更新日:2017年11月18日
低血糖とは
低血糖は、血糖値が70mg/dl未満になると起こると言われ、主に糖尿病治療中でインスリンの注射や、経口糖尿病治療薬を飲んでいる人に起こります。
ちなみに、これは体重とは関係ありませんから、いくら低血糖を起こすといっても痩せることとは関係ありません。
また、低血糖は、対応を誤ると重大な後遺症や命に関わることがありますので、正しい知識と対応が必要です。それでは、低血糖について詳しく説明していきましょう。
低血糖の原因
糖尿病の患者さんが低血糖を起こすときは、大きく分けて2つの理由で起こります。
- インスリン注射による低血糖
- 経口糖尿病治療薬による低血糖
全ての経口糖尿病治療薬が低血糖を起こしやすいわけではありません。特に、SU(エスユー)薬やグリニド薬といったインスリン分泌を促す薬を服用している方は低血糖を起こすことがありまずので、注意が必要です。
具体的には次のような時に低血糖となります。
- インスリンの単位を間違えた、打ったことを忘れて二度打った。
- インスリンが誤って血管内に入ってしまった(通常は皮下注射)。
- 経口糖尿病薬を誤ってたくさん飲んでしまった、飲んだことを忘れて二度飲んだ。
- 食事摂取量がいつもより少ない時や嘔吐や下痢を起こした時に(これらをシックデイといいます)、通常量のインスリン注射や経口糖尿病薬を内服した。
- 食事と薬の量がいつもと同じなのに、その日だけ登山や激しい運動をした。
- アルコールを摂取した。(肝臓でアルコールを解毒しようとすると、低血糖ときのために貯えられていたグリコーゲンという栄養源までもが分解されて、使われてしまうため)
ただし、高血糖が長く続いていた人の場合は、70mg/dlより高い血糖値の時でも低血糖様の症状を起こすこともありますし、反対に、低血糖を繰り返していると70mg/dlより低い血糖値の時でも低血糖症状が出ないこともあります。これを無自覚性低血糖と呼び、非常に危険な状態です。
また、インスリンと一口にいっても、実は作用時間が全く違います。作用時間によって5つの型があります。
- 超速攻型
- 速攻型
- 中間型
- 持効型
- 混合型
1超速攻型、2速攻型
この2つは食前に打つインスリンですが、打った後で食事が遅いと、食事の吸収が間に合わずに、食後なのに低血糖発作を起こしてしまうことがあります。
3中間型、4持効型、5混合型
これらは夜眠った後も効果が持続しますので、睡眠時に低血糖発作を起こす可能性があります。特にランタスを始めとした持効型は24時間以上の作用時間があり、朝食前の血糖値が低いという場合にはインスリンの単位を調節する必要があります。
処方されているタイプを把握しておきましょう
もし、あなたがインスリンを既に導入しているのなら、自分の処方されているインスリンがどのタイプか、どんな場面で低血糖発作を起こす可能性があるのか覚えておきましょう。
さらに、重症の低血糖の場合には、周りの人に対応をお願いすることも必要になりますから、家族だけでなく、職場の人にも重症低血糖時の対応を伝えておきましょう。
インスリン注射、経口糖尿病薬以外の理由
参考として、その他に低血糖の原因となるものをあげておきます。
- 薬物による低血糖(一部の抗生物質(ニューキノロン薬など)や抗不整脈薬)
- インスリノーマ:インスリンを分泌し続けてしまう、すい臓の腫瘍
- 反応性低血糖 :インスリンの出るタイミングがずれることで起こる低血糖
- インスリン自己免疫症候群:インスリンの投与歴がないのに、インスリンに対する自己抗体がつくられて、低血糖症を引き起こす病気
- 膵外性腫瘍:肝癌、消化器癌などによってインスリン様ホルモン(IGF-II)が産生されることで低血糖となる。
- インスリン拮抗ホルモンの低下:インスリン拮抗ホルモン(血糖値を上昇させるホルモン)がうまく働かないことによって低血糖となる。
低血糖の症状
低血糖は、いきなり意識を失ってしまうことはありません。実は血管内のメカニズムとして、血糖値が下がることでまず身体が「血糖値を上げなくては!!」と感知して、交感神経が活発になります。
交感神経はというのは、生命危機に陥ったときに生き延びようという原始的な神経で、この神経が働くことで飢餓状態にある体をなんとかしようとします。
この交感神経症状を「前駆症状」とか、「警告症状」と言います。主な低血糖の症状(前駆症状・警告症状)については、次のようなものがあります。
主な低血糖症状(前駆症状・警告症状)
- ふらつき、眩暈(めまい)、空腹感
- 無気力、脱力感、だるさ
- 顔面蒼白、冷や汗、手足の震え
- 生あくび、眠気、集中力の低下
- 目のかすみ、低体温、動悸、頭痛、もの忘れ、イライラ、過呼吸
交感神経は上の症状を発することで、「血糖値が低いぞ」と体に教えてくれると共に、一番大切な脳を低血糖から守るために他の機能をシャットダウンします。
脳は特に低血糖に対して弱い臓器のため、即座に省エネモードに切り替わります。そのために、ぼーっとしたり眠くなったりと、精神活動が低下するのです。
警告症状に気づかないこともある
そこで困るのは、糖尿病の患者さんには神経障害(特に、自律神経障害)があるということ。神経がマヒしているため、せっかくの警告症状に気づかないのです。
空腹感やふらつき・脱力感は、傍から見るよりも自分で感じる方が早い症状です。しかし、神経障害があるとこれらに気づきませんから、重篤な精神症状があらわれたり、意識レベルが低下したりして初めて周囲が気づく・・・ということがしばしばあるのです。
もしこの時に運転をしていたり、仕事における危険作業に従事していたらどうなるでしょう?それこそ、命に関わる重大事故を起こしてしまいかねません。場合によっては、自分だけでなく周囲の人間を巻き込んでの事故になる可能性もあります。
低血糖というのは、本当に怖いものであることがおわかりいただけたでしょうか?
早期に対処しないと重大な症状が出てくる
この前駆症状の間に低血糖を改善する(つまり血糖値を上げる)対処をしないと、血糖値は更に下がって重大な症状が現れます。
身体にとっては命に関わる非常事態ということになりますから、意識や呼吸の調節をしている中枢神経が発動するのです。
そして、この段階になってしまうと個人での対応は難しく、医療機関での対応が必要になります。主な中枢神経症状は下のとおりです。
低血糖症状(中枢神経症状)
- 意識障害 - 声掛けに反応が悪い程度から、意味不明な言葉を発したりする。
- 異常行動 - 暴れたり、パニック障害を起こしたり、精神的な異常を示す。
- 痙攣 - 全身もしくは身体の位置部分が、無意識にびくびく動く。
- 昏睡 - 意識障害が更に進むと、全く目も開けず、体動がなくなる。
このような状態になると、脳へのダメージも出ていますので、早急な対応が必要です。救急車を呼んで、医療機関へ搬送しなければなりません。
低血糖の予防法
たかが低血糖といえ、命に関わることもあります。そういった意味では、運動療法や経口薬で糖尿病のコントロールがつかなくてインスリンが導入された時点で、常に命の危険と隣り合わせということになります。
低血糖そのものを予防するためには、その日の体調や運動量・食事量に応じてインスリンや内服量を調節する、もしくは事前にかかりつけの医師に相談しておくといった対応が必要です。
シックデイルールというものを設けて、もし調子が悪い時にはインスリンの単位をいくつにしておくか、あらかじめ決めておくのも一つの予防手段です。
毎日血糖を自己測定していれば、(最近、朝の血糖値が低いから、先生にインスリンの単位を調整してもらおう)ということもできます。
インスリンを使用している場合には、原則、血糖測定器を処方医から貸し出しされているはずですから、毎日定期的に測定していれば低血糖発作やそれにまつわる事故も、予防できる可能性が高くなります。
また、低血糖を起こさないためには、ゆっくりと代謝されていくものを食べるとよいでしょう。特にアルコールを摂取するときには、食べ合わせに注意しましょう。
飲酒時のおつまみとしては、高タンパク・低脂肪のものが向いています。具体的には豆腐・枝豆・イワシ・ゆで卵・鶏肉等がおすすめですね。
アルコールによって肝臓の機能が障害されると、いつもより低血糖を起こしやすくなるからです。
低血糖の合併症・放置するとどうなるのか
低血糖における合併症というのは、ひらたく言ってしまえばそのまま低血糖を放置していた場合にどうなるか、ということですね。
症状の項目でもお伝えしましたが、低血糖で中枢神経症状が出てくると危険です。人間の脳は、糖からエネルギーを作って働いていますので、低血糖にとても弱いのです。
高度な機能を諦めて「省エネモード」になったとしても、そのまま放置されてしまったら脳の細胞を維持することができません。
寝ている間、知らぬ間に低血糖を起こしている場合には、朝、家の人が気づいた頃には低血糖発作から何時間も経過していることがあります。そこから急いで治療をしても、もとの意識レベルには戻れなくなることもあります。
昨日の夜まではいつも通りの生活を送っていたのに、ある朝を境に寝たきりになってしまう、そんな可能性もあるのです。ひどい場合には、死に至ることも考えられます。
低血糖はただ「ブドウ糖なめればいいんでしょ。」というレベルの単純な話ではないのです。
低血糖の検査
低血糖における検査は、とにかく怪しいなと感じた時(自覚症状の出た時)に、すぐに自分で血糖を測定することに尽きます。
自己血糖測定器は、一定ラインをきると「LOW」という表示しか出ません。一般的な機械では、60mg/dlを下回ると測定不能となることが多いですが、機種によっては30mg/dlまで測定できることもあります。
ただし、30mg/dlという血糖値では既に本人の意識レベルは低下しており、自力でブドウ糖をなめるなど、血糖を上げる対処はとれなくなります。
そうなると、病院での血液検査での血糖検査になります。自力で(つまり口から飲めない)対処できないレベルになってしまったら、自宅でできる処置は限られます。むしろ誤嚥につながりますので、危険です。
ですから、自宅の血糖測定器で測定不能となるレベルになった場合は、迷わず119番しましょう。
注意しなくてはいけないことは、糖尿病の人が意識なく倒れていた場合、低血糖とは限らないということ。もしこれが高血糖の場合、血糖値だけではなく採血一式に血液ガスや尿、心電図なども必要になります。
糖尿病の患者さんは低血糖も高血糖もおこりうるということを頭にいれ、何かあったときにはすぐに血糖値を測定できるように周囲の人間も覚えておくとよいですね。
低血糖の治療法・対処法
低血糖の治療は、血糖値を上げることです。では、どんな方法で上げればいいのでしょうか?
既に血糖が下がっている時には、のんびりご飯を食べても吸収が遅くて間に合いません。こんな時にはブドウ糖を直接飲み込むのです。ブドウ糖が10gずつ分包されたものがありますから、調剤薬局で言えばもらうことができます。
ブドウ糖を直接飲むのが嫌という場合には、ブドウ糖をたくさん含む水分を摂るという手法があります。
大人であれば、炭酸飲料やスポーツドリンクはブドウ糖の量が非常に多いのでお勧めです。
では、低血糖の度合いが低く、とても本人が食べたり飲んだりできないという状態になってしまったらどうしたらよいでしょうか?
ブドウ糖を舌の下に塗り込むという方法もありますが、一歩間違うと誤嚥して呼吸状態を悪化させてしまいます。どちらにせよ低血糖が著しいときには塗るくらいの微々たる量では意識の回復はできません。
場合によっては、病院からグルカゴンという注射を処方されている場合があります。患者さん本人がブドウ糖を飲めないときに筋肉注射をすることで、血糖を上昇させるのです。
ただし、患者さん本人が意識のない時ですから、注射を打つのは家族などの周囲の人間です。家族の理解度やそういった存在の有無も含め、グルカゴン注射には一定の注意が必要です。
意識がない、血糖測定器でLOWになるラインは、もう救急搬送のレベルです。ですから、グルカゴン注射は実際ほとんど処方されることはありません。
多くの場合、病院で50%の濃いブドウ糖液を静脈注射すれば、血糖値はすぐに上がります。20mlのブドウ糖液を1~2個使えば、通常は30分もあれば血糖値は上がります。血糖が吸収されると共に意識レベルも回復して、少しずつしゃべることができるようになります。
もし大量にインスリンを打ってしまった場合など、糖を体内に入れても血糖値が上昇しない場合には、入院して持続的に糖分を点滴投与し続けなければならなくなります。場合によっては集中治療室での管理が必要になります。
機能性低血糖症について
ここで、少し変わった低血糖について補足しておきたいと思います。最近「低血糖症」や「機能性低血糖症」というものが解って来ました。これは、糖尿病治療のためのインスリンや内服薬を使っている人に起こる低血糖とは全く違う低血糖です。
空腹時にチョコレートや糖分の高いものを摂取する習慣のある人に起こると言われているもので、糖尿病ではありません。
急激な血糖上昇が起こることによって、身体が血糖を下げなければと誤った認識をしてしまい、インスリンを過剰に分泌してしまう状態です。
低血糖なので上に挙げたような症状が現れるのですが、もう少し軽度な症状になります。ブドウ糖注射を必要とする程ではありません。やる気が出ないとか、漠然とした不安感とか、そんないわば原因の特定できない「不定愁訴」にとどまることが多いです。
そのため、低血糖症であることがわからずに、メンタル面に問題があるように自身も周囲もとらえがちで、結局、心療内科に受診することが多くなります。
正しい受診科を選ばなければ、適切な治療や指導は受けられません。機能性低血糖症の場合は、甘い食べ物や飲み物を好む人に起こりやすいので、低血糖なのに太るのです。
本当は、急激な血糖上昇を起こさないような糖質制限食等の食事指導を受ける必要があるのですが、心療内科にかかってしまっては・・・なかなか低血糖症に気づいてもらえないかもしれません。
新生児の低血糖
これまで、成人の低血糖について説明してきましたが、実は低血糖は子どもでも起こります。しかも、生活習慣病と無縁の新生児にです。これについても少しお話しておきましょう。
新生児の場合は正規産児で40mg/dl、早期産児で30mg/dl以下が低血糖と定義されています。症状は頻脈・チアノーゼ(血色不良)・痙攣・無呼吸があります。治療は鼻から入れた管で栄養(糖分)を入れるか、成人同様に点滴でブドウ糖を入れて、血糖値を上げます。
新生児の低血糖は、糖尿病の母親から産まれた場合や、出生時の体重が2200g以下の早期産児に多く、また、頻度は低いのですが先天性高インスリン血症や重症胎児赤芽球症といった、生まれながらにしての病気のこともあります。
新生児は症状を自分で言うこともできませんし、自分でブドウ糖を飲むこともできません。ですから、成人の低血糖・機能性低血糖症とは違い、病院での厳重な管理のもと血糖コントロールされます。
看護師からひとこと
糖尿病でインスリンを注射、経口で治療中の方は外出時必ず、ブドウ糖、飴、チョコレートなどを携帯するようにしましょう。
また、糖尿病患者用IDカード(緊急連絡用カード)など自分が糖尿病患者であることを他人や医療関係者がわかるようなものを携帯しておくと安心です。低血糖などで倒れたときに適切な治療を受けられますので、携帯することをお勧めします。
まとめ
- 低血糖は血中の血糖値が70mg/dl以下で起こるとされる。
- インスリン量や経口血糖降下剤の誤った使用によるものが多い。
- 初期症状はふらつき、空腹感、冷や汗、生あくび、手足のふるえ等
- 重度の低血糖症状は意識障害、異常行動、痙攣、昏睡など
- 低血糖を予防するためには、毎日の血糖測定と適切なインスリン量の管理が必要。
- 意識がある時の対処はブドウ糖を飲むまたは、糖分の多い飲み物を摂ることである。
- 血糖が急激に上昇する食べ物を好む人の低血糖は、機能性低血糖症という。
- 新生児の低血糖は糖尿病の母親から産まれた場合や、低体重児が多い。