交通事故が主な原因となる頚椎捻挫です。頚椎捻挫の症状や治療法、リバビリ、後遺症などについて説明します。

更新日:2017年06月11日

この記事について

監修:大見貴秀医師

執筆:当サイト編集部

頚椎捻挫とは

骨と骨とを繋ぐ関節に外から強い力が加わり、許容範囲を超える動きをして起こった損傷による痛みや熱感、腫れなどのことを捻挫と言います。

捻挫と言うと、足首で起こる怪我というイメージを持っている方が多いですが、私達の体には足首以外にも肩や膝、肘、股関節などの大きな部位を始め、可動域がごく狭いためその動きが殆どわからない仙腸関節や肩鎖関節など、数多くの関節があります。

捻挫は、関節の周辺部位(関節包や靭帯、軟部組織など)の損傷を指すことから、関節があるところはどこでも捻挫を発症する可能性があると言え、必ずしも捻挫=足首というわけではありません。

ではもし、背骨も捻挫をすることがある、と聞いたらどうでしょうか?そんな話聞いたことがないという方が大半だと思います。

しかし、実は背骨の捻挫はとても身近なものと言えます。

首から腰にかけての骨は、24個の椎骨と、椎骨の間を埋める23個の椎間板、さらに椎骨の間を繋ぐ靭帯などによって構成されています。つまり、その一つ一つは関節なのです。

関節であればどこでも捻挫は起こりうることですから、背骨が捻挫をするというのは何も特別なことではないのです。

"BodyParts3D, © ライフサイエンス統合データベースセンター licensed under CC表示 継承2.1 日本”

BodyParts3D, © ライフサイエンス統合データベースセンター licensed under CC表示 継承2.1 日本

なお背骨は、上から7個までの椎骨を〝頚椎〟その下の12個を〝胸椎〟さらにそこから下の5個を〝腰椎〟と分けており、捻挫した椎骨の場所によって、それぞれ〝頚椎捻挫〟〝胸椎捻挫〟〝腰椎捻挫〟と呼び方が変わります。

つまり、頚椎捻挫は上から7番目までの椎骨に起こった損傷、ということになります。

頚椎捻挫は、「外傷性頸部症候群」とも言われます。

その字が表す通り、外傷によって頚部(首)に受ける損傷のことを指しますが、頚椎捻挫及び外傷性頚部症候群は医学用語で、一般的には「むちうち症」と呼ばれることが多いでしょう。

頚椎捻挫という言葉に聞き覚えがなくても、むちうち症であれば聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。

ちなみに〝むちうち〟の意味は、鞭を打つ際にS字にしなる様子から名付けられており、胴体と頭部が相反する動きをすることによって、頚椎に大きなダメージを与えるものを、むちうち症と言います。

なお、捻挫では、骨と骨の間にずれは起こりません。骨と骨の間がずれてしまった場合は、脱臼もしくは亜脱臼と診断されます。

また、衝撃などによって骨折や靭帯が完全に断裂してしまった時は、損傷に応じて、圧迫骨折、靭帯損傷、靭帯断裂などとなります。


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原因は交通事故やスポーツが多い

頚椎捻挫は、外から頚椎に大きな力が加わることで、関節周辺の組織や靭帯などが損傷した状態を言います。

では頚椎捻挫は、どのようなことが原因で起こるのでしょうか。

交通事故によるもの

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事故による衝撃で首が大きく振られたり、シートに頭を強くぶつけたりすることで頚椎にダメージを受けて発症します。

ヒトの頭の重さは体重の8~13%であり、仮に10%だと仮定をした場合、体重50kgの人の頭の重さは5kgにもなります。

5kgという重さは、2ℓのペットボトルで約2本半の重さに相当しますが、その重さが毎日、普通に過ごしていても首に掛かっていることになります。

肩こりや首こりに悩む方が多いのは、それだけ頭の重さが首にとって大きな負担となっているからだと言えます。

それが交通事故になると、さらに衝突の衝撃が加わるため、頚椎へ掛かる負荷は計り知れないものになります。

交通事故の中でも、特に頸椎捻挫を起こしやすいのが後方からの追突。

前方での正面衝突の場合は、車が衝突をする前にある程度事故を予見することができるため、首の筋肉が緊張して首に掛かる負担を極力軽減することができます。

しかし、後ろからの追突事故になると全く意識していないところにいきなり衝突されるため、首の筋肉が緩んでいる場合が殆どで、そのため首が前後に大きく振られやすくなり、靭帯などを損傷しやすくなってしまいます。

なお、交通事故による頚椎捻挫は、追突された側が9割と圧倒的に多くなっています。

スポーツによるもの

スポーツの中でも、とりわけ相手との接触プレーが多いラグビーやサッカー、バスケットボール、レスリング、柔道などが多いとされています。

これらのスポーツでは、相手とぶつかった反動で転び、頭部を床に打ちつけたり、突然後ろからタックルをされて体の動く方向とは逆に頭が振られるのが主な原因と考えられています。

また、サッカーの場合はヘディングによる頭部への衝撃が、頚椎にダメージを与えるとも言われています。

この他にも、直接人との接触がない野球のヘッドスライディングや、スノーボードの転倒、ゴルフのスィング、水泳の飛び込みなどでも、頚椎捻挫を発症することがあります。

遊園地のアトラクション

ジェットコースターやコーヒーカップなどのアトラクションで、首を大きく振り過ぎることによって、頚椎捻挫を発症することがあります。

ライブでの首振り

ヘビメタやロックバンドのファンの中には、ライブ中、頭を上下に振り続ける、いわゆるヘッドバンギングをされる方がいらっしゃいますが、このような行為も頚椎捻挫を発症する原因の一つとなります。

落下物や転落

頭の上に重い物が落ちてきた時や、高いところから転落した際に頭を打ちつけて頚椎に負担が掛かり、損傷することがあります。植木屋さんや建設業など、脚立を使ったり、高所作業をする人に多くみられます。

症状は大きく3つ。自律神経に影響することも。

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頚椎捻挫は、頚椎の損傷の程度や場所によって症状が異なります。

そこでここでは、症状を主な3つに分けてご説明したいと思います。

頚椎捻挫型

頚椎捻挫の中で、最も多くの方が発症しているものになります。

頚椎捻挫と診断される7~8割の方が、この頚椎捻挫型だとも言われています。

損傷の程度が比較的軽く、頚椎に衝撃や衝突を受けた翌日以降に、主に次のような症状が現れます。

  • 首を動かすと肩や首、背中にコリや痛みを感じる
  • 熱感、腫れ、腕にだるさや痺れなどが起こる

神経根損傷型

神経根とは、脊髄から直接出ている神経を指します。

知覚神経や運動神経が集まっているところのため、ここが圧迫などによって損傷すると、肩が首、背中、腕などに痛みやしびれを感じます。

症状は、損傷を受けた直後よりも時間の経過と共に強くなり、痛みやしびれだけではなく、腕の筋力や握力が低下することもあります。

自律神経症状型

背骨の中には自律神経が通っているため、頚椎へのダメージが大きいと自律神経にも影響が及ぶことがあります。

自律神経の働きが乱れることで、次のような症状が現れることがあります。

  • 耳鳴り
  • めまい
  • 倦怠感
  • 眼精疲労
  • 食欲不振
  • 頭痛
  • 肩こり
  • イライラ
  • 喉の違和感
  • 不眠など

このような場合は、頚椎捻挫が原因の「バレリュー症候群」と診断されるケースもあります。バレリュー症候群とは、自律神経異常を原因として、痛みに加えて、耳鳴り、めまいなどの様々な症状が現れるものを言います。

なお、頚椎捻挫の症状は上記のどれか一つが現れるわけではなく、多くの場合は混合して現れると言われています。


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治療・治療期間

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頚椎捻挫の治療は、損傷を受けた直後とそれ以降では異なります。

ここでは、損傷を受けてからの時間経過による、治療の違いをご紹介したいと思います。

急性期(損傷直後~3週間)

損傷直後は、とにかく安静に保つことが大切です。

頚椎捻挫の場合、直後から強い痛みが出ることは少なく、多くの方がその翌日や翌々日に、首や肩の痛み、頭がボーッとするなどの症状を訴えます。

軽微な交通事故や運動時の転倒などでは、痛みがなければ「大したことない」と判断してしまいがちですが、その時に無理をしてしまうと翌日に症状が強く出たり、治りが遅くなってしまったりすることがあります。

そのため、頚椎に衝撃を受けた時は痛みの有無に関わらず、安静を心掛けることが早期完治に繋がります。

頚椎捻挫の症状が現れた場合は、病院にて痛みや炎症をやわらげる鎮痛剤や冷湿布の処方が行われます。

なお、損傷直後から数日は、炎症が起こっているため、温めるよりも冷やす方が治療としては効果的です。

痛みが中程度以上と診断されると、首が動かないように頚椎カラーと呼ばれる専用の固定具で固定し、首の安定を保つ治療が行われることがあります。

個人差はあるものの、損傷の度合いが軽度であれば3週間程度で完治していきます。

亜急性期(3週間~3ヶ月)

3週間が過ぎても痛みが続く場合は、炎症が治まっていることを確認した上で、温熱療法や牽引療法といった理学療法を行っていきます。

温熱療法とは、ホットパックや赤外線照射、マイクロウェーブなどの器具を用いて血行を促進する治療法です。

また、頚椎を器具で引っ張る牽引療法では、頚椎周辺の筋肉の収縮を緩和することで首のコリや負担を軽減します。

この他に、強い痛みがある時は、神経ブロック注射を打って痛みをやわらげる治療を行う場合もあります。

通常、頚椎捻挫は発症から3ヶ月以内で多くの方が軽快すると言われています。

慢性期(3ヶ月~)

損傷を受けてから3ヶ月以上が経過しても、痛みや痺れなどの症状が強くあり、画像診断を行っても骨などに異常が見られない場合は、「バレリュー症候群」が疑われます。

バレリュー症候群の場合、星状神経節ブロック注射が治療として行われます。

星状神経節とは、第7頚椎付近にあり、交感神経が集まっている箇所です。

頚椎捻挫によって長い期間、痛みや痺れといった症状を患っていると、交感神経が興奮状態になり、些細なことでも痛みに敏感になってしまうのですが、星状神経節ブロック注射によって、この痛みの伝達を一時的に遮断することで症状を軽減する効果が期待できます。

また同時に、心療内科でのカウンセリングや投薬治療が行われる場合もあります。

頚椎捻挫は、できるだけ早い段階に適切な治療を受けることで、症状が長引かずに治すことができます。

また、首は全身の神経が通っている場所ですから、自己判断でマッサージや牽引などを行うと思わぬ事故に繋がる恐れもあるため、必ず専門医の診断を受けるようにして下さい。

後遺症

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頚椎捻挫は、8割の方が3ヶ月以内に症状が改善し、治療が終了すると言われています。

その一方で、痛みが慢性化して長期的に後遺症に苦しむ方もいらっしゃいます。

後遺症の原因としては、痛みが続くことによって神経回路にその情報が残ってしまい、ちょっとした刺激や興奮などで症状がぶり返してしまうことが考えられています。

また、頚椎捻挫を起こす主な原因である交通事故や人との接触は、思い返すたびに心理的にショックを受けることが多いため、その記憶と痛みが蘇ってしまいやすいという背景もあります。

さらに、近年では頚椎捻挫と「脳脊髄液減少症」の関連性が注目されています。

脳脊髄液減少症とは、脳を覆っている髄液が漏れだしてしまう病気で、頭痛やめまい、吐き気などが起こる疾患ですが、頚椎捻挫による後遺症を抱える方と、脳脊髄液減少症の症状が似ていることがわかり、頚椎捻挫患者を調べたところ髄液の漏れが確認されたという事例があります。

全ての頚椎捻挫の後遺症に苦しむ方が、必ずしも脳脊髄液減少症であるとは言えませんが、頚部痛や頭痛を始めとして、

  • 背中、腰、腕、足などの痛みや痺れ
  • 吐き気、めまい、耳鳴り
  • 味覚障害
  • 微熱、異常発汗、動悸
  • 胃腸障害、倦怠感
  • 集中力の低下、不眠

といった症状が長く続く場合は、脳脊髄液減少症の可能性があるかもしれません。

リハビリ

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頚椎は、重い頭を支えるため、ある程度筋肉が鍛えられていないとその重みに耐えきれずに痛みが発生してしまうことがあります。

そのため、損傷してすぐの急性期は安静を心掛けますが、亜急性期に入り痛みが落ち着いてきたら、頚部の筋力を鍛えるトレーニングを行うことがあります。

頚椎捻挫によって痛みを経験すると、首を動かすのが怖くなってしまう方も多いですが、可動域が大幅に狭まってしまうとそれだけ完治も遅くなってしまいます。

そのため、頚椎捻挫のリハビリとして、可動域を広げる訓練を行うことが大切になります。

この時、急に広げようとせず、毎日少しずつゆっくりと行うのがよいでしょう。

なお、運動療法などのリハビリは決して独断で行わず、必ず医師や理学療法士の指導を受けるようにして下さい。

[カテゴリ:上半身, ]

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