、ある程度の乳製品は摂取できることが多いのですが、牛乳アレルギーではアレルゲンに応じて適切な食事制限を行うことが必要になります。

牛乳を使用した製品にはアレルゲンの食品表示義務があるため、牛乳アレルギーにおいては食品表示の記載を参考にすることが大切です(参考:加工食品のアレルギー表示)。

乳糖不耐症では乳糖分解酵素剤が適応なることは上述しましたが、牛乳アレルギーでは効果がありません。その代わりにアレルギーに特化した薬剤が必要です。

まとめ

以上、日本人に多いとされる乳糖不耐症について説明してきました。

母乳やミルク等を始め、多くの食品や薬に、乳糖は幅広く含まれています。老若男女関わらず、私たちの生活と切っては切れないものです。

ぜひ本記事を通して、正しく向き合って頂けるようになればと思います。

参考文献・サイト

乳糖不耐症に関するQ&Aが寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:胃腸]

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