ノロウイルスの予防・原因・除菌・処理方法などをご紹介します。
更新日:2017年07月09日
目次
ノロウイルス胃腸炎(ノロウイルス感染症)とは
ノロウイルス胃腸炎(ノロウイルス感染症)はウイルス性の食中毒の代表的なものです。
ノロウイルスは感染力が強いのですが、基本的に人にしか感染しないため、動物を使ってウイルスを培養したり、検査したりすることが難しく、人に感染した際の調査(感染の経路など)を十分に行えないという状況にあります。
また、ワクチンもなく、次々と新しいウイルスができるため、一度感染したからといって十分な免疫が身につくこともなく、何度も感染してしまいます。
感染者の年齢は様々で、子どもから高齢者まで感染し、感染者の数は年々増加傾向にあります。特に11月から翌年の1月にかけて感染者が増加します。
ノロウイルスの発生状況について
月ごとの患者数の推移
過去5年間の月ごとの発生状況は次のようになります。特に12月と1月は患者数が多いのがわかります。2012年の12月が特に多いのは、広島県で大規模な集団感染があったことや、新しい型のノロウイルスが流行したことが原因です。
新型のウイルスが発見されることや、食品を扱う施設などで十分な管理が行われていないなどのことで、一気に感染者が増加することあるのです。
過去の発生状況の推移
突出した年もありますが、一定の件数を維持しながら推移しています。厚生労働省を中心として、ノロウイルス対策を呼びかけているにもかかわらず、感染者数が減少傾向にないことがわかります。予防の難しさが見て取れるといえます。
発生した施設別の統計
こちらも厚生労働省が公表している統計をグラフにしたものです。食品から感染することが多いという状況がよくわかります。飲食店で感染するのが73%で次が旅館の8%ですから、いかに飲食店で感染しているかがよくわかります。
新型のノロウイルスについて
川崎市健康安全研究所と国立感染症研究所などの調査で、新型ノロウイルスが発見されています。これまでは「GII.4」という型が多かったのですが、2015年に入ってから「GⅡ.17の変異種」という型が増えているとのことです。
ノロウイルスの感染・感染経路など
主な感染経路は、経口感染です。経口感染とは口から入って、消化器官などで感染することをいいます。
基本的には食べることで感染しますが、嘔吐物が乾いたものが空気中を漂って、それが口に入ってしまうことや、感染者が触ったものを自分も触ってしまい、手についたウイルスが口から入ることも考えられます。
具体的な感染の例としては、次のようなものがあります。
- 感染者が調理したものを、他の人が食べて感染する。
- ノロウイルスを持っている貝(二枚貝)を、十分に加熱しないで食べる。
- 感染者の便や嘔吐物から感染する(処理した人や、乾燥した嘔吐物が空気中を舞って口から入ってくるなど)
- 嘔吐物や便が飛び散る際のウイルスを含んだ水分を吸い込んでしまう。(飛沫感染)
- ウイルスのついた衣類や物、ドアノブなどを触り、それが口に入ってしまう。
平成27年に原因となった食品
平成27年の発生件数(感染者数ではなく感染の起きた件数)は次のようになっています。
- 総件数 481件
- 魚介類(ほとんどが二枚貝)によるもの 71件(約15%)
- その他食品が特定できたもの 50件(約10%)
- 食事が特定できたが食品を特定できないもの、または不明なもの 360件(約75%)
飲食店などで調理する人がウイルスに感染していて、その人から感染者が広がることが多く、その場合、原因となる食事は特定できても、食品までは特定できないことも多いようです。統計では75%が特定できていません。推移は次のグラフにお示しします。
また、ノロウイルスは冬に感染者が拡大して学校や幼稚園で集団感染などが起こりますので、注意が必要です。また、感染の原因となる食品が特定されず経路が解明されないこともあり、うまく対策を講じることができず、感染が拡散する原因となっています。
ノロウイルスに感染した際の症状
ノロウイルスの潜伏期間は、通常1日から2日程度となります。その後に発症し、そして回復していきます。
- 潜伏期間(1日から2日程度)
- 発症(2日から3日程度)
- 回復期(3日から4日程度)
主な症状としては、嘔吐、下痢、腹痛で、発熱は軽度のものになります。通常、これらの症状が1〜2日程度続いた後に、しだいに回復し後遺症なども残りません。
ただし、免疫力の少ない老人や、乳幼児は症状が長引くことがあるため、医療機関を受診した方がいいでしょう。特に介護施設などでは、免疫力が弱い人が多く、死亡例もあります。また、嘔吐物を喉に詰まらせることや、嘔吐物が気管に入ったことによる肺炎も死亡の原因となることがあり注意しなければなりません。
場合によっては、感染しても発症しないことや、非常に軽度の症状ですむこともあります。この場合は感染していることに気づきませんので、知らないうちに他人へうつしていることが考えられます。
他人への感染(二次感染)について
感染した場合は、上記のとおり、潜伏期間→発症→回復、と移っていきますが、この期間(合計で10日程度)は他人へ感染させてしまう危険があります。さらには、この後も1週間から1か月程度は便の中にウイルスが出ている状態が続くことがあり、二次感染に最も注意しなければならない時期です。
症状がないのに、ウイルスだけは出すという状態ですので、周囲はまったく警戒しません。感染した人はこのことを十分に認識する必要あります。また、レストランなどで食品を扱う人は特に注意が必要です。職場全体の管理をしっかりとしてくことが大切です。
ノロウイルスの予防・原因除菌
ノロウイルスの感染は、主に経口感染ですので、感染者の嘔吐物や便に注意を払う必要があります。赤ちゃんが下痢をしている場合のおむつ交換は、ビニール手袋やマスクの着用や、おむつの交換後には十分に手洗いなどを行うことが必要です。
特に毎日食事の用意をするお母さんがノロウイルスに感染してしまうと、食器や料理を介して家族にウイルスをまき散らすことになりますので、そういったことがないよう、注意することが必要です。
アルコール消毒はダメ!キッチンハイターで消毒!
ノロウイルスにはアルコール消毒は効果が薄いため、その原因を除菌するためには、次亜塩素酸ナトリウムを使用します。
使用においては、消毒用には200ppm(0.02%)に薄めたもの、嘔吐物の処理時に直接嘔吐物を浸す場合には、1,000ppm(0.1%)に薄めたものを使用します。次亜塩素酸ナトリウムは強い塩素ですので、使用する際には容器等に記載されている注意事項を守って使用してください。
また、医療機関でも使用するのがキッチン泡ハイターなどのハイター商品です。次亜塩素酸が含まれていますので、ノロウイルスをしっかりと除去してくれます。特にトイレ周辺の場所で感染者が必ず触ってしまう場所や便がついてしまいそうな場所(トイレの便座、ドアノブ、水道の蛇口など)を拭きます。拭き取る時にウイルスを吸い込んでしまわないように、マスクをしておくと安心です。
なお、花王のハイター、キッチンハイター、キッチン泡ハイターの次亜塩素酸ナトリウムの薄め方は次のようになっていますので、参考にしてください。
商品名 | 200ppm以上 | 1000ppm以上 |
---|---|---|
キッチンハイター(塩素系)ハイター(塩素系) | 水5リットルに50ml(キャップ約2杯) | 水1リットルに50ml(キャップ約2杯) |
キッチン泡ハイター | - | 薄めずにそのままスプレーする |
※花王HPより
また、ノロウイルス予防で主に注意すべき点を以下に記します。
手洗いの注意点
調理を行う前、食事の前、トイレの後、下痢の赤ちゃんのおむつ交換等の後には必ず手洗いを行います。石けんを使用して、できればブラシなどで手を洗い、清潔なタオルやペーパータオルで拭き取ります。石けんは直接ノロウイルスを殺菌しませんが、手の汚れを落とす際にウイルスが手指から落ちやすくなるなどの効果があります。
家庭内における注意点
家庭内に感染者がいる場合は、家族内で感染しないように気を配る必要があります。下痢、嘔吐などの症状がある人は、調理などの食事の用意は避けるようにします。症状がなくなった後でも、1週間程度は調理などしない方がいいでしょう。
また、風呂やトイレなどを衛生的に保つことも大切です。ドアノブ、カーテン、日用品などについては、感染者と共用する部分になりますので、消毒をするといいでしょう。
感染者の嘔吐物、便の処理方法について
便、嘔吐物の中には大量のノロウイルスが含まれています。感染者の便や嘔吐物を処理する場合は、マスクと使い捨てのビニール手袋を着用し、便や嘔吐物が飛び散らないように、ペーパータオルなどで静かに拭き取ります。
拭き取った後の床などは、次亜塩素酸ナトリウム(1000ppm(0.1%)に薄めたもの、キッチン泡ハイターなら薄めずに使う)で浸すように拭き取り、その後水拭きをします。
拭き取ったペーパータオル等は、ビニール袋などに密閉してから捨てます。ビニール袋の中にはウイルスがたっぷりと含まれていますので、捨てたものが浸る量の次亜塩素酸ナトリウム(1000ppm)を入れてから廃棄します。
また、ノロウイルスは乾燥すると空中に漂いますので、これが口に入ると感染することになります。便や嘔吐物は乾燥する前に処理することが大切です。処理後は空気の流れに注意しながら換気することが必要です。
嘔吐物の処理方法について、横浜市が提供している動画がありますので、ご紹介します。
嘔吐・下痢の対応、家族への感染予防法を看護師がアドバイスします!
便や嘔吐物が衣服などに着いてしまた場合の処理について
便や嘔吐物が付いてしまった服を洗うときには、マスクと手袋を着用して、洗う際の水分が周囲に飛ばないよう気をつけて、洗剤でもみ洗いをします。
ノロウイルスの消毒には、85度以上で1分以上つけて置く必要があります。また、次亜塩素酸ナトリウム(200ppm(0.02%)に薄めたもの)を使用するのもいいでしょう。洗濯後には高温の乾燥機を使用すると、ウイルスに対して殺菌作用があります。(なお、次亜塩素酸ナトリウムには漂白効果ありますので、注意してください。)
感染者が使用した食器などの消毒について
感染した人が使用した食器を下げるときには、手袋を着用し、流しなどですぐに次亜塩素酸ナトリウム液(200ppm(0.2%)に薄めたもの)に浸します。消毒する前に洗ってしまうと、周囲にウイルスが飛び散る可能性があるので危険です。
食品に含まれるノロウイルスへの対処法について
WHOが定めたガイドラインによると、ノロウイルスが含まれる二枚貝については、中心部を90度で90秒以上加熱することが必要となります。
ただし、ノロウイルスについては正確な調査ができていないため、ガイドラインも確実とは言えない部分もあります。最低限守る基準と認識して、場合によってはもう少し長い時間の加熱をしてもいいかもしれません。
ノロウイルスの感染を防ぐラクトフェリン
乳製品に含まれているラクトフェリンは腸内の壁にバリアをはり、ノロウイルスが小腸の壁を壊して内部へ侵入することを防ぐ役割があると言われています。実験でもラクトフェリンを摂取することがノロウイルス感染を予防することがわかっています。ただし確実に効果があるわけではないことには注意が必要です。
ノロウイルスのワクチン
現在のところ、ノロウイルスのワクチンはありません。
ノロウイルスの検査
医療機関では、症状や家族の感染状況などを確認し、まずはノロウイルスに感染しているかを推定して診断することが多くなります。ただし、ノロウイルスであることを確定させるためには、一定の検査が必要となります。
ただし、ノロウイルスは培養方法が見つかっていないため、他のウイルスのような培養による検査ができません。したがって、検査は便の中などのウイルスを直接検査することになります。
検査の一つに「ノロウイルス抗原検査」というものがあり、便の中のノロウイルスを検出するものです。
この方法では15分程度で感染の判定ができます。ただし、健康保険の適用があるのは3歳未満、または65歳以上の人となります(その他、特定の病気の保有者など)。また、検査結果は100%の精度ではなく、感染していても陽性反応がでない場合があります。
その他に便の中からノロウイルスの遺伝子を検出することで、判定を行う手法があり、こちらは確実な方法ですが、研究機関などで使用される手法で、普通の医療機関で治療に使用するようなものではありません。
ノロウイルス胃腸炎(ノロウイルス感染症)の治療
ノロウイルスに対する特別な薬(抗ウイルス剤)はなく、対症療法を行います。安静にすることと、脱水症状とならないよう、適切な水分・塩分補給をすることが大切です。発熱がある場合には寒気などを感じることがありますので、暖かくすることも必要です。症状がひどくない場合は、そのまま自然治癒に向かっていきます。
症状が重くなると入院治療を受けることも必要となります。
家庭では、経口補水液・経口補水ゼリーを少しずつ、飲むようにしましょう。飲めない場合は塩分の多いスープ(例えば、味噌汁やコンソメスープなど)でも代用できます。食べ物については、胃に負担をかけないよう、りんごを擦りおろしたものや、おかゆなどの消化にエネルギーを使わないものを与え、体力の回復とともに少しずつ、本来の食事に戻していくといいでしょう。
大人が感染した場合にも、子どもと同様に安静にして、水分・塩分を補給することが大切です。経口補水液を少しずつ飲むことや、吐き気がひどい時にはゼリータイプのものだと口にしやすいでしょう。
大人のノロウイルスの症状など
ノロウイルスは大人でも感染します。症状は子供と同様に下痢、嘔吐、腹痛、発熱が主なものとなりますが、短期間に重い症状がでるなどの特徴があります。
なお、ノロウイルスは一度感染すると、1年から2年程度は免疫ができて感染しないと言われていますが、その後はまた感染してしまいます。
妊婦さんへの影響
妊娠中にノロウイルスに感染しても、直接的には胎児に影響はありません。
ただし、下痢などによりお母さんが脱水症状になってしまうと、胎児に影響する可能性があります。感染した際には、水分補給などを十分に行ってください。
また、感染していても母乳にノロウイルスが入り込むことはありません。したがって、授乳を継続することができます。この場合は赤ちゃんが感染しないよう、十分な予防対策(上記参照)が必要となります。
心配な場合は早めに医療機関を受診してください。
看護師からひとこと
いきなり始まる嘔吐と下痢。そんなときのために、冬場はキッチンハイターを薄めたものをスプレー瓶に入れて用意しておくか、キッチン泡ハイターを常備しておくと便利です。
特にお子さんが罹った場合は、掃除をしつつお子さんについていてあげなくてはなりません。用意してあれば、そこらじゅうにウイルスをまき散らすことなく、最短でトイレ周りなどを拭くことができますよ。
まとめ
- ノロウイルス胃腸炎(ノロウイルス感染症)は、ウイルス性の食中毒の代表的なもので、感染者の数は年々増加しています。毎年11月から翌年の1月にかけて感染者が増加します
- 感染経路は主に経口感染です。感染者の便や嘔吐物、感染者の調理したものを食べることなどにより、感染します。
- 主な症状は、嘔吐、下痢、腹痛です。発熱は軽度にとどまることが多いです。通常、症状は1日から2日程度続いて、その後回復していきます。
- 回復してからも1週間から1か月ほどはウイルスが便から出る可能性があるため、感染した人は二次感染させないよう注意が必要です。
- 除菌には、次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)を薄めたものが効果的です。
- 家庭で毎日食事の用意をする人が感染すると、食器や料理を介して感染が広がりますので、注意が必要です。
- ノロウイルスにワクチンはありません。
- ノロウイルスに感染した場合の治療は、対症療法が基本となります。適切な水分・塩分補給を行うことが大切です。
- ノロウイルスは、年齢に関係なく感染します。
- 妊婦さんがノロウイルスに感染しても、直接的には胎児への影響はありませんが、下痢などにより脱水症状を起こしてしまうと、胎児へ影響を与えてしまうことがあるので注意が必要です。