更新日:2018年01月16日
多汗症とは
発汗には、温熱性発汗および精神性発汗の2種類があります。
体温を調節するための発汗機能が温熱性発汗で、気温が高いときや運動後に体を冷やすために主に頭部や背中に発汗する生理的な現象のことです。
精神的な緊張があると手のひらや足の裏に発汗がみられるのが精神性発汗で、一般に「多汗症」といわれるのは、この精神性発汗の種類に属するもので、病的な多汗症とは「日常生活に支障をきたすほどの大量の発汗を生じる状態」と定義されています。
温熱性発汗は、体の温度調節のために必要な機能ですが、一方、精神性発汗はそうした必要性とは関係なく過剰に汗をかいてしまうもので、日常生活に支障をきたすようであれば治療する対象になります。
また、平成21年度の全国疫学調査において、原発性手掌多汗症患者の有病率は人口の約2-5%であり、そのうち、医療機関に掛かっているのは1割以下で、治療されていない人が大変多いことがわかっています。
多汗症の種類
多汗症は、全身の発汗が増加する全身性多汗症と、手や足など体の一部のみにおいて発汗量が増加する、局所性多汗症に分けられます。
- 全身性多汗症:体の全体に多くの汗をかきます。
- 局所性多汗症:手のひらや腋の下などの局所に多くの汗をかきます。
また、原発性・続発性といって、特に原因がなく多汗症が起こっている原発性多汗症と、何らかの他の病気があって多汗症が起こっている続発性多汗症に分けられることもあります。
続発性多汗症において原因となる疾患・病態とは、薬剤性、循環器疾患、悪性腫瘍、感染症(結核など)、神経学的疾患(脳の異常による発汗量の増加、脊髄損傷による自律神経障害)、内分泌・代謝疾患(低血糖、甲状腺疾患、褐色細胞腫)などさまざまなものがあります。
また、上記は続発性の中でも広い範囲の発汗量が増えるものが多いですが、続発性の局所性多汗症というものもあります。
たとえば、Frey症候群もそのひとつであり、耳下腺という耳の下にある唾液腺の手術後や外傷後などにおいて、食事の際に耳の前のあたりの発汗量が多くなる病態もあります。
他にも、エクリン血管性過誤腫をはじめとした腫瘍によっても多汗が見られることがあります。
原発性局所多汗症の種類としては、汗をかく部位に応じて下記のように分類されています。
- 手掌多汗症:手のひらに多く発汗します。
- 足蹠多汗症:足のうらに多く発汗します。
- 頭部顔面多汗症:側頭部・後頭部、額などに多く発汗します。
- 腋窩多汗症:わきの下に多く発汗します。
原発性局所多汗症の原因
汗が出てくるところ(汗腺)にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺があります。
手のひらからの発汗はエクリン汗腺から起こりますが、原発性局所多汗症の患者さんが普通の人と比べて汗腺の数が多いかというと、実はそうではないことがわかっています。
個数だけではなく、分布や形状にも差はなく、明確な発症機序は同定されていません。
また、遺伝的背景も関係している可能性が考えられています。
原発性局所多汗症の診断基準
局所的に過剰な発汗が、明らかな原因がないまま、手のひら、腋、頭部に6か月以上にわたって認められ、さらにその症状が下記2項目以上を満たす必要があります。
- 両側性、ほぼ左右対称
- 日常生活に支障がある
- 少なくとも1回/週以上の多汗エピソード
- 初発年齢が25歳以下
- 家族歴がある
- 睡眠中には多汗はない
つまり、若年者が起きている時に両側性に週1回以上の多汗のエピソードがあり、日常生活に支障がある場合は原発性局所多汗症だと考えやすいということです。
実際によくあるエピソードとしては、「友達や恋人と手をつないだ際に指摘された」「テストの際に、紙が濡れてしまう」などといったことが起こります。
反対に、片側だけであったり、非対称性の分布であったりする場合には悪性腫瘍や神経学的疾患を考慮に入れなくてはなりません。
重症度の判定・検査
簡単な方法としては、汗によって変色する専用のヨード紙に手をおき、発汗している量をみるというものです。手型の付き具合によって重症度を判定します。
湿度センサーのついた発汗計というものもあります。測定する際に、全く刺激がない状態での発汗量と、計算問題を解いてもらったり、手を握ってもらったりした状態での発汗量を測定し、比較するというものです。
人によって発汗が起こる刺激が異なるので、普段の発汗の程度と比較して評価することが必要です。
多汗症の治療法
治療方法には、何種類かの方法が試みられています。主に使用される治療法を説明していきます。
外用薬(塩化アルミニウム)による治療
塩化アルミニウムを、手のひらや足の裏などの発汗部位に対して塗る方法です。普通に外用する単純使用と、サランラップなどで包む密封使用があります。
副作用は刺激性皮膚炎があり、皮膚炎が起こるようなら治療を休止してステロイド外用剤による消炎をはかります。
具体的には、寝る前に手のひら、足の裏、腋窩に、20~30%塩化アルミニウム溶液を外用します。通常は1日1回、2~3週間継続します。効果が出てきたら徐々に頻度を減らしていきます。手のひらおよび足の裏において発汗量が多い場合は密封使用が効果的です。
イオントフォレーシス
汗の多い手のひら、足のうらを、水道水の入った容器に入れて、10~20mAの直流電流を流します。1回30分の通電を10回程度行うと汗の量が減ってくるという治療です。
効果を維持するにはその後も週に1~2回行うようにします。この治療は保険適用されます。作用の機序としては、通電した際に発生する水素イオンが発汗を抑制するといわれています。
A型ボツリヌス毒素
この治療方法は、腋窩、手のひら、足の裏にA型ボツリヌス毒素を局所注射する方法です。欧米においては、A型ボツリヌス毒素局注療法は、腋窩の多汗症に対して非常に推奨度が高く、日本においても、2012年11月より重症型に対して保険適用が認められました。
内視鏡的胸部神経遮断術(ETS)
ETSは手のひらの多汗症に有効な治療方法ですが、全身麻酔を要するため他の治療法で効果がなり場合に適応となります。
麻酔後に、内視鏡により胸部の交換神経節を切り取るまたは焼き切る方法です。
比較的安全性の高い手術ですが、副作用として手のひらからの発汗は少なくなる反面、代償性発汗といって胸・背中・お尻などの他の部位から多くの汗が出てくるようになりことがあります。
これにより日常生活に支障をきたす可能性がありますので、手術前に医師とよく相談することが大切です。
その他
oxybutininという薬や、顔面多汗症に対してglycopyrrolateという外用薬を塗るという方法などもあります。
まとめ
多汗症に悩む方は意外と多いものの、実際に治療を受ける方は非常に少ない疾患です。
そもそも病気だという認識があまりされていない現状があります。
必ずしも手術を要するわけではなく、外用治療によって改善する場合もありますので、気になる方は一度お近くの皮膚科クリニックで相談されるとよいでしょう。
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