原因不明の痛みを引き起こす疾患に、線維筋痛症という病気があります。身体の広範囲にわたって慢性的な疼痛が持続する疾患です。また、線維筋痛症は男性よりも女性に多く、中高年に多いとされています。身体のいろいろなところに痛みが出るため、診断がなかなかつかず、いくつもの科を受診してようやく最終的に線維筋痛症と診断された、というケースがよくあります。
今回はそのような疼痛性疾患である線維筋痛症についてまとめてみましたので、参考にされてください。

更新日:2018年01月16日

この記事について

監修:豊田早苗医師(とよだクリニック院長)

執筆:当サイト編集部

線維筋痛症の症状とは

線維筋痛症による症状として、主に痛みが問題となります。

特に誘因もなく痛みが始まり、その痛みが身体のあちこちに広がるとともに、激しい疲労感や落ち込んだ気分、不安感、こわばり感、疲労感が出ます。

そして、その症状が続くことで睡眠障害、抑うつ、自律神経失調症、頭痛、微熱、過敏性腸症候群、ドライアイ、記憶障害、集中力欠如、レストレスレッグス症候群などを伴うなど、多種多様な症状が出現し、さらに症状には個人差があります。

痛みは軽度のものから激痛までさまざまであり、痛みの場所も、局所だけが痛む場合から広範囲に全身が痛む場合があります。

痛みの度合いとしても、軽度から激痛まであり、痛みの部位が移動したり、天候によって痛みが変わったりすることもあります。重症化するとほんの少しの刺激でも激痛が走り、自力での生活が困難になる方もいます。

これだけ多彩な症状が出ることから、自律神経失調症、更年期障害、不定愁訴等の病気と診断されているケースもしばしばみられます。

症状の分類

  • 第1段階:痛みがあるが、日常生活に重大な支障はない状態
  • 第2段階:体の末梢部にも痛みが広がり、不眠、不安、抑うつを伴い、日常生活に支障が出てくる状態
  • 第3段階:激しい痛みが続き、皮膚や髪などへの軽い刺激でも激痛を生じ、自力での生活が困難である状態
  • 第4段階:激痛のために自力で身体を動かせず、ほぼ寝たきりになっている状態
  • 第5段階:激痛のために意識障害が起こる状態


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線維筋痛症の原因

はっきりとした原因は不明ですが、これまでにさまざまな検討がされています。

視床下部・下垂体・副腎といったホルモン系の異常や、中枢神経系の神経伝達物質の異常、身体的・精神的ストレスなどの知覚に関わるC線維の異常、免疫系の低下(ナチュラルキラー細胞の機能低下)や異常(自己抗体)、痛み刺激を伝達する経路と刺激を抑制する経路のバランスが崩れていて疼痛に対して過敏になっている可能性や、脳内の炎症が大きく関与しているという説、などが注目されています。

どれが本当の発症のきっかけになっているのか、他の現象はその変化の結果として起こっているのかなどについて、現在も研究が進められていますが、まだ全容は解明されていません。

しかし、線維筋痛症の患者に対して画像検査を行うと、脳内の疼痛に関わる領域の機能異常が実際に見られることがわかっていますので、「精神的ストレス」などと片付けられやすい病気ですが、やはり「痛いものは痛い」のです。

線維筋痛症には、二次性線維筋痛症というものもあります。二次性というのは、他の何らかの疾患があって、二次的に症状が起こっているというものです。

たとえば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、頸部痛症候群、変形性関節症、脊椎関節炎などです。このようなリウマチ疾患や自己免疫疾患などの経過中に線維筋痛症を発症する場合があることが報告されています。

線維筋痛症の検査・診断

線維筋痛症の検査と診断方法については、まず、通常の血液検査や脳波、心電図、X線検査、CT,MR画像などでは異常が見つからないということが特徴です。

反対にこれらの検査で異常があるとすれば線維筋痛症の可能性は下がります。

診断にはアメリカリウマチ学会の診断基準が用いられることが一般的です。身体の部位の広範囲な部分で、原因不明の激しい痛みが3カ月以上続いていることや、あらかじめ決められた身体の特定部位(18か所)を親指で4㎏の強さで圧迫すると、11カ所以上に痛みを訴えるなどの2点が認められれば、線維筋痛症と診断されます。


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線維筋痛症の治療法

線維筋痛症の治療は、薬物療法と非薬物療法に分けられます。

線維筋痛症の薬物療法

薬物療法としては、第一選択としてプレガバリンが用いられます。

商品名はリリカといいますが、神経障害性疼痛などにおいてよく使用される薬です。整形外科疾患や、がんに関連したしびれなどの症状において頻用されます。他に似たような薬としてガバペンチンというてんかんの薬もよく用いられます。

痛みそのものに対しては、トラムセット(トラマドール・アセトアミノフェンの配合剤)が使用される場合があります。

しかし、がんの疼痛緩和によく使用されるオピオイドと呼ばれるタイプの鎮痛薬(いわゆる麻薬)は、依存性を起こすことも多く、基本的には使用は控えるべきだとされています。

また、抗うつ薬が用いられることもあります。デュロキセチン、アミトリプチリン、ミルタゼピン、パロキセチン、ミルナシプラン、クロミプラミンなどが推奨されています。

特に海外ではアミトリプチリンの実績が多くありますが、日本人のデータはまだ十分とは言えず、開始しても副作用で継続できない場合もあります。

痛み以外の症状には、それに応じた薬が用いられます。例えば過敏性腸症候群様の症状(下痢)にはラモセトロン、口の中の渇きに対してはピロカルピン塩酸塩などが用いられます。

漢方薬による治療

漢方薬を試して効果があったとする報告もありますが、まだ質の高いデータはあまりありません。

柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加朮附湯、桂枝茯苓丸、十全大補湯、抑肝散などが用いられますが、個々の体質や症状に応じた投薬が必要であり、効果も一定ではありません。

漢方薬でも重大な副作用が出ることはありますので、もし漢方薬を試す場合は、自己判断で服用せず、漢方の処方が得意な医師から処方を受けるようにしましょう。

非薬物療法

線維筋痛症の非薬物療法としては、認知行動療法、鍼灸、運動療法、禁煙、温熱療法などがあります。

他に、推奨度は下がるものの、電気痙攣療法、神経ブロックなどがあります。この中で、特に欧米では運動療法や認知行動療法が推奨されています。

また、小児では家庭環境の問題が発症に関わっていることもあり、そうした環境調整が功を奏することもあります。

線維筋痛症の症状が環境因子によるものである場合、その改善によって大部分は1年や2年程度で改善するとされており、精神的な要素も大きく関わっていると考えられています。

まとめ

線維筋痛症は慢性的な痛みの出る疾患です。

一度発症すると、数年以上症状が続くことはざらで、生涯にわたって苦痛が続く場合もあります。

はっきりとした病因が分かっていないため、確実な治療法は無い病気ですが、薬物療法と非薬物療法を組み合わせることで改善できる場合も多々あります。

また、ストレスとも関連する疾患ですので、ご自身のストレス因子を分析し、医師と協力して解決していこうとする姿勢を持つことも大切です。

稀な疾患を診断するためにはまず「線維筋痛症ではないか」と疑いをもつことが大切ですので、もし線維筋痛症に特徴的な症状が出ている場合は、かかりつけの内科クリニック(または、リウマチや膠原病を専門としているクリニック)を受診しましょう。

[カテゴリ:精神・神経]

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