単純ヘルペス感染症の原因や治療法、妊婦さんへの留意事項などを解説。
更新日:2017年11月19日
目次
単純ヘルペス感染症とは
単純ヘルペス感染症とは、単純ヘルペスウイルスによる感染症で、主に口唇や性器に発症することが多いのが特徴です。
ヘルペスは、誰もが感染する可能性のあるありふれた病気の1つです。
水膨れなどの症状を呈し、治った後も再発を繰り返すことがしばしばあります。
また、他人にも移す可能性のあるため、きちんと治療することが大切です。ここではヘルペスの症状や原因、治療などについて説明していきます。
ヘルペスウイルスとは
ヘルペスウイルスには単純ヘルペスウイルス以外にもたくさんの種類があります。
その中で人に感染するものは8種類あります。
この8種類の中で特に有名なものが「単純ヘルペスウイルス」や「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。
単純ヘルペスウイルスは口唇ヘルペスや性器ヘルペスの原因に、水痘・帯状疱疹ウイルスは水疱瘡や帯状疱疹の原因になります。
ヘルペスと聞くと一件怖い病気と感じる人もいるかもしれませんが、実はほとんどの人がウイルスには感染しています。
ただ、感染していても症状が表に出ないことが多く、ストレスなどが引き金となり症状が出現します。
単純ヘルペスウイルスはⅠ型とⅡ型の2種類があります。日本人の70~80%がⅠ型、10%がⅡ型に感染していると言われています。
Ⅰ型は主に口唇や顔などに発症することが多く、Ⅱ型は性器や足などに発症することが多いのが特徴です。
潜伏期間や症状
口唇ヘルペスの場合4~7日、性器ヘルペスの場合2~10日の潜伏期を経て症状が出現します。
単純ヘルペスは初めて感染した時と再発の時では少し症状が違います。口唇も性器も同じような症状が出現します。
また、アトピー性皮膚炎がある人は症状が強く出ることがあることが知られています。
初めて感染した場合の症状
潜伏期を経て、まず痒みや痛み、赤い発疹が出現します。
その後12~24時間以内にその部位にプツプツとたくさんの小さな水膨れを生じます。
ただし、初めての感染の場合は再発の時より症状が重たいことが多く、発熱やリンパ節の腫れなど全身症状を生じることもあります。
痛みが強いことも多く、口角に出来ると口を開くことが困難になることもあります。
再発の場合の症状
赤みや水膨れの範囲が初期のヘルペスの時と比較し狭いことが多いです。
痛みも初期より軽いことが多く、痛痒いと感じる人も多いです。
全身症状もないことがほとんどです。
アトピー性皮膚炎がある人の場合
ヘルペスウイルスがアトピーのある人の皮膚に感染すると、通常より広範囲に病変が広がることがあります。
これを「カポジ水痘様発疹症」と言います。
初めての感染の場合は発熱やリンパ節の腫れなどの全身症状を伴うこともあります。
アトピーの人の場合もヘルペスの再発を繰り返す度に症状は軽くなっていきます。
単純ヘルペスの原因
上記でも述べましたが、単純ヘルペスはヘルペスウイルスというウイルスが原因で感染します。
このヘルペスウイルスはどこにでも潜んでおり、赤ちゃんや子供でも、いつの間にかウイルスを貰っていることが多くあります。
しかし、ウイルスに感染したからといって症状が表に出ることは少なく、ウイルス自体は身体の神経細胞の中に隠れています。これを「潜伏感染」と言います。
ウイルスが潜伏感染している間は症状は出現しませんが、何かの「理由」をきっかけに突然ウイルスが増殖し暴れ出します。その「理由」とは以下のようなものがあります。
- ストレス
- 風邪などの病気
- 疲労
- 紫外線
- 妊婦や高齢者
このように身体の抵抗力が低下していることがヘルペスの発症に繋がります。
また、ヘルペスは人と人との接触で感染することがあります(接触感染)。
皮膚同士の接触だけでなく、唾液や粘膜、体液などが原因になることがあります。
そのためヘルペスに感染しているうちは、キスや性行為などは避ける必要があります。
恋人同士だけでなく、子供や赤ちゃんへのキスも避けるようにして下さい。
特に相手がヘルペスに感染したことがなければ、相手がヘルペスに感染した時に強い症状が出現してしまう可能性があります。(特に赤ちゃんは重症化しやすいので注意が必要です。)
また、抵抗力が落ちているとヘルペスの人が使ったコップやタオルなどでも移ってしまうことがあるので、ヘルペスの人と同じものを使うことは避けた方が良いでしょう。
診断の方法
ヘルペスの診断は症状が特徴的なため、ほとんどが「問診」と「視診」で行われます。
必要であれば血液検査を行って確認することもありますが、典型的な症例であれば経過と見た目で診断がつくので、採血までしないことも多いです。
また、ヘルペスウイルスはまれに骨や肺に感染することがあり、このような重篤な場合はレントゲンやCTなどの検査が行われます。
治療の方法
通常の口唇や性器の単純ヘルペスの場合はアシクロビルなどの「抗ウイルス薬」を使っての治療がメインになります。
部位によって内服、軟膏、眼軟膏などと使い分けて処方されます。
初感染などで全身症状の強い場合は、抗ウイルス薬の点滴を2週間行う場合があります。
重症の場合は合併症を引き起こす可能性もあるので、入院での治療になります。
ヘルペスによる合併症
ヘルペスの合併症は感染した人の5%前後に起こるとされています。
特に赤ちゃんや乳児は、合併症を起こす可能性が成人より高いため注意が必要です。
ヘルペスの合併症で重いものとしては「髄膜炎」と「脳炎」が主です。これらは、ヘルペスウイルスが脊髄や脳に感染して起こります。
症状としては頭痛が主症状で発熱や痙攣、眠気、意識障害などを引き起こします。
細菌や真菌などと比較してウイルス性のものなので症状は回復しやすく1~2週間程度の入院で済むことも多いですが、乳幼児が合併症を引き起こすと命に関わる場合もあります。
合併症を引き起こす原因はハッキリと解明されていませんので、ヘルペスに感染してしまったら早期に治療することが何よりの合併症予防になります。
ヘルペスの予防法
ヘルペスは再発しやすく、100%予防することは不可能なのですが以下のようなことに気を付けると感染しにくくなります。
- 十分な睡眠を取り、しっかり休息する。(疲労をためない。)
- ストレスを溜めないようにする。
- 日光(紫外線)に長時間当たり過ぎないようにする。
- リップなどを活用し口唇の乾燥を防ぐ。
- ビタミンA、B1,B6、Cなど免疫力を上げるものを中心にバランスの良い食事を摂る。
- ヘルペスを発症している人と接触したり、コップなどを共有したりしないようにする。(特に乳幼児に移さないように気を付ける。)
妊婦さんがヘルペスになった時の注意点
妊婦さんがヘルペスになってしまった場合、妊婦さん自身の症状が軽症であっても、お腹の赤ちゃん(胎児)に感染し、胎児に影響が出る場合があります。
そのため、妊娠中のヘルペスは風疹などと並んで注意すべき感染症の1つとして挙げられています。
妊娠中は免疫力が非妊娠時より低下しているためヘルペスに感染しやすくなっています。
特に今までヘルペスに感染したことのない人は症状が強く出る可能性があるため注意が必要です。
ヘルペスになった妊婦さんのうち約40%が胎児にもヘルペスを移しています。
そのうち約1000人に1人の胎児に脳や聴力、視力などに先天的な障害が出現しています。
また、流産や早産のリスクも高まり、必要であれば帝王切開などの処置をすることもあります。
妊婦さんがヘルペスに感染してしまったら、早急に皮膚科に受診し治療することが望まれます。
抗ウイルス剤については、塗り薬は胎児に影響がないとされており、飲み薬は妊娠時期によって飲める時期と飲めない時期があります。
医師の指示に従うようにして下さい。
また、ヘルペスが完治しないまま出産を迎えた場合は、新生児にヘルペスを移さないように細心の注意を払うことが重要です。
赤ちゃん(特に生後1ヵ月)に移ると、高い確率で重篤化します。
赤ちゃんへのキスは厳禁で、必要であれば母乳もヘルペスが治癒するまでは控える必要があります。
いずれも医師の指示に従うようにして下さい。
妊娠中ヘルペスに感染しているか心配であれば、血液検査で調べることができますので、不安な人は検診の時に遠慮せず医師に相談して下さい。
アトピーとヘルペス
アトピー性皮膚炎を患っている人はヘルペスになりやすい傾向にあります。
また、ヘルペスになってもアトピーの症状だと勘違いし放置してしまい、このことが原因でアトピーの症状が悪化することがあります。
アトピーの症状だと思い、ステロイド剤をヘルペスの患部に塗ってヘルペスの範囲を拡大させてしまうことがあります。
ヘルペスにはステロイド剤は無効であり、むしろ症状を悪化させてしまいます。
アトピーと違いヘルペスは痒みと一緒に痛みを伴うことが多いので、いつもと症状が違うと感じたら早めに病院に行くようにして下さい。
ヘルペスの部位が痛痒くて触ったり、掻いたりするとヘルペスの範囲が広がってしまいます。
これを「カポジー水痘様発疹症」と言い、治癒が長引くだけでなく発熱やリンパの腫れなど全身症状を伴うこともあります。重症化すると入院が必要になります。
帯状疱疹とヘルペスの違いとは
よく帯状疱疹とヘルペスが同じものだと勘違いされることがありますが、実は少し違います。
帯状疱疹もヘルペスも同じヘルペスウイルスによる病気ですが、冒頭でも述べたようにヘルペスウイルスの中でも、ヘルペスは「単純ヘルペスウイルス」によるもの、帯状疱疹は「水痘・帯状疱疹ウイルス」によって起こります。
また、帯状疱疹はほとんどの人が一生のうちに1度しかなりません。まれに何度も掛かる人がいますが、そういう場合は糖尿病や癌、膠原病などの免疫が下がる病気が裏に隠れている可能性が高くなります。
帯状疱疹も全身のどこでも出来ますが、右か左のどちらかに偏在したピリピリとした神経痛が出現します。これはヘルペスより痛みが強く、特に激痛の場合もあります。
この神経痛は約1週間近く続き、その後赤い発疹、中央部位が水膨れになります。その後1週間でかさぶたになり、更に1週間して治癒します。
帯状疱疹もヘルペスと同じように抗ウイルス剤を飲んで治します。
帯状疱疹も人に感染し、子供で水疱瘡を経験していない子に感染すると水疱瘡を引き起こすことがあるため注意が必要です。
帯状疱疹はヘルペスと同じように免疫力が低下すると発症しやすいですが、ヘルペスと違い年齢が高齢になる程発症する確率が高いです。