腱鞘炎は一度なると慢性化しやすく、再発もしやすいため予防が大切です。症状が出た時には整形外科の医師に従いテーピングにより安静にすることや、薬物による治療を行っていきます。また、出産前後や更年期などホルモンバランスの乱れによっても腱鞘炎になることもあります。原因を知ってしっかりと対策をしましょう。

更新日:2017年08月14日

この記事について

監修:大見貴秀医師

執筆:当サイト編集部

腱鞘炎とは?

腱鞘炎は正式名称「狭窄性腱鞘炎」といい、関節の使いすぎなどにより腱鞘が炎症を起こす病気です。

腱鞘炎はどの関節でも起きる可能性がありますが、代表的なものは2種類で女性に多いのが特徴です。

代表的な2種類の腱鞘炎

  • 手首や肘で起こる「ドゥケルバン腱鞘炎」
  • 指で起こる「ばね指」

仕事が原因であれば労災の対象になり、条件に当てはまれば労災認定を受けられる可能性がありますが、業務により発症したかどうかを証明することはなかなか難しく、申請しても労災認定がおりない場合が多くあります。

【参考】労働基準監督署の「上司障害」の労災認定のパンフレット

傷害保険についても、「急激・偶然・外来」の3要件を満たしていないので、支払対象外のケースが多いようです。

腱鞘炎の原因

腱鞘炎に関わりのある組織は「腱」と「腱鞘」です。

「腱」は筋肉の両端にある「ひも状」の組織で骨に筋肉を付着させ筋肉から骨や関節に力を伝える働きがあり、「腱鞘」は腱が骨とこすれないように保護するカバーのような役割を担っています。

腱鞘には腱を包み込んでいる「滑膜性腱鞘」と、滑膜性腱鞘によって包まれている腱が浮き上がらないように押さえている「靭帯性腱鞘」の2種類があります。

「滑膜性腱鞘」の中は滑液で満たされており腱がなめらかに動けるようにサポートしていますが、手や指を使う回数が増えれば増えるほど腱と腱鞘がこすれ、摩擦が起きるため腱鞘炎が発症しやすくなります。

腱鞘炎を誘発する動き

次のような動作などで腱鞘炎になりやすくなります。

  • 編み物
  • 楽器の演奏
  • 日常的な家事
  • 長時間の執筆
  • 赤ちゃんの抱っこ
  • 手を酷使する作業
  • 反復動作を繰り返す作業
  • 長時間に及ぶパソコンやマウス操作
  • スポーツ(陸上競技、バスケットボール、バレーボール、ゴルフなど)


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腱鞘炎の症状

主な発症部位

手の腱鞘炎が多くの割合を占めますが、他の関節でも発症する可能性があります。

  • 手の指
  • 手首
  • 足(足首や膝)

発症しやすい人

  • 手の指:執筆業、画家、手先の細やかな作業が好きな人、演奏者(ギターやピアノ)
  • 手首:マウスでパソコン操作をする人、技術職(調理や加工など)
  • 肘:スポーツをする人(テニスや野球など)、主婦
  • 足(足首や膝):スポーツをする人(陸上競技・サッカー・バスケットボールなど)

よくある症状

  • 関節が腫れる。
  • 曲げ伸ばしの際に痛む。
  • 手首や指が動かしにくい。
  • 拳を作ると指が開きにくい。
  • 痛くてペンや箸が握れない。
  • 関節部がつっぱる感じがする。
  • 安静にしていると痛まない。
  • 手首から親指にかけての激痛。
  • 手を床についたときに激痛が走る。
  • 痛くて瓶の蓋を開けることができない。
  • 起床時に患部が不自然に曲がった状態で固まっている。
  • 物を握ったりつかんだりすると痛みを強く感じる。
  • 無理に力を加えて伸ばそうとするとばねのように指がはじかれ伸びてしまう。
  • 動かす時に「ポキン」「コキン」という音がする。

腱鞘炎と症状が似ている病気

症状は似ていても、腱鞘炎ではない場合があります。主な病気は次のようなものになりますので、注意してください。

  • 痛風
  • 手根管症候群
  • 関節リウマチ
  • TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)
  • 尺骨突き上げ症候群

腱鞘炎の予防法

腱鞘炎は一度治っても、再び同じような動きを続けることで再発することが多い病気です。

患部をかばいすぎることで筋力や腱の機能が低下して再発する場合もあります。「使いすぎ」も「使わなさすぎ」も良くありません。

日頃から同じ部分の関節ばかりを使うことを避け、適度な運動を心がけましょう。

関節を酷使しないために気をつけたいこと

  • 重い荷物を持たない。
  • 良い姿勢を心がける。
  • 痛みを感じたらすぐ止める。
  • 手首や指先を使う動作を繰り返さない。
  • 手作業を行うときは休憩を入れる。
  • 同じ関節に継続的負荷をかけない。
  • 動かす前後に手首や指先をストレッチする。
  • 赤ちゃんの抱っこは腕全体を使うようにする。
  • 親指への負担が大きい動きを避ける(文字を書く、携帯電話やスマホの操作、箸を使う)。
  • 関節を酷使しやすい作業をする際はテーピングやサポーターを使う。

腱鞘炎は症状が悪化するまでに前兆の症状が出ている時があります。

以下の様な症状を感じたら無理をしないようにしましょう。

  • 関節に違和感がある。
  • 関節を動かすと音がする。
  • 関節が熱をおびている。
  • 関節を動かす時にきしみを感じる。
  • 酷使している関節部分がだるい。
  • 瞬間的に痛みを感じる。


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腱鞘炎と合併症

治療による合併症

  • 手術
    手術時に近くの神経を傷つけた事による手指のしびれ、握力や筋力の低下。
  • ステロイド注射(ケナコルト)
    腱の断裂、脂肪壊死による皮膚陥没。

腱鞘炎の検査

腫れや痛みなどの症状が特徴的なため、「問診・視診・触診」が中心になります。

問診

問診では、次の内容を主に確認します。

  • 症状
  • 痛む場所
  • 全身や患部の発熱
  • いつから痛み出したのか。
  • どのような時に痛むのか。
  • 関節リウマチなどの既往歴があるか。

視診

しこりや腫れがないかを観察します。

触診

筋肉の異常、腫れの程度、圧痛のある場所などを観察します。

フィンケルシュタインテスト

親指を手の中に入れて握り、手首をゆっくり小指側に曲げます。親指側の手首に痛みを感じたら腱鞘炎の可能性があります。(※自己流で試すのは危険な場合がありますので、医師の診察時に行いましょう。以下の動画は参考です。)

画像診断(X線検査・超音波検査・MRI検査・CT検査)

触診だけではわからない骨の異常や腱の動きなどを確認します。

血液検査

腱鞘炎と同じように関節が痛む病気に「リウマチ関節炎」があります。「腱鞘炎」は血液に異常は出ませんが「リウマチ関節炎」では血液に異常が出るため、リウマチ関節炎の可能性を否定するために行う検査です。

腱鞘炎の治療法

治療は整形外科で行います。どの治療法も痛みや腫れを一時的に抑えるためのものなので、病気の根本治療とはいえません。

保存療法

基本的には、動かさないようにして安静にしていることが大切です。

  • 安静
    一番の治療法は安静を保つことです。原因と考えられる作業や運動はなるべく控えるようにしましょう。
  • マッサージ
    炎症を起こしている部分への血流を改善します。
  • 装具療法
    テーピング・添え木・医療用サポーターなどで患部を固定します(テーピングはサポーターより関節を動かしやすいのですが巻き方にはコツがいります)。
  • 温熱・アイシング
    冷やすことで炎症を抑え、温めることで血流を良くします。

薬物治療

  • 内服薬
    消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)の服用。
  • 外用薬(主に湿布薬)
    腫れがある→冷感湿布、痛みはあるが腫れはない→温感湿布。
  • ステロイド薬の注射
    ステロイドを腱鞘の中に注射し炎症・痛み・ひっかかりを改善します。

手術

上記の治療でも症状が治まらない時や、日常生活にまで支障が生じるなどのような場合は、手術により完治を目指す場合があります。

腱鞘の鞘を切開又は一部切除をする手術法(腱鞘切開手術・内視鏡手術)で、手術時間は30分程度のため日帰り手術が可能です。

手術後リハビリに3~6ヶ月かかり、稀に後遺症として握力・筋力低下が生じる場合があります。

腱鞘炎と妊婦さんの関係

妊婦さん

女性に多く見られる腱鞘炎ですが、その中でも出産前後や更年期の女性がなりやすいと言われており、女性ホルモンの変化が関係していると考えられます。

出産後は緩んだ骨盤を元の状態に戻すためにプロゲステロン(女性ホルモン)の分泌が盛んになります。

プロゲステロンは全身に影響し、出産とは関係のない手首や指の腱や腱鞘までも硬く狭くしてしまうため、それまでは問題なく行えていた動作でも腱鞘炎を引き起こす可能性があるのです。

ホルモンバランスの乱れが腱鞘炎を発症しやすい土台を作り、出産後の子育てで指・手首・肩・腕を酷使することで発症してしまうのです。

安静が一番の治療と言われますが、子育てや家事など休む暇もないお母さんに安静を求めるのは難しい話です。

産後しばらく経ちホルモンバランスも整い、抱っこも必要なくなってくると自然に治癒することもありますが、痛みを感じている間は無理を避け、抱っこ紐やスリングを使うなどの工夫をしましょう。

治療に使用されるステロイド注射は母乳に微量の薬剤が移行するため、使用するかどうかについての判断は医師の間でも意見が別れています。治療を受ける際は医師とよく相談するようにしましょう。

腱鞘炎と子どもの関係

子どもの腱鞘炎に「小児ばね指(剛直母指)」というものがあります。

大人のばね指とは原因が異なり「小児ばね指(剛直母指)」は生まれつきのもので、子どもが何かの症状を訴えるというよりも、家族や周囲の人間が曲がったままの子どもの指を見て気づくことが多いようです。

小児ばね指になる場所

90%以上が親指で起こります。

小児ばね指の原因

長母指屈筋腱がこぶを作りそれが障害となってIP関節(親指の第一関節)が伸びません。

小児ばね指の症状

痛みはありませんが、親指の第一関節が曲がったままで伸びない状態となります。また、親指の付け根にしこりがみられます。

小児ばね指の治療

ほとんどの場合自然に良くなりますが、1歳を過ぎると自然治癒は難しいと考えられているため以下の治療が行われます。

装具療法

強制的に指を伸ばした状態を装具で維持します。お子様が装具固定を嫌がる場合は就寝時に装着するとよいでしょう。

手術

装具療法で効果が出ず、5~6歳頃まで症状が残るようであれば腱鞘を切開する手術を行う場合があります。

看護師からひとこと

仕事や子育てによる腱鞘炎は、なかなかその動作そのものを辞めることができないので、安静が難しいもの。

どうしてもという時にはサポーターをつけたり、整形外科で診断書を出してもらって一定期間、手首を酷使する作業から外してもらったりしましょう。長引けば長引くほど、治りにくくなってしまいますから。

腱鞘炎のまとめ

  • 二大腱鞘炎は「ドゥケルバン腱鞘炎」と「ばね指」。
  • 主な症状は痛みと腫れ。
  • 一番の治療法は「安静」。
  • 発症のきっかけは「使いすぎ」。
  • 腱鞘炎は再発しやすく完治しにくい。
  • 関節を酷使しない事が一番の予防法。
  • 出産前後や更年期の女性は発症しやすい。
  • 腱鞘炎による労災認定や傷害保険はおりにくい。
  • 子どものばね指は生まれつきのもので自然治ることが多い。
腱鞘炎に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:上半身, 手・足]

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