ポリオ(急性灰白髄炎)の症状、感染状況、ワクチンの接種など
更新日:2017年05月06日
ポリオとは
ポリオは「急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん)」ともいい、ポリオウイルスによって発症するウイルス感染症です。
成人が感染することもありますが、5歳以下の子どもに多くみられ、重篤な後遺症として麻痺を引き起こすことから、「脊髄性小児麻痺」とも呼ばれています。
ポリオウイルスに感染しても、胃腸炎のような一過性の症状で終わることがほとんどですが、場合によっては体に麻痺があらわれ、生涯後遺症として残ってしまうことがあります。
ポリオの現状
かつては、日本においてもポリオが流行した時期がありました。1960年には国内のポリオ患者数は5,000人を超えていました。
その後、生ポリオワクチンの接種を始めたことにより、患者報告はなくなりました。(生ポリオワクチンの接種によるポリオの発症者を除きます)
日本国内では、感染者がいなくなりましたが、海外では現在でもポリオが流行している国があります。
特にパキスタン、アフガニスタンなどの南西アジアや、ナイジェリアなどのアフリカ諸国では多くみられます。
ポリオは感染しても症状が出ないことが多いため、海外で感染しても気づかずに帰国して他人に感染させてしまう危険性があります。
こうしたリスクが懸念されることもあり、ポリオの流行が抑制された現在の日本においてもポリオに対する定期接種が導入され続けています。
ポリオの原因・感染
ポリオの原因はポリオウイルスというウイルスです。
ポリオウイルスは、感染者の便から排出され経口感染(ウイルス→便→手→口といった経路など)します。
ウイルスに感染すると腸内や咽頭でウイルスが増殖し、リンパ節を介して血流に入っていきます。
血液に入ったウイルスが脊髄に到達すると、ポリオの重大な症状である弛緩性麻痺が現れてきます。
ただし、ポリオウイルスに感染しても、90から95%の方においては何の症状も出ず感染したことすら気付かずに免疫ができます。
また、4~8%は発熱や嘔吐等の風邪症状にのみに留まります。感染者の約0.1から2%程度が典型的な麻痺型ポリオの症状となります。
ポリオの流行において注目すべきことは、ほとんどの人に何の症状も現れないという事実です。
このことは、ウイルスが知らぬ間に環境中に存在しているという状況が起こりうることを示しており、ポリオを抑制する上で重要な概念になっています。
ポリオの潜伏期間、症状
ポリオに感染してから発症までの潜伏期間は4~35日間(平均15日間)程度となります。
発症すると、初期症状として発熱、頭痛、倦怠感、嘔吐、下痢などの風邪症状が現れます。
風邪症状が1~10日続いた後に、手足の筋肉に麻痺が生じることがあります。
中には呼吸に重要な筋肉のも影響が及ぼされ、呼吸不全を発症し死亡することもあります。
多くの場合は、麻痺は完全に回復していきますが、発症してから12か月を経過しても麻痺の症状が残る場合には、その後もずっと後遺症として麻痺が残ってしまうことがあります。
死亡率は、子どもの場合2〜5%程度、成人では15〜30%程度となります。中でも妊婦さんの場合は、重症化する傾向があります。
また、球麻痺を合併した場合の25〜75%の死亡率と報告されています。
※球麻痺とは、延髄の運動核の障害により、咽頭,口蓋,喉頭などに起きる麻痺をいいます。
ポリオの治療
これまで、様々な治療を行ってきましたが、確実な治療方法はありません。厚生労働省のHPにも次のような記述があります。
麻痺の進行を止めたり、麻痺を回復させるための治療が試みられてきましたが、現在、残念ながら特効薬などの確実な治療法はありません。
麻痺に対しては、残された機能を最大限に活用するためのリハビリテーションが行われます。
ポリオの予防接種
ポリオの予防は、ワクチン接種(予防接種)が最も確実な方法です。
日本ではポリオの感染者はいませんが、海外にはまだポリオが流行している地域があります。
海外旅行へ行ったり、海外からポリオウイルスが持ち込まれたりすることもありますので、ワクチンの接種は非常に重要です。
生ワクチンについて
ポリオのワクチンは、これまで「生ワクチン」が使用されていました。
生ワクチンは経口接種する(飲む)ワクチンで、ポリオウイルスの病原性を弱めて作ったものです。
したがって、実際にポリオに感染したのと同じように強い免疫ができます。
ただし、病原性を弱めているワクチンとはいえ、病原性を持ったポリオウイルスを体内に注入します。
服用後体内でワクチン由来のウイルスが増殖し、麻痺症状を引き起こすほどの毒力を来すことがあります。
日本においては極めてまれですが、400万回接種あたり約1.4人、ポリオに感染したのと同様に麻痺が生じていたと報告されています。
また、ワクチンを投与した人からは1か月半程度の期間、体内で増殖したウイルスが便中に排泄されます。
このウイルスがポリオに免疫を持たない人に感染することがあり、感染すると麻痺を起こすことがあります。こういった例が日本でもまれに起こっていました。
不活化ポリオワクチンについて
「不活化ワクチン」は、ポリオウイルスの病原性を無くして、免疫に必要な成分をだけを取り出したものです。
ウイルス本来の病原としての働きをしないので、ワクチンを接種してもポリオと同様の症状が出るようなことはありません。
なお、平成24年9月1日から生ワクチンの定期予防接種は中止され、不活化ポリオワクチンが定期予防接種となりました。
不活化ポリオワクチンの予防接種の方法・回数について
不活化ポリオワクチンは四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風そしてポリオ)の一部として、合計4回の接種を行うこととなります。
不活化ポリオワクチンの標準的な接種年齢・回数・間隔は、平成29年5月現在、次のようになります。
不活化ポリオワクチンの標準的な接種年齢・回数・間隔
- 生後3か月から12か月に3回(20日から56日までの間隔をおきます)
- 3回の接種の終了後12か月から18か月後(最低6か月後)に1回接種します。
この期間を過ぎても、7歳半(生後90か月)になるまでは、予防接種を受けることができます。
過去に生ポリオワクチンを受けそびれた場合であっても、対象の年齢内であれば、不活化ポリオワクチンの定期接種を受けることができます。
不活化ポリオワクチンの副反応・副作用について
不活化ポリオワクチンの副反応・副作用としては、局所症状として注射した場所が赤くなったり、腫れたり、痛みが出たりすることがあります。
また、全身症状として発熱、まれな事例としてけいれん、ショック、アナフィラキシーなどがあります。
以前に生ポリオワクチンを受けた場合の、不活化ポリオワクチンの予防接種について
生ワクチンから不活化ワクチンへ変更された過渡期でもあり、規定された予防接種スケジュールに当てはまらない方もいることが想定されます。
実際の接種についてはかかりつけの医師と相談されることをお勧めします。
なお、不活化ポリオワクチンの予防接種に関することは、厚生労働省のホームページに記載されていますので、こちらも確認してください。
学校などへの登校について
ポリオは、学校保健安全法で第一種伝染病に指定されています。このため、完全に治癒するまでは学校などへ出席できません。
学校保健安全法施行規則抜粋
(感染症の種類)
第十八条 学校において予防すべき感染症の種類は、次のとおりとする。
一 第一種 エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱、急性灰白髄炎、以下略。
(出席停止の期間の基準)
第十九条 令第六条第二項 の出席停止の期間の基準は、前条の感染症の種類に従い、次のとおりとする。
一 第一種の感染症にかかつた者については、治癒するまで。
以下略。
看護師からひとこと
以前の生ワクチンでは、子供に受けさせるかどうか、相当悩んだ親御さんも多かったはずです。
現在は、不活化ワクチンになり、生ワクチンで懸念されるような弱毒ウイルスに関連した麻痺症状は生じないと考えられます。
グローバル化がすすむ現在、いつ何時ポリオウイルスに接触する機会が生じるか予測できません。
ポリオに対しての免疫をしっかり身に付けておき、不意な接触においても麻痺症状を発症しないためにも、きちんと接種しておきたいですね。
まとめ
- ポリオは「急性灰白髄炎」ともいい、ポリオウイルスによって発症するウイルス感染症です。
- 成人が感染することもありますが、5歳以下の子どもに多くみられ、麻痺などを引き起こすことから「脊髄性小児麻痺」とも呼ばれています。
- 初期症状として風邪に近い症状が現れます。その後、手足の筋肉や呼吸する筋肉等に麻痺が生じることがあり、後遺症として麻痺が残ってしまうことがあります。
- ポリオには特効薬などの治療法はありません。麻痺に対してはリハビリテーションなどが行われます。
- ポリオにはワクチンがあり、定期接種の対象となっています。
- 現在では日本国内では、感染者がいなくなりましたが、海外では現在でもポリオが流行している国があり、予防接種を受けることが重要です。
- 以前は生ワクチンが定期接種として使用されていましたが、ごくまれにポリオを発症する例があったため、現在では不活化ワクチンが定期接種のワクチンとなりました。
- 不活化ワクチンが定期接種の対象となる前に、生ワクチンを接種した場合でも、所定回数の不活化ワクチンの定期接種、追加接種を受けることができます。