ボックダレック孔ヘルニア(先天性横隔膜ヘルニア)の検査、症状、治療法など
更新日:2017年08月24日
目次
ボックダレック孔ヘルニアとは
ボックダレック孔ヘルニア(ボホダレク孔ヘルニアとも言います。)は、先天性の横隔膜ヘルニアの代表的な疾患のひとつです。横隔膜とは、腹部と胸部を分離させる薄い筋肉の膜のことで、横隔膜ヘルニアとは、その横隔膜に穴があいている病気をいいます。
生まれつき横隔膜の後ろ側に穴(ボックダレック孔といいます。)があいているため、腹部にある胃、肝臓、小腸などが胸部へ入ってしまい、胸などを圧迫することで呼吸などに異常が生じてしまいます。
横隔膜は、妊娠2か月から2か月半頃に形成されます。横隔膜ができると、腸などの臓器が腹部へ納まっていくのですが、横隔膜の後ろ側の穴が閉じないと、臓器が胸のほうへ入ってしまいます。
多くの臓器が胸の方へ入ってしまうと、肺の発育が阻害され、産後に乳児が呼吸困難を起こすこととなります。
先天性横隔膜ヘルニアでは最も多い
先天性横隔膜ヘルニアには、胸骨後ヘルニアや食道裂孔ヘルニアと呼ばれるものがあり、食道裂孔ヘルニアはボックダレック孔ヘルニアの次に多い疾患となっています。
なお、胸骨後ヘルニアは胸骨のすぐ背側にできるヘルニアで、右側にできるものをモルガニ孔ヘルニア、左側にできるものをラリー孔ヘルニアといいます。
ボックダレック孔ヘルニアは発生頻度や重症度が高いことなどもあり、先天性横隔膜ヘルニアという場合には、一般的にボックダレック孔ヘルニアのことをいいます。
ボックダレック孔ヘルニアが生じる頻度・死亡率・合併症などについて
ボックダレック孔ヘルニアが発症する可能性は、出生する子どもの2,000人~3,000人に一人程度となります。
合併症としては、染色体異常、心大血管奇形、気管・気管支の異常、中枢神経奇形、肺葉外肺分画症、腸回転異常、泌尿生殖器系奇形などがあり、中には重大な影響を残すものもあります。
また、ボックダレック孔ヘルニアの死亡率は約25%といわれています。現在は胎児の超音波検査で判明することもありますが、以前は胎児のうちに判明することが難しかったため、乳児が重篤な状態に至ってしまい、死亡する例が多くありました。
ボックダレック孔ヘルニアの原因
通常、妊娠2か月から2か月半の時期に横隔膜ができ、腸などの臓器が腹部へ納まっていきます。このとき、横隔膜がうまく閉じないと腸などの臓器が胸部へ入ってしまい、ボックダレック孔ヘルニアが発症します。
一度、臓器が胸部へ入ってしまうと、横隔膜が閉じない状態になってしまいます。
また、横隔膜にできる穴は、左側にできることが多く、75%~85%は左側に穴が開いています。ひどい場合は片側の横隔膜が形成されていない状態となります。
ボックダレック孔ヘルニアの症状
胎児・乳児の症状
臓器により横隔膜がうまく機能せず呼吸困難となることがほとんどです。
胎児のうちは、へその緒を通して呼吸しているので症状は現れないのですが、生まれると自身で呼吸することとなるため、多くは生まれた直後から症状が現れます。具体的な症状には次のようなものがあります。
- 重症の呼吸不全
- 重いチアノーゼによる多呼吸
- 速い心拍数
呼吸障害が強く現れることから、出生後すぐに人工呼吸を要することとなります。
また、見た目には胸の部分に臓器による膨らみが確認でき、腹部にはうまく空気が回らないため凹んでいることや、心音や呼吸音に異常があることなども、症状として確認できます。
胎児・乳児以降の症状
ボックダレック孔ヘルニアは、出生直後に症状が現れることがほとんどですが、まれに年長児に発症することがあります。
年長の子どもの場合、肺の形や機能に問題があるのではなく、肺を圧迫することによる咳や肺炎、痛み、呼吸が苦しいなどの症状があり、加えて、消化管の通りが悪くなることによる嘔吐や痛み、体重の増加不良などの症状が現れてきます。
ボックダレック孔ヘルニアの検査・診断
X線の撮影や、エコーなどにより、検査や診断が行われることとなります。胎児期と出生後で内容が異なってきますので、それぞれ説明します。
胎児期
胎児に対する検査・診断については、超音波エコー検査によって診断されることが多いのですが、肝臓のみが横隔膜からはみ出ているケースでは確認できないことがあります。
また、羊水過多となることが多いため、それをきっかけとして検査で判明することもあり、加えてスクリーニング検査において診断されるケースも増えています。
さらに、MRI検査をすることにより、胎児の異常についてはほとんど出生前に診断されます。
出生後
出生後は、胸部のX線撮影で胸部に消化管ガスを確認することにより行います。詳細については心臓超音波検査(心エコー検査)によって行います。
ボックダレック孔ヘルニアの治療
出生前の検査により、ボックダレック孔ヘルニアと診断された場合には、母体を管理できる環境とともに、出生後の赤ちゃんを治療できる病院で出産することが重要となります。
赤ちゃんの呼吸や血液、心臓などの状態が良好であり、手術が可能な状態であれば、お腹を開けて横隔膜形成の手術を行います。
しかし、出生直後に重症が認められる場合などは、肺の発育不全や肺血管の高血圧等により、呼吸状態が悪く、高度のチアノーゼが認められることがあり、また動脈血中の酸素が低下していることもありますので、呼吸循環動態を安定させる施術を行った後に横隔膜形成の手術を行います。
また、横隔膜が大きく欠損している場合には人工の膜を使用することがあります。
なお、赤ちゃんに対する緊急手術は、それ自体がストレスとなって赤ちゃんの血液循環を悪化させるため、現在では、生後すぐに手術を行わず、血液循環を安定させてから手術を行うことがあります。
ただし、こうしたことが可能となるためには、人工肺といった特殊な医療装置が必要となるため、病院によって可能な場合と不可能な場合がありますが、治療法の進歩により、重い症状を患っている赤ちゃんでも救命できるようになってきています。
ボックダレック孔ヘルニアの治療は症状、重症度などにより、異なってきます。主治医とよく相談することも治療においては大切なこととなります。
ボックダレック孔ヘルニアの手術内容について
手術の内容は、胸の方へ出ている臓器類をお腹の方へ戻し、横隔膜の穴を閉じます。
横隔膜の穴が小さい場合は縫合によって閉じますが、穴が大きい場合はゴアテックスなどの人工布を使用することがあります。ただし、人工布は成長しないため、再発する可能性が高いと言われています。
ボックダレック孔ヘルニアの予後
手術後や治療の経過については、出生後の24時間以内に発症した場合は、救命率は60から70%程度とされています。一方、年長児になってから発症した場合のボックダレック孔ヘルニアはほぼ100%が救命されています。
赤ちゃんに対する呼吸循環管理が進歩しているので、呼吸循環管理が重要となるボックダレック孔ヘルニアの予後はとても改善しています。
また、ボックダレック孔ヘルニアの中でも、肝臓が胸部へ入っているものや、妊娠の早い時期から診断されている場合、羊水過多がある場合などにおいては、予後が悪くなる要素といわれています。場合によっては、子宮内死亡の可能性が数%程度あります。
軽症の場合は、後に障害を残すことはあまりありませんが、重傷で救命された場合などにおいては、次のような後遺症が残ることがあります。
- 慢性呼吸不全
- 胃食道逆流
- 成長発達障害
- 聴力障害など
新たな治療法など
胎児の診断において、ボックダレック孔ヘルニアと診断され、肺の発育が極めて悪いような症例を対象として、胎児に対して治療を行い、肺を良好に発育させていこうとする治療がアメリカの一部の施設で行なわれていました。その結果は胎児治療を実施する場合としない場合で治療成績に差がないというものでした。
胎児治療については、様々な病気において考察されているもののようで、今後の医療の進歩に期待したいところです。
看護師からひとこと
先天性横隔膜ヘルニアの原因はいまだ詳しく解明されていません。
妊娠中に診断されたことで不安になるかとは思いますが、近年医学の進歩にて治療法も向上してきています。信頼のおける医療機関、医師との相談の上、治療するようにしてください。
ボックダレック孔ヘルニアのまとめ
- ボックダレック孔ヘルニアは、先天性の横隔膜ヘルニアの代表的な疾患のひとつです。
- 横隔膜ヘルニアとは、その横隔膜に穴があき、そこから腹部の臓器が胸部へ出てしまい、心臓や肺を圧迫する病気をいいます。
- 生まれつき横隔膜の後側に穴(ボックダレック孔といいます。)があいていて、そこから腹部の臓器が胸部へ出てしまっています。
- 死亡率は約25%といわれています。
- 臓器により横隔膜がうまく機能せず呼吸困難の症状が現れます。
- 多くの場合、出生直後に発症します。
- 胎児に対する診断については、超音波エコー検査、羊水過多を契機とした検査、スクリーニング検査などによって行われます。
- 出生後の診断は、胸部のX線撮影や、心臓超音波検査(心エコー)などによって行われます。
- 出生直後に重症が認められる場合は、呼吸循環動態を安定させてから、横隔膜の手術を行います。
- 予後については、出生後の24時間以内に発症した場合は、救命率は約60%から70%程度、一方、年長児に発症した場合はほぼ100%が救命されます。