低身長の基準とは?検査や治療法、原因を含めて解説します。

子供の発育には個人差があり、多くは持って生まれた体質によるので変えられません。しかし、その中でも病院が治療を行うことができる低身長症というものが存在します。

身長の伸びに関わる要因には遺伝や体質、ホルモン量や運動、栄養状態など様々ありますが、まれに疾患が原因で低身長になっている場合があります。お子さんの背が小さいことを気にしているようであれば、一度成長曲線を書いてみて必要であれば早めに受診することで低身長を改善できるかもしれません。

今回は低身長症についてまとめてみました。

  [内分泌系の病気]

更新日:2017年11月16日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部

低身長と判断される基準

身長

低身長の判断基準には標準偏差(SD)という値を用いています。

標準偏差は言わばデータのばらつきの大きさを表している数値で、ある値が基準値からどれくらい離れている場所に位置しているかを表します。低身長の基準は-2SDに定められています。

年齢に対応した身長をグラフにプロットした成長曲線というグラフを作成することで、-2SDの曲線よりも下回った成長曲線が描かれると、低身長であると判断されます。

2SDを下回るのは100人のうちで2~3人程度であるとされています。-2SDから+2SDまでに約95%の子供が含まれています。

引用元:小児科の受診が勧められる成長曲線のパターン(男子用)(日本小児内分泌学会)

上のグラフの場合、AとBのお子さんが低身長に該当します。

検査・診断

低身長症が疑われた場合、まず行うのは問診です。生まれた時から小さいのか、生まれた時は普通の大きさだったのか、今まで何か病気にかかったかなどを聞きます。母子手帳や健康手帳を見せていただき、それをもとにした成長曲線を作成します。その後、身体検査を行い、身長が実際にSDからどれくらいマイナスの値なのかを調べます。

同時に血液検査も行います。血液検査では肝臓や腎臓をはじめとする主要な臓器に異常がないかのスクリーニングを行います。また、ホルモンがちゃんと分泌されているかどうかの検査も行います。

甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、ソマトメジンCなどの量を測定します。特にソマトメジンCは成長ホルモンと密接に関連している成長因子ですので、ソマトメジンCを測定することで成長ホルモンが足りているかを判断することが可能です。

さらに、手のレントゲン撮影を行うこともあります。骨年齢を判断し、成長に問題がないかを判断します。

これらの検査を組み合わせて総合的に低身長症であるかどうかを判断します。なんらかの原因疾患がある低身長であれば、疾患の治療を行う必要もありますので適宜必要な検査を追加することもあります。問題がなさそうであれば外来で様子を見ます。

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低身長症を起こす疾患

1)成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)や先天性甲状腺機能低下症などのホルモン不足が原因の低身長

a) GHD

GHDには原因が分かっていない特発性のものと分かっている器質性のものがあります。器質性GHDの原因には、出産時に新生児が仮死状態になったりそのほか周産期に異常を生じたりした場合や、事故による脳の損傷、脳腫瘍などが挙げられます。

これらによって下垂体から成長ホルモンが分泌されなくなることで低身長になる場合があります。頻度としましては6~17歳の学童期において、100万人あたり男児214人、女児71人と男児の方が多いことが分かります。

b) 先天性甲状腺機能低下症

甲状腺から産生される甲状腺ホルモンは成長ホルモン同様、ヒトの体の成長に大きく寄与していることが分かっています。先天性に甲状腺の機能が落ちている先天性甲状腺機能低下症の子供は、低身長などの発達障害を起こすことでよく知られています。

一時的に甲状腺ホルモンが減っているだけであれば低身長にはならず、長期的に不足することで結果的に低身長になることがあります。

2)染色体異常がある場合(Turner症候群・Prader – Willi症候群など)

a) Turner症候群

本来ヒトの体には44本の常染色体と2本の性染色体があります。性染色体はXとYの2種類が組み合わせによって、Xが2本あると女性に、XとYが1本ずつあると男性になります。これはY染色体上に男になるのに必要な遺伝子があるからです。

何らかの原因で性染色体に異常生じて、本来2本あるはずがX1本になってしまうことをTurner症候群と呼びます。Turner症候群では低身長の他に性腺異型性、特徴的奇形徴候などが認められます。出生女児の1000人に1人に認められます。

b) Prader – Willi症候群(PWS)

PWSは常染色体の15番の遺伝子が作用しないことで発症することが分かっています。年齢に応じて症状が多岐にわたる疾患ですが、幼児期に低身長を認めることがあります。

3)在胎不当過小(Small-for-Gestational Age ; SGA性低身長症)

生まれたタイミングが早くても遅くても、同じ在胎期間で生まれた子供の90%が占める体重分布よりも軽い新生児のことを在胎不当過小児といいます。両親が小柄である場合、妊娠中に母親が何か薬を飲んでいた場合、胎児に栄養を送る胎盤が正常に機能しなかった場合などに新生児の体重が小さくなることがあります。

小さな新生児の一部は成人になった後も小さいままで、これをSGA性低身長症と呼びます。遺伝疾患やウイルス感染症がない限り低身長意外に在胎不当過小児に異常は認められませんが、在胎不当過小児が低身長症を発症するかはケースバイケースです。

4)軟骨異栄養症

頭の骨や体幹の骨、その他一部の骨を除き、身長が伸びる際には軟骨が骨の両端で増えて、その軟骨を骨にしていく過程を踏むのが大部分ですが、その軟骨が増える段階で異常が生じ、骨が伸長できなくなる疾患が軟骨異栄養症です。

骨が伸長できないので身長がのびず低身長になります。原因としましては遺伝子変異が認められています。軟骨無形成症の患者さんですと成人男性身長が130cm、成人女性身長が122cm程度と、かなりの低身長であることが分かります。

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低身長症の治療

低身長症の治療は、原因疾患により異なります。

1. GHDに対する治療

大まかな方針としては足りていない成長ホルモンを補充することで身長増加を促進するというものです。遺伝子組み換えの成長ホルモンの皮下注射を毎日、あるいは週6回自宅で自己注射します。

なるべく早期からホルモン補充療法を行い、低身長を正常化するだけでなく低身長に伴う心理・社会的問題を解決するようにします。最終的には成人となった時に正常な身長になっていることを目指して治療を行います。

2. 甲状腺機能低下症に対する治療

診断が確定したら甲状腺ホルモン製剤を投与します。甲状腺機能低下症の場合、新生児マススクリーニングなどで判明する場合があります。生後3か月以内にホルモン補充療法を行うことができれば正常に発達していきますが、12か月以降になると知能障害を生じることがありますので早期診断・早期治療を行います。

3. Turner症候群に対する治療

低身長に対する治療としては成長ホルモンが有効となっています。染色体検査委によってTurner症候群であることが確定したら、成長ホルモンの分泌検査を行うことなく0.35mg/kg/weekの投与が認められています。

4. Prader-Willi症候群に対する治療

原因が染色体異常にあるので根本的な治療がないのが現状です。成人のPWSの患者さんの場合、最終身長が150cmあたりになることが多いです。代表的な治療法は食事療法や運動療法になっています。この他、他の低身長をきたす疾患同様に成長ホルモンの補充療法も行う場合があります。

5. 在胎不当過小に対する治療

胎盤機能の低下と栄養不足が在胎不当過小の原因だった場合は、出生後に十分な栄養を与えることで正常な発育をします。ただし2歳までに成長が追い付いてこないと、成人まで低身長であるケースが多く、成長ホルモン補充治療の適応となります。

日本でこの治療を行ったデータはまだほとんどありませんが、欧米のデータでは思春期に低身長が改善し、正常範囲の成人身長になるケースもあります。

6. 軟骨異栄養症に対する治療

低身長に対してはこちらも成長ホルモン療法が小児慢性特定疾患の対象疾患になっています。体幹の骨は3歳までに大体出来上がりますので、治療自体は3歳前後からスタートすることで、体幹の骨を過剰に発達させることなく手足の骨を発達させ、低身長を改善することが可能です。公費負担で治療を受けることができます。

参考:小児慢性特定疾患に対する医療費助成に関して
上に挙げた疾患の中で、GHD、甲状腺機能低下症、軟骨異栄養症などは小児慢性特定疾患に認定されています。特定疾患に罹患している児童に対しては、健全育成の観点からその医療費の自己負担分の一部を助成する制度があります。一般に、18歳未満の児童などが対象となっています。

予防策など

病気による低身長は防ぎようがありませんが、早目に気付くことができれば低身長を改善することができる場合があります。気になったら早期に相談を受けることが大切でしょう。

この他、生活環境やストレスなどにも多少の影響を受ける場合がありますので、そうした点からも見直してみましょう。

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