更新日:2017年07月03日
ぎっくり腰とは
ぎっくり腰は誰にでも「ある日突然」起きる可能性があります。
ぎっくり腰とは、ドイツ語で「Hexenschuss(魔女の一撃)」、英語で「sprained lower back」と呼ばれています。激しい痛みに突然襲われる腰痛。それこそが「ぎっくり腰」なのです。
よく言われる「ぎっくり腰」は通称のようなもので、正式には「急性腰痛症」や「腰椎捻挫」と呼ばれ、腰の筋肉やそれに伴う組織が硬直・痙攣・捻挫することにより炎症を起こし痛みがでると考えられています。
ぎっくり腰の原因
ぎっくり腰になるメカニズム
ぎっくり腰になるメカニズムとは次のようなものです。
↓
腰に疲労が蓄積し、筋肉が固まって伸び縮みしにくい状態になる。
↓
負荷の強い行動がきっかけになり炎症を起こし、ぎっくり腰になる。
ぎっくり腰に「なりやすい状態」の時に、「きっかけ」がプラスされることでぎっくり腰が発症します。
そして、ぎっくり腰は残念ながら再発することも多いと言われています。
ぎっくり腰になりやすい状態
- 腰の筋肉が慢性的に疲労し、硬直している。
- 骨格に歪みがある。
- 運動不足や栄養不足で骨格や筋肉が弱くなっている。
- 体重が重い。
- 長時間の車の運転で疲れている。
- 精神的なストレスがある(精神的な緊張状態は腰の筋肉機能を低下させてしまうため)。
ぎっくり腰のきっかけになりやすい行動
- 重いものを持つ。
- 急に立ち上がる。
- 不意に身体をねじる・ひねる。
- 前かがみの姿勢から起き上がる。
- くしゃみや咳をする。
- 子どもを抱き上げる。
再発する原因として考えられるもの
- 痛みがなくなったことで安心し、以前と同じように腰に負担のかかる行動や姿勢をとってしまう。
- 負担のかかっている部位をかばい、不自然な動きをすることで別の部位に新たな負荷がかかり続けてしまう。
ぎっくり腰の症状
一瞬で激痛が襲うイメージが強いですが、徐々に痛みが増していき気づいたらまともに動けなくなっていた・・という場合も多くあります。
腰は関節・靭帯・椎間板など異なった組織で構成されているので、痛めた部位により痛みを感じる場所は異なり、症状も軽いものから重いものまで様々です。
ぎっくり腰の時によく見られる症状
- 動けないほどの強烈な腰痛。
- 歩くたびに腰に響くため、ゆっくりでしか歩けない。
- 椅子に座れない。
- おじぎが出来ない。
- 身体を反らせない。
- 寝返りが打てない。
- 腰の左右どちらかが痛い。
- 咳やくしゃみが腰に響く。
- お尻のえくぼあたりが痛い。
もし腰の痛みだけでなく、下肢の痛みやしびれ・発熱・発汗・痛みが和らぐ姿勢がみつからないなどの症状がある場合は、ぎっくり腰以外の原因が隠れている可能性があります。
ぎっくり腰の予防法
ぎっくり腰には前兆のある場合があります。前兆を察知してぎっくり腰を回避しましょう。
ぎっくり腰の前兆
- 腰がだるい。
- 寝返りを打った時や季節の変わり目に腰が痛む。
- 足の裏がしびれる。
- 起床時に腰の痛みを感じるが動き出すと楽になる。
- 腰につっぱり感を感じる。
- おしりや骨盤周りが痛い。
- 長時間座っていると腰が痛む。
- 夕方にかけて段々と腰が重くなり、痛みだす。
具体的な予防法
- 姿勢に気をつける。
- 疲れをためない。
- 肥満に気をつける。
- 体を冷やさない。
- 急な動作は避ける。
- 適度に運動し筋力(腹筋や背筋)をアップする。
- コルセットなどを着用する。
- ストレッチやマッサージなどで筋肉をほぐす。
- 十分な睡眠時間を取る。
- 栄養バランスの良い食事を心がける。
ぎっくり腰の一番の予防法は、腰に負担をかけていた生活習慣に気づき、それを改めることです。
ぎっくり腰の検査
ぎっくり腰の検査は、ぎっくり腰の程度を知るための検査や、他の病気の可能性を確かめるものまで多種に及びます。
最初の診察で行われること(問診)
問診を行い、ぎっくり腰になった状況や経過、日頃の腰への負担状況などについて、医師へ状況を話します。医師はそこから腰痛の原因などを推測します。
理学的検査
- 視診:歩き方、立ち上がり方、身体の動かし方などを観察します。
- 打診・触診:腰周辺を触れたり叩いたりして患部の状態をみます。骨の変形や圧痛、患部が熱をおびているかなどを確認します。
より詳しい情報が必要と判断された場合に行う検査
神経学的検査
神経に異常があるかどうかを調べます。
ラセーグ・テスト
両足を伸ばした状態で仰向けに寝て、膝を伸ばしたまま片方の足を上げどこまであげられるか、その時に痛みがあるかを観察します。
反射検査
膝の皿の下あたりやアキレス腱をゴムのハンマーで軽く叩き、その時の足の反応からどこの神経に障害があるかを調べます。
画像検査
X線検査(レントゲン撮影)
X線を照射して骨を透視し、状態を観察します。骨の変形、骨折や脱臼の有無、腰椎のズレがないかなどを確認します。
MRI検査
磁気の力により対象物の断面を表示します。軟骨・靭帯・筋肉・神経といった柔らかい組織を鮮明に映すことができるため、状態が正確に確認できます。
CT検査
X線を身体の周囲から照射し、得た画像をコンピューター上で立体的に処理して表示します。
柔らかい組織(軟骨・靭帯・筋肉・神経)だけでなく硬い組織(骨)の状態も確認できます。
超音波検査(エコー検査)
超音波を体内に当てて反射する波(エコー)を映像化します。腰周辺の靭帯・筋肉・腱などが断裂していないかを確認します。
血液検査・尿検査
他の内科系の疾患が関連していないかを調べます。
ぎっくり腰の治し方
ぎっくり腰の治療は主に整形外科で行われ、痛みを抑える治療が中心になります。しかし、強い痛みのためすぐには医療機関を受診できない場合も多いので、応急処置の方法を覚えておくと役に立ちます。
応急処置(軽いぎっくり腰の治し方)
- 安静にする(痛みのある側を上にして横になると良い)。
- 患部を冷やす(できれば氷嚢で1回10~15分程度、凍傷にならないように注意し痛みが和らぐまで行う)。
医療機関での治療法
薬物療法(内服薬)
- 非ステロイド性抗炎症薬(ロキソニン、ボルタレンなど)
患部の炎症を抑え、痛みを軽減します。坐薬は、直腸から挿入することで肝臓の代謝や消化の影響を受けずにすむため、短時間で痛みを緩和します。 - 外用薬(湿布や塗り薬)
冷感タイプと温熱タイプがあります。それぞれ異なる成分が配合されており消炎・鎮痛作用が期待できます。 - 筋弛緩薬(ミオナールなど)
筋肉の緊張を和らげ痛みを少なくします。 - 抗不安薬(デパスなど)
筋肉の緊張を軽減すると共に、痛みによって生じる精神的な緊張を軽くします。 - 抗うつ薬(トリプタノール、パキシルなど)
痛みの信号の伝わり方を変え、痛みの感じ方を軽くします。
神経ブロック療法
- 神経周囲や神経内に直接局所麻酔薬を注入することで痛みの伝わりを遮断します。
理学療法
- 装具療法
コルセットやサポーター等の装具を使用して腰部を安定させ身体を支えます。 - 運動療法
背筋や腹筋を強化します。 - 温熱療法
血行を良くし自然治癒力を高めます。
冷やした方いいのか。温めた方がいいのか?
いつ冷やして、いつ温めればいいのか悩むところですが、「炎症のある急性期には冷やし、炎症がおさまった慢性期には温める」と覚えると良いでしょう(体が温まる入浴・飲酒・マッサージは最初の数日は控えましょう)。
一般的には「安静+冷却を2~3日続ける」ことで大体の痛みが取れるといわれています。
また、2~3日以上は安静にすべきではない、少しずつ動いたほうが回復は早まるという研究報告もあります。無理の無い範囲で動くようにしましょう。
妊婦さんと「ぎっくり腰」
妊娠中はお腹の赤ちゃんが大きくなっていくことでお腹が張り出し、腰を後方に反らせる体勢を取ることが多くなるため、どうしても腰に負担が掛かってしまいます。
ぎっくり腰に注意が必要なのは後半の5~10ヶ月頃です。この時期は、骨盤周りの筋肉や靭帯が出産に備えて「緩める」という働きを始めるため、骨盤が不安定になり、ぎっくり腰になりやすい状態になってしまうのです。
日頃から腹帯などである程度腰を締めておくと、ぎっくり腰の予防になりますが、それでもぎっくり腰になってしまった場合、妊婦さんへの治療は薬物を使用しない治療法が中心になります。
冷やしたり温めたりする時に湿布を使用しがちですが、湿布の中には妊娠中・授乳中には使用してはいけない成分を含んだもの(モーラステープ)があるため、安易に使用せず事前に医師に確認しましょう。
子どもの「ぎっくり腰」
元気な子どもはぎっくり腰とは無縁と思いがちですが、最近では腰痛に悩む子どもが増えています。
子どものぎっくり腰が大人の腰痛と少し違うのは、「成長期」が関係するところです。成長期の子どもの骨は柔軟性があり骨格は未完成なため、腰にかかる負担も大きくその結果ぎっくり腰になってしまうのです。
子どもがぎっくり腰になる原因として考えられるもの
筋肉疲労
激しい運動などで筋肉を使いすぎる事により腰に大きな負担がかかる。
運動不足による筋力の低下
骨を支える筋肉が弱い事で骨盤を正しい位置に保てない。
悪い姿勢
姿勢が悪いことで腰に余計な負担がかかる。
内臓疾患によるもの
内科的な病気が原因で腰痛を引き起こしている。
子どもの治療も大人と同じで、まずは安静と冷却が重要で、必要に応じて保存的治療(薬物療法・理学療法・運動療法など)が行われます。
骨に異常がない場合は2~3日の安静で回復が期待できますが、子どもに安静状態を強いるのは難しいかもしれません。
しかし、休養をとらずに無理をしてしまうと椎間板ヘルニア・坐骨神経痛・脊椎分離症などに症状が進んでしまう可能性があるため、きちんと休ませるようにしましょう。
看護師からひとこと
ぎっくり腰は、基本的には安静+冷却で徐々に治っていきます。
しかし、「どうせぎっくり腰だろう」と油断していたら椎間板ヘルニアになっていた・・・ということもあります。
まずは整形外科を受診し、必要に応じて画像検査を行い、医師の診断を受けた上で安静にしましょう。
ぎっくり腰についてのまとめ
- 前兆を見逃さない。
- 応急処置は「安静+冷却」!
- 「腰痛=ぎっくり腰」とは限らない。
- 安静にするのは2~3日のみ。
- 治療は痛み止めの処方が中心。
- 冷やすタイミングと温めるタイミングを間違えない。
- 再発は生活習慣の改善で防げる。
- 妊婦さんは「モーラステープ」を使用してはいけない。
- 子どももぎっくり腰になる。
- 代替医療は症状を悪化させることもあるので注意が必要。
ぎっくり腰になると、強い痛みがあるため、日常生活に支障をきたしてしまいます。経験者もそうでない方も、腰への負担をかえりみて、腰をいたわる生活習慣に改めましょう。