更新日:2017年12月17日
目次
手根管症候群とは
手根管というのは、手首に存在するトンネル状の部位のことを指します。
手根管症候群は、この手根管に圧力が加わることで、しびれや痛みなどの神経障害が引き起こされる疾患です。悪化すると筋肉が萎縮し、やせ細ってしまいます。
特徴として手の全体に症状が出るのではなく、親指から薬指の中指側にかけての3本半の指にしびれや痛みが出て、筋肉の萎縮は主に親指の付け根(母指球)によく見られます。
男性よりも女性の発症率の方が明らかに高い疾患です。手のしびれを呈する原因の多くで、注意深く診察すると手根管症候群である可能性があり、誰にでも発生するリスクのある一般的な病気としてとらえる必要があります。
治療法は薬やサポーターによる保存療法、ひどい場合は手術も
治療には、基本的には薬剤の投与やサポーターによる保存療法が行われます。しかし、症状の悪化がひどい場合は、手術が行われることもあります。
薬剤の投与
まず、手の痛みやしびれを和らげるための処置が施されます。
鎮痛薬としては、
- ボルタレン
- ロキソニン
などの非ステロイド系の薬剤が処方されます。また、圧迫されて障害が生じた神経を元に戻すために神経再生薬も処方されます。
神経再生薬には、主に次の2つがあげられます。
- メチコバール
- ビタミンB12製剤
その他、痛みがひどい場合は、ステロイド注射を手根管に直接打つ処置がとられます。しかし、ステロイド注射は神経を傷付けてしまうリスクもあるため、何回も続けて打つことはできないため注意が必要です。
サポーターの使用
手根管症候群は手の酷使によって悪化します。そのため、治療には手を安静に保つための処置も重要となります。
そこで行われるのが、サポーターの使用です。「シーネ」と呼ばれている固定器具を用いて手首の安静がはかられます。シーネによる手首の固定は、1日中装着が必要なケースもありますし、夜間のみの装着でよいケースもあります。
シーネは骨折などの際にも用いられるもので、患部を固定するものですが、ギプスよりも軽度の症状で用いられます。
症状が悪化してくると手術も
保存的療法では間に合わないほど症状が進行していたり、親指の筋肉がやせ細っていたりする状態、痛みやしびれの度合いが強い状態の場合は、手術が行われることがあります。
手術では、手根管を覆っている靭帯を切り離し、正中神経の圧迫を取り除く処置が施されます。場合によっては、靭帯の切断だけではなく、神経を剥離する処置がとられることもあります。
手術は、3cmほど手首を切開して行われる方法と、内視鏡による方法があります。
内視鏡手術は傷も小さいため痛みも少なく復帰も早いというメリットがありますが、視野が狭くなるため神経損傷などの合併症のリスクが高まるというデメリットもあるので注意が必要です。
手術によって9割以上の患者が通常の生活に戻ることができています。
手根管症候群のリハビリ
予防や改善には、日常生活において手首に配慮することが大切です。手根管症候群のリハビリとして挙げられるのが、以下の2つです。
- 手首のストレッチ
- 仕事や家事における工夫
手首のストレッチ方法
リハビリには、手首の柔軟性を取り戻して、むくみなどを解消するストレッチが有効となります。
以下に手首のストレッチ方法を3つご紹介いたします。
代表的なものですが、ストレッチを実施する前に医師などに相談し、自身の症状にあっていることを必ず確認してください。
手首のストレッチ(1)
- 腕を伸ばして肩の高さまで上げます。
- 腕を伸ばしたまま、親指を中に入れて拳を握り、親指を天井側に小指を床側にします。
- この状態から手首を小指の方向へ曲げ、10秒間キープします。
手首のストレッチ(2)
- 腕を伸ばして肩の高さまで上げます。
- 手の平を天井側に向け、手首を手の平側へと曲げます。
- 反対の手を曲げた手の甲に添えて、体側へと引くように手首をストレッチします。
手首のストレッチ(3)
- 壁に向かい合って、腕を伸ばして肩の高さまで上げます。
- 手の平を天井方向に向け、今度は手の甲側へと手首を曲げます。
- 手首を曲げたまま手の平を壁に当てて固定し、反対の手で手首を上から下方向へと押してストレッチします。
仕事や家事における工夫
手根管症候群のリハビリでは、生活指導が行われることもあります。手首への負荷を軽減するためには、次のようなことに気をつけましょう
- フライパンを持つ時は両手で持つ
- 重い物は手だけの力で持ち上げない
- オフィスワークでは手首の下にタオルなどを置いて手首を真っ直ぐにする
- 指を使う時はゆっくり動かす
- 必要のない時はしっかり手を休ませる
手根管症候群の原因
手根管症候群は、手根管という部位の内圧が高まることが原因となって、様々な神経障害を呈します。
内圧が高まる根本的な作用機序は分かっていませんが、どのようなきっかけが原因となって手根管の内部の神経が圧迫されるのかは少しずつ解明されてきています。
原因を知るためには、まず手の構造と手根管症候群が起こるメカニズムを知る必要があります。
手根管症候群が起こるメカニズム
手の平側の神経には、指先へと伸びている正中神経と尺骨神経という2つの神経が通っています。さらに指先を動かすための9本の腱が手首から指先へと細長く伸びています。
実はこれらの神経や腱のうち、正中神経と9本の腱は手首に存在する手根管という部位を束になって通っているのです。
手根管とは、長さ3cmほどの手首のちょうど中央付近に存在するトンネル状の構造のことを指します。
手根管はたくさんの組織が通っている上、伸び縮みできないという性質を持っているため、何らかの異常が手根管内で発生してしまうと、正中神経を圧迫するようになります。
正中神経は物をつまむなど細かい手の動きを支配しているため、圧迫によってぺちゃんこに押し潰されてしまうとしびれや痛みなどの神経障害を呈するようになるのです。
ここで注意しなければならないのが、正中神経の支配領域です。
実は正中神経は全ての指を支配しているのではなく、親指から中指の3本と薬指の中指側の半分の領域のみを支配しています。
薬指の残り半分と小指は手根管を通っていない尺骨神経によって支配されているので、手根管症候群では、薬指の半分と小指に症状が出ないという特徴があります。
手根管の内圧が上昇する原因
それでは、なぜ手根管内の圧力が高まり、神経が圧迫されるようになるのでしょうか。
その根本的なメカニズムについてはまだ完全には解明されていません。しかし、内圧が上昇する原因としては、主に次の3つが挙げられます。
- むくみ
- 怪我や骨折による手根管の変形
- 透析などによる手根管内の物質の蓄積
水分代謝やリンパ・血流の循環に障害が生じて手のむくみがひどくなると、手根管内の内圧が高まり神経が圧迫されるようになります。
さらにケガや骨折などによって手根管が変形してしまうと、手根管の内部が狭くなって、結果的に内圧を高めることになります。
また、透析患者において手根管症候群はよく見られるのですが、これは透析の過程で手根管内にアミロイドと呼ばれる物質が蓄積されてしまい、内部の正中神経を圧迫してしまうことが原因だと考えられています。また、甲状腺疾患、妊娠、アミロイドーシス、膠原病などさまざまな病気がきっかけで発症します。
手根管症候群はどういう人がなりやすい?
手根管症候群は手のしびれを呈する最も一般的な疾患ですが、発症する人の性別や特徴、時期、職業などには一定の傾向があります。
さらに、前述した通りむくみや物質の蓄積などが原因で発症リスクが高まるため、影に他の病気の存在があるケースも少なくありません。
手根管症候群になりやすい人の特徴について、以下に時期や職業などを項目別に示します。
発症しやすい時期
女性においては、特に下記の時期で特発的に起こることが多くなります。
- 妊娠している時期
- 出産後の時期
- 更年期
これらの時期は女性ホルモンに変化や乱れが生じやすい時期です。
女性ホルモンの乱れは、むくみを引き起こす原因にもなるので、手根管症候群のリスクが高まります。
上記以外でも女性ホルモンはストレスを感じると乱れやすくなるため、ストレスを感じやすい体質や環境にいる方も注意が必要です。
発症しやすい職業
手を酷使する職業においても発症しやすくなります。
- オフィスワーカー
- 料理人
- 家事
- 育児
- 手首を使うスポーツ選手
上記の職業は特に手首をよく使うため、手根管の負担が大きくなり、変形などのリスクを高めてしまいます。
女性で発生率が多いのは、家事や育児など休むことができない仕事のせいで手根管症候群を悪化させやすい環境下にあるためとも考えられます。
病気との併発
手根管症候群は病気の合併症としても発症します。併発しやすい病気には次のようなものがあります。
- 糖尿病
- 甲状腺機能低下症
- 自己免疫疾患
- 腎不全(透析患者)
- リウマチ
糖尿病や甲状腺機能低下症では、リンパや血液の流れに支障が生じてむくみが悪化するため、手根管の内圧が高まりやすくなります。
自己免疫疾患では、免疫系が自分の細胞を攻撃することで、体のあちこちに炎症を起き、それが手根管内の異常に繋がると考えられます。
腎不全については、前述した通り、透析によってアミロイドが手根管内に蓄積することで発症リスクが高まると言われています。
手根管症候群の症状
主な症状としては、次のようなものがあります。
- 手のしびれ
- 手の痛み
- 手のこわばり
- 親指の付け根(母指球)の筋肉のやせ細り
手根管症候群の症状には特徴があり、さらに初期から末期へと呈する症状の種類や度合いが変化していくという一面があります。
以下に手根管症候群の特徴的な症状と症状の経過、注意点について示します。
症状の特徴
手根管症候群には、3点において、特徴的な症状が確認されます。
- 症状が出る部位は親指から薬指(小指や手の甲は出ない)
- 夜間・明け方に症状が強く出る
- 症状が軽減または悪化する動作がある
1. 症状が出る部位
手根管を通る正中神経は、親指から薬指の半分までしか支配していません。そのため、手根管症候群では、小指には症状が出ないという特徴があります。
また、症状は手の平に出て、手の甲側には出ません。
2. 症状が出る時間帯
しびれや痛み、手のこわばりなどの症状は一日中出るというわけではありません。
症状は夜間や明け方に強くなる傾向があり、朝目を覚ましたと同時に手のしびれや痛みを感じるといった特徴があります。
3. 症状が軽減または悪化する動作
症状は、指を曲げ伸ばししたり、手を振ったりすることで軽減します。
一方で、昼間においても編み物や自転車に乗る、吊り革をつかむなど手首を酷使する動作によって症状は悪化します。
症状は中指と人差し指から広がっていく
初期の症状は、中指と人差し指にしびれや痛みなどの症状が生じることが多いのが特徴です。
症状が経過して悪化していくと痛みの範囲が広がり、正中神経が支配している3本半の領域や手の平にしびれや痛み、手のこわばりなどの症状が出てきます。
さらに悪化すると、親指の付け根(母指球)の筋肉が萎縮してやせ細り、親指と人差し指で丸(OKサイン)を作れなくなったり、ボタンをかけるなどの細かい手の作業が行えなくなったりします。
しびれが軽くなったら要注意!
注意しなければならないのが、症状が軽くなったと錯覚を起こすケースがあることです。
手のしびれを我慢していると、次第にしびれの度合いが軽くなっていきます。これは、病気が治ったのではなく、神経障害がより重症化したために起こる反応です。
しびれが軽くなったからといって放置していると、筋肉の萎縮が加速し、治療が困難になってしまいます。早期に病院を受診することが大切です。
検査では痛みの出方や手首周辺の状態を確認する
検査では主に次のことを確認します。
- 特徴的な刺激で痛みが出るか
- 神経の流れや手首の状態
主に行われる検査は、以下の4種類です。
- ティネル兆候検査(手首を叩く)
- ファーレン兆候検査(手の甲を合わせる)
- 神経伝達速度検査(電気刺激を与える)
- 画像検査(MRI、レントゲンなど)
1. ティネル兆候検査
ティネル兆候とは、手根管症候群に見られる特徴的な反応であり、手首を叩くと指先方向に向かってしびれや痛みが走るものです。
検査では、打腱器などの医療ハンマーで手首を叩いてティネル兆候の有無を調べます。
2. ファーレン兆候検査
手首を手の平側に直角に曲げ、胸の前で両手の手の甲を合わせて、1分間この状態を維持します。1分以内に手のしびれや痛みなどの症状が悪化すればファーレン兆候があると診断されます。
3. 神経伝達速度検査
神経に起きている障害の度合いを診断するのが、神経伝達速度検査です。
手首に人体に無害な程度の電気刺激を与えて、手周辺の神経伝達の度合いを調べます。手根管症候群の場合、手根管の部位で神経伝達速度が悪くなっていることが確認されます。
4. 画像による診断
MRIやX線、超音波検査などを使って画像を確認します。画像検査では、手根管に腫瘍などがないか、神経は圧迫されていないか、むくみによって手根管部分が腫れていないかなどを確認します。
看護師からのアドバイス
最初は耐えられるほどの軽い痛みやしびれでも、放っておくと指先の細かい動作ができなくなってしまうこともあります。
親指・人差し指・中指の3本は、非常に重要な役目を果たすので、機能が障害されると日常生活にも支障が出てしまいます。
まずは整形外科で検査を受け、腫瘤や骨折の除外診断を受けましょう。