腎盂腎炎は腎臓や腎盂(腎臓からの尿が集まり膀胱へ送る部分)に炎症が起きる病気です。女性に起こりやすい病気ですが、男性に起こりやすい尿路結石が原因となることもあります。発熱と腰背部や側腹部の痛みが主な症状で、時に激痛を伴います。入院を要することもあり、早めの受診が必要です。腎盂腎炎についてまとめていますので、参考にしてください。

更新日:2017年09月26日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部

腎盂腎炎とは

腎盂腎炎とは

腎盂腎炎とは、尿路感染症のひとつで、主に細菌感染によって腎盂と腎臓に炎症が起きることで、発熱と腰背部や側腹部の痛みなどをきたす疾患です。

もともと、健康な人は尿路(腎臓、尿管、膀胱)に細菌はほとんどいません。それが、何らかの原因があって、細菌が侵入し、繁殖して炎症を起こすと尿路感染症をおこします。

それが腎臓そのものや、腎盂とよばれる腎臓で作られた尿が集まるところに起こったものを腎盂腎炎といいます。

なお、腎盂炎ともいいますが、腎盂腎炎と呼ぶことが一般的です。


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腎盂腎炎の症状

腎盂腎炎の特徴的な症状としては、発熱と腰背部や側腹部の痛みです。

腎臓は血流が豊富であり、炎症が起きると炎症性物質が容易に体全体にまわり、熱が出ます。特に、急に高熱が出ることが多く、「つい30分前までは何ともなかったのにいきなり38℃~40℃の熱が出た」ということもしばしば起こります。

熱が上がる徴候として、悪寒戦慄(おかんせんりつ)を伴うこともあります。また、一旦下がったと思っても、時間をあけて再度高熱が出ることもよくあります。

腎盂腎炎では、背部痛や側腹部痛もよくおこります。腎臓に炎症がおこると、腎臓が腫れて大きくなるため、それによって腎臓を包んでいる膜がひっぱられて痛みが出ます。

特に、叩打痛といって、ちょうど腰に手を当てたときに触る部分を軽く叩くだけで飛び上がるような痛みが出ることがしばしばあります。

菌血症や敗血症を起こすことも

それ以外にも、発熱に伴って頭痛や倦怠感が出たり、尿の色が混濁したりすることもあります。重症になると、菌血症・敗血症を起こして、ショック状態(炎症性物質によって血管が拡張し、血圧が著しく低下してしまうこと)になり、命に危険が及ぶこともあります。

腎盂腎炎の原因

女性イメージ

腎盂腎炎は、普段は菌のいない尿路に、何らかの原因によって菌が繁殖して炎症を起こすことで起こります。多くは、逆行性感染により菌が侵入します。

女性は発症しやすい

逆行性感染とは、尿道の出口からさかのぼるように菌が侵入するものです。女性の方が腎盂腎炎を起こしやすいのは、陰茎が無い分、尿道が短いため、菌が容易に膀胱内に到達しやすいためと考えられています。

女性の場合は特に不衛生な性交渉も、腎盂腎炎の発症リスクになります。また、排便後にきちんと前から後ろに向けて拭くようにすることも大切です。

尿路結石によって引き起こされることも

さらに、尿路結石症に伴って腎盂腎炎が起こることがあります。尿中の成分が、尿の酸性度などによって析出し、腎結石・尿管結石・膀胱結石・尿道結石となることがあります。

この結石が尿路において詰まり、尿の流れがうっ滞することで、菌が繁殖しやすい状況になり、腎盂腎炎に進展することがあります。

また、結石の中には、感染性結石といって、菌が付着している結石もあります。このように感染性結石を持っていると、より腎盂腎炎を起こす可能性が高くなります。特に、内視鏡手術や体外衝撃波による結石破砕術を行うことで、菌が出てきて腎盂腎炎を発症することもしばしば起こります。

膀胱尿管逆流症が原因となることも

また、もともと膀胱尿管逆流症といって、膀胱から尿管・腎臓に尿が逆流する体質の方がいます。

通常は、膀胱に尿が充満して膨らむと、膀胱から尿管・腎臓へは尿が逆流しないような仕組みが備わっていますが、この仕組みに生まれつき(または神経因性膀胱などによって後天的に)欠陥があると、それに伴い菌が上にのぼりやすくなったり、尿がうっ滞したりすることで菌が繁殖しやすくなることなどにより、腎盂腎炎を起こすことがあります。

免疫力の低下も原因になる

その他、お腹の手術や結石の手術などをきっかけとして尿管が狭窄したり、閉塞したりした場合にも尿がうっ滞して菌が繁殖しやすくなります。

また、直接的な原因ではないものの、糖尿病をはじめとした免疫力が低下する病態をもっていたり、ステロイドなどの免疫を抑制する薬を飲んでいたりすると、腎盂腎炎を起こす可能性や、起こした際に重症化する可能性が高まることが分かっています。

腎盂腎炎の原因となる菌は、多くが大腸菌や腸球菌など、腸内細菌です。他にも、糖尿病など免疫力が低下している方の場合は緑膿菌、真菌(かび)なども腎盂腎炎の原因菌となります。


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妊娠と尿路感染症

妊娠中は尿路感染症を起こしやすくなります。膀胱粘膜が浮腫状となり、また子宮の増大に伴って膀胱が圧迫され、膀胱自体も機能的に低緊張となり、残尿も増えるため流れが悪くなります。

妊婦の2-10%において無症候性(症状のない)の細菌尿を認めるとされています。

また、妊娠中の急性腎盂腎炎の発症率は、1〜2.5%であり、妊娠中期から後期にかけて多いのが特徴です。通常は、尿中に細菌がみられても症状がなければ抗菌薬治療は行いませんが、妊娠中の場合は、症状がなくても抗菌薬投与を行うことがしばしばあります。

腎盂腎炎の診察・検査

尿検査

腎盂腎炎の診察・検査としては、身体診察・尿検査・血液検査・腹部超音波検査・レントゲン検査(KUB)・CT検査が一般的です。

身体診察

腎臓が位置する背部を叩いた時に痛みを伴うかどうかを診察します。

尿検査

尿中に細菌がいないか、白血球が増えていないかを調べます。また、尿培養検査を行って、どのような種類の菌がいるか、どういった抗菌薬が有効かを調べることもできます。(検査が可能な医療機関であれば、血液培養検査も同時に行います)

血液検査

WBC(白血球数)、CRPなどをみて、炎症が起きているかどうか、を調べます。また、Creをみて、腎臓の機能が悪くなっているかどうかを評価します。その他、凝固系など検査などをふまえて、播種性血管内凝固症候群(DIC)といった合併症を起こしていないかも総合的に判定します。

超音波検査・CT検査

腎臓に感染が起きているかどうか、水腎症(尿のうっ滞)があるかどうかを確認するとともに、結石をはじめとして腎盂腎炎を起こしやすい病気の合併が無いかを調べます。

何かに受診すればよいか

腎盂腎炎については、内科(腎臓内科)・泌尿器科に受診するとよいでしょう。結石などによって水腎症があるなど、尿路に閉塞がある場合は、腎臓の外科である泌尿器科が主体となって治療を行います。

腎盂腎炎の治療

病院

腎盂腎炎の治療は、抗菌薬とドレナージです。抗菌薬を投与することで菌をやっつけることはほぼ全ての症例において行われます。

投与方法は、経口投与または経静脈投与(点滴による投与)を用います。さらに、水腎症(尿のうっ滞)や、膿腎症を伴う場合には、菌がたまっているところを針で刺して溜まっている膿を体外に排出する処置を行うことがあります。

尿管結石症による尿路の閉塞がある場合は、尿道の出口から内視鏡を入れて、腎臓から膀胱にかけて尿管ステントとよばれる管を留置することもあります。

治療期間や入院について

治療期間としては、標準的には7日~14日間程度の抗菌薬投与が必要です。

若くても高熱が出て歩けないくらいになってしまう場合や、高齢者の場合は意識不明に陥ることもあり、しばしば入院治療を要します。

入院治療を要する場合は、多くはまず経静脈投与によって抗菌薬を投与し、熱が下がった頃合いに尿培養結果、血液培養結果をみて飲み薬に変更することが一般的です。

腎盂腎炎の予防法

コーヒー

日常生活において最も大切なことは、菌が尿道に入らないようにすることです。もともと肛門と尿道の距離が近い女性は尿路感染症を起こしやすいことがわかっています。そうでない方も、性行為のときにしっかりと陰部をきれいにしてから、不潔にならないように行うことも大切です。

また、腎盂腎炎を起こす原因として多い尿路結石にならないよう、食生活に気を付けることも大切です。

尿中のシュウ酸やカルシウムの濃度を低く保つことが、尿路結石の発症リスクを低くします。特に、シュウ酸を増やす食べ物の制限が有効です。

具体的には、ほうれん草や、小松菜・モロヘイヤ・たけのこ、チョコレート、ナッツ類、紅茶、コーヒーなどにも多く含まれていますので、過剰摂取を控えましょう。食生活に気を付けることは、腎盂腎炎を重症化させる糖尿病の予防にもつながります。

もし、膀胱炎や腎盂腎炎に頻繁になる方で、再発しそうな感覚がある場合は、お水をよく飲んで尿量を増やして、尿を我慢せずこまめにトイレに行くことも大切です。

まとめ

尿路感染症を予防するためには、菌を侵入させないことと、増殖させないことが大切です。

腎盂腎炎になりやすい方は、陰部を清潔にし、水をよく飲んで尿量を増やすこと。また、尿を我慢せず、こまめにトイレに行く事です。さらに、食生活にも気を付けましょう。

腎盂腎炎に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:下半身, 尿, 腎臓]

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