更新日:2017年10月08日
パーキンソン病とは
パーキンソン病というのは、1817年にイギリスの医師、ジェームズ・パーキンソンによって発見された病気で、そのまま名前の由来となりました。
パーキンソン病は脳の中脳の一部が変化することで、簡単に言うと「運動がスムーズにできなくなる病気」です。難病に指定されており、患者数は10万人あたり100~150人と言われています。
パーキンソン病の原因
パーキンソン病は、40~80歳で発症し、中でも50~70歳代に多く発症します。原因は、中脳の中でも黒質とよばれる部分の細胞が変性してしまい、そこで作るはずのドーパミンが減ってしまうことで起こります。
人間は視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚などから得た情報を脳にインプットし、それを思考・判断して骨格筋に指令を出すことで、身体を動かしています。
その情報伝達の物質にドーパミンが使われるのですが、そのドーパミンの量が減ってしまうためうまく情報が伝わらなくなり、スムーズに動くことができなくなってしまうのです。
ドーパミンの量が正常の20%以下にまで減ると、パーキンソン病の症状が出現するとされています。
なぜ黒質が変性してしまうのでしょうか?脳の神経細胞は誰でも加齢とともに減少するものですが、パーキンソン病の患者さんは通常の加齢に比べて黒質の神経細胞の減り方が早いことが解っています。
そしてその隙間にレビー小体という細胞死に関与している異常なタンパク質が溜まることが関係しているといわれています。
レビー小体の溜まる原因は、環境や遺伝等いくつかの原因が重なった結果起こるという研究結果がありますが、まだどれも仮説の域を出ていません。
原因が解明されれば、根本的な治療薬も開発される可能性がありますが、メカニズムの真相はまだ解明されていません。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病には4大症状と呼ばれる4つの症状があります。
- 安静時振戦
- 無動
- 筋強剛
- 姿勢反射障害
実際には発症年齢や治療開始のタイミング、治療効果、その他個人差によって症状のあらわれ方は違います。
初期症状としては、片側の運動障害で始まります。一番特徴的なのは安静時振戦で、これでパーキンソン病に気づかれる方が多いです。
では、それぞれの症状について具体的に説明していきましょう。
1. 安静時振戦
じっとしているときに手が震えてしまうものです。何かを持とうと動き出せば、動作とともに震えは止まります。
左右非対称に現れ、1秒間に4~6回の規則正しい動きをします。
片側の手 → 同側の足 → 反対側の手 → 足
という具合に、逆N字型に進行することが多く、手の震えがないのに足から始まるケースもあります。
振戦は、ただ震えるだけでなく、pill-rolling tremorという指先で丸薬(pill)を丸めるような動きをすることも特徴です。
そして、足は踵で床をうつような動きをするタッピング(tapping)様振戦になります。
2. 無動・寡動(かどう)
動作が乏しく、ゆっくりになってしまうことを無動と言います。無動より軽度の場合には寡動といいます。
動作の開始に時間がかかり、歩く際の最初の一歩が出にくくなったり、歩行が歩幅の小さい小刻みな歩行になったりします。また、顔面の動作(=表情)が乏しくなることで、仮面のような無表情になります(仮面様顔貌)。
他にも声が小さくなり、動作そのものが遅くなり、小字症(書く字が段々小さくなる)も、無動のうちの一つとして現れます。
3. 筋強剛(固縮)
筋肉の緊張が亢進してしまうことで起こります。
通常、筋肉は腕を曲げたり伸ばしたりするように、どちらかが収縮している時にはどちらかは緩んで(弛緩)していて、そのバランスで関節がスムーズに動かせるようになっています。
ところが、パーキンソン病ではブレーキがかかり過ぎて、筋肉の緊張が亢進します。緩めることができないため、硬い動きになってしまうのです。
具体的にはどんな動きかというと、医師が手と肘を持ってゆっくりと手を動かした時、下のような減少が現れます。
- 歯車現象 カクカク・カチカチと、歯車のような抵抗感がある。
- 鉛管現象 肘が曲がるまで常に鉛の管を曲げるような抵抗感がある。
4. 姿勢反射障害、歩行障害
無動・筋強剛に伴い、姿勢を保つことができなくなります。パーキンソン病の患者さんは、首を前方に突き出し、上半身は前かがみになって腰が固い、膝を軽くまげた前傾姿勢をとるのが特徴です。
これは、身体の位置の変化に対応して、姿勢を立て直すことができないために起こってしまうものです。
この姿勢異常(前傾姿勢)に加え、歩行にも様々な障害が現れます。
- すくみ足 … 足を前に出すことができない(歩き出せない)。
- すり足歩行・小刻み歩行 … 前かがみのまま床を足でするように、小刻みに歩く。
- 上半身(腕)を振らない。
- 加速歩行(突進現象) … 一度歩き始めると、前のめりのまま加速して止まれない。
上の四大症状以外にも、自律神経症状や精神症状が現れることがあり、これがパーキンソン病患者さんの介護を一層困難にさせることにつながっています。
- 自律神経症状 … 便秘、排尿障害、起立性低血圧
- 精神症状 … うつ、不安、認知症、睡眠障害
ゆっくりと進行して食べることができなくなることも・・
パーキンソン病の症状はゆっくりと、年単位で進行します。当初の日常生活は自立していますが、病状が進行すると段々運動機能が低下・喪失し、最終的には自力で歩くこともトイレに行くこともできず、寝たきりになってしまいます。
食事を自分で食べるという動作だけでなく、飲み込む機能(嚥下機能)も低下すると、固形物を口から摂取することができなくなります。
そうなると、外から栄養と水分を投与する必要が出て来るため、お腹に穴をあけて管を通す「胃瘻」を造設することもあります。
パーキンソン病の予防法
パーキンソン病の発症そのものを予防する方法は、現在解明されていません。しかし、初期の段階から薬の服用とリハビリを行うことで、病気の進行を遅くすることは可能です。
パーキンソン病の患者さんは、現在の筋力・体力を維持することが大切です。日常生活にリハビリを取り入れることで、運動機能の低下するスピードを遅くすることができます。
現代の医学では根本的な治療がありませんので、リハビリそのものが進行の予防でもあり、治療でもあると言えるわけです。
リハビリは継続することが大切
リハビリの目標は、できるだけ現在自立している日常生活動作(トイレや食事、移動動作など)を長く維持することです。
しかし、パーキンソン病患者さんは意欲低下やうつ状態になりやすい傾向があります。「さあ、リハビリしよう!」といっても、なかなかできるものでもありませんし、リハビリがストレスになってしまいます。
ですから、リハビリと構えずに掃除や洗濯・買い物等の家事、散歩、ガーデニング・農作業、ゴルフ、手芸など、うまくできなくても続けることがポイントです。
もし積極的に取り組むのであれば、パーキンソン体操を行うとよいでしょう。パーキンソン病治療薬を開発している各社が、ホームページ上でパーキンソン体操を載せていますので、参考にしてみてもいいですね。
もしかかりつけの医療機関にリハビリ施設があるのであれば、自宅でできるプログラムを教えてもらってもよいでしょう。
体操をするときには、是非音楽をかけてみてください。気分的にも楽しくできますし、動き出しがうまくいかないパーキンソン病患者さんには、音楽に合わせる方がスムーズに動くことができます。
ただし、調子の悪い時や薬の効きが悪い時間などは避け、転倒には十分配慮して行うように注意しましょう。
パーキンソン病の合併症・その他の症状
パーキンソン病は、身体をスムーズに動かすことができなくなる病気ですが、合併症は症状が進行したことで発症するものと、治療薬による副作用が原因で現れている場合があります。
誤嚥性肺炎
飲み込み(嚥下)がうまくできなくなることで、肺炎を起こします。重度の場合は人工呼吸器を装着して、呼吸管理・全身管理が必要となり、命を落とすこともあります。
骨折
歩行障害による転倒で骨折し、寝たきりになることもあります。
悪性症候群
薬の調節がうまくいかなかった時や、感染・脱水が原因となって、高度な固縮、高熱、意識障害を起こします。高度な場合は血管内凝固症候群や横紋筋融解症など、命に関わることもあります。
ウェアリング・オフ
薬の持続時間が短くなり、症状が1日の中で変動します。症状のあらわれ方や時間を日誌に記入し、医師が薬の調整や他の薬を併用することで予防や軽減ができます。
ジスキネジア
不随意運動といい、自分の意思とは無関係に身体が動いてしまいます。口をもぐもぐさせる。口を突き出す。目を閉じるとなかなか開けることができずしわをよせている。勝手に手足が動いてしまうなどの症状があります。
ウェアリング・オフと同様、薬の調整によって改善します。
薬の副作用による合併症など
薬の副作用として幻覚や吐き気・嘔吐、食欲不振といった合併症が現れることもあります。
薬の副作用に関しては調整が可能ですが、症状の進行による場合には改善は難しく、現状の機能を維持することやベッド周りや自宅内の環境を整えるといった、予防策がメインです。
予防策をしっかりとることで、進行を遅らせて介護の負担を減らすことも大切です。また、入院日数を短くし、ひいては入院費用を安くすることにもつながるかもしれません。
パーキンソン病の検査
確定診断は、神経内科医のいる医療機関で行います。診断には神経診察が最も重要であり、検査としては頭部CT・MRI検査などの画像検査を行います。
パーキンソン病は採血や画像検査ではっきりと診断することが難しく、また、パーキンソン病のような症状を呈する疾患も複数あります。パーキンソン病のような症状のある人の中から、他の症状と病気の可能性を除外して最終的に診断します。
診断のポイント
- 病歴や診察所見はどうか?
- 2. 抗精神病薬・胃薬・制吐薬・降圧薬等、パーキンソニズム(4大症状)を起こす薬を使っていないか?
- 脳CT・MRIでの異常はないか?
- パーキンソン病薬を使ったら改善したか?
他にも認知症の検査やうつ状態を示す所見がないかといった簡易テストを、診察室で医師が聞き取り調査することもあります。これらの過程を踏んで、初めてパーキンソン病と診断することができます。
パーキンソン病の治療法
パーキンソン病の治療には、大きく分けて薬物療法・運動療法・手術療法があります。
主に薬物療法とリハビリを主体とした運動療法が治療の柱となりますが、残念ながら現在の医療ではまだ根本的に「治す」薬はありません。
パーキンソン病のガイドラインによると、治療目標は「患者さんが年齢相応の日常生活活動が行えること」「現在就いている職業の維持がはかれるように症状を改善させること」とされていますから、現状維持できていれば治療効果があるということになりますね。
薬物療法は、症状の程度や発症からの期間に応じて行います。現在パーキンソン病治療薬には8種類あり、主に使われるのがL-dopaとド-パミンアゴニストです。
運動療法は予防の項目でお伝えしたように、リハビリがメインになります。
主なパーキンソン病治療薬のご紹介をしましょう。
パーキンソン病治療薬
L-dopa
不足したドーパミンそのものを補充します。パーキンソン病に対して最も有効とされますが、副作用でジスキネジア、ウェアリング・オフ、悪性症候群を起こしやすいのが難点です。
ド-パミンアゴニスト
ドーパミン受容体を刺激し、ド-パミンと同じ作用を引き起こす薬です。L-dopaより若干作用は劣りますが、ウェアリング・オフやジスキネジアといった運動合併症が起こりにくく若年の患者さんの薬として選択されます。
薬による治療の注意点など
パーキンソン病の治療薬は、症状の改善と副作用のバランスが非常に難しく、自己中断で薬を中断したりすることで、悪性症候群のような命に関わることが起こります。
バランスを上手にとりながらコントロールし、今できる機能をできるだけ維持するためにも、治療は神経内科専門医に相談することが必須です。
グルタチオンの効果も
また、最近グルタチオンによる点滴が症状を改善させるということが言われており、実際に劇的に改善した症例も報告されています。
グルタチオンは本来肝機能の改善のために開発された薬ですが、最近は慢性疼痛やパーキンソン病の治療薬としても使われています。
ただし、まだ標準治療にはなっていないので、全ての医療機関で採用している訳ではありません。根本的な治療薬が開発されていないことを考えると、副作用の殆どないグルタチオンは、パーキンソン病で悩んでいる患者さんの希望と言えるかもしれません。
手術による治療
脳深部刺激療法(DBS)といって、脳内に電極を植え込んでパーキンソン症状に関係する脳内神経回路の一部を刺激することで、症状を改善させる方法です。パーキンソン症状全般を改善し、すくみ足やジスキネジアにも一定の効果があります。
ただ、認知機能の低下が急速に進行するなどのリスクが手術にはありますので、薬物療法で効果が得られないときの選択肢となっています。
看護師からひとこと
現在パーキンソン病の根本的な治療法はありませんが、日々、研究開発されてきています。
病気と上手く付き合うためには自らパーキンソン病のことを十分知ることが大事です。
主治医、神経内科の専門医などから情報を納得できるまで得るようにし、治療を受けるようにしましょう。困りごとや疑問も相談しましょう。
そして、病気にかかる前と同じ生活を続け、趣味や娯楽を積極的に楽しむことも大切な治療のひとつになります。
まとめ
パーキンソン病は中脳黒質の変性によるもので、根本的治療はなく特定疾患となっています。ドーパミンが不足により、スムーズに運動できなくなります。
安静時振戦、無動、筋強剛、姿勢反射障害は4大症状と呼ばれています。年単位でゆっくりと症状が進行し、寝たきりになってしまうことがあります。
パーキンソン病の予防には、日常の生活の維持がとても重要になります。