更新日:2017年12月17日
歯周病とは?
歯周病は歯の周りが炎症を起こす病気で歯槽膿漏とも呼ばれます。
軽度なものを含めると30歳以上の日本人の8割が罹患しており、虫歯と並び歯を失う大きな原因の1つです。
虫歯は虫歯菌が作りだす酸によって歯に穴が開きますが、歯周病は歯自体ではなく、歯の周囲の歯肉(歯茎)が炎症を起こし、歯を支える骨(歯槽骨)が壊されていきます。
初期は痛みを感じないため気づかないうちに徐々に進行し、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)が溶けて歯も抜けてしまいます。
それだけでも十分怖いのですが、歯周病の怖さは症状が歯周辺だけにとどまらず、全身に影響を及ぼす可能性があるというところです。
なお、歯周病は歯の喪失原因のトップでもあり、厚生労働省の調査によると80歳で20本以上の歯を有している人は、3人に1人となります。
歯周病の原因
歯周病の一番の原因になるのは「プラーク(歯垢)」です。
プラーク(歯垢)とは歯と同じような色をした粘着性の物質でその正体は細菌の塊です。
正しい歯磨きが出来ていなければプラーク(歯垢)が歯の表面だけでなく歯と歯茎の間(歯周ポケット)にも溜まっていき、これをそのままにしていると石灰化し歯石へと変化していきます。
歯周病のメカニズム
不十分な歯磨き。
↓
歯と歯茎の間(歯周ポケット)にプラーク(歯垢)がたまる。
↓
細菌が繁殖し毒素を産生する。
↓
歯茎の内部が炎症を起こす。
↓
歯周病が進行する。
歯石やプラーク(歯垢)を取り除かないままの状態で様々な危険因子が加わると、歯周病の症状は悪化し進行していきます。
口腔内の危険因子
歯周病にならないようにするために、注意したいものには次のものがあります。
注意が必要な順に並べておきます。
- 清掃不良
- 歯並びの悪さ
- 歯に合っていない被せ物
- 歯ぎしり
- 口呼吸
その他の危険因子
- 喫煙
- 肥満
- 遺伝
- ストレス
- 骨粗しょう症
- 不規則な食生活
- 女性ホルモンの変化
- 甘い食べものをよく食べる
- 高血圧やてんかんの薬を飲んでいる
- 糖尿病
- 免疫機能の低下
- 薬の長期服用(ステロイド剤など)
歯周病の症状・セルフチェック
歯周病は「歯肉炎 → 軽度歯周炎 → 中等度歯周炎 → 重度歯周炎」と徐々に進行していきます。
歯肉炎の段階では歯垢(プラーク)がたまるくらいで自覚症状がほとんどありませんが、重度歯周炎の状態になると歯はグラグラになり抜け落ちてしまいそうな状態になります。
セルフチェックの項目は、歯周病によくある症状なので、いくつか当てはまるようであれば歯周病の可能性があります。
歯周病のセルフチェック
- 歯磨き時に出血する。
- 歯肉が赤く腫れている。
- 口臭が気になる。
- 起床時に口の中がネバネバしている。
- 歯茎が下がって歯が長く見える。
- 歯肉がムズムズする。
- 硬いものを噛むと痛い。
- 歯がグラグラしている。
- 歯肉から膿が出ている。
- 歯が痛い(痛み止めが効かない)。
歯周病と口臭について
歯周病はプラークなどを原因として、細菌が繁殖していきます。出血や腫れ、口の中のネバネバなど、セルフチェックに当てはまる場合、細菌が多く発生していることが考えられます。
この場合、自分で気にならなくても、口臭を発生していることがあります。少しでもセルフチェックに当てはまるものがあるときには、歯科を受診することをお勧めします。
なお、歯周病はメチルカプタンという化合物が発生するのですが、この臭いが口臭につながります。臭いの特徴としては、腐った卵や腐った玉ねぎのような臭いになると言われています。
あまり嗅いだことのない臭いだと思いますが、ナマモノが腐った時の臭いということですから、かなりの悪臭であることが想像できます。
歯周病の予防法
歯周病はきちんと予防すればある程度防ぐことができる病気です。
発症しても症状が急速に進むわけではなく、長い期間をかけてじわじわ進行するので、早い段階で口の中を清潔に保ちプラーク(歯垢)の量を減らすことが重要になります。
実践したい予防法
実践してほしい順番に予防法を並べておきます。当たり前と思われるものも含んでいますが、やっていないものがあれば、数字が小さいものから実践してみてください。
- 食べたらすぐに歯を磨く。
- 正しい歯磨きの仕方を習得し、毎日歯を磨く。
- 歯間ブラシやデンタルフロスを使用する。
- 定期的に歯医者に行き、歯石を取る(年に3~4回)。
- 歯周病用歯磨き粉を使用する。
- 歯並びを矯正する。
- 感染するので回し飲みや回し食い、食具の使いまわしを避ける。
- 歯ぎしりをする人はマウスピースを使用する。
- タバコを吸わない。
- 血糖値をコントロールする。
- 鼻呼吸を心がける。
- ストレスをためない。
- 栄養バランスの取れた食事を心がける。
歯周病と合併症
歯周病は歯だけでなく、様々な全身疾患と関わりがあるといわれています。
歯周病が原因で起きる可能性のある病気
口の中の歯周病菌や菌の出す毒素が、血流に乗り全身の臓器に運ばれることで、様々な病気を引き起こします。
- 心臓の病気(狭心症、心筋梗塞、細菌性心内膜炎など)
- 肺の病気(誤嚥性肺炎、気管支炎など)
- 敗血症
- 脳梗塞
- 糖尿病
- 蓄膿症
- 動脈硬化症
- 骨粗しょう症
- 低体重児出産・早産
- アルツハイマー型認知症
- 糖尿病
歯周病の検査
歯周病初期は自覚症状がないため、正確な状態を把握するためにも歯科での定期検査は重要です。
歯周基本検査(プロービング検査、動揺度検査)とレントゲン検査を中心に、歯周病の状態を調べていきます。
プロービング検査
- 目的:歯周病の進行の度合いや測定時の出血の有無を調べます。
- 方法:目盛りのついたプローブという針状の器具を使い、歯周ポケットの深さ(歯肉の入り口から底部分までの距離)を測ります。正常範囲が1ミリから3ミリ程度で4ミリ以上は要注意です。
動揺度検査
- 目的:歯の揺れ具合を調べます。
- 方法:ピンセット状の器具で歯をつまみ動かします。
レントゲン検査
- 目的:肉眼では見えない歯を支える骨(歯槽骨)の状態を調べます。
- 方法:一般的には「パノラマレントゲン」という手法で撮影されますが、より詳細な情報が必要な場合は「全顎撮影14枚法」で撮影されます。
- パノラマレントゲン・・・お口全体を撮影することができます。
- 全顎撮影14枚法・・・部分的な歯を撮影することができます。
プラークコントロールレコード(PCR)
- 目的:磨き残しやどこにつきやすいかなど、プラーク(歯垢)の付着状況を調べます。
- 方法:染色液を使ってプラーク(歯垢)を赤く染め出し、全歯面数に対する染色された歯面数の割合(汚れている部分の割合)を%で計算します。
細菌検査
- 目的:口内にいる原因菌の特定、菌の数を調べます。
- 方法:簡易キットや位相差顕微鏡を用いて唾液やプラーク中の細菌を調べます。
歯周病の治療法
歯周病の治療は歯科もしくは口腔外科で行われ、進行段階により適した治療法が選択されます。
- 初期~中期 → プラークコントロール、スケーリング、ルートプレーニング、咬み合わせの調整、漢方薬
- 中期~末期 → 外科治療、再生治療、除菌治療、暫間固定
プラークコントロール
正しい歯磨きの仕方を学び、自分自身で口の中を管理できるようにします。
プラーク(歯垢)を丁寧に取り除くことで炎症が減少します。
スケーリング、ルートプレーニング
歯石やプラーク(歯垢)を超音波や専用の機械を用いて除去します。
歯周病菌の数が減ります。
咬み合わせの調整
咬み合わせの悪さが歯周病の原因と考えられる場合、歯の一部を削って歯と歯の咬み合わせを調整します。
漢方薬
効果が出るまでに数ヶ月はかかりますが免疫力を上げる事で炎症や口臭の改善が期待できます。
漢方薬は自己判断で選ばず、自分にあった処方を専門医に選んでもらうことが重要です。
外科治療
手術の中には保険が効かないものもあるため、事前に確認するようにしましょう。
フラップ手術
スケーリングやルートプレーニングでも取りきれない場所にある歯石やプラーク(歯垢)を歯茎切開して取り除きます。
歯肉整形
歯周病により腫れて盛りあがった部分の歯肉を切除し、新たにプラーク(歯垢)がたまりにくいようにします。
歯周ポケット掻爬術
患部の歯肉と歯周ポケットにたまった歯石や膿を一緒に削りとり、新たにプラーク(歯垢)がたまりにくいようにします。
歯槽骨整形術
歯周病により破壊された骨を平らに修復します。
再生治療
歯周病によって失われた組織(歯槽骨)は自然に回復することはないため、人工的に再生を促進します。
再生医療は保険診療が認められていないものも多いため、高額になりやすく、再生した状態を維持するために定期的なメンテナンスも必要になります。
- GTR法(歯周組織再生誘導法) → 特殊な保護膜を用い歯周組織の再生を図ります。
- エムドゲイン法 → エムドゲインジェル(歯の成長に関与するタンパク質)を患部に塗り歯周組織の再生を図ります。骨を元の状態にするのは難しいですが、ある程度の効果は期待できます。
除菌治療
位相差顕微鏡を用いて菌を特定し、菌に応じた薬剤で除菌します。
除菌の方法には内服薬を使用するものや薬剤を注入したマウスピースを使う物(3DS除菌治療)などがあります。
暫間固定(ざんかんこてい)
レジンやワイヤーなどを用いてぐらついている歯を一時的に固定します。
歯周病と妊婦の関係
歯周病に悪影響を及ぼす危険因子として女性ホルモンの変化があげられます。
歯周病と女性ホルモンの関係は大きく、女性は人生の中で3回歯周病にかかりやすい時期があるとされています。それが、初潮時、妊娠中、閉経時です。
その中でも特に妊娠中は歯周病になりやすく、すでに歯周病の場合は悪化しやすい可能性があります。
妊婦さんが歯周病になりやすい理由
- 嘔吐反射があるため歯磨きがおろそかになりやすい。
- ホルモンの影響で歯肉の炎症が起こりやすい(妊娠性歯肉炎)。
- つわりで食欲がなくなり唾液の分泌量が減る→口内の自浄作用が低下する。
- 女性ホルモンは、歯周病菌を増殖させる特徴があり、女性ホルモンが増加する妊娠中は歯周病菌が増加しやすい状態となっている。
妊婦さんが歯周病を発症していると歯周病菌が作る毒素が胎盤を刺激するため、早産や低体重児出産の原因になってしまいます。
お口の中を清潔に保つように心がけ、歯周病を未然に防ぎましょう。
歯周病と子どもの関係
歯周病と子どもは無関係ではなく、大人が歯磨きの手伝いをしなくなる4~6歳の子どもの4割近くは歯周病の初期である「歯肉炎」が認められるという報告があります。
原因
- 歯並びが悪い。
- 口呼吸をしている。
- 歯磨きが十分でない(不潔性歯肉炎)。
- 遺伝的に細菌への免疫力・抵抗力が弱い。
- 乳歯や永久歯が生えかけている(萌出性歯肉炎)。
- 口移しの食事や食具の共用などで他者から歯周病菌に感染した。
症状
歯肉炎の段階では痛みなどの自覚症状はほぼありません。
以下のような変化がないか、お口の中を覗いてチェックしてみましょう。
- 歯茎が赤く腫れている。
- 歯を磨く時に血がにじむ。
予防法
きちんと予防すれば子どもの歯肉炎が重症の歯周病に悪化することは稀です。
- 口内環境を清潔にする。
- 正しい歯磨きを毎日行う。
子どもが歯周病になってしまうと大人より早く進行すると言われているため、歯肉炎の段階で発見し症状の進行を食い止めることが重要です。
歯科衛生士からひとこと
初期の歯周病は自分自身で気づくのは難しいものです。
早期発見のためには定期的に歯科医院を受診することで大切です。また、自宅での歯磨きなどのケア方法や磨きにくい場所の改善をすることができます。
毎日のケアの積み重ねや定期的な検診が、歯周病を防いでくれるとともに、歯を失ってしまうリスクを減らしてくれます。
歯周病のまとめ
- 子どもも歯周病になる。
- 女性は歯周病になりやすい。
- 歯茎が腫れてきたら要注意!
- 正しい歯磨きが最強の予防法。
- 歯周病菌は人から人に感染する。
- 歯だけでなく全身に影響を及ぼす。
- 原因はプラークという細菌の塊。
- 悪化すると外科的治療が中心になる。
- 気づかないうちに症状は進んでいく。
- 歯周病と糖尿病はどちらが先でも両方悪化する。