更新日:2017年06月28日
この記事について
執筆:山浦真理子医師(上用賀世田谷通りクリニック)
気胸とは
気胸が発生した原因によって、明らかな理由がなく発生する「自然気胸」、交通事故など体の外から大きな力が加わったり、その際に骨折したりすることで肺に穴が開いてしまうという「外傷性気胸」、医療行為を行ったことが原因で胸膜を傷つけてしまうことで起こる「医原性気胸」の3つに分類できます。
気胸の分類(原因別)
- 自然気胸
- 外傷性気胸
- 医原性気胸
また、気胸は胸郭に空気がたまる過程によっても分類することができ、大きく2つに分けることができます。
1つは、肺にある肺胞という直径0.1mmほどの空気の入った小さな袋に、何かのきっかけで穴が開いてしまうことで起こる気胸です。
穴が開いた肺胞から空気が胸郭に漏れ出るので、胸郭に空気がたまってしまいます。
もう1つは、胸郭の膜に穴が開き、胸郭内に外気が入ってしまうことで起こる気胸です。これは、前者のものと区別するために「外気胸」ともよばれています。
気胸の分類(空気がたまる過程)
- 肺胞に穴があく気胸
- 胸郭の膜に穴があく(外気胸)
気胸の症状
気胸の症状としては、突然胸の痛みを感じたり、背中が痛くなったり、呼吸困難になったりするといったことが挙げられます。
症状は軽度のものから重度のものまでさまざまで、日常生活を送っている上では気づかず、検診で気胸であることがわかった人もいれば、救急搬送されるほどのひどい呼吸困難に襲われる人もいます。
よくあるパターンとしては、「若くて元気な長身の男性が、突然胸の痛みと呼吸困難を訴える」ような場合に、気胸を疑います。
特に、細身で長身な方に起こるのが典型的です。
気胸の原因
気胸の原因はさまざまですが、体の外から大きな力が加わることによる外傷性気胸、医療行為によって起こってしまう医原性気胸は、原因が比較的わかりやすいでしょう。
ここでは、内因性の気胸である自然気胸の原因について説明します。
成長によるもの
まず、10~20歳代に発症する気胸は、10代前半の成長期に急に身長が伸びてその成長に肺の成長が追いつかず、肺側の胸膜が引っ張られて裂けてしまって、空気のはいった袋であるのう胞が形成されることが原因で発生します。
形成されたのう胞が数年後に破れてしまい、気胸になってしまうのです。
タバコによるもの
高齢の喫煙者に起こりやすいのは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)が原因となっている気胸です。
タバコによって肺胞が破壊され、部分的に胸膜が弱まって破れてしまうことで発症します。
その他女性に特有のものや病気によるものなど
発症例は少ないものの、女性では月経やリンパ脈管筋腫症が気胸の原因となることもあります。
さらに、先天的に全身の結合組織がゆるい病気であるマルファン症候群、皮膚の皮膚腫瘍や腎腫瘍が併発するBHD症候群などといった病気でも、気胸が発症する場合があります。
激しい咳やくしゃみなども原因に
のう胞が破れたり、弱まった胸膜が破れたりするおもな原因は圧力の変化です。
肺と肺の外との圧力の変化が激しくなる具体例として、激しいせきやくしゃみ、人工呼吸で空気を強制的に送り込む陽圧換気などで気道内圧が急上昇してしまうことや、台風などの大きな低気圧によって、体の外の気圧が急低下してしまうことなどが挙げられます。
検査・診断
自然気胸の診断は、おもに胸部レントゲン撮影やCT検査によって行われますが、重症の場合は聴診だけで気胸が判明することもあります。
レントゲンや聴診を行った上で、気胸の原因になる肺胞が破裂したもの(ブラ)や、ブラが複数つながっているもの(ブレブ)がないかどうか、COPDがないかどうかについて胸部CT撮影を行って評価します。
胸部レントゲンで病状の度合いを診断する
胸部レントゲン撮影の結果によって、「軽度気胸」「中等度気胸」「高度気胸」の3つのどれか判断し、最終的な診断を下します。
- 軽度気胸(Ⅰ度):肺尖が鎖骨より上にあり、肺はそれほどしぼんでおらず膨らんでいる。
- 中等度気胸(Ⅱ度):肺尖が鎖骨より下にあり、肺がしぼみかけていてふくらみが弱い。
- 高度気胸(Ⅲ度):肺のしぼみが著しい。
中等度や高度の場合は入院が必要
軽度気胸の場合、外来で経過を観察する場合がほとんどですが、中等度気胸や高度気胸の場合は入院して治療を行うのがセオリーです。
特に交通事故などによって激しく胸郭が損傷した場合などに緊張性気胸といって、著しく空気がたまり縦郭(両肺の間にあるスペース)が偏位してしまうような重症例では、悠長にレントゲンやCTを撮る暇もなく、疑った瞬間に針を刺して空気の逃げ道を作らないと救命できないこともあります。
治療法(手術や入院、費用など)
軽度であれば自然治癒もあるが中等度以上は治療が必要
軽度気胸であれば、自宅安静で気胸の症状が改善され、自然に穴がふさがるのを待ちます。
中等症以上は入院または外来で、ドレーンという管を胸腔に入れて、胸腔内にたまった空気を出す胸腔ドレナージという処置をとります。
これで胸腔内の空気は除去され、肺ももとの大きさに戻りますが、この処置だけでは肺に開いた穴はふさがりません。
穴が自然にふさがるのを待つ必要があるので、穴がふさがる前に気胸が再発することもあります。
手術が必要なケースも多い
胸腔ドレナージを行っても、
- 「気胸と同時に大量の血が胸腔に出ている」
- 「胸腔ドナレージを1週間行っても、空気の漏れを止めることができない」
- 「肺の同じ側で気胸が発生したことがあり、再発した」
- 「肺のどちらかの側で気胸を発症したことがあり、反対側でも気胸を発症した」
というような場合は手術をするケースが多く見られます。
また、気胸の発症が初めてであったとしても、入院が必要な中等症以上であり、胸部CTでブラやブレブが見られた場合、再発を予防するために手術を行うことが多くなります。
手術は胸腔鏡下で行われ、ブラやブレブを切除します。そして、再発防止のため、ブラやブレブができやすい肺尖部に肺表面を補強するシートを張ります。
胸腔ドレナージにかかる入院や治療の費用
胸腔ドレナージは、5~7日間の入院が必要です。
胸腔ドレナージは健康保険が適用されます。胸腔ドレナージの診療報酬点数は、開始日に550点加算し、翌日以降に持続的な吸引を行う場合は1日当たり50点を加算することになっています。
したがって、5日間処置を行ったとすると、胸腔ドレナージの処置だけだと800点、つまり3割負担だと2,400円ほどになります。
しかし、胸部レントゲン撮影や胸部CT、血液検査や胸腔ドレナージの前後の処置、ベッド代や食事代などを合わせると、数万円必要になります。
胸腔鏡下肺切除手術にかかる入院や治療の費用
胸腔鏡下肺切除手術も5~7日間の入院が必要です。
胸腔鏡下肺切除手術も健康保険が適用され、手術自体の診療報酬点数は、肺のう胞手術であれば39,830点(3割負担で119,490円)、そのほかであれば58,950点(3割負担で176,850円)となっています。
手術の費用と合わせて、胸腔ドレナージと同様に、胸部レントゲン撮影や胸部CT、血液検査や胸腔鏡下肺切除手術の前後の処置、ベッド代や食事代などの費用がかかります。
※保険点数等は、改定によって変更になる可能性がありますので、概ねの目安とお考え下さい。
治療後について
治療後は、飛行機に乗ったりスキューバダイビングをしたりするなど、体の外と肺との圧力の差が大きくなるような行動をしないようにしましょう。
再発する可能性は高い
気胸は再発しやすい病気であり、初めて気胸を発症し、安静にしていたり胸腔ドレナージのみで治療したりした場合は50%以上という高い確率で再発します。
また、手術を受けた場合も、再発率は3~5%程度と決して低くありません。
予防法
効果的な予防法として特筆するものはありません。
しかし、肺に負担をかける喫煙はやめたほうがよいでしょう。喫煙によって肺の組織が壊れると、そこにブラやブレブができてしまいます。
また、喫煙は気胸の原因となるCOPDの発症や悪化を招きます。
まとめ
気胸はよくある病気のひとつですが、肺が著しくしぼんでいたり、両側の肺に損傷があったりするような重症例の場合は命に関わります。
まず気胸という病気があることを認識し、疑わしい症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。
[カテゴリ:気管・心臓・肺]