更新日:2017年10月03日
目次
咳だけが続く咳喘息
喘鳴を伴わない咳が続く時は注意
喘息を発症すると、ゼーゼーやヒューヒューといった喘鳴と呼ばれる症状があらわれます。
そのため、咳が長く続いてはいるものの、喘鳴が起こらない状態では、それが喘息の症状だと気付かない場合があります。
ところが、この喘鳴がない喘息というものがあります。
それが咳喘息です。
咳喘息は喘息ではない
咳喘息は、医学的に言うと気管支喘息とは異なります。
喘息(気管支喘息)では、気管支に炎症が起こることで腫れて狭くなることや、感染による粘液物質(いわゆる痰)の増加などにより、空気を取り込む量が減って、息苦しさや呼吸困難といった症状があらわれます。
一方の咳喘息は、喘息と同様に気道の過敏性が見られるものの、狭窄(窄まって狭くなること)による呼吸困難が出ることはありません。
※気道とは、肺に通じている空気の通り道の総称を言い、鼻腔、口腔、咽頭、気管、気管支などが含まれます。
放置すると喘息に移行する可能性も
上記で咳喘息は喘息ではないと記載しましたが、実は咳喘息は喘息の前段階と言われており、適切な治療が行われずに放置されると、大人では30~40%の割合で喘息へと移行してしまうと言われています。
そのため、咳が長く続く場合は咳喘息を疑って、早めに医療機関を受診することが大切です。
なお、大人の喘息患者全体の70~80%が、大人になって初めて喘息の症状が現れたと言われています。
また、働き盛りの40~60代の発症が60%以上を占めることから、仕事を優先してしまう方が多く、結果として治療を開始するのが遅くなってしまい重症化するケースが多いので注意が必要です。
原因は風邪やストレス、たばこなど様々なものがある
現在、咳喘息を発症する明確な原因ははっきりとわかっていませんが、気管支の炎症が症状を引き起こすことはわかっており、その素因には次のようなものがあると考えられています。
風邪やインフルエンザ
これらの感染症にかかると、気管支が炎症を起こして咳喘息が起こりやすくなると言われています。
風邪を引いた後に、熱や鼻水などの症状は治まったものの、咳だけ長く続いている場合は咳喘息の可能性があります。
ストレス
ストレスが溜まると、食欲が落ちたり、夜なかなか眠れなかったりするなどの症状に陥ることがあります。
このような状態が長く続くと、ウイルスや細菌などから体を守る免疫力が低下して、風邪などの感染症にかかりやすくなってしまいます。
アレルギー
花粉やハウスダスト、ダニ、ペットの毛などのアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)を吸い込むことで、気管支に炎症が起こって咳喘息が起こります。
なお、咳喘息とよく似た症状が現れるものに、アトピー咳嗽があります。
アトピー咳嗽とは、アレルギーを起こす物質に過敏に反応することで、咳が長く続いてしまうアレルギー性疾患です。
咳喘息との見分け方としては、アトピー咳嗽は咳喘息の治療に有効な気管支拡張薬が効かず、抗ヒスタミン剤や吸入ステロイドによって症状が治まることや、気管支喘息への移行が認められないことなどがあります。
たばこ
たばこの煙は、気管支を刺激しやすく咳を出やすくするため、たばこを吸って咳が出るということを繰り返すことで気道が過敏になり、咳喘息を起こしやすくなります。
しかも、たばこは吸っている本人だけの問題ではなく、火の付いたたばこの先から出る副流煙を吸い込むことでも同様の症状があらわれやすくなります。
アルコール
アルコールを摂取すると、体内で分解される際にアセトアルデヒドという中間代謝物質が作られます。
アセトアルデヒドは二日酔いなどを起こす原因物質とされていますが、気道を収縮させて咳を出しやすくするという作用もあります。
気温の変化
温かい部屋から寒い室外へ行く時など、温度が急に変化する状況は気道を刺激するため、咳喘息が起こりやすくなります。
また、一般的には天候が落ち着いて過ごしやすいとされる春や秋ですが、それまで寒かったのが温かくなったり、夏の蒸し暑さがおさまり気温が下がってきたりするなど、実は数日の間で気温の変化が起こりやすい季節で、咳喘息が増える時期なのです。
冷たい風
冷たい風を吸い込むことで気道が刺激され、咳喘息が発症しやすくなります。
外で吹く風はもちろんのこと、エアコンの風でも起こることがあります。
なお、エアコンの風にはハウスダストなどのアレルゲンが多く含まれている場合もあるため、アレルギーによる咳の可能性も考えられます。
会話
大声を出す、笑うなどの些細なことでも、空気がたくさん通ったり、空気と一緒に埃などが入り込んだりすることで気道が刺激され、症状があらわれることがあります。
PM2.5や黄砂
中国で深刻な呼吸器疾患をもたらしている微小粒子状物質のPM2.5や、内陸部にある砂漠より飛来する黄砂は、風に乗って遠くまで運ばれ、中国国内のみならず日本にも影響を与えています。
そこで近年は、日本でもPM2.5や黄砂の予報や情報があたりまえのようにテレビのニュースで伝えられています。
防虫剤
服の虫食いを防止するために、タンスやクローゼットに防虫剤を利用している方がいらっしゃると思いますが、防虫剤に含まれる成分は揮発して空気中を漂うため、それを無意識に吸うことで肺から血液に入り込み、喘息のような症状を引き起こすと言われています。
口呼吸
口で呼吸をすると、空気中の埃や細菌がそのまま気道へと入り込み、炎症が起こりやすくなります。
また、喉が乾燥しやすくなることでも咳が出やすくなります。
運動
運動を行うことで、冷たく乾燥した空気をたくさん吸い込んでしまうことや、熱の発生によって気道の水分が奪われることで症状が出やすくなります。
主な症状は乾いた咳
乾いた咳が続く
咳喘息は、実はここ最近になって診断名が付くようになったもので、それ以前まではアレルギー性気管支炎の一種とされてきました。
しかし、アレルギー性気管支炎では、症状の進行とともに湿った咳が出るようになるのに対し、咳喘息ではずっと乾いた咳が続きます。
喉の違和感
長話をしていると、喉が渇いてイガイガしたり、声が枯れてしまったりすることがあります。
咳き込む発作も
咳き込み過ぎて胸が痛くなったり、場合によっては嘔吐や失神が起こったりすることもあります。
夜間から早朝にかけて症状がひどくなる
日中はそれほど咳が出ないにも関わらず、夜になり横になって寝ようとすると咳が出たり、寝静まった後にいきなり咳が出始め、そこから朝まで止まらなくなってしまったりする、といったことがあります。
痰が出ない、少ない
咳喘息の場合、痰が出ても少しか殆ど出ないのが特徴です。
何科を受診すればよいか
呼吸器科かアレルギー科を受診
咳喘息が疑われる場合は、呼吸器科やアレルギー科を受診するようにしましょう。
これらの診療科目が近場にない場合、内科や子どもであれば小児科でも構いませんが、医師によっては咳喘息に対する知識が乏しい場合もあり、何度となく咳が止まらないと訴えても「風邪が長引いているだけ」と、咳き止めを処方され続けることがあるようです。
咳喘息の咳は、咳き止めを使用しても止まりませんので、風邪かな?と思って内科を受診しても咳が治まらない時は、かかりつけ医師と相談の上、呼吸器科かアレルギー科の受診も検討しましょう。
診断・検査
咳喘息の診断基準
- 喘鳴を伴わない咳が8週間以上続いている
- 気管支拡張薬が治療として有効
- 今まで喘鳴や呼吸困難を伴う喘息にかかったことがない
- 8週間以内に上気道炎(風邪)にかかっていない
- 気道が敏感になっている
- アレルギー物質に反応をして咳が出ている
- 胸部X線を行っても肺や気管支などに異常が見つからない
咳喘息の診断基準は上記のようになっていますが、実際には①と②の2つが当てはまると、多くの場合咳喘息が疑われて検査が行われます。
咳喘息の検査方法
血液検査
咳喘息にかかると、痰の中に含まれる好酸球と呼ばれる白血球の一種が増えることから、血液検査によってこの好酸球の増殖を調べます。
また、痰が出る場合はその痰を調べることもあります。
血液検査ではその他に、アレルギーの有無を調べることもあります。
呼気NO検査
専用機器に呼気を吐き出すことで、呼気に含まれる一酸化窒素の濃度を調べます。
一酸化窒素の濃度が高い場合、気道に何らかの炎症が起こっていると考えられます。
胸部X線
咳喘息の場合、胸部X線撮影を行っても、肺や気管支にはこれといった異常が見られませんが、このことが逆に咳喘息を疑う一つの理由となりますので、検査をして確認をとります。ただし、喘息と咳喘息の区別はできません。なお、X線に異常が見られる場合は、肺炎などが考えられます。
気道過敏性試験
薬を使用して、気道の過敏の度合いを調べます。
咳喘息?自分でチェックしてみましょう
次のような症状が思い当たる時は、咳喘息が疑われます。
- 風邪を引いた後、熱や鼻水などの症状は治まったのに咳だけが続いている。
- 咳が8週間以上続き、慢性化している。
- ゼーゼー、ヒューヒューといった音がすることはあまりない。
- 夜になると咳が激しくなり、眠れないことがある。
- コンコンと乾いた咳が出る。
- 痰が殆ど出ない。
なお、咳の期間は8週間と記載されていますが、8週間待つ必要はなく、3週間程度続いたらすぐに病院を受診するようにしましょう。
治療は気管支拡張薬や吸入ステロイド
咳喘息に効果がある薬
気管支拡張薬
気管支拡張薬とは、気管支を広げることで空気の通りをよくし、症状を改善する効果があるものです。喘息でない場合で、気管支拡張薬を使用して症状がある程度治まれば、咳喘息と診断が付きます。
吸入ステロイド
咳喘息の治療では、喘息と同様に吸入ステロイドが使用されます。
吸入ステロイドの強い抗炎症作用によって、咳の症状を鎮めます。
なお、ステロイドには抵抗があるという方もいらっしゃいますが、吸入の場合は気道に直接作用させることができるため、使用量が少なく済みますし、内服とは違い全身に作用しづらいと言われています。
抗アレルギー薬
気道の炎症の原因となっているアレルギーを抑えることで、症状の緩和・改善を促します。
日常生活でできる予防や対策
手洗いやうがいをする
咳喘息の多くは、風邪を引いたことがきっかけで発症すると言われています。そのため、風邪を予防することは咳喘息を予防することにも繋がります。
外出から帰宅したら手洗い、うがいをしてウイルスや菌を体内に入れないようにしましょう。また、マスクを着用する、できるだけ人ごみを避ける、部屋を加湿することも有効な方法です。
喫煙や飲酒を控える
たばこやアルコールは、咳喘息の発症や悪化を促してしまいます。
特にたばこの場合は、自分だけではなく副流煙によって周囲の方も喘息発作を起こしやすくなるため、喫煙場所以外では吸わないように意識することが大切です。
アレルゲンを排除する
花粉や埃、ダニ、ハウスダスト、ペットの毛など、アレルギーの原因となるものをできるだけ排除しましょう。部屋をこまめに掃除し、寝具は干して日光に当てるとよいでしょう。
気温を管理する
春や秋など、室内は暖かくても一歩外に出ると肌寒かったり、その逆で暑くて汗をかいてしまったりすることがあります。
そのため、外出する際には服装である程度の温度調整ができるように、一枚多く持っていき、脱ぎ着が楽な格好をするようにしましょう。
ストレスを解消する
ストレスがかかると、免疫力が低下するため、アレルギー物質に敏感に反応しやすくなったり、気道の炎症が悪化したりし、咳喘息を悪化させてしまいます。
日頃からストレスを溜めないように、軽い運動を行ったり、気分転換になる趣味などを見つけておいたりすることが必要です。
また、栄養バランスの摂れた食事を行い、睡眠によって体をしっかり休めることで、抵抗力が上がりストレスに強い体を作ることができます。
咳喘息のまとめ
咳だけの症状だからと、そのまま放置しておくと、悪化して気管支喘息にもなりかねません。
咳というのは思いのほか体力も消耗しますので、つらいと思います。咳の症状が続くときは早めに病院を受診することが重要です。