更新日:2017年09月07日
目次
ピロリ菌とは
ピロリ菌は胃の粘膜に定着する細菌です。本体部分と鞭毛(べんもう)部分があり、本体は2〜3回ねじれた螺旋(らせん)の形で、長さは4ミクロン(4/1000㎜)程度、一方の端に鞭毛と呼ばれる細長い「しっぽ」のようなものが4~8本ほど出ています。鞭毛を回転させることで(1秒間に100回程度の回転)、素早く動くことができます。
ピロリ菌は胃の中に住み着いてしまうため、胃を中心に十二指腸などにおいても、病気を発生させる原因になっています。
感染している人の多くは子どもの頃に感染しています。子どもの時期に感染しても、ほとんど症状がなく、そのまま胃に定着し、大人になっても感染したままの状態になります。自然に菌がなくなることはほとんどないため、菌をなくすためには除菌療法などが必要になります。
感染期間は長期になると、胃全体に感染場所が広がっていき、慢性胃炎になっていく可能性があります。さらには慢性胃炎から、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がんなどに発展していくことがあり、胃の他の場所でも病気になる恐れがあります。
ピロリ菌が胃に生息できる理由
胃は強い酸(塩酸)である胃液によって、食べ物を消化・分解していきます。したがって、胃の中はとても強い酸性(pH1〜2)で、金属も溶かすことができます。この中では通常は細菌などは生きていくことができません。
しかし、ピロリ菌はそんな場所に住み着くことで、外敵から自分を守って暮らしているのです。ただし、胃の中に定着するためには、胃の中の酸から身を守らなくてはなりません。
ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出すことで、胃の中にある尿素から、アルカリ性であるアンモニアを作ります。酸性の胃酸とアルカリ性のアンモニアで、自分の周りを中和させて生きているのです。
ピロリ菌の感染経路・感染原因
ピロリ菌の感染経路は明確に分かっていませんが、これまでの研究などから経口感染(口から入って感染)すると考えられています。つまり、飲み水や食べ物を通して、体内に入ることになります。
可能性が高いのは食べ物の口移し
ピロリ菌は、概ね5歳以下の幼児期に感染するといわれています。幼児期は免疫力が弱く、胃の中の酸性が強くはありません。こういったことから幼児期の体というのは、ピロリ菌が生きやすい環境にあるのです。
幼児期にはお母さんがお子さんに食べ物を口移しであげることがあります。ピロリ菌は唾液などからも見つかることがあり、こうすることで、お母さんにいたピロリ菌がお子さんに感染してしまう可能性があるのです。
また、便からもピロリ菌が検出されることがあります。小さなお子さんがいるうちは特に衛生的にしていないと、ここからも感染してしまうことがあるのです。
その他に感染の原因として疑いがあるのは、ゴキブリです。研究ではピロリ菌が存在している食べ物をゴキブリが食べた場合、1週間程度もピロリ菌のある糞を出すというのです。台所などでその糞が食材などに混ざってしまうと、感染する可能性がありますので、子どものいる家では、家の中を清潔にした上で、ゴキブリの駆除をした方がいいかもしれません。
大人は新たに感染しにくい
大人の男性がピロリ菌を口から入れてしまった場合にどうなるのでしょうか。実験では、急性胃炎になることはあっても、そのまま胃の中に定着しなかったようです。大人は免疫力、胃酸の強さなどにより、新たに感染することはあまりありません。
また、キス(濃厚なものも含め)や、同じコップなどで飲み物を回し飲みするといったことでは感染しないと考えられています。
ピロリ菌に感染している人の傾向
ピロリ菌に感染している人は、次の病気になる可能性が報告されています。これらは、除菌することで改善されていきます。(詳しくは後段の除菌の項目を参照してください。)
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 胃癌
- 胃MALTリンパ腫
- びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
- 小児の鉄欠乏性貧血
- 慢性蕁麻疹などの胃外性疾患
ピロリ菌感染率と予防
ピロリ菌は上下水道が十分に完備されていないところに多く発生すると考えられていて、日本では戦後に生まれた人が多く感染しています。特に団塊の世代以前の人の場合、約80%がピロリ菌に感染しています。
現在では十分に衛生環境は改善されていますので、若い世代の感染率は低くなっています。10代、20代では10%から20%程度、欧米の先進国においても感染率は低いことがわかっています。
ピロリ菌の感染について、確実な予防法はありませんが、感染率は著しく低下していますので、予防についてあまり神経質になる必要はないでしょう。
前述のとおり、親から子への食べ物の口移しに注意したり、家の中を清潔にしたりすることなどが大切です。
ピロリ菌に感染しているときの症状
子どもの頃にピロリ菌に感染した場合、まったく症状がでません。大人になってから胃の痛み、胃が重いといった症状が出てきて、検査して感染がわかるという場合がほとんどです。
検査する時には、胃に異変が出ていますので、胃カメラ(内視鏡)の検査などを行うと、潰瘍や出血の跡などが見つかることがあります。
ピロリ菌に感染していると、胃の粘膜が弱くなり、一般的に次のような症状が現れてきます。
- 胃もたれ
- 食欲不振
- 胃痛
- 胸やけ
- 吐き気
また、胃の機能が低下することで、おなら、げっぷなどの症状が出ることもあります。
なお、最近の研究では、胃潰瘍になる原因として、ピロリ菌感染と、痛み止めとして処方される非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が最も大きなものといわれています。ストレスや暴飲暴食などは、胃潰瘍の大きな要因ではありません。
ピロリ菌の検査
内視鏡検査で胃炎・胃潰瘍または十二指腸炎・十二指腸潰瘍と診断された場合、その要因としてピロリ菌に感染しているかどうかを調べます。ピロリ菌の検査には、いくつか方法があります。
胃カメラ(内視鏡)による検査
内視鏡を使用して、胃の中の様子を観察し、同時に胃の組織を採取します。採取した組織を使用して、「迅速ウレアーゼ試験」、「組織鏡検法」、「培養法」の検査をします。
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌はアンモニアを作り出しますので、そのアンモニアの量を調べます。反応液の変化によってピロリ菌判定を行います。
組織鏡検法
内視鏡で取った胃の粘膜に色をつけて顕微鏡で観察し、ピロリ菌が実際に存在するかどうかを確認します。
培養法
採取した胃の粘膜を使用して、1週間程度培養し、ピロリ菌の存在を調べます。
尿素呼気試験
ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素は尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解します。このときの二酸化炭素が息の中に含まれて出てきます。
尿素製剤である検査用の薬を服用し、服用の前後の息(呼気)に含まれる二酸化炭素などの量を調べて、ピロリ菌への感染を確認します。
最も精度の高い診断方法です。簡単に行えることもあり、除菌療法後の4週以降の除菌判定の検査に推奨されています。
抗体測定
ピロリ菌に感染すると菌に対する抗体を作ります。その抗体の有無を、血液や尿を採取して調べます。このことでピロリ菌に感染してことがわかります。
便中ピロリ抗原測定
便を採取して調べることにより、ピロリ菌の抗原があるかを調べます。
ピロリ菌の検査は、これらのうち、いずれかを用いて行われますが、複数の検査を併用することで、より正確な判定ができます。
ピロリ菌検査の費用
ピロリ菌検査だけの場合、胃カメラや他の検査を合わせて行うことで高額になることもありますが、抗体検査は保険適用なしで全額自費でも3,000円程度、便中ピロリ抗原測定は5,000円程度で受けることができます。
費用が心配な場合は事前に医療機関に問い合わせをした方がよいでしょう。
ピロリ菌の除菌
ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍の大きな原因とされています。
胃がん予防
特に胃がんとの関係については、世界保健機構(WHO)が1994年にピロリ菌を発がん性のある細菌だと発表しました。これはグループ1という分類で、「ヒトに対する発がん性が認められる」という明確なものになります。
さらには、ピロリ菌には遺伝子によって種類があり、その中でも日本人は毒性が強く、胃がんを引き起こしやすいものを保有していると言われています。日本ヘリコバクター学会のピロリ菌除菌に関するガイドラインによると、除菌した人は、除菌しない人と比較して胃がんの発生率が1/3になるといいます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの再発予防の効果
ピロリ菌に感染している人が胃潰瘍や十二指腸潰瘍になってしまった場合、半数以上(多い場合8割程度)の人が再発すると言われていますが、除菌後の再発は2〜3%程度というデータがあります。
【参考】日本癌学会「胃がんで亡くならないために何をなすべきか」
保険の適用について
以前は胃潰瘍などの病気がなければ、除菌は保険の対象ではありませんでしたが、現在では軽い胃炎でも保険適用が認められるようになりました。自分の経験でいえば、胃のもたれなどの不調から内視鏡の検査を行い、ピロリ菌の感染が発覚しました。この場合のピロリ菌除菌には保険が適用されました。
薬などは後述しますが、費用は約2,000円程度でした。 ピロリ菌の除菌が必要であるかは、医師と相談する必要がありますが、主に次の病気の人はピロリ菌の除菌療法の対象となります。
- 内視鏡検査などで胃潰瘍、十二指腸潰瘍と診断された人
- 胃MALTリンパ腫の人
- 特発性血小板減少性紫斑病の人
- 早期胃がんに対する内視鏡的治療後(胃)の人
- 内視鏡検査でヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と診断された人
※これ以外の人でも、ピロリ菌の除菌が可能な場合がありますので、医師と相談してください。
除菌に服用する薬
ピロリ菌の除菌療法は薬を飲むことによって行います。
飲む薬は、2種類の「抗菌薬」と「胃酸の分泌を抑える薬」の合計3剤で、1日2回、7日間服用するというものです。
正しく薬を服用すれば約80%の確率で除菌が成功します。そして除菌の後に、もとの病気の治療を行います。(除菌療法の前にもとの病気の治療を行う場合もあります。)
ピロリ菌除菌の初回の治療に使用する薬はランサップ800というものです(他にもありますが、薬の成分などは同じものです。)。
ランサップ800には薬のパッケージに日付を記入する欄があり、朝・夕が分かれて1回の服用ごとにパックされています。
飲む前に服用する日付を記載して、飲み忘れがないようにするといいでしょう。 ランサップ800には次の薬が含まれています。
- タケプロンカプセル30
ランソプラゾールが主成分で、胃酸の分泌を抑制し、抗生物質であるクラリス錠200とアモリンカプセル250の作用を高める薬です。 - クラリス錠200
クラリスロマイシンが主成分で、ピロリ菌に対して抗菌作用のある薬です。 - アモリンカプセル250
アモキシシリン水和物が主成分で、ピロリ菌に対して抗菌作用のある薬です。
これらの薬の使用においては、以前に薬を使用してかゆみ、発疹、アレルギーがなかったか、腎臓や心臓、肝臓の障害がないか、妊娠や授乳中でないか、家族にアレルギーがある人がいないかなど、自分の状態を医師に相談しておく必要があります。
ピロリ菌除菌にかかる費用
以前は保険の適用がなかったようですが、現在ではほとんどの場合に保険の適用があります。保険が適用される場合は2,000円から3,000円程度の費用ですみます。
ピロリ菌の除菌治療中の副作用・症状と注意
除菌治療中の主な副作用、症状は以下のようなものがあります。
- 下痢
- 腹痛
- 味覚異常
- 舌炎
- 口内炎
- アレルギーによる湿疹など
これらの中でも頻度が高く現れるのが「下痢」です。その他にも、薬を飲んでから、かゆみを伴う発疹が出た場合など、異変や症状が出た場合はすぐに医師に相談してください。
ただし、治療中止になるほどの強い副作用が起きる確率は全体の2~5%程度といわれています。
また、除菌を始めたら薬を欠かさず飲むことが重要です。一回でも飲み忘れると除菌できる可能性が低くなってしまます。さらには、2回連続して飲まなかった場合は、まず成功しないとも言われています。除菌治療中の喫煙も除菌率を低下させる要因となりますので、治療中は禁煙するようにしましょう。
一次除菌が失敗した場合の再除菌法
二次除菌にはランピオンパックという薬を使用します。
クラリスロマイシンの代わりに「メトロニダゾール」という抗生剤を用いることとなります。
2回行うことによって、初回および二次除菌を合わせると95%以上の成功率となります。なお、二次除菌で使用するメトロニダゾールは服用中に禁酒しなければなりません。その他、一次除菌と同様に副作用が生じる可能性がありますので、医師とよく相談して服用してください。
また、ランピオンパックについてもランサップ800と同様に、朝と夕に分かれてパックされていて、飲み忘れのないよう工夫がしてあります。
- タケプロンカプセル30 一次除菌と同様です。
- アモリンカプセル250 一次除菌と同様です。
- フレジール内服錠250 メトロダニゾールが主成分で、ピロリ菌に対して抗菌作用がある薬です。
二次除菌の費用
保険適用で三割負担の場合、3,000円程度となります。
除菌の判定検査
一次除菌、二次除菌ともに、除菌が終了した後、4週間以上経過してから、ピロリ菌の検査を行います。この検査でピロリ菌が残っていなければ、除菌成功です。検査方法は前述のとおりです。
二次除菌に失敗した場合
再除菌に失敗した人はピロリ菌の専門医に相談する必要があります。
また、初診保険適用された人は再除菌までは保険適用になりますが、再再除菌以降は保険適用外になりますので注意してください。
【参考】H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医一覧(日本ヘリコバクター学会)
ガイドラインの改定で新たな除菌薬が加わった
2016年8月に、日本ヘリコバクター学会は7年ぶりに「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン」を改定しました。
主な改定点としては、胃癌予防策として、ピロリ菌除菌を中心とした方法を推奨したこと、ピロリ菌の除菌薬として新たに「ボノプラザン(商品名:タケキャブ)」がガイドラインに加わったことなどが挙げられます。
新たな薬は、除菌率がとても高く、一次除菌で92.6%、二次除菌で98.0%という記載があります。除菌で失敗しないよう、新たな薬が出てくるのはとても嬉しいことですね。
除菌の成功率を上げる方法
確実にピロリ菌を除菌するためには、必ず指示された薬は服用することです。薬を中止したり薬をのみ忘れたりすると、除菌がうまくいかないだけでなく、治療薬に耐性をもったピロリ菌があらわれることもあります。
ピロリ菌に効果のあると言われる食品
最後にピロリ菌に効果のあると言われている食品をまとめておきます。
Lactobacillus gasseri OLL2716(乳酸菌OLL2716株)の入ったヨーグルト
東海大学などの研究で、乳酸菌OLL2716株がピロリ菌の活動を抑制し、胃の炎症を改善することがわかっています。
ココア(カカオFFA)
ピロリ菌を除去する効果のあるココアの成分は、オレイン酸とリノール酸を代表とする遊離脂肪酸です。これは「カカオFFA」と呼ばれ、ココアの製造過程で作られる成分です。
ココアには他の飲料と比べて粘り気があるため、胃の粘膜にくっつき、より効率的にピロリ菌と接触することができます。
カカオFFAはピロリ菌の中に入って行って攻撃し、攻撃を受けたピロリ菌は死んで排出されてきます。
ブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)
ブロッコリースプラウトには解毒作用、抗酸化作用、新陳代謝があり、さらには「スルフォラファン」という成分がピロリ菌に作用することが判明しています。
ピロリ菌を死滅させるためには、ピロリ菌が持つウレアーゼを除去することや、ピロリ菌の細胞膜にダメージを与えることが必要となります。スルフォラファンはピロリ菌に関連する酵素を誘導して、直接ピロリ菌を攻撃できるようにします。
臨床試験でもブロッコリースプラウトを食べ続けた患者に対して、ピロリ菌の減少が報告されています。
ブロッコリースプラウトは普通のスーパーなどで販売していますので、簡単に手に入ります。
海藻のヌルヌル成分(フコダイン(フコイダン))
フコダインとはワカメ、モズクなど海藻類を覆っている「ヌルヌル」の成分のことです。胃の中に入ると胃の粘膜に張り付いて、胃に覆いかぶさって保護してくれます。この保護作用によって胃は炎症や潰瘍をゆっくりと修復することができます。
また、フコイダンは酢と相性がよく、酢と一緒になることによって胃腸への接着面が多くなり、より高い効果が得られます。胃の粘膜に張り付いて、胃粘膜に住み着くピロリ菌に吸着し、そのまま体外へ排出します。約2~3ヶ月ほど摂取することで効果があるといわれています。
看護師からひとこと
除菌が成功したからといって、胃癌にならないという訳ではありません。また、胃の病気は様々ですので、定期的に胃カメラや胃癌健診を受けることが大切です。