急性髄膜炎の原因や症状、検査、治療法、予防接種など
更新日:2017年05月17日
急性髄膜炎とは
急性髄膜炎とは、髄膜(脳や脊髄を保護している膜)が炎症を起こし数時間から数日のうちに症状が進行する病気です。
急性髄膜炎にはいくつか種類がありますが、細菌感染による髄膜炎を「細菌性髄膜炎」といいます。
一方、急性髄膜炎の症状・検査所見を呈するにも関わらず、髄液中に原因となる細菌を同定できない髄膜炎を「無菌性髄膜炎」といい、多くの場合はウイルス性髄膜炎と同じ意味で使用されています。
一般的にウイルス性髄膜炎は細菌性髄膜炎と比較して症状が軽いといわれています。
髄膜(ずいまく)とは
髄膜は、脳および脊髄を保護する膜の総称です。外側から硬膜・クモ膜・軟膜という3層で構成されており、頭蓋骨と脳の間に存在しています。
急性髄膜炎の症状
急性髄膜炎で最もよくみられる症状は頭痛、発熱、嘔吐となります。
その他、項部硬直といって首の後ろが硬くなって前に曲げにくくなることや、けいれん、意識障害などの症状を伴うことがあります。
急性髄膜炎の原因
無菌性髄膜炎(ここではウイルス性髄膜炎について)と細菌性髄膜炎でその原因が異なってきます。
無菌性髄膜炎(主にウイルス性髄膜炎)
無菌性髄膜炎については、その原因のほとんどがウイルスとなることから、ウイルス性髄膜炎ともいわれています。
中でもエンテロウイルスを原因とするものが、全体の約70−80%を占めています。
そのほか、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因となるムンプスウイルスも、無菌性髄膜炎を引き起こすものとして知られています。
エンテロウイルスの一部は、手足口病やヘルパンギーナなどの原因にもなるものです。
手足口病やヘルパンギーナは夏季を中心に流行しますが、この流行時期と一致して無菌性髄膜炎についても、夏季に多く発生する傾向があります。
また、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)が流行しているときは、ムンプスウイルスが原因の無菌性髄膜炎が多くなってきます。
以上のような病気は幼児期から学童期に多いことから、無菌性髄膜炎も同じ幼児期から学童期に多くなります。
無菌性髄膜炎の感染経路
感染経路は原因となるウイルス等によって異なりますが、ウイルスの一般的な感染経路として接触感染、飛抹感染(咳やくしゃみなどによる感染)、食物などを介した感染などがあります。
エンテロウイルスの場合には、糞口感染(便が手などを介して口に入って感染する)、飛抹感染が多くなります。
なお、エンテロウイルスの潜伏期間は4日〜6日程度となります。
細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎の原因となる細菌は、年齢によって異なってきます。
生後3か月未満では大腸菌、B群連鎖球菌が原因となることが多く、3か月以降ではインフルエンザ菌(Hib)、成人では肺炎球菌やインフルエンザ菌、緑膿菌などが多くなってきます。
インフルエンザ菌(Hib)や肺炎球菌は、健常児においても鼻やのどの奥に存在する菌です。
普段は存在していても症状はでませんが、免疫力のない乳幼児の場合は、これらの菌が体内に侵入して重度の感染症を起こすことがあります。
これが、髄膜へ侵入すると細菌性髄膜炎を引き起こすこととなります。
細菌性髄膜炎の感染経路
感染経路は、細菌が血液中に入ることによる血行性の感染、中耳炎・副鼻腔炎などの病巣から髄膜へ侵入する感染を挙げることができます。
急性髄膜炎の検査
腰椎穿刺(腰から針を刺す)により髄液を採取して検査を行います。
このことで、髄液から検出される病原体の種類によって無菌性・細菌性がわかります。
急性髄膜炎の治療
無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎)
入院治療を要する場合がほとんどですが、エンテロウイルスを原因とする場合には、一般的に経過もよく、合併症や後遺症を残すこともなく1~2週間程度で回復することが期待できます。
嘔吐などがひどく脱水症状がみられる場合は、点滴が必要になります。
生後数ヶ月の乳児については、初期に特徴的な症状がみられないことも多いです。年齢的な要素から発達障害などの後遺症が残る場合がありますので注意が必要です。
発熱・頭痛・嘔吐の症状がある場合は、早めに医師の診察を受けることが大切です。
細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎は、適切な抗菌薬による治療が必要になります。治療しない場合は、高い確率で後遺症を残したり、最悪の場合、死亡に至ります。
死亡する危険性は年齢のほかに、原因となる細菌が取り除かれるまでの時間や、重症度、意識レベルなど、様々なことが関連してきます。
細菌性髄膜炎を引き起こしている抗生物質に対して有効な抗菌薬により入院治療をします。抗菌薬はある程度長期間の投与が必要となり、経過を見つつ投与期間を決定しますが、2〜3週間程度は使用となります。
ただし、抗菌薬の効果がない菌(耐性菌)が増えているために、治療を行っても、死亡することや、後遺症が残ってしまうこともあります。
このほか、症状が発生した直後には、発熱や激しい頭痛が生じることが多く、体温、脈拍、血圧、呼吸などの状態により、鎮痛剤や解熱薬、状況に応じて呼吸や循環のサポートなどの集中治療も必要となってきます。
また、脳圧降下薬、抗けいれん薬などの投与が行われることがあります。
急性髄膜炎の後遺症
無菌性髄膜炎の場合、多くは後遺症なく治るといわれています。
ただし、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因となるムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎の場合は、難聴を合併することがあるので注意が必要です。
細菌性髄膜炎では後遺症が残るケースも
細菌性髄膜炎になった場合、治癒しても後遺症が残るケースがあります。
後遺症が残る可能性は医療の進歩により低くなってきていますが、それでも15%ほどの患児で後遺症が残存すると報告されています(細菌性髄膜炎ガイドライン)。
主な後遺症の種類は次のとおりとなります。
- 水頭症(髄液の循環が悪くなる)
- てんかん(けいれん発作を起こすもの)
- 記憶障害
- 聴力低下
- 発達遅延
- 歩行障害
急性髄膜炎の予防
急性髄膜炎の予防接種
乳幼児における細菌性髄膜炎は、肺炎球菌またはインフルエンザ菌(Hib)が原因となることが多くを占めます。
予防接種の有効性は日本だけでなく世界でも高く評価されており、それぞれ2010年及び2008年に予防接種として導入されています。
この予防接種は定期予防接種ですので、指定された時期に接種する場合は、無料で接種することができます。
- 肺炎球菌 … 小児用肺炎球菌ワクチン
- インフルエンザ菌(Hib)のワクチン … ヒブワクチン
小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは、どちらも生後2か月から接種することができます(医師が必要と認めた場合には同時接種も可能)。
定期予防接種は他にもありますので、医師と相談しながら予防接種のスケジュールを作成するといいでしょう。
無菌性髄膜炎を起こす流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)のムンプスウイルスについては、ワクチンがあり、予防が可能となります。
しかし、エンテロウイルスにはワクチンがなく、流行期には一般的な感染予防対策をすることとなります。
その他の予防方法
急性髄膜炎は、細菌やウイルスによって起こりますので、細菌やウイルスに感染しないよう、一般的な感染症の予防対策を講じることが大切になります。
特に感染症の流行時については、次のようなことに注意して生活するようにしましょう。
一般的な感染症の予防対策
- うがい、手洗いを徹底する。
- 飲食物を分け合ったり、食器の共用をしない。
- タオルや箸などの共用をしない。
- 咳やくしゃみの際に、ティッシュなどで鼻や口を押さえる。
- 咳が続くときにはマスクをする。
- おむつ交換に細心の注意を払う。(便から感染するものについては注意が必要です。)
大人の急性髄膜炎
大人でも急性髄膜炎にかかることはあります。
無菌性髄膜炎は、大人であっても、後遺症が残ることなどはほとんどなく、通常は1〜2週間程度で回復していきます。
ただし、重い頭痛などの症状がありますので、医師の診断を受けて、きちんと治療していくことが大切です。
また、まれに細菌性髄膜炎を発症することもあり、免疫機能や年齢、基礎疾患に応じて原因菌が異なります。
大人の細菌性髄膜炎は、肺炎球菌が原因となることが多くなります。肺炎球菌以外の菌についても、ワクチンの接種が広まっていますので、患者さんの数は低下しています。
症状としては、小児と同様、重度の頭痛や、首の硬直、高熱などが生じます。
また、錯乱や昏迷、痙攣などの症状もあり、こういった症状が現れた際には、直ちに病院へ行く必要があります。
早期に治療すれば、経過は良好となりますが、治療が遅れると、後遺症を残す恐れや、場合によっては死に至る可能性もあります。
その他に、癌性髄膜炎という、がんの転移を原因とする髄膜炎があります。
看護師からひとこと
何かしらの感染症に罹ってから急に頭痛や嘔吐・意識障害を生じたらそれは危険なサイン。数時間のうちに病状が進行することもあります。
子どもは頭痛をはっきり訴えることができないケースもありますが、周囲の大人からみてあやしいなと感じたら、まずは医療機関に問い合わせ、指示を仰ぎましょう。
まとめ
- 急性髄膜炎とは髄膜(脳や脊髄を保護している膜)が炎症を起こす病気です。
- 急性髄膜炎には「無菌性髄膜炎」(細菌感染以外の原因による髄膜炎)と、「細菌性髄膜炎」(細菌感染による髄膜炎)があります。
- 一般的に無菌性髄膜炎は、細菌性髄膜炎より症状が軽くなります。
- 急性髄膜炎で最もよくみられる症状は頭痛、発熱、嘔吐となります。その他、けいれん、意識障害などの症状を伴うこともがあります。
- エンテロウイルスや、おたふくかぜのムンプスウイルスが原因となることが多いといわれます。
- 細菌性髄膜炎の原因となる細菌はインフルエンザ菌(Hib)、肺炎球菌が多くなります。
- 無菌性髄膜炎は入院治療を要する場合がほとんどですが、エンテロウイルスを原因とする場合には、一般的に経過もよく、1~2週間程度で回復していきます。
- 細菌性髄膜炎の治療には適切な抗菌薬が必要になります。治療しないと高い確率で死亡に至ります。
- 細菌性髄膜炎については、肺炎球菌、インフルエンザ菌(Hib)の予防接種があります。定期予防接種ですので、市町村に予防接種について確認し接種するようにしましょう。
参考文献・サイト
- 国立感染症研究所(細菌性髄膜炎)
- 国立感染症研究所(無菌性髄膜炎)
- 細菌性髄膜炎の診療ガイドライン(日本神経治療学会治療指針作成委員会)
- 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会)