更新日:2017年08月16日
脊柱管狭窄症とは
脊柱管狭窄症とは、骨の老化などによって背骨(脊柱)の中央にある神経が通る空間(脊柱管)が狭くなり、脊柱管の中を通っている神経が圧迫されて腰痛や痺れが生じる病気です。
よく耳にする「椎間板ヘルニア」は、背骨を構成している一つ一つの骨(椎骨)の間に存在する軟骨(椎間板)に亀裂が入り、内部の髄核が脱出して神経を圧迫しますが、椎間板ヘルニアと比べて脊柱管狭窄症は中高年に発症しやすく、50歳代から70歳代に多く見られます。
特に、若い頃から腰に負担がかかる仕事をしていた人や、筋肉をあまり使わず筋力が低下している人がなりやすいとされています。
腰部脊柱管狭窄症は、腰の馬尾神経(馬尾とは細い馬の毛が束になっている様子から付けられたものであり、神経の束という意味です。)が圧迫されて症状がでます。
脊柱管狭窄症の原因
脊柱管には神経と血管が通っており、神経は血管内を流れる血液によって酸素と栄養が供給されています。
加齢などによって骨が老化し、脊柱管が狭くなって神経や血管が圧迫されると、血流が悪くなって神経に十分な酸素や栄養素が送られなくなります。その結果、「脚のしびれや重さ」という脊柱管狭窄症の代表的な症状がでてきます。
腰椎や頚椎では、腰を反らすと脊柱管が狭まり、前にかがむと広がります。歩くときにはだれでも腰をひねっているため、脊柱管が狭くなって神経や血管が圧迫され、痛みや痺れの症状が悪化します。
逆にしゃがんだり、手押し車によりかかったり、自転車に乗ったりして体を前かがみにすると、脊柱管への圧迫は緩んで血液の流れや神経の働きが元に戻り、脊柱管狭窄症の症状が和らぎます。
また、脊柱管が狭まる原因は、先天性のものと後天性のものがあります。
先天性脊柱管狭窄症
生まれつき脊柱管が狭く、脊柱管の中の神経が圧迫されることが原因です。先天性脊柱管狭窄症の人は、加齢変化の影響も受けやすいため、30歳代という若い年齢から発症することが少なくありません。
後天性脊柱管狭窄症
加齢や労働などによって骨・椎間板・関節・靱帯が変形や肥大化すると、神経が通る脊柱管が狭くなって神経が圧迫を受け、神経の血流が低下して脊柱管狭窄症が発症します。
また、すべり症、骨粗しょう症、椎間板ヘルニアなどの背骨の病気、腰椎の手術、外症、腫瘍なども後天性脊柱管狭窄症の原因となることがあります。
脊柱管狭窄症の症状
脊柱管狭窄症は、腰から膝にかけて体の後ろ側に痛みやしびれの症状が出ることが多いです。場合によっては足先にまで症状が及びます。歩いていると症状が強くなって動けなくなり、前かがみになって休憩すると狭くなっていた脊柱管が広がって症状が軽くなります。
このため、脊柱管狭窄症が進むと長距離を歩くことが難しくなり、歩行と休息を繰り返す特徴的な症状(間欠性跛行)が見られます。持続して歩ける時間は、数分の場合から10分程度など、症状の程度によって異なります。
脊柱管狭窄症の症状は、神経のどこが圧迫されるのかによって、出てくる場所や重症度が異なります。
神経根の圧迫は腰から足への痛み
左右どちらかの神経根が圧迫された場合、圧迫された側の腰から足にかけて、痺れや痛みなどの症状が出ます。比較的症状が軽いことが多く、手術は行わずに薬や理学療法で治療することがほとんどです。
馬尾神経の圧迫では排泄障害も
馬尾神経が圧迫される腰部脊柱管狭窄症では、安静にしている間にはほとんど症状がありません。しかし、症状が重くなることが多く、進行すると下肢の力が落ち、肛門周囲のほてりや排泄障害などの症状が起こることがあります。排泄障害などによって日常生活に支障をきたす場合、手術をすることもあります。
早期発見・早期治療が大切
脊柱管狭窄症によく見られる間欠跛行は、加齢によって疲れやすくなったからだと思い込んでしまい、見過ごされてしまうことが多いと言われています。
「早期発見」「早期治療」により、手術をせずに保存療法が有効となります。足に痛みや腫れなどの違和感があるときには、早めに整形外科の医師に相談しましょう。
検査・診断
脊柱管狭窄症の診断では、次のような検査を行います。
X線検査(レントゲン)
骨や関節の位置関係や骨の狭まり具合などを確認します。ミエログラフィー(脊髄造影検査)といって、神経の圧迫具合などを詳しく見る検査もあります。この場合、脊髄腔内に造影剤を注入して、X線で撮影します。
MRI検査・CT検査
骨以外の筋肉や血管などの状態を確認します。
他の病気でないかの検査
脊柱管狭窄症と同様に間欠跛行の症状が出ることがある閉塞性動脈硬化症などもあるので、ほかの病気ではないかを注意深く検査します。
脊柱管狭窄症の治療
治療には必ず手術が必要ということではありません。痛み等を抑えることと、リハビリなどが中心となります。
保存療法
神経根が圧迫されるタイプの脊柱管狭窄症では、症状が重くない場合は手術をせずに保存療法が行われます。
薬物療法
消炎鎮痛剤や貼り薬・塗り薬などを使って痛みを抑えることを試みます。
神経ブロック
局所麻酔薬を使って痛みの伝達を遮断(ブロック)し、血流改善、炎症を鎮めて脊柱管狭窄症の症状を改善します。神経ブロックは、整形外科やペインクリニックで行われます。
理学療法
整形外科といえば超音波と赤外線というイメージがありますが、超音波などを使い、血流を良くして痛みを和らげます。
装具療法
腰部コルセットを装着し、腰部を固定して痛みを抑えます。腰を少し曲げた状態で固定する脊柱管狭窄症用の屈曲コルセットもあります。
脊柱管狭窄症の手術
馬尾神経が圧迫される腰部脊柱管狭窄症では、排泄障害などによって日常生活に支障がある場合、手術が検討されます。
- 200m程度の歩行でも完結間欠跛行が生じる。
- 保存療法を1〜2か月程度続けたが、改善があまり見られない。
- 排泄障害などで日常生活に支障がある。
といったことが脊柱管狭窄症の手術の要否を決める目安になっています。
脊柱管狭窄症の手術は、脊柱管内を広げて、症状の元となっている神経の圧迫を取り除く(除圧)ことが基本となります。
細い筒を骨に挿入する最新のMD法では、手術時間は約1時間で、手術の翌日から歩行を開始でき、通常は2週間程度で退院できます。痛みの原因などによって手術法は異なるため、整形外科で相談してみましょう。
歩き方や寝かたなど
脊柱管狭窄症の症状は、反り返る姿勢を避けて少し前かがみになると楽になります。歩くときには杖を使う、移動には自転車や手押しのシルバーカーを利用するといった工夫も効果的です。
寝るときには、仰向けに寝ると腰が反るので、膝の下にバスタオルなどを入れて腰が曲がる状態にすると楽になります。
痛いからといって動かずに肥満になると膝などにも負担がかかり、さらに動きたくなくなってしまいます。適度な運動はとても大切です。
看護師からひとこと
痛みの強いときは腰に負担をかけないようにしましょう。重いものを持ったり、中腰の姿勢での作業は控えたりしてください。腰を伸ばし続けないことも大切です。
まとめ
脊柱管狭窄症は少し歩いては休憩するということを繰り返す「間欠跛行」が特徴的な症状です。歩いていると痛いが、腰を曲げて休むと痛みが和らぎます。
また、早期発見することが大切です。足や腰に違和感があるときには、進行する前に整形外科を受診するようにしましょう。
痛いからといって動かないと肥満により膝など別のところに支障がでてきます。杖を使う、自転車で移動するといった工夫をして、適度に体を動かすようにしましょう。