急性虫垂炎(盲腸)の痛みは右下へ移動する!症状や原因、手術や検査について説明します。
更新日:2017年08月04日
急性虫垂炎(盲腸)とは
急性虫垂炎は、盲腸の先端にある虫垂に化膿性の炎症が起こる病気です。虫垂の内側が、狭くなったり塞がったりすることにより、細菌が増殖し虫垂への細菌感染が生じます。
虫垂は、盲腸の先に突き出た10cm程度の突起物です。虫垂にはリンパ組織が集まっていて、腸内の細菌バランスを整える働きがあると考えられています。ただ、切除しても生きていく上で特段の支障が出るような臓器ではありません。
急性虫垂炎は、一般に「盲腸」と呼ばれていますが、これは、急性虫垂炎の診断が遅れた際に、虫垂が盲腸に張り付き、あたかも盲腸の炎症のようにみえたことから、呼ばれていた名称と考えられます。患部は盲腸の先の虫垂であり、「急性虫垂炎」というのが正式な病名です。
急性虫垂炎の状況
急性虫垂炎は、急性の腹痛で外来治療をする人の中でよくみられる疾患のひとつです。
10代から20代にかけて最も多くなりますが、子どもや高齢者にもみられる病気で、15人に1人くらいが生涯で一度はかかるといわれています。
急性虫垂炎の原因
急性虫垂炎の発症原因には、いろいろな説がありますが、正確な原因は不明です。
便(石)や異物、リンパ組織の過形成などが原因になると考えられています。小学生以上の子どもで、腹痛を伴う外科的疾患では急性虫垂炎が最も多いとされています。
乳幼児でも発症することがあり、診断が遅れると重症化し、穿孔性虫垂炎(虫垂が破裂して、膿が虫垂の外に出てしまう)になることがあります。
乳幼児が重症化することの原因としては、乳幼児の場合は虫垂の壁が薄く、体の防御機能が未発達であることがあげられます。いったん炎症が起きるとその進行は早く、簡単に虫垂の壁に穴が開いてしまいます。
虫垂が破裂すると、虫垂から細菌が外に出てしまい、腹膜炎にもなってしまいます。さらに、乳幼児は腹痛の症状、部位を的確に表現できないため、診断が難しく病状が進行してしまうことがあります。
腹膜炎とは
腹膜とはお腹の内側を覆っている膜のことです。腹膜で覆われたお腹の中(臓器の外側の部分)を「腹腔」といいます。本来腹腔内は無菌になっています。この腹膜に細菌感染などによって炎症が起こることを腹膜炎といいます。
穿孔性虫垂炎のように、虫垂などに穴があいて、細菌が虫垂の外側へ出てしまい、腹膜が細菌に感染すると、腹膜炎を起こしてしまいます。
腹膜炎の中でも、急性汎発性腹膜炎(はんぱつせいふくまくえん)といって、腹膜全体に炎症が広がるものがあり、この場合、重症化すると命に関わるため、緊急治療が必要となります。
急性虫垂炎の症状
症状は、腹痛、嘔吐、発熱が主なものとなります。はじめに腹部の上の方から痛みが生じ、しだいに右側の下の方へと痛みが移っていきます。
腹部の痛みがある中で嘔吐の症状もでてきます。さらに37度から38度の発熱を伴うようになります。39度以上の高熱となる場合は、穿孔性虫垂炎などの可能性が高くなります。
炎症が進行していくと、右下腹部の痛みは、絞めつけられるような激痛へと変化し、食欲が低下し、嘔吐も続くようになります。
急性虫垂炎は適切な治療を受ければ、重症化することなく治癒していく病気ですが、治療を受けずに放置しておくと、穿孔性虫垂炎となり虫垂が破裂し、虫垂内の細菌がお腹の中に出て行ってしまいます。
ひどい場合、腹膜炎となって命にかかわることもあります。また、細菌が血管に入って全身に広がってしまうと敗血症となり、とても危険な状態になります。
なお、急性虫垂炎の状態は次の3段階に区分できます。
急性虫垂炎の3段階
- カタル性虫垂炎(粘膜層の軽い炎症(軽度))
抗菌薬の投与で治療が可能なものです。 - 蜂窩織炎性(ほうかしきえんせい)虫垂炎(全層の化膿性の炎症(中度))
虫垂に膿がたまっていますが、虫垂は破裂していない状態です。ただし、多くの場合、手術は不可欠となります。 - 壊疽性(えそせい)虫垂炎(虫垂壁全層の壊死(重度))
虫垂の組織が壊死して破裂し、腹膜炎や膿瘍(のうよう)を伴ってきます。手術が不可欠となります。
急性虫垂炎の検査
急性虫垂炎を発症してから約12時間を経過すると、血液中の白血球数が増えて、炎症反応(CRP)の数値が異常に高くなります。
診断は腹部の触診(医師が手で腹部を押して検査します)、直腸診(医師が肛門から指を入れて炎症の進行を確認します)などを行います。この検査により緊急手術をすべきかどうかが判断されます。
特に右下腹部を押した時の診断がポイントとなり、虫垂炎が進んで虫垂が破裂して、腹膜炎を起こすと、腹壁の緊張が増して腹部が板のように硬くなります。また、腹部を押して手を離す瞬間に痛みが走ります(ブルンベルグ徴候といいます)。このあたりの診断が手術の判断において重要となります。
乳幼児では小児外科専門の医師による診断が不可欠となります。ただし、6歳以下の乳幼児の場合、触診などを行う際に泣いたり動いたりして十分に診断ができないことがあり、超音波検査やCT検査を行うこともあります。
急性虫垂炎の治療
急性虫垂炎の状態は、前述のとおり3段階に分かれています。かつては虫垂炎との診断が得られれば、どの段階であっても、虫垂切除の手術していたようですが、最近では薬物療法が進歩し、カタル性虫垂炎については、抗生物質による内科的治療で治るようになっています。ただし、この場合は10〜20%の割合で再発する可能性もあります。
画像検査で虫垂が1cm以上になっていることがわかり、虫垂の膿瘍がある場合は、虫垂炎が蜂窩織炎性や壊疸性まで進んでいることとなりますので、多くの場合、手術が必要となります。
壊疸性虫垂炎の場合は、お腹にチューブ入れるなどして、お腹の膿を外に出す必要があります。この場合は長期の抗生剤投与が必要となり、当分の間、食べ物を食べることはできなくなります。入院治療は1か月以上になることもあります。
手術した場合でも、腹膜炎が生じていなければ、手術後24時間経過した後の排ガス(おなら)を確認し、それ以降は食べ物を口にできるようになります。ただし、その後も数日間は点滴により抗生剤を投与することとなります。
手術方法としては、一般的には開腹手術と腹腔鏡手術の二つの方法があります。
腹腔鏡による手術は、おなかに小さな穴をあけるもので、手術の後がとても小さくなり、入院期間も2〜3日程度と短くすみます。
手術方法にはメリット、デメリットがありますので、医師の説明を十分に聞き、医師と相談して決めることとなります。
急性虫垂炎の予防
便通を良くして、腸内の環境を整えることが大切です。中でも次のことに注意して生活しましょう。
食物繊維をきちんと取る
食物繊維は便を軟らかくし、ふっくらとさせる効果があります。このことで腸の動きが活発になり、腸の中のもの速やかに移動してくようになります。
逆に食物繊維が不足していると、便秘がちになり、便は硬くなってしまいますので、長い間、腸の中に停滞することとなり、虫垂炎を起こしやすくなる可能性があります。
食物繊維は、穀類、イモ、豆類、野菜、くだもの、きのこ類などに含まれています。
【参考】食物繊維の必要性と健康(e-ヘルスネット厚生労働省)
乳酸菌をとる
腸には、様々な種類の細菌がバランスよく存在しています。中でも乳酸菌には腸内環境を整え、病原菌に対する抵抗力をつけることや、細菌の感染を防ぐ役割がある可能性があります。
乳酸菌は数日から1週間ほどで排泄されてしまいますので、毎日ヨーグルトなどで補給することが大切です。
また、牛乳に含まれるラクトフェリンや、クトペルオキシダーゼという酵素も有効といわれています。ラクトフェリンには、大腸菌などの繁殖を抑え、ビフィズス菌などを増加させる効果があり、ラクトペルオキシダーゼには抗菌作用があるといわれています。
便秘を防いで腸内環境を整えることが急性虫垂炎を予防することとなります。
妊婦への影響
妊娠している人が急性虫垂炎を発症する可能性はさほど多いわけではありませんが、妊娠中は重症化すると胎児や母親の命に関わることがあり、とても危険です。
特に急性虫垂炎が破裂してしまうと、胎児に大きな影響を与えることとなり、胎児が死亡してしまうこともあります。
したがって、妊婦さんが急性虫垂炎になった場合は、慎重に治療を行うことが必要です。急性虫垂炎の他にも腹痛を伴う病気は多くありますが、急性虫垂炎は重症化の影響が大きいため、妊娠中に体調の異変が現れた時には、我慢せず医療機関を受診するようにしてください。
看護師からひとこと
ストレスや暴飲暴食などの不摂生、風邪や便秘、胃腸炎など体調不調によって、体の免疫機能の低下がおこります。そうなるとウイルスが感染しやすい状況になります。虫垂炎の直接の原因ではありませんが、日ごろから規則正しい生活習慣と食生活を送ることが大切です。
虫垂炎を自己診断するのは他の病気が隠れている可能性もあるため危険です。初期症状はみぞおちの痛みなどになります。
子どもの場合は風邪の症状と思って治療しているうちに腹膜炎になっていることもあり、診断の難しい症例もあります。お子さんの症状を見逃さないように気を付けることが大事です。
受診の際には、痛みのある場所や症状を正しく医師に伝えることが誤診を防ぐためにも大切です。
まとめ
- 急性虫垂炎は、10代から20代にかけて最も多くなりますが、子どもや高齢者にもみられる病気です。
- 主な症状は、腹痛、嘔吐、発熱となります。
- 腹痛は腹部の上の方から右側の下の方へと痛みが移っていきます。
- 39度以上の高熱となる場合は、穿孔性虫垂炎などの可能性がでてきます。
- 急性腹膜炎を起こすと、腹壁が硬くなり、腹部を圧迫して緩めると痛みが走ります。
- 急性虫垂炎の治療においては、カタル性虫垂炎の場合は薬のみで回復することもありますが、蜂窩織炎性虫垂炎、壊疽性虫垂炎になると手術が必要となります。
- 予防には、腸内の環境を整えることが大切になります。
- 妊婦さんが急性虫垂炎になる可能性はさほど高いわけではありませんが、重症化すると自身や胎児の命にかかわる場合がありますので、注意が必要です。