更新日:2017年09月25日
目次
サルコペニアとは
サルコペニアとは、ギリシャ語のsarx(筋肉)とpenia(減少、消失)を合わせた言葉で、全身の筋肉量の減少及び筋力の低下を特徴とする筋肉減少症(もしくは筋肉減弱症)のことを言います。
一般的には、加齢によって生じる筋肉量や筋力の減少による身体機能の低下、老年性症候群の一つとして捉えられていますが、広い意味では年齢に関係なく起こる筋肉量や筋力の低下を指しています。
明確な定義はありません。
サルコペニアは、1989年にアメリカのアーウィン・ローゼンバーグ氏が米国栄養学会雑誌にて初めて提唱した、比較的新しい疾患の概念です。
2010年には、European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)によって、以下のように定義されました。
「サルコペニアとは、進行性かつ全身性の筋肉量と筋力の減少によって特徴づけられる症候群で、身体機能障害や生活の質(QOL)の低下や死のリスクを伴うもの」
しかし、現状では国際的に明確な定義が存在していません。
原因・分類は2つ
サルコペニアは以下のように分類されています。
それぞれに原因が異なるため、合わせてご紹介したいと思います。
原発性サルコペニア(一次性サルコペニア)
加齢以外に明らかな原因がないものを、原発性サルコペニアと言います。
原発性サルコペニアは、加齢によって脳から筋肉へと送られる神経細胞の減少や、筋肉を作るたんぱく質の合成の低下、筋肉の維持に関わるホルモンの減少などが原因で起こるとされています。
二次性サルコペニア
活動に関連するもの
安静状態が長期に続くことで身体機能が低下する廃用性症候群を始めとして、一日中座ったままの生活や、車社会における徒歩移動の減少、出不精、運動不足など、不活発な状態によって引き起こされるものを言います。
疾患に関連するもの
重症臓器不全や炎症性疾患、悪性腫瘍、手術、外傷、骨折などによる侵襲や、悪液質が原因で筋肉量が著しく減少するものを言います。
また、慢性疲労症候群や鬱病などの病気も、体を動かすことが極端に少なくなることから、筋肉量や筋力が低下しやすくなり、サルコペニアを発症しやすくなります。
※侵襲・・体内部の恒常性(一定の状態に保ち続けること)を乱す可能性のある刺激のこと。
※悪液質・・悪性疾患を原因として全身性に慢性的な炎症が起こり、心身の衰弱が進行している状態のこと
栄養に関連するもの
神経性食欲不振症などの摂食障害や、過度なダイエットや吸収不良による栄養不良などが原因で起こるものを言います。
サルコペニアになりやすい3つのタイプ
高齢で瘦せ型
高齢になると肉や魚などから取れる動物性のたんぱく質が不足する傾向にあります。筋肉を作るもとは、たんぱく質です。必要な栄養をしっかりと摂る必要があります。
メタボ体型だけど筋肉がない
筋肉の量は減っているけれど、脂肪が増加していくということがあります。エネルギーを消費する筋肉に対して、消費しきれなかったエネルギーは脂肪に変わってしまいます。
メタボであり筋肉がない。こういった状態になると「サルコペニア肥満」かもしれません。
「サルコペニア肥満」については後で詳しく説明しますが、お腹は太いのに脚は細い、筋肉が少ない、食事制限はしているけれど運動をしていない、という人は要注意です。
極端なダイエットをしている
実は高齢の人だけでなく、若い人でもサルコペニアになってしまう人がいます。食事制限中心の極端なダイエットを行い、運動をしないと筋肉量が減少してしまいます。
3つの段階
サルコペニアには以下の3つの段階があります。(※EWGSOPの概念による)
1. プレサルコペニア
筋肉量のみの低下が見られるもの。
2. サルコペニア
筋肉量の低下に、筋力もしくは身体機能の低下のどちらかが見られるもの。
3. 重症サルコペニア
筋肉量、筋力、身体機能の低下が見られるもの。
サルコペニアの診断基準
握力
男性26kg未満、女性18kg未満
アジア各国においては、骨格や筋肉量、生活習慣などが欧米人とは大きく異なることもあり、EWGSOPが定めたものではなくアジア人独自の基準が必要として、2013年に日本、韓国、中国、マレーシア、タイ、台湾、香港よりサルコペニアの研究者が集まり、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)が発足されています。
これにより、握力は欧米よりも低く設定されるなど、より日本人の骨格に適した検査基準となっています。
わかりやすく言えば、ペットボトルを開けるのがきついと感じる場合には、病的に握力が少なくなっている可能性があると覚えておきましょう。
歩行速度
秒速0.8m以下
秒速0.8mは、横断歩道を青信号の間に渡りきれる速さと言われています。
筋肉量の測定
DXA法
異なる2種類のX線を用いて筋肉量を計る方法で、1㎡あたりの筋肉量が男性は7.0kg未満、女性は5.4kg未満を低筋肉量とします。
BIA法
体に微弱な電流を流し、電気抵抗によって筋肉量を測定する方法で、1㎡あたり男性は7.0kg未満、女性は5.7kg未満を低筋肉量とします。
CT、MRI
断面層から筋肉量を計測する方法ですが、検査費用が高額に上ることや、計測が安易ではないこと、診断基準値が定められていないなど注意点もあります。
指輪っかテスト
ふくらはぎの一番太い部分に、両手の親指と人差し指同士を合わせるようにして輪を作った時、輪でふくらはぎを囲むことができない、もしくは指の先が合う程度でちょうど囲めるくらいであれば問題ありませんが、指がしっかりと重なる、ふくらはぎと輪の間にすき間ができる場合はサルコペニアの可能性が高くなります。
片足立ちテスト
- 片足立ちで靴下が履けますか?
- 椅子に座った状態から片足で立つことができますか?
- 片足立ちのまま60秒キープすることができますか?
この中の1つでも出来なかった場合は、サルコペニアが疑われます。
フレイルとは
フレイルとは、2014年に日本老年医学会が提唱した言葉で、加齢に伴い筋力や心身の活力(運動機能や認知機能など)が低下した状態を表しています。
2015年には、「高齢者の多くはフレイルの段階を経て要介護状態になるので、早期発見をして対処することが必要だ」と声明文を出し、医療や介護施設で働く人に注意を呼び掛けています。
フレイルとサルコペニアの違い
どちらも加齢に伴う機能低下が現れるものですが、サルコペニアが筋肉量や筋力の低下による身体機能の低下であるのに対し、フレイルは身体的だけではなく、気力の低下や認知機能の低下など精神・心理面や社会的な衰弱や虚弱が含まれます。
具体的には、筋力の衰えによる転倒が起こりやすくなるだけではなく、軽度認知機能障害や認知症、老年期鬱病などの病気の発症、独居による孤独や経済的困窮などの問題まで含んでいます。
このようなことから、サルコペニアはフレイルの身体的な要因の一つということになります。
診断基準
フレイルの定義については世界的にまだ統一されていないのが現状ですが、アメリカの老年医学会では次のような基準が設けられています。
- 体重減少
- 歩行速度が低下
- 握力が低下
- 疲れやすい
- 身体の活動レベルが低下
この中の3つ以上が該当する場合は、フレイルとみなされます。
例えば、「一年で2~3kg体重が減り、以前よりも疲れやすくなったと感じ、買い物や趣味の集まりなどに顔を出すのが億劫になった」のような状態にある場合は、フレイルであることが強く疑われます。
フレイルと老化の違い
フレイルはfrailtyという英語を元にした言葉で、虚弱や衰弱といった意味があります。
欧米では20年以上も前から医療現場で使用されているものですが、生理的な老化との決定的な違いに、フレイルは然るべき対処や対策を講じることで再び健常な状態に戻ることができるという点があります。
サルコペニアを放っておくとどうなるのか
年齢を重ねるとちょっとの距離を歩くだけで疲れたり、階段を上り下りするのも一苦労したりするもの。
以前までは、老いは誰にでも訪れるもので、誰も避けられないことだと考えられていました。
実際に、体のあらゆる機能は10~20代にピークを迎え、筋肉量を比較すると70代は20代の半分ほどしかありません。
しかし、生理的な筋肉の減少という範囲を越えて、著しい低下が見られる場合は、転倒事故による骨折が起こりやすくなり、それに伴って寝たきりや死亡するリスクが高くなると言われています。
サルコペニア肥満
サルコペニア肥満とは、サルコペニアと肥満が同時に起こることを言います。
肥満が生活習慣病を招く大きな要因となることはよく知られており、特に近年注目されているメタボリックシンドロームは、動脈硬化や高血圧などを引き起こしやすいと言われています。
そのため、中年以降にメタボリックシンドローム改善のためにダイエットに励む方が増えていますが、その際に運動はせずに食事制限のみを行ってしまうと、たんぱく質不足からさらに筋肉量が減って基礎代謝が落ち、結果として脂肪の蓄積を促進してしまうことになります。
さらに、加齢により筋肉量が低下しているため、エネルギー消費量が低く、使われなかったエネルギーが脂肪としてより内臓に蓄積されやすくなります。
この場合、脂肪は増えているものの筋肉量も同時に減っているため、体重はさほど変わりがないので自分ではなかなか気付くことができません。
これを、サルコペニア肥満と言います。
サルコペニア肥満はメタボリックシンドロームのみの方と比べて生活習慣病になるリスクが高くなると言われていることから注意が必要になります。
また最近は、若い女性の過激なダイエットが原因で、サルコペニアからサルコペニア肥満になる方も増えています。
目に見える筋肉だけではない
筋肉は、腕や足など目に見える部分だけではなく、体の内部にも存在しています。
- 平滑筋
胃や腸、血管、膀胱などの壁を構成している筋肉です。
食事を口から食道を通じて胃や腸に運び、消化・吸収のためのぜん動運動を行ったり、血液を全身に運んだりする役割などを担っています。 - 心筋
心臓の壁を構成している筋肉で、心臓を規則正しく動かすために働いています。
サルコペニアを放置するということは、このような重要な働きを行う筋肉量の低下を黙認することになり、やがて様々な弊害が生じることが安易に想像できるのではないでしょうか。
超々高齢化社会を迎える日本では大きな問題に
日本は2012年の時点で65才以上の高齢者が3,000万人を超えており、WHO(世界保健機構)が定める超高齢化(65才以上が21%以上)の基準を超えています。
また、2030年には65才以上の割合が30%以上の、超々高齢化社会を迎えることが確実視されています。
このような中、日本では65才以上の15~20%がサルコペニアであると言われており、さらに85~90才では60~80%を占めることがわかっています。
そのため、サルコペニアや要介護の前段階と言われるフレイルの認知を高めるとともに、予防や対策を講じることが急務と考えられています。
予防には食事と運動が重要
食事ではBCAAを意識する
サルコペニアを予防するには、毎日の食事がとても大切です。
特にたんぱく質は意識して摂取することが必要ですが、たんぱく質の中でも筋肉を作ったり修復したりする働きを持つBCAAは積極的に摂るようにしましょう。
BCAAは、バリン、ロイシン、イソロイシンという3つの必須アミノ酸の呼び名です。
必須アミノ酸は体内で合成されないため、食べ物から摂取する必要がありますが、多く含まれるものにはマグロやカツオなどの赤身魚、レバー、卵、大豆製品、牛乳などがあります。
また、BCAAを効率よく摂取するにはビタミンB群も同時に摂るのがよいでしょう。
ビタミンB群は豚肉やきなこ、ごまなどに多く含まれています。
さらに近年は、骨代謝に関わるビタミンDに筋力を増加させる効果があると報告されていることから、ビタミンDの摂取も重要です。
ビタミンDは、紅鮭やいわしなど魚に多く含まれています。
運動は無理のない筋トレと有酸素運動
レジスタンストレーニング
片足立ちやスクワットなど筋肉に一定の負荷をかけて筋力を鍛えるトレーニングです。
筋肉量は加齢によって低下していきますが、一方で年齢に関わらずトレーニングによって筋肉量を維持したり増やしたりすることができ、特に筋肉が集中している下半身を鍛えることは、サルコペニアを予防するためには欠かせないと言われています。
ただし、持病がある方や高齢者が無理をするのは危険なため、主治医に相談するか無理のない範囲で行うことが大切です。
また、筋肉を鍛えると言っても、ジムに行ってマシンを使うといったやり方では転倒事故や骨折などのリスクがあるため、自宅で簡単に行えるものを取り入れて習慣にすることが何よりも重要になります。
注意点
低栄養の状態でレジスタンストレーニングを行うことは、逆効果であると言われていますので、特に高齢者の場合は栄養状態の見直しが必要になります。
有酸素運動
有酸素運動は、息切れしない程度の運動を持続することで、酸素を多く体内に取り込んで細胞を活性化させる効果が期待できるものです。
とは言え、いきなりジョギングや水泳などを始めると高齢者にとっては負担が大きい場合もあるため、最初は一日5分のウォーキングから始めてみるのがよいでしょう。
怪我や病気を防ぐ
怪我や病気がきっかけとなり、体力が落ちて寝たきりになってしまうことがあります。
そのため、サンダルなど歩きにくい履物は避ける、足元に注意をして歩く、時間に余裕を持って行動する、インフルエンザや肺炎などの予防接種を受けるなど、日頃から怪我や病気をしないために気を配ることが大切です。
また、歯が健康でなければ食事をしっかりと摂ることができません。
定期的に歯科に通い、歯を維持するように努めましょう。
治療法
サルコペニアの定義や診断基準が確立していないこともあり、明確な治療方法がないのが現状です。
そのため、サルコペニアと診断されたら、予防法と同じく食事や運動によって改善をはかることが主になります。
看護師からひとこと
サルコペニアは、高齢者が寝たきりになる原因となり、注目を浴びています。
しかし、実は若い人にも多いのです。若いうちからの運動習慣、良質なたんぱく質とカルシウム・ビタミンの豊富な食事が、健康寿命を延ばすことにつながります。