更新日:2017年08月14日
廃用症候群とは?
廃用症候群とは、入院などによって過度な安静状態が長期間続くことにより、筋肉が痩せ衰えたり、関節の動きが悪くなることで、全身の身体能力や精神状態に悪影響をもたらす症状です。
人間の筋肉は使わないとどんどん衰えていくことがわかっています。運動部に所属している学生が骨折などにより入院すると、筋肉が落ちて足がすごく細くなり、退院するころにはギプスがブカブカになるといった話はよく聞きますよね。健康な人でも、筋肉は意外なほど早く萎縮し、その筋肉を戻すのには倍以上の期間を要します。
特に高齢者では、衰えた筋肉をもとの状態にまで戻すことが難しく、ちょっとした入院などが原因で「起きられない」「歩くことができない」「寝たきり」となり、廃用症候群となる可能性があります。
長期間の安静による影響
ケガや病気のときには全身の細胞をフル稼働して身体の修復(治療)を行っているため、絶対に安静にしなければいけません。しかし、安静によって身体の筋肉を使わない状態が長く続くと、筋肉や関節、臓器、精神などに次のような影響がでてきます。
筋肉への影響
安静による筋力低下は、健康な人でも一週間に10〜15%ずつ、3週間目でおよそ50%ほどと言われています。運動選手は数日間でもトレーニングを怠ると、体が思うように動かなくなると感じます。
一方で衰えてしまった筋肉を回復させるためにはかなりの時間を要します。1日安静していたことによる筋力低下を回復させるためには1週間を要し、1週間の安静が続くと失われた筋力を戻すのに1か月かかると言われています。
高齢者は、一旦筋肉が衰えると回復に時間がかかるうえ、体力が弱っているためにリハビリ自体を苦痛に感じるようになり、さらに動かなくなって廃用症候群を発症しやすいと言われています。
関節への影響
しばらく同じ姿勢を続けると、関節を回したときにゴリゴリと音がしてコリが溜まることがありますよね。廃用症候群の1つの症状として関節への影響もあります。
安静を続けて関節を動かさないでいると、関節が凝り固まります。「関節が痛い」という理由でリハビリをつらく感じる人も多いようです。
血液への影響
廃用症候群は血液にも影響を与えます。血液は、血漿と呼ばれる液体に酸素を運ぶ赤血球、病原菌などと闘う白血球、出血を止める役割を担う血小板などが浮遊して構成されています。
体を動かさない状態が続いて廃用症候群となると、2週間程度で血液中の血漿が8〜12%、1か月で15〜20%が失われると言われています。
血液中の液体成分である血漿の量が減少すると、血液がドロドロとなり、血管中に血栓ができる静脈血栓の危険性が高まります。
血圧への影響
足は第2の心臓と呼ばれていますが、心臓から排出された血液は動脈を通って体中を巡り、静脈を通って心臓に戻ってきます。足の筋肉は、血液を静脈へ押し出して心臓に送り届けるポンプの役割を担っています。
夕方になると足がむくんだりしますよね。あれば不要物をたくさん含んだ血液が足に滞ってしまっているためで、むくみを取るにはマッサージをしたり足首を回したりして血液を心臓に戻してあげる必要があります。
長期間の安静では、筋力の低下や活動の低下により、下半身の血管収縮が十分になされなくなります。すると、足から心臓に戻ってくる血液量が減り、心臓から排出される血液量も減ることになり、脳内の血液量も減少してしまいます。
その結果、急に立ち上がったときに血圧が急降下する起立性低血圧を発症し、発汗、めまい、頭痛などが起こることがあります。廃用症候群による起立性低血圧は、高齢者では2・3日で発症することが多いです。重度の場合には失神などを起こすこともあり、廃用症候群の中でも注意が必要です。
心機能などへの影響
上述した筋肉低下や血液量の減少により、健康男性が20日間安静を続けることによって心臓からの血液の排出量が26%減少したという研究結果があります。
血液は酸素を体中に運んだり、不要物を血漿に溶け込ませて運び体外に排出したりする役割を担っているため、廃用症候群によって酸素の運搬や不要物の回収といった機能が衰えることになります。
精神状態への影響
安静状態で体を動かさないでいると、精神的な落ち込み(うつ状態)ややる気の喪失といった精神状的機能の低下も見られます。脳機能への影響「廃用性認知症」という言葉があるように、廃用症候群が認知症の原因となることがあります。
寝たきりの生活が続くと、もともと認知症を患っている患者さんでは、廃用症候群によって認知症が悪化することもあります。
また、普段と違う環境(入院)に変わる、ということだけで認知症を悪化させる恐れがあります。高齢者の方では、短期の入院で認知症がひどくなることがあります。
廃用症候群の原因
廃用症候群の原因で最も多いのは入院です。
高齢者では、骨が弱くなっていることから骨折といったケガも多いのですが、風邪をこじらせた肺炎などで1週間程度の入院をする場合にも注意が必要です。
廃用症候群の症状
廃用症候群の主な症状は次のとおりです。
運動器障害
- 筋萎縮・関節拘縮
筋肉が痩せ衰えて萎縮するとともに腰背痛や五十肩などにより関節の可動範囲が狭まり、足などを動かそうとすると痛みを生じます。その結果、体を動かすことが億劫になり、さらに筋力が低下するという悪循環に陥りやすいので注意です。 - 廃用性骨萎縮
廃用症候群によって骨がもろくなり、折れやすくなります。
循環・呼吸障害
- 心機能低下
心臓からの血液の排出量などが減少します。 - 血液・血圧
廃用症候群により血液濃度が高まり、血栓症の危険性が高まります。 - 起立性低血圧
立ち上がったときに血圧が低下し、めまいやふらつきを起こします。 - 誤嚥性肺炎
飲み込む力が低下し、食べ物が誤って肺に入ることによって肺炎を引き起こします。
自律神経障害・精神障害
自律神経の乱れにより、便秘、尿失禁、便失禁、低体温症などが起こることがあります。また、廃用症候群による精神障害としては、やる気減退、食欲不振、不眠のほか、仮性痴呆や認知症の悪化なども知られています。
その他
尿路感染、尿路結石、脱水、浮腫(むくみ)褥創(床ずれ)
廃用症候群の予防
廃用症候群を予防するためには、なるべく体を動かすことが重要です。安静時でも気分がよいときにベッドに寝たまま足を回す、手や足先をもみほぐす、血管に沿って血液が心臓に戻るようにマッサージするといったことが効果的です。元気なときには起き上がるようにして、なるべく同じ姿勢を続けないようにしましょう。
マッサージは、強く行わなくても皮膚表面をなでるだけで刺激が脳に伝わり、交感神経に優位に働くことがわかってきました。リラックス効果もあるので精神面にも有効です。
入院中は慣れない病院での生活や不安で精神的に落ち込むことが多くなります。なるべく面会に行く、話しかけるようにするといった精神的なケアも廃用症候群の予防につながります。
安静時には排尿が面倒なために水分の摂取量が減る傾向があります。血液の粘度を高めないためにも、水分を十分にとるように心がけましょう。
まとめ
原因・なりやすい人
廃用症候群の原因は長期間の安静などによって筋力が低下してしまうことであり、健康な若者であっても入院生活などが何か月も続けば必ず発症すると言われています。筋力低下後に元の状態に戻すのに時間がかかってしまうため、高齢者のほうが重症化しやすいです。
症状・予防など
筋肉の衰えや関節の硬直(拘縮)などのほか、血液・血圧・心機能・脳機能・精神面などに様々な症状がでることがわかっています。
廃用症候群の予防法としては、安静時であってもなるべく同じ姿勢を続けないように寝返りをうつ、できるだけ座位をとるようにする、マッサージや足や手を動かすといったことや、入院中にはなるべく面会に行き話しかけるようにするといった精神面でのケアも重要です。
[カテゴリ:手・足]