口唇口蓋裂の原因とは?治療や手術、授乳の方法、医療費の助成など

私(看護師)も口蓋裂で生まれてきました。口唇口蓋裂は先天性のものですが、原因が明確でなく、親族にいなくても生じることがあります。妊娠中でもエコーでわかるため、出産前に正しい知識や今後の治療について考えておくことができます。また、合併症も多く対応が必要です。私の経験を踏まえて解説していきます。

  [先天性]

更新日:2017年11月02日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部(看護師

私自身が口蓋裂をもって産まれてきました。

看護師

記事の執筆を担当した看護師です。

私自身が口蓋裂をもって産まれてきました。親族には口蓋裂の者もいないので、原因はわかりません。

母親からは生後ミルクを飲むのに2時間以上かかり、ミルクや離乳食なども鼻から出ることが多かったと聞いています。

生後1歳頃に口蓋裂の手術(プッシュバック法)を行っています。

術後は大学病院で言語検査を2回ほど受けましたが、構音障害はありませんでした。手術は1回で済みました。

幼児の頃のことですが、苦痛だったという記憶はありません。現在は少し歯並びが悪いこと先天性欠如歯がある以外は、生活に支障なく過ごしています。

子どもが2人いますが、2人とも口蓋裂はなく産まれてきています。2人とも先天性欠如歯と癒合歯がありますが、それ以外の異常はありません。

出産時には不安もありましたが、母親が口蓋裂の私を大切に育ててくれたこともあり、勇気を持つことができました。

私の場合は40年前のことなので、現在の治療法はもっと進歩しています。

口唇口蓋裂には程度の違う状態があり、治療法も様々です。また、産科・小児科・形成外科・歯科口腔外科・耳鼻科・言語聴覚科などの専門機関に出生後から一貫として関わる必要があります。

信頼のおける専門の医療機関にかかり、早期に適切な治療を受けられることで、成長してからも生活に支障なく過ごすことができます。

以下、口唇口蓋裂について、わかりやすく説明していきます。

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口唇口蓋裂とは

口唇口蓋裂は顔に見られる先天性の異常で、大半は片側性で左側に起こることが多いのですが、両側性の場合もあります。

両親のどちらかに、この異常が見られる場合は、子どもの発症率がさらに高いとされていますが、必ずしも遺伝するわけではありません。

また、日本では口唇裂・口蓋裂が多くみられます。日本では出生500人に1人の割合で発生し、外国よりも多くみられます。

なお、写真などはこちらを参考にしてください。

口唇裂

上唇が裂けている状態をいいます。

口唇裂には2つあります。

  • 不完全唇裂・・・唇の赤い部分の唇から、皮膚にかけて部分的に裂ける
  • 完全唇裂 ・・・外鼻孔内(鼻の穴の中)まで裂ける

口唇裂では、唇と鼻の形状が問題になってきます。

顎裂

歯が生える部分(歯ぐき部分)まで裂けた状態をいいます。

顎裂の問題点は歯茎の裂けた部分に、歯の生える土台の骨がないことです。歯の欠損、歯並びが悪い、うまく噛めないなどの問題が生じます。

唇顎裂

口唇裂と顎裂が、連続している状態をいいます。

口蓋裂

上顎の奥の口蓋(こうがい)が、裂けている状態をいいます。

軟口蓋、硬口蓋がともに裂けているのが口蓋裂といい、軟口蓋だけのものを軟口蓋裂といいます。

また、見た目にはわかりませんが、筋肉部分が裂けているものを粘膜下口蓋裂といいます。

口蓋は鼻腔と口腔の境目で、口腔内の蓋(ふた)の役割を果たしています。

そのふたの部分が裂けているため、鼻腔に息が漏れてしまい、発語・発音がうまくできなかったり、飲食物が鼻腔へ逆流して、上手く食べたり飲んだりできない問題が生じます。

唇顎口蓋裂

上唇部・歯槽部・口蓋まで連続して裂けている状態をいいます。

容姿・歯並び・咀嚼・発音・嚥下機能において問題が生じます。

口唇裂単独や口唇裂と口蓋裂が連続しない形で、合併している場合もあります。

口蓋裂は男性より女性に多くみられ、口唇口蓋裂は男性のほうが多いという統計があります。

エコー検査でわかるのはいつ?

エコー機械

口唇口蓋裂は妊婦検診時に超音波検査(エコー検査)で診断されることがあります。

日本では、妊娠20~30週前後(妊娠6か月~8か月)ころに出生前診断がされます。立体的な画像で見える、三次元超音波断層法(3D画像)で診断する施設もあります。

出生前に診断できることで、口唇口蓋裂の正確な知識や治療法を出生前に得ることと、育児に対する不安の緩和が期待できます。

エコー検査以外の検査では分かりません。

現在のところ、出生前の口唇口蓋裂の診断はエコー検査のみです。遺伝子や羊水検査では診断できません。

原因は遺伝子や環境と言われるがハッキリとはしていない。

口唇口蓋裂のハッキリとした原因はわかっていませんが、多数の遺伝子と環境因子の複合作用によって発生すると考えられています。

口の組織は左右の細胞が合わさることで作られます。およそ次の時期に母親の胎内で形成されます。

  • 口唇・・・妊娠4~7週(妊娠2か月)
  • 口蓋・・・妊娠7~12週(妊娠2か月~4か月)

この時期になんらかの原因によって、うまく形成できなくなった場合に裂け目が残ってしまいます。

環境因子として考えられているのは、母親の子宮を取りまく環境のことで、以下のようなものが関係している可能性が考えられています。

  • 年齢
  • 妊娠中のトラブル
  • ホルモン剤・抗てんかん剤の使用
  • 風疹・麻疹・水痘などのウイルス感染
  • 胎児の異常体位など

最近では、発症に関係する遺伝子も明らかにされてきていますが、明確な原因は解明されていません。

このことから、口唇口蓋裂の赤ちゃんが産まれてしまったからと言って、決してご自分のせいだと思うことはありません。

手術について

待合室

口唇裂の手術は生後3か月前後に行う

手術は赤ちゃんの身体がしっかりしてくる生後3か月前後で行われることが多いです。一般的には体重6キログラムを目安に、全身麻酔で行います。

術後の傷が目立ちにくいことと、哺乳がしやすくなることから生後1か月で行う病院もあります。

手術では唇の形を整えます。口をすぼめたり、閉じたりする口輪筋を再建していくのです。

手術は2時間、入院は7日程度

手術の時間は2時間程度です。術後は唇の筋肉を休ませるために、ミルクは鼻腔チューブから注入します。

入院期間は7日間程になります。手術から5日後に抜糸され、鼻腔チューブが抜かれ、ミルクを飲むことができるようになります。

抜糸後は傷の部分に固定テープ、鼻腔に軟骨を矯正する装具をはめて過ごします。

退院後は1~2週間後に来院し、その後は月1回程度のペースで通院して経過を見ることが多くなります。

顎裂の手術は7〜10歳頃に骨移植を行う

顎裂には歯茎の部分に骨がないため、7~10歳頃に骨移植術(自分の腰骨を採取して、歯のない部分に移植します)を行い、自分の骨で歯茎の骨を生育させます。

その後、犬歯を移植部分に誘導させて歯のならびを整えます。

現在では小学校入学前の6歳頃に、移植術をおこなう病院もあります。

入院は7日程度で2週間程度は運動ができない

腰骨を採取する際の切開部分は2センチ程度で、痛みも少なく術後の運動機能にも支障はありません。

手術の翌日から流動食を食べることができ、1週間後には硬いもの以外は食べることができます。

ただし、腰骨の移植後は痛みがあるため、3日程度は歩行が困難となります。また、術後2週間程度は、体育などの運動はお休みが必要です。

入院期間は7日間ほどで、1か月もたてば、通常どおりに体育や運動ができるようになります。

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口蓋裂の手術

出生直後より、ホッツ床と呼ばれるプレートを口蓋に24時間装着して哺乳の補助と、顎の成長発育を助けます。

手術は言葉が出始める前の1歳~1歳半ころに行います。

手術では、のどの軟口蓋という場所の筋肉を修復して、口蓋裂を閉鎖します。上あごの成長にともない、2回に分けて手術を行う病院もあります。(2回目は5歳頃)

手術時間は2時間ほどで、手術日の夜から柔らかいものを食べることができます。入院期間は7日ほどです。

縫合糸は吸収される糸を使用するため、抜糸の必要はありません。

術後、縫合部が裂けてしまう可能性があるため、経過観察のために、こまめな通院が必要になる場合もあります。

退院後は感染予防の為にも患部を傷つけないように、歯磨きや口腔内の清潔を保つことが大切です。硬い食べものは術後4週間後から食べられます。

口蓋裂の手術には以下の種類があります。

プッシュバック法

上顎の粘膜を骨からはがし、粘膜ごと軟口蓋を後ろへ移動させ、鼻腔を閉じる機能を改善させる手術法です。

しかし、上顎の粘膜をはがすため、粘膜の欠損状態となり、顎の発育不全が生じることもあります。欠損部分は粘膜を露出したまま自然治癒を待ちます。

この手術法は裂幅が広い場合に適応されることが多いです。

ファーラー(ファーロー)法

軟口蓋を切開してから、Z字に縫合し、裂け目を閉じる手術法です。

粘膜の欠損部分がないため傷が少ないことと、顎の発育不全も起こりにくい方法です。この手術法は裂けている幅が狭い場合に適応されることが多いです。

術後との再手術・訓練・矯正について

看護師

術後の言語訓練と追加手術が必要なこともあります。

手術後、構音障害(発音が正しくできない状態)が改善されないこともあります。

構音障害である開鼻声(かいびせい・鼻から息が漏れてうまく発音できない状態)によって、正しい発生ができない場合は、言語訓練や追加手術が必要なこともあります。

言語聴覚士による言語評価を行ったうえで、再手術や訓練が必要かどうか判断されます。20人に1人の割合で再手術が必要になる場合があります。

手術後も定期的に言語評価が行われます。評価で言語訓練が必要と判断されれば、言語訓練を行います。言語訓練によって、うまく言葉を話せるようになっていきます。

歯科矯正治療の必要性

口唇口蓋裂では、歯並びや顎のかみ合わせに異常が見られることが多いため、歯科矯正治療が必要な場合もあります。

その他に乳歯が通常の場所にない場合、歯の生えかわりが上手くいかず、永久歯が生えてくるのが遅れてしまうことがあります。

乳歯が自然に抜け落ちない場合は、抜けるのを助けてあげることも必要です。歯科を受診して、適切な処置を受けるようにします。

かみ合わせを整える手術

歯科矯正の治療だけでは治せない反対咬合(下の歯が上の歯より前に出ている状態)があります。

この場合は、顎の成長が止まった後で、上顎と下顎の骨切りを行い、かみ合わせを整える手術を行うことがあります。

容姿を整える修正手術

口唇裂の手術は唇の形を整え、鼻の左右を均等にすること、傷跡をできるだけ目立たないように手術を行います。

一回の手術で済むこともありますが、成長に合わせて数回の修正手術を行うことが多くあります。

手術は必ずしも一回で済むことが良いという訳ではなく、成長に合わせて適切な治療を行うことで、正常な機能と容姿を獲得することができます。

健康保険の適用・医療費の助成制度について

病院の窓口

口唇口蓋裂の治療には健康保険が適用されますが、手術内容や入院期間、歯科矯正など様々な治療費がかかってきます。

助成制度を利用することで、これらの自己負担が軽減されます。

乳幼児医療助成制度

乳幼児の医療費の一部を助成してくれます。対象者や助成内容は自治体によって異なります。

自立支援医療制度(育成医療)

機能障害を伴う特定疾患があり、満18歳未満の子どもが指定医療機関で治療を受ける場合に、医療費を助成してくれる制度です。口蓋裂などによる形成術や歯科矯正などが対象となります。

自立支援医療制度(更生医療)

18歳以上で身体障害者手帳を持っている人が対象となります。口唇口蓋裂による構音障害などがあり、矯正歯科治療などに医療費が助成されます。

事前申請が必要なものもありますので、各医療機関、お住まいの市町村の福祉窓口でご相談ください。

合併症

新生児の哺乳障害

口蓋裂がある場合、口腔と鼻腔が直接つながってしまうため、飲んだミルクが鼻から出てきてしまったり、食べ物が気管内に入り込んで、誤嚥性肺炎を起こしてしまったりすることがあります。

歯や咀嚼の異常

歯の異常ではよく、埋伏歯(歯が歯ぐきに埋まって出てこない)、先天性欠如歯、まれに癒合歯(2つの歯がくっついてしまう)がみられます。

歯並びも悪いため食べ物が上手く噛むこと(咀嚼)ができない場合があります。

構音障害(言葉の発音障害)

構音障害では、声が鼻に抜けるために鼻で共鳴する開鼻声(かいびせい)となります。開鼻声は音が漏れ、鼻声でききとりにくい状態になります。

のどや鼻など(上気道)の感染をおこしやすい

耳管に異常をきたしていることも多いため、滲出性中耳炎になりやすく難聴になる場合もあります。耳鼻咽喉科で定期的に見てもらうことが大切です。

目立つことでストレスがかかってしまう

顔の中心部であり、子ども自身や両親の精神的ストレスが強くなりがちです。

また、構音障害から他人とのコミュニケーションに対して消極的になる場合があります。

本人への心のケアをはじめ、周囲の人達の理解が必要となってきます。現在では美容形成技術も進んでいるために、傷を目立たなくする技術も向上しています。

先天性の異常の合併もまれにある

わずかですが、口唇口蓋裂がある方は先天性の異常を合併することもあります。

小顎症(下あごの発達障害)や心室中隔欠損症、合指症、多指症、頭蓋骨早期癒合症、小耳症、福耳などを合併することがあります。

心臓に合併症がある場合は気づかれないことが多いため、注意が必要です。

その他に、口唇口蓋裂を伴う症候群は多くあり、口唇口蓋裂が症候群の中の一つの症状として発生することがあります。

主にダウン症候群・ピエール・ロバン症候群・トリーチャー・コリンズ症候群・22q11.2欠失症候群・第1第2鰓弓症候群などがあげられます。

これらの合併した病気の治療もあわせて、口唇口蓋裂の治療を行っていく必要があります。

授乳の方法

授乳

口唇裂や口蓋裂がある赤ちゃんでも軽度の場合は、母乳やミルクを哺乳瓶で飲むことが可能です。

経管チューブを使用して栄養を注入する場合は、誤嚥がひどい場合や、ミルクを飲む力が弱い場合になります。

口唇裂、口蓋裂専用哺乳瓶の使用

口蓋裂をもつ赤ちゃんの場合、母乳を吸う力が弱いことが多くあります。

専用の哺乳瓶と乳首がありますので、母乳を搾乳したり、粉ミルクを入れて使用したりすることが出来ます。

飲ませ方については、赤ちゃんを縦抱きにして、水平に哺乳瓶を差し入れ、鼻にミルクが入らないような姿勢で飲ませることが大切です。

ミルクの量も少量からはじめ、少しずつ一回の量を増やすようにしてください。1回あたりの授乳時間は20分程度にしましょう。

ホッツ床(Hotzプレート)の装着

口蓋裂のある場合、ホッツ床(プラスチック製の哺乳補助プレート)を口蓋に装着することで、母乳や哺乳瓶からミルクを飲むことができます。

マウスピースのように24時間装着します。

成長に合わせてプレートを作り直し、哺乳の補助や上顎の形を整える役割をします。

ホッツ床は生後の早い時期に装着することで、自然にプレートに慣れるため、早期に形成外科を受診することをおすすめいたします。

プレートを使用するかどうかは口蓋裂の状態によって決まりますので、主治医とよく相談することが大切です。

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口唇口蓋裂に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

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