更新日:2017年10月20日
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あがり症とは
誰だって、初対面の人と会う時や、大勢の人の前でスピーチを行う時などは緊張するものです。
しかし、そのような場面で頭が真っ白になってしまったり、全身から汗が噴き出してきたりなどの苦い経験をすると、「次もまた同じことになったらどうしよう・・」と不安が強くなり、苦手意識が強くなってしまいます。
あがること自体は病気ではない
人間関係や物事に対する緊張の度合いは、持って生まれた性格や、その時々の環境によって左右される部分も多いため、人前であがってしまうからと言って、それがすぐに病気に繋がるわけではありません。
むしろ、あがるという状態は、本来は極めて正常な反応と言われています。
ただし、大事な場面であがって失敗したことがトラウマとなると、その出来事とは直接関係のないことでも、人と会うことに強い恐怖心を感じて心身に様々な症状が現れるようになり、日常生活に支障が出てしまうことがあります。
あがり症とは「対人恐怖症」や「社交不安障害」のこと
「あがり症」という病名はこの世には存在せず、通称として使用されているもので、一般的には次の2つの病気を指していると言われています。
対人恐怖症
対人恐怖症は、日本人の10人の1~2人がかかると言われている神経症の一つです。
日本特有の文化とも言える「周囲と合わせる」「空気を読む」といった状況の中で、自分の存在や言動が相手を不快な気持ちにさせているのではないか?という思い込みから、人と会うことに極度の緊張や不安を感じ、やがて家から一歩も出られなくなる引きこもりを引き起こすことがあるものです。
社交不安障害
社交不安障害は、以前までは社会不安障害と呼ばれていたものですが、社会不安という言葉が誤解を生みやすいという理由で、2008年より日本精神神経学会において名称が変更されたものです。
相手を嫌な気持ちにさせてしまったらどうしようと悩む対人恐怖症に対し、社交不安障害は人前で自分が失敗したり、恥をかくことに強い恐怖心や不安を感じてしまったりする病気です。
対人恐怖症は、世界的に見て日本人の罹患者が群を抜いて多いと言われるのに対し、社交不安障害は世界中で広く見られ、特にアメリカでは7~8人に1人の割合で見られると言われています。
ノルアドレナリンの分泌量と交感神経の過剰な働きが原因
あがり症発症のメカニズム
極度の緊張状態に陥ると、自分の鼓動が周囲の人にまで聞こえているのではないか?と思えるくらい、心臓がドキドキと高鳴ったりしますが、この時、体内では一体どのようなことが起こっているのでしょうか。
1. ノルアドレナリンの分泌
強い緊張によってストレスを感じると、脳や交感神経末梢から神経伝達物質の一つであるノルアドレナリンが大量に分泌され、交感神経を活性化させ、集中力や昂揚感が高まります。
つまり、ノルアドレナリンの分泌にはパフォーマンスを向上させるというメリットがあるため、スポーツなどの大切な場面において、緊張することは必ずしも悪いことではないと言われています。
2. 交感神経の作用
ノルアドレナリンによって交感神経が活性化されると、次のような作用が起こります。
- 呼吸が速くなる
- 血圧が上がる
- 筋肉が緊張する
- 体温が上がる
- 消化機能が低下する
動物が獲物を狙う時、もしくは相手から逃げる時に毛を逆立てて興奮し、臨戦態勢に入りますが、このような時に優位に立っているのが交感神経になります。
このようなことから、交感神経は「闘争と逃走の神経」とも呼ばれます。
あがりやすい人は几帳面、真面目、他人の評価が気になる人・・
人前で緊張してしまい上手く話せないと、自分はなんて内気でダメな人間なんだと否定的に捉えてしまいがちですが、あがりやすい人は性格に次のような特徴があると言われています。
- 几帳面
- 真面目
- 物事を深く考える
- 責任感が強い
- 人の気持ちや周囲の状況を考えようとする
- 完璧主義者
- プライドが高い
- 他人からの評価が気になる
- 自意識過剰
思春期の失敗体験が影響している場合も
自我に目覚め、他人の視線や言動が気になってくる思春期は、心身のバランスをとることが難しくなり、ちょっとしたことで落ち込んだり、深く傷つきやすくなったりする時期です。
このような時に起こった些細なことがトラウマとなり、20~30代になってあがり症を発症する場合も少なくありません。
例えば、授業中の本読みで上手く読めなかった、異性と話している時に緊張から顔が真っ赤になったことを友達に指摘された、汗をかいた時に「臭いがしたらどうしよう・・」と気になったなど、周囲からすると特に気にしていないことでも、当の本人にとっては辛い体験となって心に残ってしまうことがあります。
このような記憶があると、失敗できないと思う場面になればなるほど、強い緊張が襲うことになり、あがりやすくなってしまいます。
セロトニンが不足している
セロトニンは、ノルアドレナリンと同じく神経伝達物質の一つで、心を安定させる働きがあることから、別名「幸せホルモン」と呼ばれています。
セロトニンには、ノルアドレナリンの分泌を抑える働きがあることから、通常は緊張状態が続いてノルアドレナリンの分泌が増えても、セロトニンによって不安や恐怖を感じにくくしています。
しかし、セロトニンが不足していると、ノルアドレナリンの作用が強くなってしまい、あがりやすくなる可能性が指摘されています。
あがり症をチェックしてみましょう
単にあがりやすいだけなのか、それとも対人恐怖症や社交不安障害などの病気の可能性があるのかは、例え医師であっても判断が難しい場合もありますが、自分自身のあがり症を簡易的にチェックできるテストがあります。
チェック方法はいくつかありますが、専門の医療機関で使用しているものとして、次のようなものがあります。参考として掲載しますので、チェックしてみてください。
日常生活に支障が出る症状は注意
あがり症の症状には以下のようなものがあります。
- 人と話す時に、動悸が激しくなったり息苦しくなったりする。
- 顔が赤くなる。
- 手や全身から大量の汗が出る。
- 相手の視線が怖く感じる。
- 人と話す時に顔が引き攣ってしまう。
- 話の途中でどもってしまう。
- 人前では上手く話せなかったり、声が出づらかったり、震える。
- 人と向き合うと手や足が震える。
- 誰かと一緒だと食事が喉を通らない。
- 電話に出るのが億劫だったり、恐怖を感じたりする。
- 人の前で字を書く時に、手が震える。
- 自分より立場が上の人や年上の人と上手く話せない。
- 人と話す時に口や喉がカラカラになる。
- 緊張する状況を想像するだけで苦しくなる。
あがり症の症状には個人差があることから、上記の症状のみで、あがり症を判断するわけではありません。
あがり症で一番の問題は、このような症状が出ていることではなく、症状によって日常生活に支障が出ていることです。
そのため、症状があっても仕事や生活に問題がないと思う場合は、あがり症ではないと言えます。
克服するには?まずは自分の思考の癖を認識しよう
あがり症は、大勢の人前で話すことに慣れる訓練や、とにかく場数を踏むことで克服できると言われることがありますが、悩んでいる方の多くは、このような方法を行ってむしろ症状が悪化したと感じています。
あがり症はいわば、多感な時に受けた心の傷が元となり、人と接することや関わることに対して強い恐怖心を抱いている状態です。
そのような方が、話し方の講座を受講したとしても、緊張や不安が先立ってしまい上手く話すことができるはずがありません。
あがり症を克服するには、まずは自分の思考の癖を認識し、何事もネガティヴに捉えていることを自覚することが大切です。
そのためには、失敗したらどうしよう・・という感情ばかりに意識を向けるのではなく、今、自分は何をするべきかという現実にしっかりと向き合うことが必要です。
そして、どんな小さなことでも構わないので、成功体験を積み重ねていくことが重要です。
新しい記憶がどんどんと増えることで、少しずつ失敗した体験の記憶が薄まり、自信を取り戻していくことができます。
病院でも治療できます
あがり症によって、著しく日常生活が不自由だと感じる場合には、病院での治療を考えるのも一つの方法です。受診する診療科は、基本的に心療内科になります。
病院では主に、以下の治療が行われます。
- 薬物治療
- 認知行動療法
認知行動療法とは、物事の受け取り方や捉え方の歪みを治していくものです。
自分の中では「正しい」と思っていることを客観的に捉え検証することで、思考の偏りに本人が気付き、バランスを取っていくのが目的となります。
薬には病院で処方されるもの以外に市販薬や漢方薬もあります
薬による治療は、根本的なあがり症の克服とはいかないものの、極度に緊張する状態を薬の作用によって抑えることで、成功体験を得やすくなり、自信がついて状況を好転させる切っ掛けにはなります。
では、あがり症で処方される薬にはどのようなものがあるのでしょうか。
病院で処方される薬
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- TCA(三環系抗うつ薬)
- ベンゾジアゼピン系抗不安薬
- βブロッカー(β遮断薬)
SSRIやTCAは鬱病や不安障害などの治療にも用いられる薬で、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、意欲を高めるなどの効果があります。
また、抗不安薬やβブロッカーは、症状が現れた時の頓服薬として飲むことで不安症状や動悸などを抑えることができます。
市販薬
- イララック(小林製薬)
- パンセダン(佐藤製薬)
- メンテック(エーザイ)
市販薬は病院で処方される薬と比べて、効果・副作用ともに弱い傾向がありますが、神経の働きに関わる成分が含まれているため、利用する場合には薬剤師に相談し、注意書きをよく読む必要があります。
漢方薬
- 加味帰脾湯
- 半夏厚朴湯
- 柴胡加竜骨牡蛎湯
市販薬同様、神経に作用する成分(漢方薬の場合は生薬)が含まれていることから、購入する場合は漢方医によく相談することが大切です。
まとめ
「あがる」ということは、人間に備わっている本来の機能であるということが言えますが、それが過度なものになると、対策したほうがいいかもしれません。
また、病院でも治療をしてくれますが、病院に行ってまで・・と思われる人も多くいます。しかし、病院を受診した人の中には早く治療を受ければ良かったという人が多くいます。
克服する方法はいろいろとありますので、自分にあった方法見つけていくことが大切です。
[カテゴリ:精神・神経]