アニサキスは鯖やイカなどに寄生していて、それらを生食することで感染します。感染すると胃痛などの激しい症状なども現れるため、冷凍、加熱、調理法などによる予防が大切です。アニサキスの説明に加えて、胃や腸の症状、治療法、予防法などについて詳しく説明します。

更新日:2017年10月22日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部(看護師

アニサキスとは

作者 英語版ウィキペディアのAnilocraさん (Transferred from en.wikipedia to Commons.) [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

作者 英語版ウィキペディアのAnilocraさん (Transferred from en.wikipedia to Commons.) [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

アニサキスというのは「回虫目アニサキス科アニサキス属」に属する線虫の総称で、いわゆる寄生虫の一種です。

寄生虫は内部寄生虫(体内に寄生)と外部寄生虫(体の表面に寄生)に分けられますが、アニサキスは内部寄生虫に分類されます。

  • 特徴: 渦巻き状に丸まっていることが多く、半透明の粘膜に入っているものもあります。
  • 体長: 長さ2~3センチメートル、幅0.1~1センチメートルくらいで半透明で白色の糸のような形をしており肉眼でも確認できます。

アニサキスの寄生のしかた

  • 成虫   クジラ、イルカ、アザラシ、トドの消化器に寄生
  • 卵    クジラ、イルカ、アザラシ、トドの糞便から海中へ
  • 卵〜幼虫 オキアミの体内
  • 幼虫   サバ、サケ、ニシン、サンマなどオキアミを食べる魚

アニサキスはこのように海中の食物連鎖の生態系で生きています。

私たちは幼虫が寄生しているサバ、サケ、サンマなどを食べることでアニサキス症になってしまうことがあります。(アニサキス症については後で説明します。)

アニサキスの寄生している主な魚介類はサバ、サンマやイカ

サンマ

アニサキスは、サバ、サンマ、スルメイカ、イワシ、サケ、ニシン、ホッケ、タラ、マスなど160種類以上にもなる多くの魚に寄生しています。

牡蠣やホタテには寄生していない

牡蠣やホタテなどの貝類にはアニサキスは寄生しないといわれています。

また、川の上流に生息する魚に、アニサキスは寄生していないと言われていますが、アニサキス以外の寄生虫(横川吸虫、肝吸虫など)が寄生している可能性があります。

養殖魚にはアニサキスの寄生はほとんど認められていません。(ただし、アニサキスが寄生した生餌により養殖魚にも寄生することがあります。)

魚のどこに寄生しているのか?

アニサキスは内臓の表面や筋肉(魚の身の部分)に寄生します。

宿主の魚が生きているときは内臓部分に寄生していますが、魚が死ぬと筋肉の方へ移動することがわかっています。

サケなどの魚の場合は、もともと内容よりも筋肉に寄生していることが多く、イカ類の場合は外とう膜(お刺身などで食べる部分)に寄生していて、目で確認できることが多いです。


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アニサキス症とはどんな病気?

アニサキス症は、海鮮や魚介類の生食を原因とする寄生虫症で、激しい胃痛や嘔吐などを伴う病気です。日本では寄生虫症の中で最も多いと言われています。

魚介類を寿司や刺身で食べる習慣がある日本では、昔から存在した病気と考えられています。

1960年代には、激しい腹痛症状のある患者さんから、その原因となるアニサキスの幼虫が発見されています。

また、1970年代には内視鏡検査などの医療技術が発達し、アニサキス虫体の摘出が可能となり、それまでの予想以上にアニサキス症が発症していることがわかりました。

日本に多いアニサキス症

国立感染症研究所の推計では、国内におけるアニサキス症の発生件数は、年間7,150件ほど(2005年から2011年の年平均)にのぼります。

日本人は魚介類を生食する習慣があるため、国内におけるアニサキス症の発症件数は諸外国に比べて、多いことが特徴です。

なお、アメリカにおける年間の患者数は10人未満ですが、日本食店の増加などにより、感染者が増加している可能性が指摘されています。

世界的にみると、アニサキス症は北アジア、西ヨーロッパに集中しています。平成22年までに報告された2万件の症例のうち90%以上は日本で、その他オランダ、フランス、スペインからの報告があります。

冬に多いアニサキス症

アニサキスが寄生している魚の漁は冬に多いことから、12月から3月に発症が多く、夏に少なくなる傾向があります。

刺身や寿司を食べることで人間に寄生する

イカの刺身

アニサキス症は、刺身や寿司などアニサキス幼虫に寄生した魚の生食により発症します。

ただし、人に寄生しても体内で成虫になることはありません。

アニサキス症の種類と症状

腹痛

寄生する場所によって症状が違います。また、アニサキス症はたとえ幼虫1匹でも、生きたまま体内に入れば症状がおこることがあり得ます。

胃アニサキス症

食後2~8時間が経過した後に、激しい上腹部痛、悪心、嘔吐の症状がみられます。また、吐血が見られることもあります。

これらは、劇症型胃アニサキス症ともいいます。アニサキス虫体が胃の粘膜に入り込んで咬みついた際に、アレルギーなどによって炎症が起き、激しい痛みがでます。

その他に緩和型胃アニサキス症といって、痛みもなく無症状なものもあります。この場合は、健診時の内視鏡検査で、胃粘膜からアニサキス虫体が見つかることもあります。

ちなみに、胃の粘膜に咬みつくために痛みが出ると思われがちですが、実際はそのような直接的な刺激ではなくアレルギー反応等によって痛みが出るとされています。

腸アニサキス症

アニサキスが腸に入ってしまう「腸アニサキス症」では、食後10時間から数日経って激しい腹痛、悪心、嘔吐などの症状が現れます。

また、腸閉塞や腸裂孔(腸に孔が開く)を併発して、手術が必要となることもあります。虫垂炎、腸閉塞、腸穿孔などと症状が似ているため、診断の注意が必要です。

寄生後1週間前後で虫体が便と一緒に排出されることが多いのですが、場合によっては慢性化し、数か月にわたって生存しつづけることもあります。

消化管外アニサキス症

アニサキス虫体が消化管に孔をあけて、腹腔内に脱出し、大網、腸間膜、腹壁皮下へ移動して、好酸球性肉芽腫を形成することもあります。また、体内の様々な場所(胸腔、腹腔、肺、腸管膜、リンパ節など)に及ぶことがあります。

好酸球性肉芽腫とは

血液中の好酸球(白血球のひとつ)は病原体や寄生虫の感染を防ぐ役割があります。アニサキスが寄生すると、好酸球が虫体の入り込んだ場所に浸潤して、膿瘍をつくります。膿瘍が持続すると、周囲に肉芽組織から成る繊維性組織ができて、それを好酸球肉芽腫といいます。予後は良好な疾患です。

アニサキスアレルギー

体内にアニサキスのアレルゲン(アニサキス由来のたんぱく質)が入ることで発症します。

この場合、冷凍や加熱により、アニサキスが死滅した状態の魚を食べても発症することが報告されています。

アニサキスのアレルゲンは初めて体内に入った時は発症しないこともありますが、2度目に体内に入った時は発症する可能性が高く、症状も重くなります。

主な症状は蕁麻疹になりますが、その他にも腹痛、血圧降下、呼吸不全、意識消失などのアナフィラキシー症状が現れることがあります。

また、胃・腸アニサキス症とアニサキスアレルギーが併発することもあります。

非常にまれな例ですが、アニサキスアレルギー患者が魚を餌にして飼育されたニワトリを食べて発症した例が報告されています。餌になる魚に寄生していたアニサキス由来のアレルゲンが、ニワトリに残存していたと考えられています。

死亡例はなく予後は悪くない

胃アニサキス症の痛みは、救急車を呼ぶほど激しいこともありますが、予後は悪くはありません。腸閉塞や穿孔などを併発した場合は重篤になることもあります。

現在のところ、アニサキス症による死亡例は報告されていません。

検査・診断方法

胃・内視鏡

胃アニサキス症が疑われるときは「胃内視鏡検査」

胃内視鏡検査により虫体を摘出して、形や特徴から病原幼虫の種類を特定します。

腸壁や消化管外に寄生している場合は「血液検査」

幼虫が腸壁や消化管外に寄生している場合は診断が難しいため、血液による抗体検査(抗アニサキスIgG・IgA抗体検査)を行います。陽性であれば、腸アニサキス症や消化管外アニサキス症の可能性が高くなります。

アニサキスアレルギーの場合は「血液検査」

アニサキスによるアレルギーの確認には、血液による抗体検査(特異的IgEアレルゲン検査)を行います。陽性であれば、アニサキスアレルギーが強く疑われます。

超音波、X線検査も

小腸アニサキス症では超音波検査や、X線検査により診断されることがあります。

治療方法や薬など

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胃アニサキス症は虫体の摘出で激しい痛みが治まる

胃内視鏡検査でアニサキスを摘出すると、激しい痛みはなくなりますが、軽い痛みは数日残る場合もあります。

腸アニサキス症の場合は対症療法(痛み止めや吐き気止めなど)

腸に寄生した場合、腸管が厚くなり、腸管の通過障害(腸閉塞)を起こすことがあるため、場合によっては手術で病変部位を摘除します。

腸閉塞がなければ、対症療法を行いながら、虫体が死滅することによって症状が緩和するのを待ちます。(アニサキス幼虫は人体内では1週間程で死滅することが多いとされています。)

アニサキスアレルギーの場合は症状に合わせた投薬

アニサキスアレルギーの場合は、アニサキスを取り除いても症状は治まりません。

治療としてはアレルギー症状にあわせた投薬が必要です。

アニサキスアレルギーを一度でも発症された方は、再発を防ぐため、アニサキスに寄生される可能性のある魚介類の摂取を控えるようにしてください。

アニサキスアレルゲンについては、現在、遺伝子などによる研究が進んでいて、血液検査での特異的IgE抗体の検出が、アニサキスアレルギーの有力な診断方法になると考えられています。

アニサキス症に効果のある薬

現在のところ、アニサキス幼虫に対する効果的な駆虫薬や特効薬はありません。


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アニサキス症の予防には冷凍や加熱が重要

厚生労働省がアニサキス症予防の基本としているのは、次の3点です。

  • 目視で確認すること
  • 鮮度を徹底すること
  • 加熱・冷凍すること

中でも冷凍と加熱については、以下の点に注意してください。

マイナス20℃で冷凍

マイナス20℃で24時間以上凍結(中心部まで完全に凍結)すると死滅します。家庭用の冷蔵庫ではマイナス20度以下に下がらず、アニサキスが死滅しない場合がありますので、注意が必要です。
  

中心部まで加熱する

中心部までしっかりと加熱調理することで死滅します。(70℃では瞬間的に、60℃では1分間ほどで死滅します。)

加熱・冷凍以外で私たちができる予防法

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魚の内臓は生食しない

料理で用いるワサビ、醤油、酢、塩漬け、レモン汁などではアニサキスは死にません。魚の内臓は生で食べないようにしましょう。

加熱用か生食用か確認する

スーパーなどでは、生食用でない魚の切り身やタラの白子などが販売されています。生食用であれば通常は問題ありませんが、加熱用の食品にはアニサキスがついている可能性があります。(目視で確認できます。)

必ず、生食用なのか加熱用なのか表示を確認し、調理するようにしましょう。

魚をまるごと調理する場合

魚は新鮮なものを選び、早めに内臓を除去しましょう。

アニサキスの運動能力は保存温度が低いと低下しますので、内臓を除去する前は低温(4度以下)で保存することで、内臓から身の方へ移動する可能性が低くなります。

調理する際はきちんと目視してアニサキスがいないかどうか確認し、魚の内側と外側は手で十分に水洗いしてください。

また、まな板、包丁、フキンなどから、アニサキスが他の食品に移動するのを防ぐため、調理器具は区別して調理してください。そして、魚介類にさわったあとは、よく手を洗います。

食べる際の注意点など

生食する場合はよく噛んで食べることも大切です。(アニサキスがいても、咬んで傷つけることで死滅します。)

シメサバなど酢じめにしてもアニサキスは死にませんが、北海道の郷土料理のルイベのように凍ったまま食べるものや、刺身を「タタキ」にして食べるという調理法は、アニサキス症を予防になります。

その他、海外など途上国を中心に衛生状態のよくない地域に行くときは、生水や生ものに注意しましょう。

海外のアニサキス症の予防対策は?

海外の予防対策については、厚生労働省のHPに次のような記載があります。

◆コーデックス(魚類及び水産製品の実施規範:CAC/RCP52-2003)
 中心部の加熱(60℃で1分)又は冷凍(-20℃で24時間)、生食用の魚は冷凍( -20℃で7日間又は -35℃で20時間)が、アニサキスの死滅に効果的としている。
◆米国(Fish and Fishery products Hazards and Control Guidance -4th Edition)
 生食用の魚は、-35 ℃以下で 15 時間以上又は -20 ℃以下 で7 日間以上等 の冷凍を勧告。
◆EU(Regulation  (EC) No 1276/2011)
 生食用の魚及び軟体動物は、-35℃で15時間以上又は -20 ℃で 24 時間以上の冷凍を義務付け。
引用元:アニサキスによる食中毒を予防しましょう(厚生労働省)

※コーデックス委員会は、国際食品規格の策定等を行う国際的な政府間機関です。日本は1966年より加盟しています。

その他、オランダでは1968年以降、ニシンなどに関して-20度以下で24時間以上の冷凍保存を法律で義務付けしています。

アニサキス症に感染した症例

スーパー鮮魚

実際にアニサキス症を発症した人の症例をご紹介いたします。

  • 一人暮らしの女性
    スーパーで新鮮なサバを勧められ、少し高価でしたが購入しました。家に帰って酢でしめて、夕食に食べました。
    その晩、突然、嘔吐を伴う激しい腹痛に襲われ、救急車を呼ぼうかとも思いましたが、夜は何とかしのいで翌日に病院を受診しました。
    病院で胃の内視鏡検査を受けるとアニサキス虫体を発見されました。医者からはこれからは加熱して食べるように言われました。
  • 男性会社員
    お寿司屋で刺身(しめさば、生ホタルイカなど)を食べ、6時間ほどして胃痛に襲われました。
    次の日になっても激しい胃の痛みは治まらず、自宅で吐血して救急搬送され入院となりました。検査で胃アニサキス症とわかり、内視鏡で除去しました。数日間は胃の痛みが続きました。
    お店に連絡したところ保健所の人が家に来て、過去3日の食事内容を聞かれました。
    その後、保健所から連絡あり飲食店で食中毒になったと認定されました。

日本の保健所の対応について

日本では1999年に食品衛生法施行規則が改正され、アニサキスによる食中毒の疑いがある場合は、24時間以内に保健所に届け出ることが必要となりました。

また、2012年の改正では、食中毒事件票の様式にある「病因物質」にアニサキスが加えられました。

飲食店、魚屋などで提供されたものを食べてアニサキス症が発症した場合、届け出を受けた保健所は調査を行い、医師からの診断名がつけば、食中毒として扱われます。

自冶体により日数は異なりますが、お店は営業停止処分を受けることになります。営業者は予防対策を徹底しなければなりません。

看護師からひとこと

アニサキスに関わらず、調理の際は食中毒や様々な病気を予防するためにも、食品の正しい調理方法を知っておくことが大事です。

アニサキス症の疑いで受診する場合は、医師に食べたものについての情報をきちんと伝えるようにしましょう。

参考文献・サイト

アニサキスに関する質問や回答が多数寄せられています。こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:胃腸]

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