妊婦が注意すべきB群連鎖球菌感染症とは?赤ちゃんへの影響、検査や予防について
更新日:2017年11月16日
この記事について
執筆:医師(小児科専門医)
B群連鎖球菌とは
B群連鎖球菌とは比較的ありふれた細菌であり、健康な人でも消化管や膣周囲に常在菌として存在している菌です。顕微鏡で細菌を観察すると、形態学的に数珠状に連なっていることから連鎖球菌の名前が名付けられています。
なお、同じグループに分類される細菌として、「A群連鎖球菌」が知られています。両者の名前は似ていますが、感染症として発症した場合の臨床像は大きく異なります。
A群連鎖球菌は急性上気道炎(急性扁桃炎や咽頭炎など)を起こす代表的な細菌として知られており、通称名として「溶連菌」と呼ばれることも多いです。A群連鎖球菌によって急性上気道炎が引き起こされると、合併症として急性糸球体腎炎やリウマチ熱を発症することもあることが広く知られています。
一方のB群連鎖球菌による感染症は、A群連鎖球菌とは全く異なる発症様式を呈します。次項からは、この点について詳細を記載します。
赤ちゃんへの影響・感染するとどうなるのか。
B群連鎖球菌で問題になるのは、何を差し置いても新生児が感染した場合です。先に記載した通り、B群連鎖球菌は消化管や膣周囲に常在菌として存在することがあります。
そのため、分娩時の状況を想像していただくと判るかと思いますが、経膣分娩時にB群連鎖球菌が赤ちゃんへと感染するリスクを伴います。また、産道感染以外にもお母さんを始めとする家族の方と接触することから、水平感染を起こすことも知られています。
以下の動画は英語で説明されていますが、イメージで理解しやすいと思います。
一部の赤ちゃんは重い感染症を発症する
赤ちゃんに対してB群連鎖球菌の感染が成立した場合でも、必ずしも健康被害が生じる訳ではありません。多くの赤ちゃんは何事もなかったように健康に周産期を経過しますが、一部の赤ちゃんにおいて重篤な感染症を発症することがあります。
B群連鎖球菌感染症による症状は激烈であり、急速な経過で状態が悪くなります。B群連鎖球菌感染症を発症すると、敗血症や髄膜炎として発症することになります。
生後間もない新生児では発熱を見ることは通常ありませんが、感染症発症時には発熱を見ることがあります。また傾眠がちになりますし、母乳やミルクの飲みも悪くなります。
普通の赤ちゃんであれば抱っこをすると泣き止みますが、B群連鎖球菌感染症の場合には刺激性が高まっていることからむしろ抱っこをすると激しく泣くこともあります。髄膜炎の症状と関連して、嘔吐やけいれんをみることもあります。
B群連鎖球菌感染症は、早い場合には出産後数時間、産院でまだ赤ちゃんとお母さんが入院をしている時期から症状を呈することもあります。また、水平感染を起こすことからも想像されるように、自宅でそれまで健康にしていた赤ちゃんにおいて突然症状が出現することもあります。
妊婦さんへの影響
B群連鎖球菌は常在菌として健常人にも見られることがあり、CDCの報告によると、妊婦さんのうち4人に1人が、B群連鎖球菌を常在菌として有していると報告されています。
非常にありふれたB群連鎖球菌ですが、基本的には重篤な症状を呈することは稀です。すなわち無症状のままB群連鎖球菌を有することになります。
妊婦さんの検査
多くの妊婦さんにおいて「無症状」であるが故に、自分がB群連鎖球菌に感染していることを自覚症状から把握することは難しいです。しかし、B群連鎖球菌が赤ちゃんに対して引き起こしうる健康被害を考えると、出産に際して保菌状態を把握しておくことは非常に重要なこととなります。
そのためCDCでは出産が近づく35〜37週を目安として、膣や肛門から得られた検体を用いた培養を行い、B群連鎖球菌の有無を評価することが推奨されています。
出産から遠い時期にB群連鎖球菌の検索を行っても、検査から出産までの間に母体が細菌に感染する可能性を否定することは出来ません(B群連鎖球菌がありふれた菌であるからこそ、当然ともいえます)。そのため、本当に出産時に細菌がいないかどうかを検索するのは、極力出産時期間近がよいと考えられています。
予防・対策
検査結果が陽性であった場合、出産時に合わせてペニシリン系の抗生物質を点滴にて妊婦さんに投与することになります。投与の方法としては可能な限り分娩の4時間前までに初回の投与を行い、以後出産が完了するまで抗生物質を継続します。
また、前回出産のお子さんがB群連鎖球菌感染症であった場合や妊娠中の尿検査でB群連鎖球菌陽性であったときも、抗生物質の予防投与の適応になります。
さらに妊婦健診を受けていない、外出先での突発的な分娩のために検査結果が判らない、などの状況から保菌の有無が出産時に評価出来ないこともありえます。この場合には、妊娠週数や妊婦さんの発熱の有無、破水からの時間を評価しつつ、抗生物質の投与を判断します。
なお、事前の培養検査で細菌が膣に常在していることが判明したからといって、出産が判らないタイミングでは殺菌目的として抗生物質を使用することはありません。なぜなら、一度B群連鎖球菌を殺菌したからといっても、時間経過と共に再度細菌が増殖するリスクが伴うためです。
繰り返しになりますが、赤ちゃんへの健康リスクを少しでも減らすためにも、出産のタイミングに合わせて、適切なタイミングで抗生物質を母体に投与することが重要です。
治療法
赤ちゃんがB群溶連菌感染症を発症した時の病気の進行は激烈であり、一刻も早い治療が求められます。具体的にはB群連鎖球菌に効果のある抗生物質(代表的にはペニシリン系)を投与することになります。
経過中にけいれんを起こすこともありますので、抗けいれん薬による症状コントロールを行うこともあります。
B群連鎖球菌では髄膜炎を発症することがあり、急性期の治療が奏功しても中枢神経系の後遺症を残すこともあります。具体的には、成長発達への影響が生じたり、てんかんを起こしたりすることがあります。
したがって、急性期が終了した後も、定期的な発達フォローが必要とされます。
まとめ
B群連鎖球菌感染症を発症すると、赤ちゃんは想像を絶するような急激な経過を取ります。朝は元気であったお子さんが、夕方には重篤になることも稀ではありません。また、一命を取り留めたとしても後遺症に苛まれることもあり得る疾患です。
そのため、B群連鎖球菌感染症では予防方法をとることが強く推奨されています。
すべての症例において予防策が奏功する訳ではありませんが、適切な予防方法に準じて治療を受けることは重要です。予防策を取ったからと鵜呑みにするのではなく、産院から退院した後にも、少しでも赤ちゃんの様子がおかしい場合には、医療機関への受診を躊躇してはいけません。
今回の記事を通して、B群溶連菌感染症のことを少しでも多くの方に知っていただけたら幸いです。