ネフローゼ症候群の原因、症状、診断基準など大切な事項をまとめました。
更新日:2017年05月25日
目次
ネフローゼ症候群の病態とは
ネフローゼ症候群とは腎臓の病気ですが、腎臓の中には「糸球体」と呼ばれる場所があります。この糸球体とは血液を濾過する役割があり、基本的には老廃物だけを通して尿を作ります。
しかし、何らかの原因により、糸球体が障害を受けて本来は通さない蛋白質が通過してしまうことがあります。
その結果、尿中に大量の蛋白質が含まれてしまうものをネフローゼ症候群と言います。
ネフローゼ症候群では、尿中の蛋白質が増加することで相対的に血液中の蛋白質が減少してしまいます。この病気の約8割を6歳未満の子どもが占めています。
ネフローゼ症候群の原因
ネフローゼ症候群は原因によって「一次性ネフローゼ症候群」と「二次性ネフローゼ症候群」に分類されます。
一次性ネフローゼ症候群
一次性ネフローゼ症候群は、腎臓や糸球体そのものに病変があって起こるものや原因不明のものを指し、ネフローゼ症候群全体の約80〜90%を占めます。
二次性ネフローゼ症候群
一次性ネフローゼ症候群が腎臓に異常を引き起こした明らかな原因が特定できないのに対し、二次性ネフローゼ症候群はそういったきっかけとなる原因があるものを言います。
全体の20~30%を占め、原因には以下のようなものがあります。
- 膠原病・・・全身性エリテマトーデスによるループス腎炎など
- 代謝性の病気・・・糖尿病による糖尿病性腎炎など
- 紫斑病・・・紫斑病性腎炎など
この他にも、妊娠高血圧症候群、癌、エイズなどでも発症することがあります。
病型について
ネフローゼ症候群は原因などにより、次の型に分類されます。
微小変化群
特に若年者や子どもに多くみられ、小児ネフローゼの80〜90%がこの微小変化群になります。
検査をしても顕微鏡で確認をする限り糸球体に形態的な異常が認められず、はっきりした原因を指摘できない型を指します。
治療によって改善しやすい半面、再発もしやすいと言われています。
膜性糸球体腎炎
中高年の人に比較的多くみられ、膜性腎症とも呼ばれます。
顕微鏡で見ると糸球体の基底膜という部位が厚くなってみえるものです。自然に治ることも多いですが、徐々に腎臓の機能が低下し腎不全や高血圧を併発することもあります。
増殖性糸球体腎炎
糸球体には血液量を調整したり、血管内の細菌などを食べてくれる「メサンギウム細胞」という細胞が存在しますが、それが異常に増殖を示す型です。
軽度のものは治癒することもありますが、中等度以上のものは進行性です。
膜性増殖性糸球体腎炎
上記の膜性糸球体腎炎と増殖性糸球体腎炎の病変の両方が認められます。
子どもにもみられることがあり、腎不全に移行することが多いです。
以前は予後が不良の病気とされていましたが、最近では早期治療で良好な経過をとることも増えてきています。
巣状糸球体硬化症
大部分の糸球体には異常はみられないが、一部の深い部分にある糸球体が硬くなるなどの変化を認める型です。
子どもに多く、進行型で10年の経過で半数の例が腎不全になります。初期段階では微小変化群と診断され、経過を追って後にこちらの型だと分かる場合も多いです。
ネフローゼ症候群の症状
ネフローゼ症候群で最も著名な症状が「むくみ(浮腫)」です。
特に顔面(特にまぶた)と足(特に足の甲、すね)に著しく出現します。
浮腫が酷い時には目を開くことさえ困難になります。また、浮腫が進行すると頭や太ももの内側、腰やお腹にも浮腫が出てきます。
更に進行するとお腹や胸に水が溜まるようになってきます。腹水や胸水が溜まってくると全身倦怠感や頭痛、食欲不振、血圧上昇、乏尿などの全身症状も著しくなってきます。
その他にも、高度の蛋白尿や浮腫による体重増加などがみられます。
また、血液検査ではコレステロール値の上昇(高脂血症)や総蛋白、アルブミンなどのタンパク値の低下(低蛋白血症)などを認めます。
上記の中でも浮腫・蛋白尿・高脂血症・低蛋白血症の4つの症状はネフローゼ症候群を診断する上でも重要な所見となります。
ネフローゼ症候群の診断
ネフローゼ症候群は以下の検査で診断されます。
視診
浮腫の有無や程度を実際に医師が診て確認します。
尿検査
蛋白尿の有無を確認します。
血液検査
低蛋白血症の有無(総蛋白値、アルブミン値)、高脂血症の有無(コレステロール値、中性脂肪の値)、腎機能などを確認します。
腎生検
腎臓に直接針を刺して腎臓の一部の組織を採取し、採取した組織の病変を調べる検査です。これには超音波を用いて麻酔をしながら行います。
この検査はネフローゼの確定診断や治療方針、予後の判定などにも有効であるため勧められることもあります。
小児においては、ネフローゼ症候群であっても第一選択としてすぐに腎生検が行われるとは限りません。
なお検査に伴い、出血や感染症を起こすリスクもあるため事前に医師にしっかり説明を受けることが重要です。
ネフローゼ症候群の診断基準
成人
- 蛋白尿・・・1日の尿中の蛋白の量が3.5g以上である。
- 低蛋白血症・・・血液中の総蛋白の量が6.0g/dl(アルブミン3.0g/dl)以下である。
- 高脂血症・・・血液中のコレステロール値が250mg/dl以上である。
- 浮腫がみられる。
小児
国際基準の診断では、蛋白尿については尿を1日貯める検査が必要になりますが、子どもの1日の尿を貯めるのは難しいと思います。
簡易な厚生労働省の診断基準を用いても良いとされていますので、ここでは厚生労働省の診断基準を記載します。
- 蛋白尿・・・早朝の最初の尿に蛋白が300mg/dl以上みられることが3~5日持続する。
- 低蛋白血症・・・学童期と幼児の場合は血液中の総蛋白が6.0g/dl(アルブミン3.0g/dl)、乳児の場合は5.5g/dl(アルブミン2.5g/dl)以下である。
- 高脂血症・・・血液中の総コレステロールの値が学童期250mg/dl以上、幼児は220mg/dl以上、乳児200mg/dl以上である。
- 浮腫がみられる。
ネフローゼ症候群の治療法
ネフローゼ症候群の治療では安静、食事療法、ステロイドと呼ばれる抗炎症剤の投与が基本となります。
安静
ネフローゼ症候群の診断時に浮腫の程度が重篤であったり、血圧に異常等がある場合を除き、基本的には運動制限は推奨されていません。
食事療法
以前は高蛋白な食事が治療として摂取されていましたが、小児のネフローゼ症候群の多くはステロイドに対してよく効くため、特別な状況がない限りタンパク質の制限をおこなうことはあまりありません。
また塩分については、浮腫の程度に応じて適宜減量することもあります。
ステロイドの投薬
ネフローゼ症候群の治療にはステロイド剤が投与されることが多いです。プレドニゾロンと呼ばれるステロイド剤を初期投与します。
投与後、血液検査や尿検査で腎機能や蛋白尿などを確認し、症状の軽快が認められると少しずつステロイドの投与量を減らしていきます。
急にステロイドを中止するとショック症状などを起こす可能性があるため、必ず徐々に量を減らしていきます。
蛋白尿が出なくなっても半年~1年くらいは薬の投与を継続します。
通常のステロイド投与方法で反応性の悪いネフローゼ症候群の重症例では、3日間でステロイド剤を大量に投与する「パルス療法」という治療を行う場合もあります。
ステロイド治療は効果も大きいですが、副作用も大きいので医師にしっかり説明を受けることが大切です。
副作用としては、満月様顔膨(ムーンフェイス)、肥満、多毛、月経異常、胃潰瘍、重度感染症、高血圧、糖尿病、精神障害などを引き起こします。
お子さん特有のものとしては身長の伸びに影響が生じたり、長期的な骨粗しょう症などのリスクも懸念されます。
ステロイド剤以外の投薬について
ステロイド剤が治療として無効だったり、ステロイド剤により重篤な副作用が出た場合に以下のような薬剤が用いられることがあります。
- 免疫抑制剤・・・ステロイド剤と同じように高い効果が期待されるが骨髄抑制(造血機能の低下)や肝機能障害、性腺障害など重篤な副作用もあるため使用する場合は慎重に扱う必要があります。
- 利尿剤・アルブミン製剤・・・胸水や腹水が貯留する程高度な浮腫がある場合、血圧にも影響がある場合等に使用します。
二次性ネフローゼ症候群の治療法
ネフローゼの原因が癌や糖尿病など腎臓以外に原因がある場合は、原因となっている病気の治療をすることも並行して行われます。
予後について
小児で最も多い微小変化群に関しては予後が一般的に良いとされています。
ただし、1回蛋白尿が治癒しても何度も再発することがあるので、その度にステロイド剤などの治療を受ける必要があります。特に思春期までの子どもは再発を繰り返しやすいです。
一方で膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、高度の増殖性糸球体腎炎によるネフローゼは、予後が10年~25年が平均であり、不良とされています。
予防法について
ネフローゼ症候群は具体的な予防方法は確立されていません。そのため、異常を感じたら早期に病院に受診することが何よりの予防となります。
身体がむくむ、だるい、尿の量が減ったなどの症状を感じたら注意するようにしましょう。
妊娠とネフローゼ症候群
妊娠を考える時、過去にネフローゼにかかったことがある場合は医師にまずは相談するようにして下さい。
治療中は原則として、妊娠は勧められませんが、ネフローゼが完全に治癒し、治療が終了して6カ月以上経過しても再発がない場合、妊娠は差し支えないとされています。
子どもの頃にネフローゼになったきり再発していない人の場合も事前に医師に相談することをお勧めします。
妊娠中にネフローゼになってしまうと治療薬が胎児に影響を及ぼすことが多いため使用できるものが極限されます。
妊娠中のネフローゼ症候群の治療においては、胎児のことも考慮に入れつつ、より一層慎重な姿勢で治療方法を決定する必要があります。
参考文献・サイト
- 小児特発性ネフローゼ症候群薬物治療ガイドライン1.0版
- 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013
- 難病情報センター
- 腎疾患患者の妊娠(日本腎臓学会編)