入浴施設だけでなく、加湿器などでも発生するレジオネラ菌です。高齢者や乳幼児は感染しやすく、重症になることもあります。レジオネラ菌が発生しないための対策や、感染した場合にどのような症状や病状になり治療を受けるのかなど、詳しく解説します。

更新日:2017年08月27日

この記事について

監修:大見貴秀医師

執筆:当サイト編集部

レジオネラ菌とは

温泉

一日の疲れをとるのに、ゆっくりとお風呂に入るのが欠かせないという人や、日頃のストレスを発散するために、旅行先で温泉宿に泊まるのを楽しみにしている、という人は多いと思います。

しかし近年、テレビのニュースなどでよく聞かれるようになった「レジオネラ菌」が心配で、大好きなお風呂や温泉を心から楽しめなくなった、という人もいらっしゃるのではないでしょうか。

中にはレジオネラ菌への感染を恐れるあまり、自宅ではシャワーのみという人もいるようですが、そもそもレジオネラ菌とは、一体何なのでしょうか。

レジオネラ菌とは、アメーバなどの原生生物に寄生しながら、土壌や河川、湖沼(淡水)などの自然界に生息する常在菌です。

レジオネラ菌は現在、最も多いとされるニューモフィラ1群を始めとして、ニューモフィラ2群、ニューモフィラ3群、ニューモフィラ4群、ニューモフィラ5群、ニューモフィラ6群、ボゼマニイ、デュモフィ、ゴルマニイ、ミクダデイなど約50種類が確認されており、それらを総称して「レジオネラ属菌」と呼ばれています。

感染すると、レジオネラ肺炎やポンティアック熱といったレジオネラ症を発症し、最悪の場合、死に至ってしまうケースもあります。


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近年に発見されたレジオネラ菌

レジオネラ菌は、1976年に、アメリカのペンシルベニア州にて在郷軍人会が開催された際、大会の参加者や地域住民が原因不明の肺炎を発症したことにより発見されました。

その際、患者の肺から新種のグラム陰性桿菌が見つかったことから、在郷軍人会(The Legion)にちなんでlegionnaire(レジオネラ)と名付けられました。

グラム陰性菌には、レジオネラ菌の他に大腸菌やサルモネラ菌、緑膿菌などがあり、これらは体内に入って菌体が破壊されると、強力な毒素を発生させ、時にはエンドトキシンショックと呼ばれるショック状態を起こすこともあります。

大量に貯水する場所で発生する

発生場所

日本では「〇〇県の温泉施設にてレジオネラ菌が発見され、これによる感染で1名が死亡・・」といった報道などから、「レジオネラ菌=入浴施設」というイメージを持っている人が多いと言われていますが、レジオネラ菌は入浴施設のみに生息する菌ではありません。

温泉や公衆浴場を始めとした入浴施設の他にも、空調設備の冷却塔、加湿器、循環式の浴槽水、給湯設備、貯水槽などにおいて、衛生管理が十分に行き届いていないと、レジオネラ菌が大量に繁殖し、その汚染水を吸い込むことで感染の危険が高まります。

また、レジオネラ菌は酸や熱に強く、20~50度の範囲で繁殖し、36度前後が最も増殖する温度だとされています。

つまり、レジオネラ菌は、大量の水やお湯を溜めて使うような場所であれば、どこでも発生すると考えられているのです。

ヌメリのある場所は注意

俗に言う浴槽や配管などに〝ヌメリ〟がある場合は注意が必要です。

このヌメリは生物膜(バイオフィルム)と呼ばれ、レジオネラ菌の繁殖の温床となるからです

レジオネラ菌の検査(レジオネラ菌の基準値)

公衆浴場や旅館、老健施設や社会福祉法人等の施設、プール、空調設備の冷却塔や給水・給湯設備、噴水などでは、レジオネラ菌の検査が義務付けられています。

検査は、専用の検査キットを用いて行い、検査に必要な水量である200mlを採水し、37度前後で6~8日間培養したものが、基準値の「10cfu未満/100ml」を超えていないかを確認します。

感染経路や感染原因

肺イメージ図

レジオネラ菌への感染は、エアロゾル(霧状の水)が人の口や鼻から侵入し、肺に達することで起こります。

とは言え、本来であれば、肺には面積の85%を占める肺胞(ぶとうの房のように袋状になったもの)があり、その肺胞には侵入した細菌やウイルスを捕食し、消化・分解を行う白血球の一種であるマクロファージ(アメーバ状の細胞)が存在するため、細菌やウイルスの肺への感染は起こりにくいことがわかっています。

しかし、レジオネラ菌は「通性細胞内寄生性」という特殊な性質を持っていることから、マクロファージの貪食を逃れ、マクロファージ内に侵入して増殖を始めて、やがて肺全体に症状を引き起こしてしまうのです。

シャワーの水、皮膚の傷から感染することも

なお冒頭で、「レジオネラ菌に感染するのが怖いから、シャワーを使っている」という人の話をしましたが、レジオネラ菌の繁殖がミストや霧状の水であるエアロゾルの状態で一番起こりやすく、かつ、バイオフィルムに生息しやすいことを考えると、シャワーヘッドが感染源となる可能性は高いと言われています。

また、レジオネラ菌の感染はエアロゾルだけではなく、直接お湯や水を飲みこんでしまい、菌が気管に入ってしまった場合でも起こり、実際に毎日温泉水を飲んでいた人が感染した例もあります。

さらには、皮膚に外傷がある状態でお湯に浸かり、そこから菌が侵入して腫瘍になってしまったケースもあります。

感染者数は増加傾向にある

レジオネラ菌は細菌の中でも感染力が弱いため、健康な人が実際に感染する恐れは非常に少ないと言えますが、平成11年には56人だった国内感染者の報告数が、平成27年には1,592人となり、年々増え続けている現状があります。

レジオネラ統計

発生動向調査年別報告数一覧(国立感染症研究所)のデータをもとに当サイトで作成

2004年には、レジオネラ菌が四類感染症に指定されたことからも、感染に対する注意をすることが大切と言えるでしょう。

※四類感染症とは、「人から人への感染はほとんどないが、動物、飲食物などの物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれのある感染症」に定義されるもの。

→ 参考:国立感染症研究所(病原体検出マニュアル)

乳幼児、高齢者、男性に多い感染者

乳幼児に多い感染者

特に、乳幼児や高齢者、糖尿病患者や呼吸系の疾患を持っているなど、抵抗力の弱い人は感染しやすいと言われており、このような人がレジオネラ菌に感染すると深刻な状態を招きやすいことから、レジオネラ菌に汚染されやすい施設や場所へ行く時は十分な注意が必要になります。

また、明確な理由はわかっていないものの、男性と女性では圧倒的に男性の感染者が多く、その比率は男女比で8:2とされ、特に中年以降は感染率が高くなります。

人から人へは感染しない

なお、レジオネラ菌は人から人への感染はしません。

さらに付け加えておくと、2013年に厚生労働省が発表した「感染症発生動向調査」によると、過去5年において一年を通して7月に最も多くレジオネラ症が発生していることがわかっています。

これは、梅雨時で気温や湿度が高くなることや、旅行者の増えるシーズンのため、入浴施設の利用者が増えることで、レジオネラ菌に接触する確率が高くなるためと考えられています。

感染の検査

顕微鏡

レジオネラ菌の感染が疑われる人の検査には、次のような方法があります。

尿中レジオネラ抗原検査

レジオネラ肺炎の発症原因の、実に半数以上がニューモフィラ1群と言われていることから、主に尿中のニューモフィラ1群を調べる検査となります。

ただし、この検査にて陰性となっても、その他のレジオネラ菌に感染している可能性を否定することはできません。

培養

喀痰や血液などから菌を分離し、レジオネラ専用培地にて生育を見ます。そこで特有の外観を示し、なおかつ血液寒天培地などで同様の様子が見られない場合は、陽性と判断されます。

血清抗体価の測定

血液の血清に含まれる抗体の数を調べることで、細菌などの感染の有無を確認します。

血清抗体価検査には、間接蛍光抗体法とマイクロプレート凝集法があり、発病初期と回復期の血清を調べ、抗体の数が4倍以上となっている時、陽性とするペア血清検査の場合は、回復期の血清が間接蛍光抗体法で128倍、マイクロプレート凝集法で64倍以上であれば陽性と診断されます。

また、発病初期のみの血清を調べる単一血清であれば、間接蛍光抗体法では256倍以上、 マイクロプレート凝集法では128倍以上が陽性とされます。

感染した際の症状

症状

レジオネラ菌に感染した場合、発症は「レジオネラ肺炎」と「ポンティアック熱」の2つに大別されます。

そこでここでは、それぞれの症状について詳しく説明したいと思います。

1. レジオネラ肺炎

レジオネラ肺炎は、2~10日の潜伏期間を経て発症すると言われています。

全身の倦怠感や頭痛、食欲不振、悪寒、熱、筋肉痛といった初期症状が起こり、進行すると意識障害や呼吸困難、胸の強い痛み、下痢が出現します。

適切な治療を受けなければ、多臓器不全により発症後7日以内で亡くなる人の割合が15~30%にも上ります。

2. ポンティアック熱

ポンティアック熱は1~2日の潜伏期間を経て、発熱や頭痛、全身の倦怠感、下痢、筋肉痛などの症状が現れます。

多くの場合、数日で症状が回復し、特に治療を行わずとも自然治癒するのが殆どです。

そのため、感染をしても単なる風邪や疲れだと思う人も多いのですが、注意が必要です。


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レジオネラ肺炎の治療

レジオネラ肺炎を発症した場合、有効となるのが抗菌薬の投与です。

ただし、細菌内寄生菌であるため、通常多くの感染症で第一選択されるペニシリン系やセフェム系は効果がなく、ニューキノロン系、テトラサイクリン系、マクロライド系、リファンピシンといった薬剤が使用されます。

個人でできる対策

エアコン

温泉施設や貯水槽、プール、噴水といった公共施設については、管理者が、毎日行き届いた清掃を行い、徹底した水質・衛生管理を行うことが必要です。このような検査は、公衆浴場法や旅行業といった法律に規定された義務になります。

そうはいっても、乳幼児や高齢者の人がいる家庭では、個人でできる対策をした方が安心です。主な対策を説明しますので、参考にしてください。

温泉ならかけ流しの方がいい

衛生管理がきちんとしているところを選ぶというのは当然ですが、一般的に循環式の温浴施設よりも、かけ流しの温泉の方が水を使いまわしていないことから、レジオネラ菌の繁殖の可能性が低いとされています。
乳幼児や高齢者が行く場合はこのような施設を選ぶのがよいかも知れません。

ジェットバスなどは控え、源泉の温度が60度以上の温泉を選ぶといい

また、エアロゾルの吸入を避けるため、打たせ湯やジェットバス、気泡風呂、低温サウナなどの使用を控えることも対策となるでしょう。

さらに、レジオネラ菌は60度以上の高温になると死滅すると言われているので、源泉が60度以上の温泉を探すのも、対策としては効果があると考えられます。

エアコンフィルター、加湿器の洗浄も対策になる

この他に、入浴施設以外の対策としては、エアコンの冷却装置を窓の近くにしない(エアロゾルを室内に侵入させないため)、フィルターのこまめな清掃や交換を心掛けることが、レジオネラ菌の繁殖を防ぐ対策になります。

また、非加熱式の家庭用加湿器の貯水タンクもレジオネラ菌が繁殖しやすいことから、掃除やフィルターの交換をきちんと行うようにしましょう。

浴槽、シャワーについてもしっかりと洗浄を

24時間入浴が可能な循環式浴槽を使っているご家庭の場合、1997年以降に製造されたものについては、通産省の通達によってレジオネラ菌対策を施した商品が販売されていますが、ジェットバスなども含め、レジオネラ菌が繁殖しやすい環境であることは間違いないため、清掃や消毒をしっかり行うことが大切です。

また、定期的にシャワーヘッドやホースを、清掃・消毒するのがよいでしょう。

レジオネラ菌による感染者が増えている背景から、水を通すだけでレジオネラ菌を殺菌する効果のあるシャワーヘッドも販売されています。

さいごに

近年、話題になっているレジオネラ菌ですが、温泉やお風呂だけでなく、エアコンの冷却装置なども菌の発生場所となってしまいます。

レジオネラ菌発生の危険がある場所については、清潔にしておくこと大切ですので、しっかりと対策をしておきましょう。

参考サイト・文献

レジオネラ菌に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:免疫, 気管・心臓・肺]

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