とびひの原因や症状、登校登園、プールやお風呂について説明します
更新日:2017年10月04日
とびひとは
「とびひ」は一般的に使われる名称ですが、これは俗称で、正式には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」といい、細菌が皮膚に感染することによって発症する感染症です。
細菌に感染した皮膚には水疱(水ぶくれ)ができて、次第に膿(うみ)を持つようになり、やがて破れていきます。
感染した皮膚はかゆみを伴うため、掻きむしってしまい、掻きむしった手で他の部分を触ると、他の皮膚へ感染してしまいます。発症すると、あっという間に全身へ広がってしまうため、火事の飛び火のごとく広がるという「飛び火」になぞらえて「とびひ」と呼ばれています。
とびひと湿疹などの皮膚炎の違い
とびひと湿疹などの皮膚炎の違いには、次のような特徴があります。
- 湿疹などはダニやハウスダスト、アレルギーなどがきっかけとなって発症する。
- とびひは細菌に感染することによって発症する。
湿疹の状態で皮膚を引っ掻いてしまい、そこから細菌に感染して、とびひになってしまう場合もあります。特にアトピー性皮膚炎の人は皮膚のバリア機能が低下しているため、とびひに感染しやすいといわれています。
とびひの種類
とびひには、次の二種類があります。
- 水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん) … 「水疱」ができるもの
- 痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん) … 「かさぶた」ができるもの
とびひの原因・症状
水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)の原因・症状
とびひの多くはこのタイプで、黄色ブドウ球菌が原因となります。夏に発生することが多く、主に0〜6歳の乳幼児に発症します。皮膚の一部に膿をもった水ぶくれ(膿疱(のうほう))ができます。かゆみを伴いますが、発熱はあまりありません。
黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚や鼻に存在している菌です。虫さされやあせも、擦り傷などの部位を掻きむしることによって、原因となる黄色ブドウ球菌が入り込み、菌が増殖するときに毒素を出します。これがとびひの原因となります。この毒素は表皮の細胞をつなぐ組織を切断してしまい、水疱を作っていきます。
水疱は、はじめのうちは透明ですが、しだいに膿疱化(水ぶくれに膿がたまっていく)します。水疱や膿疱は簡単に破れてしまいますので、水疱の中の液体によって、すぐに周囲へ広がってしまいます。また、鼻の入り口には様々な細菌がいるため、幼児・小児が鼻の周辺を触った入りする癖があると、鼻の周囲からとびひが始まることがあります。
痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)の原因・症状
痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)は、溶連菌(連鎖球菌)の一種のA群β溶血性連鎖球菌が原因(黄色ブドウ球菌と併せて感染することもあります。)で、赤く腫れた部位に、小さな膿疱や厚い痂皮(かさぶた)ができます。炎症が強いため、のどが痛くなったり、リンパ節が腫れたり、発熱などの症状が見られることがあります。
重症になると、菌が作る毒素によって全身が潮紅(赤くなる)する場合があり、稀に腎障害もみられます。腎障害の確認のために、治癒してからも数週間は尿の中のタンパクを確認する必要があります。
水疱性膿痂疹よりも感染者は少なくなりますが、季節や年齢に関係なく発症し、成人にも多くみられます。また、アトピー性皮膚炎の人の感染しやすい傾向があります。アトピー性皮膚炎の人に膿痂疹が合併した場合、特に溶連菌による場合に多いのですが、菌が血液中に侵入して、高熱を発し、重症になることがありますので注意が必要です。
皮膚の表面が火傷のようになる「SSSS」
SSSSと呼ばれるものがあります。SSSSはブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome)の略称で、全身性の疾患です。
とびひの原因となる黄色ブドウ球菌が作り出す毒素によって、皮膚の表面が剥がれ、火傷のような状態になってしまいます。乳児・小児によくみられるもので、かつては命も脅かすような疾患でしたが、近年では、効果の高い抗生物質等が存在しているので、早期に発見して治療を開始すれば、重症にならずに済みます。
とびひの検査
とびひの検査は、破れていない水疱や膿疱の中にある液体を培養することや、血液検査によって行います。
水疱や膿疱の液体の培養では、黄色ブドウ球菌あるいは溶連菌(連鎖球菌)の検出が可能です。
また、痂皮性膿痂疹では、血液検査を行うと、白血球数の増加、CRP(体に炎症があると血液中にあらわれるタンパク質の一種)陽性、溶連菌(連鎖球菌)に対する抗体の上昇がみられることがあります。
とびひの治療
とびひの治療は、原因となる細菌を駆除する治療となります。ごく軽い場合は軟膏などの外用薬(塗り薬)を使用するだけで済みますが、通常は抗菌薬(抗生物質など)の内服薬(飲み薬)を併用します。かゆみが強い場合は、かゆみを抑える治療も併せて行われます。
ひどくなると範囲が広がってしまうため、早くに治療を始めると、より早く治すことができます。
なお、自然治癒も可能といわれていますが、他人へ感染する病気でもありますので、医療機関を受診し、医師の指示のもとで治療することをお勧めします。
外用薬(塗り薬)
外用薬は基本的に抗生剤の入った軟膏を使用します。
症状が軽いときはゲンタシンなどを使用しますが、ゲンタシンは使用しているうちに耐性菌(薬が効かない菌)が出来ることが多く、薬が効かなくなってしまうことがあり、そういった場合は耐性している菌にも強いもの(フシジン酸ナトリウムの軟膏(商品名フシジンレオ)など)を使用していきます。
抗菌外用薬としてよく使用されるのが、アクアチム軟膏、フレジンシオ軟膏、ゲンタシン軟膏などです。また、基本的に感染症にはステロイドは使用しません。症状によって、処方される薬が異なってきますので、医師の指示に従って治療することが大切になります。
特に水疱性膿痂疹の場合は水疱がありますので、患部に対して軟膏を塗り、全体をガーゼで覆い、1日に1~2回は取り替えることが必要となります。
内服薬(飲み薬)
内服薬は抗生物質などの抗菌薬を使用します。
内服薬を使用しても、なかなか治らないときには、抗菌薬に対して細菌が耐性化して薬が効かなくなっていることが考えられます。そういった場合には細菌を培養して、原因菌に対する感受性検査(薬が効くかどうかしらべる)を行うことがあります。
処方された抗菌薬は医師の指示に従い、治癒していても再発防止や、腎炎の合併を予防する観点から、一定期間は飲み続けることとなります。
また、とびひはかゆみが強いので、抗ヒスタミン薬の内服でかゆみを抑えて、感染が広がらないようにすることも必要となります。
お風呂やプールについて
入浴について
とびひが発症してしまった場合は、患部を清潔にすることを心がけなければいけません。
入浴については、とびひを発症していても、発熱などの症状がない場合は入浴してよいという医師と、発症中はシャワーだけにした方がいいという医師がいます。
患者さんの症状によって異なってきますので、医師に相談した上で入浴かシャワーかを決めた方がいいでしょう。入浴した場合でも最後は必ずシャワーのきれいなお湯をかけて出ます。患部は石けんを使って泡立てて、そっと丁寧に洗い流すといったことが必要です。
また、入浴する場合は、兄弟姉妹の後に清潔なお湯に入れ替えて入浴させた方が良いでしょう。
入浴後は、患部の液体などが周囲に接触しないよう、患部に対して丁寧に軟膏を塗り、ガーゼで保護することが必要です。
なお、温泉は控えた方がいいでしょう。
プールは禁止
プールに入ることにより、とびひが悪化することや、他の人にうつす恐れがあります。完全に治癒するまではプールに入ることは禁止です。このことについては、日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会が、プールに入ることを禁止とする統一見解を発しています。
登校・登園について
とびひは学校保健安全法における「学校感染症の第三種」として扱われることがあります。法令に病名が具体的に記載されている訳ではありませんが、「その他の感染症」の一つとして、条件によっては学校への出席を停止することになります。
その判断は医師によります。判断の基準となるのは、ほかの子どもにうつす可能性があるかということです。したがって、治療中であっても患部をガーゼや包帯できちんと覆っていれば、登校・登園の許可を得られることがあります。
このことについては文部科学省の「学校において予防すべき感染症の解説」に分かりやすく記載があります。また、日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会・日本皮膚科学会・日本小児感染症学会が出席停止期間に関する統一見解を出していています。
皮膚の学校感染症に関する統一見解について(抜粋)
5 伝染性膿痂疹(とびひ) 水ぶくれや糜爛(びらん)からの浸出液を触ったり、引っ掻いたりすると、中の細菌で次々にうつります。特に鼻の入り口には原因の細菌が沢山いるので鼻をいじらないようにしましょう。 病変が広範囲の場合や全身症状のある場合は学校を休んでの治療を必要とすることがありますが、病変部を外用処置して、きちんと覆ってあれば、学校を休む必要はありません。
学校保健安全法施行規則(抜粋) (感染症の種類) 第十八条 学校において予防すべき感染症の種類は、次のとおりとする。
三 第三種 コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎その他の感染症
とびひは条件により第18条第1項第3号の「その他の感染症」に含まれています。
関連リンク
「皮膚の学校感染症に関する統一見解について」日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会・日本皮膚科学会・日本小児感染症学会の統一的見解
とびひの予防
とびひの予防は、傷を作らないことが大切です。蚊にさされても掻きむしらず、アトピーの子どもは特にアトピーのコントロールをすることです。
怪我などをしてしまったら傷口を清潔にすることが大切です。汗をかいたらシャワーをすることや、こまめに着替えをすること、夏場でもきちんと入浴するなどして、皮膚を清潔に保つようにしましょう。
鼻からとびひが発症することがありますが、鼻の中はブドウ球菌などの細菌が多く存在しています。鼻に指を突っ込んだり、ほじったりすることが癖となっている子どもさんがいますが、そういったことをしないような指導が必要です。
また、手洗いを習慣化することや、爪が長くなる前に切ることで、皮膚を傷つけずに清潔に保つことが大切です。虫さされ、あせもなどの比較的軽い症状の皮膚病については短期間で治すように心がけることが大切です。長引くとそこからとびひの原因菌が入ってしまい、感染することがあります。
衣類やタオル類、シーツ類をこまめに取りかえ、体に身に着けるものを清潔にすることも大切です。
とびひの再発について
一度とびひに感染したら、もうかからないかというと、そうではありません。とびひは細菌が原因で生じるので、免疫ができるものではなく、何回でも感染してしまいます。感染しないためには予防が重要となります。
大人の感染
とびひに感染するのは通常は子どもが多いのですが、大人も感染することがあります。特に痂皮性膿痂疹は年齢に関係なく発症することがあり、水疱性膿痂疹についてもまれに大人に発症することがあります。
大人は子どもよりも、細菌に対する抵抗力がありますので、とびひの原因菌が体内に入ってきても、簡単には発症しませんが、ストレスや過労によって抵抗力が落ちていたりすると感染することがあります。ただし、大人は子どもと違い、掻きむしることを抑えることができるので、早期の回復が見込まれます。
また、高齢者は皮膚を守る機能が低下し、皮膚が薄かったり、傷つきやすかったりしますので、細菌に感染しやすい状態にありますので注意が必要です。
看護師からひとこと
最初は本人もわからない・覚えていないような小さな傷から始まるのがとびひです。名前の通り、広がるのはあっという間です。
傷が広がってからではなく、少しでも増えてくる傾向がみられたら、すぐに皮膚科か小児科を受診しましょう。
まとめ
- とびひは細菌が皮膚に感染する感染症です。
- とびひには、水疱ができる「水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)」と、かさぶたができる「痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)があります。
- あせもや引っ掻き傷などから感染するので、爪を切っておくことや、清潔に過ごすことで予防できます。
- 内服薬は抗生物質などの抗菌薬、かゆみをとめる抗ヒスタミン剤などが使用されます。
- 感染した後も患部を清潔にすることが必要ですので、入浴やシャワーで患部を洗うことが大切です。入浴とシャワーのどちらがいいかは、医師と相談して決めます。
- 学校等への出席やプールへ入ることについては、基本的にプールは禁止、登校・登園は医師と相談して決めます。
- とびひは大人へも感染しますが、大人は菌に対する抵抗力があるので、あまり感染しません。ただし、高齢者は皮膚を守る機能が低下していますので、注意が必要です。