慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)について、その原因、治療、食生活の注意点など
更新日:2017年10月13日
目次
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)とは
慢性糸球体腎炎は、慢性腎炎とも呼ばれます。糸球体とは腎臓の細い血管が集まってできたもので、尿を作る働きをします。そして、腎臓は糸球体が作った尿を排泄します。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は、急性糸球体腎炎(急性腎炎)に引き続いて生じる場合と、尿検査などで尿に血液やタンパクが発見されて判明する場合があります。
症状としては、血尿、たんぱく尿が出て、続いて高血圧やむくみが見られることがあります。進行すると徐々に腎臓の働きが低下していきます。
見た目に血尿を認めることもありますが、多くの場合、自覚症状はなく、学校や幼稚園の検尿で見つかることが多いため、発病の時期を特定できないことが多くなります。
急性腎炎においては血尿や尿たんぱくは、長くても1年程度で消えていきますが、慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は1年以上、持続する状態となります。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)の原因
原因は、感染、免疫異常、血液凝固系の異常、過剰濾過などといわれていますが、明確にはよく分かっていません。
子どもの慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)で最も多いIgA腎症については、細菌、ウイルスなどの感染が引き金となり、上気道炎や消化器症状に続いて炎症が起きると考えられています。
その他、遺伝的要因により家族内で発症することもあります。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)の症状
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は一般的に自覚症状がありませんが、急性腎炎(急性糸球体腎炎)と似た症状を示すことがあります。まれに、高血圧やむくみ、紫斑、関節痛、尿毒症症状(頭痛や吐き気)を伴うことがあります。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)の検査
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は無症状のことが多いため、健康診断の尿検査で尿のたんぱくや血尿などで発見されることが多くなります。
外来診療で検査を行う場合は、外来時の尿を使用して、尿の中のタンパク、潜血反応、尿沈渣検鏡などが行われます。
尿にタンパク質が認められるかどうかは、尿中にタンパク質の濃度が20〜30mgdl以上の場合で陽性と判断されます。
また血尿に関しては、顕微鏡で見えるレベルの出血が継続して認められれば陽性となります。慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)が進行している場合には、尿中に赤血球や白血球などが認められることもあります。
初めての診断においては、血尿や尿のたんぱくが慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)以外の病気に起因するものでないことをチェックするため、血液検査、腹部エコーで腎臓の形態などを確認します。
尿のたんぱくが明らかに多い場合は、腎炎の程度と原因を調べるために、腎生検が必要になることもあります。
慢性糸球体腎炎にはさまざまな型があり、原因となる疾患やその活動性により、治療の経過や治療法が異なります。腎臓の疾患の原因を探る上では、腎生検が特に大切な検査となります。
腎生検とは
腎臓の組織を一部採取し、その内容を検査します。この検査により、様々な腎臓疾患の原因を把握することができます。
腎生検は入院して行うこととなります。背中から超音波検査装置(エコー)で腎臓を見ながら、安全な部位に針を進め、腎臓のほんの一部分を採取します。
採取した腎組織は、顕微鏡、電子顕微鏡などを使用して検査することとなります。
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)の治療
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は、様々な病型を含んでいます。正確な診断のもと治療方針を決定することが重要になります。
子どもにみられる慢性糸球体腎炎の病型
子どもに多くみられる慢性糸球体腎炎は次のようなものがあります。
IgA腎症
学校などの健康診断の尿検査で発見される腎炎の70%はIgA腎症といわれています。
学校検尿では、小学生で1万人に3〜5人、中学生で5人〜10人の慢性腎疾患が発見されています。その「蛋白尿+血尿」の所見で慢性腎疾患が発見された70%がIgA腎症です。
出典:学校保健(公益財団法人:日本学校保健)
IgA腎症は、腎臓の組織がどの程度の障害状況であるかによって、病気の経過はさまざまです。放置しても2~3年で回復するものもある一方で、ゆっくりと腎不全へ進行するものもあります。
IgA腎症は、かぜをひくと尿の状態が悪くなり、肉眼で見てそれと判るほどの血尿が現れることがあります。
治療方法に関しては、ステロイド、免疫抑制薬、抗凝固薬、抗血小板薬などが用いられます。
膜性増殖性糸球体腎炎
広い範囲にわたって炎症があり、病気の経過はあまり良くないと考えられており、ステロイドを中心とした治療介入が行われることになります。
膜性腎症
尿のたんぱくが主な症状となります。小児の場合は成人と比べて、予後は良いとされています。まれに腎不全に進んでしまっても緩やかなため、ネフローゼ症候群を示さないときは、経過観察をすることもあります。
巣状糸球体硬化症
難治性のネフローゼ症候群を伴い、腎不全になりやすい病気です。確実な治療法はありません。
ネフロ-ゼ症候群とは
尿蛋白が1日3.5g以上、血液の中で最も多いアルブミンというタンパク質が3.0g/dl以下(正常は4.0g/dl以上)に低下した場合をネフロ-ゼ症候群といいます。アルブミンが減少すると「むくみ」の症状が現れます。
学校での運動について
慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)であっても、運動はまったくできないという訳ではありません。
ただし、病気の状態によっては、競争するようなスポーツ、長時間のスポーツなどの通常より激しいスポーツや、団体競技など自己都合で休めないスポーツ等は避けた方がいいでしょう。
また、学校での体育の授業やクラブ活動におけるスポーツについても、病状によっては避ける必要があります。
具体的な学校での過ごし方については医師と相談して決めるようにしてください。
腎臓のための食生活について
食事療法のポイント
食事療法における大まかな目安は次のようになります。ただし小児の場合は成長段階にあることもあり、食事療法を行う場合は医師と相談の上で実施してください。
- たんぱく質の摂取は、標準体重1kg当たり0.5~1.0g
- エネルギーは、標準体重1kg当たり35kcal。(標準体重=身長(m)×身長(m)×22)
- むくみ、高血圧がある場合には、厳しく食塩を制限します。
- 水分は症状により制限します。特に尿の量が減ってきたときは、過剰な水分が体内に蓄積してしまうことになるため、ある程度の水分制限が必要となります。
参考として、腎臓に負担をかけない食事について記載しておきます。腎臓に負担をかけないようにするには、次のことを心がけて食事を作ってください。
食塩を減らす
食事の塩分を減らすことは、むくみや、高血圧を予防するのに効果があります。血圧をコントロールすることで尿へ排泄される塩分が減少し、腎臓の負担が少なくなります。
食事の塩分を減らすためには、塩以外で味付けをすることが大切です。そのためには、少なくとも次のことに注意しましょう。
- しょうゆは減塩のものを使う
- 天然のだしを使う。(1回ごとのパックになっている天然だしなどもあります。)
- 味付けはハーブや香辛料を使用する。(香辛料などでは塩分を使用せずに濃い味付けが可能となります。)
- 酢などの酸味を使用する。
- 加工食品を使用しない。(ハム、ソーセージ、かまぼこなどには塩分が多く使用されています。)
たんぱく質を制限する
腎臓は、食事で摂取したたんぱく質を体内で分解できる老廃物へ変換して、尿へ排泄します。このため、必要以上にたんぱく質を摂取すると腎臓に負担がかかります。
腎臓の状態に合わせてたんぱく質を控え、腎臓の負担を軽くすることが大切です。肉・魚・卵の量を調節したり、加工食品を減らすことによって、たんぱく質の量をコントロールしましょう。
たんぱく質が多く含むものには、肉、魚介類、卵、大豆、乳製品などがあります。
エネルギーは適正量を確保する
たんぱく質は大切なエネルギー源ですので、たんぱく質を減らした分は、他のもので補うこととなります。
また、エネルギーが不足すると、体内に存在するたんぱく質が体の中で燃えるため、老廃物が増えることとなります。
たんぱく質をあまり含まないエネルギー源として、次のものがあります。
- ご飯、パンなどの主食(ある程度のたんぱく質を含んでいるので注意してください。)
- てんぷら、炒めもの、フライなどの油を使用したもの
- くずきり、春雨などのでんぷんを含むもの
- ジュース、ゼリー、あめ、アップルパイなどの甘いもの(ケーキには卵などを使用しているため、たんぱく質が含まれています。)
ただし、極端な食事制限は、他の病気の要因となることもあります。医師、医療機関などと相談してください。腎臓に負担をかけないようにしつつも、バランスの取れた食生活をすることが大切です。
看護師からひとこと
慢性腎炎は、長い期間、病気と闘っているため、治療や日常生活の中で、子どもさんもご両親もストレスを感じることが多いと思います。
特に食事制限は好きなものが食べられず、子どもさんは苦痛を感じると思いますし、親御さんにとっても、それを管理していくことは並大抵のことではありません。
腎臓疾患の子どもの会や腎臓病の方が食べられるレシピを利用して、制限中の食事の世界が広げていくのも良いのではないでしょうか。
まとめ
- 慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)は、様々な病因を含む総括的な疾患概念であり、原因となっているものによって経過は異なります。
- 慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)では、明らかな自覚症状はなく、学校や幼稚園の検尿で尿の異常を指摘されることから病気が判明することもあります。
- 急性糸球体腎炎は1年で約80〜90%が治癒していきますが、慢性糸球体腎炎は1年以上、血尿や尿のたんぱくが持続する状態となります。
- 慢性糸球体腎炎(慢性腎炎)の明確な原因はよく分かっていません。
- 検査は、尿検査によるもので、尿の中のタンパク、潜血反応、尿沈渣検鏡などが行われます。
- 比較的程度が軽い場合は、定期的な尿検査で、経過観察を行います。高血圧や、尿のたんぱくが多い場合は、薬による治療が必要になります。
- 腎臓に負担をかけない食事には、塩分を抑えること、たんぱく質を抑えること、たんぱく質以外の食品でエネルギーを確保することが大切です。