夏風邪の発熱や喉の痛み、お腹の症状。親御さんが注意すべき点とは?
更新日:2017年05月10日
この記事について
執筆:医師(小児科専門医)
主な夏風邪はヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱
夏風邪とは正式な病名ではなく、夏を中心として流行するウイルス性感染症を総称して指す一般的な通称名です。
原因ウイルスとしては、エンテロウイルス(エコーウイルスやコクサッキーウイルスなど)やアデノウイルスが挙げられます。
正式な病名としては、ヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱などが含まれます。
これらウイルスは、いずれも咽頭や腸管などの粘膜において増殖します。また室温や湿度の高い環境で活発に活動します。
こうした共通点から、夏風邪を引き起こす原因ウイルスは様々なのですが、流行時期や症状の出方、家庭での対応策などに共通したものが多いのも事実です。
以下の各項目において、子どもでよくみる夏風邪であるヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱を中心に見ていきましょう。
なお、各病気に関しての詳細については別記事で記述されていますので、ぜひ参照して下さい。
夏風邪はGWが明けてから夏にかけて流行する
夏風邪の名前が示す通り、主にGW明けから夏を中心に流行します。
日本の夏は高温多湿であり、夏風邪のウイルスにとってはとても好都合な環境です。
それに加えて特に集団生活を始めてすぐのお子さんは各種ウイルスに対しての免疫が備わっていないこともあり、学童期前の乳幼児を中心に感染するのも夏風邪の特徴です。
咽頭結膜熱は夏以外にも流行しやすい
その一方、アデノウイルスにより引き起こされる咽頭結膜熱は夏に流行することに加えて、冬にも流行しやすい通年性の病気です。
アデノウイルスは他の夏風邪ウイルスと異なり、ウイルス検出のための迅速キットが普及しています。
そのため多くの病院・診療所にてアデノウイルスを正確に診断することが可能であり、夏以外の時期にもアデノウイルスが診断されています。
夏風邪の一般的な症状は喉の痛みや咳、お腹の症状
夏風邪ウイルスの多くは、口から肛門に至るまでの消化管で増殖をする傾向にあります。
そのため、上気道症状(咽頭痛や咳など)や腹部症状(嘔気や嘔吐、下痢など)などの症状が出てきます。
これら夏風邪共通の症状に加えて、病気ごとに特徴的な症状が出現します。
例えば、手足口病であれば手や足、口の中やおしりなどに水疱性の発疹を認めます。また咽頭結膜熱であれば結膜炎を伴うこともあります。
具体的にどの疾患であるかは、各種ウイルスごとの特徴的な症状をもとにして行われます。
咽頭結膜熱(アデノウイルス)は発熱の期間が長いので脱水症に注意
家庭で経過を見る上で注意が必要なのものとして、アデノウイルスによる感染症をここでは特記したいと思います。
アデノウイルスによる感染症では、発熱期間が他の病気よりも長引く傾向があります。
手足口病やヘルパンギーナ等では熱が出るのは2〜3日ですが、アデノウイルスではその約2倍(1週間前後)になります。
熱が出ている期間が長い分、脱水症を起こしやすいということもありますし、他の病気との鑑別をする必要も出てきます。
アデノウイルス感染症の症状として、眼球結膜の充血、発疹、発熱等がありますが、同じような症状が出る子ども特有の病気(例えば川崎病)もあります。
脱水に陥っていないか、他の病気にかかっていないかを判断するためにも、熱が出ている間にかかりつけの病院を受診するようにしてください。
注意すべき合併症
夏風邪は基本的には自然治癒することがほとんどですが、中には合併症が引き起こされることがあります。
急性髄膜炎や急性脳炎、急性心筋炎などの死に至るような合併症が突然引き起こされることや、ある程度の年数の間隔で重い合併症を引き起こすウイルスが流行することもあります。
最近では、2000年及び2014年の手足口病の流行により、急性脳炎や肺水腫などで数名のお子さんが亡くなられたことが報告されています。また2013年には爪がはがれ落ちる合併症を引き起こすタイプの手足口病が流行しました。
夏風邪は基本的には自然治癒する病気ですが、中にはこうした合併症が引き起こされることもありますし、年度によって流行するウイルスのタイプも異なります。感染動向に注意を払うことが大切です。
家庭でできる対症法
脱水症に注意することが重要!
夏風邪の原因はウイルスであり、基本的に対症療法が中心となります。
特に喉の痛みが強くなることが多く、水分や食事の摂取を嫌がることもあります。
数日間は喉越しのいい食事及び水分を少量ずつでもとるように促して、脱水症にならないようにすることが治療の中心になります。
合併症の併発はないか?
また、先に述べたような合併症が引き起こされていないかどうかを観察することも大切です。
発熱している期間が長引いていないか。
重篤な合併症を早期に発見するポイントは、予測される発熱期間よりも熱が長引いていないかが第一のポイントです。
夏風邪であれば通常は2〜3日で熱が下がります(ただしアデノウイルスでは1週間ほど発熱が続きます)が、もしそれ以上に長引いている時には、他の合併症や別の病気の可能性を考慮する必要があります。
ぐったり感が強くないか。
また、急性髄膜炎にせよ急性心筋炎にせよ、夏風邪による合併症が生じた際には、お子さんのぐったり感がとても強くなります。
通常の夏風邪の場合、喉の痛みはありますが、おもちゃで遊ぶ元気はありますし、機嫌も悪いなりに理解はできる程度です。
こうした感覚は、普段から接している親御さんこそが気付きやすい部分です。
お子さんに普段と何か違う様子がある時には、病院を受診することを検討しましょう。
周囲への感染拡大予防
夏風邪のウイルスの特徴として、口の中や胃腸などの消化管で増殖することは前述しました。
このため、唾液や嘔吐物、便中にウイルスは排泄されます。こうして環境中に排泄されたウイルスを口から摂取することで、感染は拡大します。
手洗いうがい、マスクを着用するなどが有効な感染対策ですが、幼児期のお子さんが手洗いやうがいなどの習慣を身につけることは難しい面もあります。そのため、手洗い等の基本的な感染対策以外の努力も必要です。
塩素系消毒が有効
具体的には、タオルや箸の共有を避けたり、嘔吐物などで汚れたりしてウイルスが付いていると思われるものには洗濯や消毒などが有効です。
消毒についてはアルコールでは不十分なこともあり、煮沸消毒や塩素系消毒が推奨されています。
塩素系消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使用します(市販の漂白剤などにも含まれています)。
市販の漂白剤(塩素濃度約6%の場合)ではおおむね次の量で薄めて使います。
市販の漂白剤の薄め方
- 嘔吐物が付いた床、衣類のつけ置き・・・1リットルの水に20ml (ペットボトルキャップ4杯分)を入れます。
- 食器などのつけ置き、便座の消毒など・・・1リットルの水に4ml (ペットボトルキャップ1杯分)を入れます。(おもちゃや哺乳瓶などは10分程度浸します。)
ただし、使用する漂白剤などで異なることがありますので、必ず製品の注意書きなどをご覧ください。
嘔吐・下痢の対応、家族への感染予防法を看護師がアドバイスします!
まとめ
夏風邪について、お子さんを看病する上で必要と思われる情報について説明してきました。
夏風邪はとてもありふれた病気の一つですが、注意すべき点は多くあります。本記事の内容を少しでも家庭でのケアにお役立て下さい。
参考文献・サイト
- 手足口病後に脱落した爪からのコクサッキーウイルスA6型の検出―和歌山県(国立感染症研究所・感染症情報センター)
- エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症に関するQ&A(国立感染症研究所感染症疫学センター)
- 横浜市衛生研究所