更新日:2017年08月01日
目次
食道裂孔ヘルニアとは
食道裂孔ヘルニアは横隔膜ヘルニアの種類の一つです。
横隔膜とは、胸腔という肺の入っているスペースの下側にある筋肉のことですが、通常、食道はその横隔膜の穴を通って腹部につながります。横隔膜ヘルニアとは、その横隔膜を通る際の穴が広がって、胃などが胸部に向かって飛び出てしまう病気です。
横隔膜に穴があいているため、お腹にある臓器(胃、肝臓、小腸など)が胸のほうへ入りこんでしまい、胸が圧迫されてしまい、胸やけや前胸部の痛みなどの症状が出て、場合によっては呼吸などに異常が生じてきます。
横隔膜ヘルニアには、食道裂孔ヘルニア、ボックダレック孔ヘルニア、傍胸骨孔ヘルニアなどがあります。
また、先天性のものと後天性のものがあり、ボックダレック孔ヘルニア、傍胸骨孔ヘルニアなどは先天性で、食道裂孔ヘルニアは先天性の場合と後天性の場合があります。その他、後天性の横隔膜ヘルニアには、怪我などの外傷によるものがあります。
食道裂孔ヘルニアの名称にある「食道裂孔」とは、横隔膜を食道が通り抜ける穴のことをいいます。この部分を胃の一部が胸の方へ通り抜けてはみ出ている状態を食道裂孔ヘルニアといいます。
胃の入り口部分がそのまま穴を通り抜けてしまう「滑脱型」、胃の一部が摘まれたように穴を通り抜けてしまう「傍食道型」、その両方が合わさった「混合型」があります。
胃の入り口近辺が横隔膜を通り抜け、横隔膜に挟まったような状態となるため、胃の入り口近辺の組織が正常に機能しなくなり、逆流性食道炎が生じやすくなります。
食道裂孔ヘルニアの原因
先天性の食道裂孔ヘルニアの場合は、生まれつき食道裂孔の組織がもろかったり緩んでいたりして、食道裂孔が食道をしっかりと締めていないため、食道裂孔から胃などがはみ出してしまいます。
後天性の場合は、加齢により食道裂孔が緩んでくる場合や、肥満などにより腹圧が高くなり食道裂孔ヘルニアになることがあります。
また、慢性気管支炎などを発症している人の場合、咳をしたときにお腹に力が入って、お腹の圧力が上昇しますので、食道裂孔ヘルニアを引き起こしやすくなります。後天的な食道裂孔ヘルニアは年齢に関係なく発症するところに特徴があります。
食道裂孔ヘルニアの症状
胃の一部が穴を通り抜ける状態というのは、ゆるく膨らました風船の一部を手でつまむようなイメージで、つままれた部分が胸部へと飛び出している感じになります。
特に胃の入り口近くが穴を通って胸の方へはみ出てしている状態となるため、食道への逆流を防ぐ役割を果たしている胃の入り口部分が正常に機能しなくなり、逆流性食道炎を起こしたり、食道から出血したり、胃が十分に働かず栄養障害が起きたりします。また、胃の中でも出血や血の巡りが悪くなるといったことが起こります。
中でも逆流性食道炎を発症することが多く、逆流性食道炎が生じると食後に横になったときや、前かがみになったとき、重いものを持ち上げようとして力を入れたときなどに症状が悪化していきます。
ただ、「滑脱型」の食道裂孔ヘルニアは、多くの場合、食道裂孔を通り抜けている胃の部分が小さいことが多く、症状が現れない人がいたり、軽いことがあります。
食道裂孔ヘルニアの診断
食道裂孔ヘルニアは、バリウムを服用してX線撮影することや、内視鏡、食道内圧測定による検査で確認することができます。また、腹部のエコー検査については、食道への逆流状態をリアルタイムで確認できるため、特に乳児に対して有用とされています。
食道裂孔ヘルニアによる逆流性食道炎の予防・留意点など
「滑脱型」の食道裂孔ヘルニアについては、逆流性食道炎を発症することが多くなりますので、症状がない場合や軽度の場合は、食生活など、普段の生活を改善することによって、逆流性食道炎の悪化を抑えることができます。
食生活について
胃酸の分泌を促すような食べすぎや、飲みすぎをしないことが大切です。糖分や脂肪分、タンパク質が多く含まれるもの、かんきつ類で酸味が強いものなどは、胃酸の分泌を促しますので控えることが必要となります。
その他、消化しやすいものを食べることで、胃酸の分泌を抑えることができますので、そういった食事を心がけることも大切です。肥満の解消や予防にも繋がっていきます。また、飲み物については、コーヒー、緑茶、炭酸飲料、アルコールを控えることが必要となります。
食生活以外の注意事項について
お腹に力を入れたり、食べた後にすぐに横になったり、前かがみの姿勢になったりすることはなるべく避けるようにします。特に食事をしてから後の3時間程度については、注意した方がいいでしょう。
その他、お腹まわりがきついズボンやスカートはお腹を締めてしまいますので、ある程度、ゆったりした服装を心がけて、お腹を圧迫しないようにしましょう。また、喫煙も控えた方がいいとされています。
加齢による姿勢の変化も腹圧を上昇させて、食堂裂孔ヘルニアの原因となります。若いうちから筋力トレーニングを行い、姿勢を保つことも重要です。
妊婦さんの食道裂孔ヘルニア
妊娠することにより、腹部が大きくなってきますので、胃が下から押し上げられてしまい、食道裂孔ヘルニアになりやすく、逆流性食道炎を発症する可能性があります。
また、妊娠初期においては、ホルモンバランスの乱れなどに伴って、つわりが起こり嘔吐することがあると思います。嘔吐により、胃液が食道に入ってきますので、逆流性食道炎のような症状を呈することがあります。
妊娠中に腹部が大きくなるのは当然の状態です。肥満と異なり、自分の体形をうまくコントロールすることができないので、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎と診断された場合には、医師の指導に従い、お腹を圧迫するような姿勢をとらないことなどに留意した日常生活を送ることが大切です。
看護師からひとこと
胃が痛い・胸やけがする・・・そんな症状があっても、「ちょっと胃の調子が悪いんだろう」くらいで放置していませんか?
胃カメラは保険適用の3割負担で10000円かからずに受けられます(病理検査を除く)し、自治体によっては健康診断をバリウムから胃カメラに選択することもできますから、健診を兼ねてまずは気軽に胃カメラを受けてみてはいかがでしょう?
食道裂孔ヘルニアのまとめ
- 食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜ヘルニアの一種となります。
- 横隔膜ヘルニアとは、横隔膜に穴があき、お腹にある臓器(胃、肝臓、小腸など)が胸の方へ入りこんでしまい、胸が圧迫され、胸やけや胸の痛み、呼吸などに異常が生じる病気をいいます。
- 逆流性食道炎を発症することが多く、出血や栄養障害などを伴うことがあります。
- 診断は、X線撮影、内視鏡、食道内圧測定、腹部のエコー検査などにより行います。
- 逆流性食道炎の症状がひどい場合や、胃の変形がひどい場合(傍食道型の場合等)は、手術治療を行うことがあります。
- 妊婦さんはお腹が大きくなり、胃が圧迫されることから、食道裂孔ヘルニアになる可能性が普段より高くなります。お腹を圧迫しないよう気を付けることなどが大切です。