かわいい子どもが生まれてきたのに、産後に気分が落ち込んでしまうお母さんがいます。産後うつ病は、出産後のホルモンバランスや生活の変化などによって起きてしまう病気です。人ごとと考えず、お母さんになる前にしっかりとした知識を持っておくことが大切です。

更新日:2017年09月28日

この記事について

監修:豊田早苗医師(とよだクリニック院長)

執筆:当サイト編集部

産後うつ病とは

産後うつとは

出産後の女性がうつ病にかかることがあり、産後うつ病と呼ばれています。産後うつ病とは、出産して2~3週間後から症状が出てくるうつ病の一つで、うつ病の期間は短い場合は1か月程度、長い場合は2年近く続くこともあります。

産後うつ病の症状は、一般的なうつ病と同じで、気分の落ち込みや無気力感、不眠や食欲不振などの症状が現れます。その他、産後うつ病に特徴的な症状として、赤ちゃんに対する嫌悪感や夫への不満が起こってきます。

以前、三重県で母親がパチンコ店の駐車場で乳児を車内に放置して、死亡させてしまった事件があり、地方裁判所は被告を「重度の産後うつ病の影響で、善悪を判断して行動をコントロールすることは著しく困難な心神耗弱状態にあった」としました。

産後うつ病は、重症になると、幼児虐待などに繋がる恐れもある病気です。正しい知識をもって、対処していくことが大切です。

産後うつ病とマタニティブルーの違い

マタニティブルーは、今までと違うホルモンバランスや育児に対する不安や母親になるプレッシャーから出産前や出産後1か月位以内に、うつ的な症状があらわれるもので、多くは一過性で、数か月で改善しますが、産後うつ病は病気であり、その症状は軽度のものから重度のものまであり、放置すれば重症化していきます。

どのくらいの人が産後うつになっているの?

厚生労働省では「健やか親子21」という母子に関する様々な取り組みを行っていて、その取り組みの報告書の中に「産後うつの発生率」を示した資料があります。

「健やか親子21」最終評価参考資料集(厚生労働省)抜粋

「健やか親子21」最終評価参考資料集(厚生労働省)抜粋

グラフのとおり、次のように推移しています。

  • 平成13年 13.4%
  • 平成17年 12.8%
  • 平成21年 10.3%
  • 平成25年  9.0%

減少傾向にありますが、平成25年でも9.0%となり、10人に1人は産後うつの疑いがあることがわかります。なお、グラフのタイトルにある「EPDS9点以上」というのは、このあと説明する「エジンバラ産後うつ質問票」のことで、そのチェックによって9点以上だった人のことです。

「健やか親子21」最終評価報告書について(厚生労働省)

産後うつの問題を受けて、ガイドラインを改定

産婦人科診療ガイドラインの改定にあたって、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は産後うつの対策を盛り込むことになったようです。産後うつの可能性がある人をできるだけ早く見つけ、専門の医師につなげ、自殺や虐待を減らすことを目的としています。

東京都では2005年から2014年にかけて、妊娠している人や出産して1年未満の人が63人も自殺をしています。これは出産などにあたって死亡してしまう人と比べてもかなり多い数のようで、早急な対策が求められています。


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産後うつ病の原因

産後うつ病の原因は、明確ではありませんが、出産によりホルモンバランスが急変しますので、そういったことが脳や心理に大きく作用していると考えられています。

また、出産によって、生活に大きな変化があらわれることも原因といわれています。これまでの生活とは違い、育児が中心の生活となり、育児に男性や周囲が協力してくれないと、心身ともに負担が大きくなっていきます。そういう状況の中で子どもと二人で過ごしていると、孤独感や不安感が募っていきます。育児に伴う新たな友人(ママ友)との交流も安らぎになればいいのですが、人間関係がうまくいかないと、こちらも大きなストレスとなってしまいます。

ホルモンバランスなどに伴う体の変化や、生活の変化によるストレスなどが、産後うつの大きな原因となってくるのです。

産後うつ病になりやすい人とは?

なりやすい人

産後うつ病になりやすい人というのは、何でも完璧にやろうとする完璧主義者に多いとされています。特に仕事をバリバリとこなしてきた女性は、家事や育児においてもレベルの高いところを目指してがんばってしまいますので、完璧にこなせないと自分を責めてしまい、しだいにうつ状態になっていきます。

また、仕事はチームで進めていくことがほとんどですので、チームで相談しながら進めていき、失敗すれば連帯責任ということになります。しかし、家事や育児ではママが一人で進めていくことになりがちです。一人で家事と育児をしていると、うまくできないときに、その責任を自分自身だけのせいにして、自分を責めてしまうのです。

家事や育児は高い目標を掲げず、無理に一人でがんばろうとせず、身近な人に相談して、手伝ってもらうことが大切です。

産後うつの症状

産後うつの症状

気持ちが落ち込んでしまうことをきっかけとして、しだいに次のような症状があらわれてきます。

  • 食事のメニューを考えられない。
  • 家事の優先順位を決められない。
  • 服装や化粧などの身の回りのことに無頓着になる。
  • 食欲不振
  • 睡眠不振
  • 好みのものに対する興味が薄れる。
  • 育児に対して無気力的になる(ひどい場合は、育児放棄)
  • 赤ちゃんの泣き声が耳障りになったり、可愛いと思えなくなる
  • 自分だけが大変と思い込み、夫に当たってしまう

その他、授乳の時間や量など、赤ちゃんの生活について、過度に正確さを求めてしまうと、正確にできないことに対する周囲の反応やちょっとした言動が気になり、胃痛や脱毛といった症状があらわれることがあります。

また、ひどい場合は、お母さんと赤ちゃんが二人きりでいるときに無理心中をはかったり、虐待をしてしまったりといったことも起こることがあります。産後うつ病は、うつ病の一つですので、きちんと医療機関で治療を受けることが大切です。

日本では、症状がひどくなる事態などを踏まえて、国が中心となって様々な研究や取組を始めています。私たちも、産後うつ病についての知識をもって、育児を行うことや、周りにいるお母さんたちに気を配ることが大切になってきます。

産後うつ病のセルフチェック

セルフチェック

産後うつのチェック法として、「エジンバラ産後うつ病質問票」(EPDS)というものがあります。欧米で広く使用されているもので、日本語版(訳:宗田聡氏)についても有用性が認められ、現在様々なところで使用されています。気になる人はチェックしてみてください。

  1. 笑うことができたし、物事の面白い面もわかった。
  2. 物事を楽しみにして待った。
  3. 物事がうまくいかなった時、自分を不必要に責めた。
  4. はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配したりした。
  5. はっきりとした理由もないのに恐怖に襲われた。
  6. することがたくさんあって大変だった。
  7. 不幸せな気分なので、眠りにくかった。
  8. 悲しくなったり、惨めになったりした。
  9. 不幸せな気分だったので、泣いていた。
  10. 自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた。

※「エジンバラ産後うつ質問票」抜粋

なお、詳しい内容は「NPO法人きずなメールプロジェクト」のホームページで確認できます。なお、こちらのNPO法人では、子育てしやすい社会の実現に向けて、子育て支援などに関するメールサービスなどを行っています。

→ NPO法人きずなメールプロジェクトの「エジンバラ産後うつ質問票」

産後うつ病の予防、対処法

ママ友

産後うつ病にならないためには、出産前から出産後の生活を想定して、その対策を打っておくことが必要です。慣れない子育てを一人だけで乗り切ろうとせず、近くにいる家族や親戚に、子育てを手助けしてくれるよう頼んでみることが重要です。

がんばりすぎない

産後うつの予防法として大切なことは、完璧主義を目指さず、自分ひとりでがんばり過ぎないことです。出産後に自宅に帰ると、赤ちゃんと二人だけになって、誰とも話をしないで1日が終わってしまうことがあると思います。誰とも話をしなければ、孤独感を感じたり、ストレスがたまったりする原因にもなります。

周囲から強力を得る

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家族や親戚に、子育ての手伝いをお願いすることも大切です。特に夫の協力は不可欠です。自治体や病院などが行っている子育て教室などに夫婦で通い、夫婦ともに同じ意識で親になる自覚を持っていくようにしましょう。自分の住んでいる市町村のHPなどを検索して、子育て支援のイベントを探してみるといいと思います。自治体は想像以上に様々なイベントを開催していますし、相談にも快く応じてくれます。

出産前にママ友を作る

出産後も情報交換できるような友人(ママ友)を、出産前に作っておくのもいいでしょう。妊娠中の検診や、出産前の入院中に、近くに住んでいる人と知り合っておけば、その後も一緒に悩みを相談しあうことができます。同じように育児をしている人に話しができるというのは、気持ちも軽くなるし、ストレスも軽減されます。

一人ですべてをやらない

出産後については、とにかく一人ですべてを行おうとせず、必ず周囲に協力を求めましょう。また、何か不手際で失敗してしまったときには、自分を責めず、ある程度楽観的に考えることが必要です。夫や家族など、周囲の人に相談したり、自治体の行っている相談窓口に相談してみたりと、自分だけで抱え込まないようにするのです。

周囲が積極的に協力する!

周囲の人も積極的に協力することや、育児や家事に対する感謝の言葉をかけることが大切です。産後うつの状態になっていくと、抱え込む一方で、なかなかそれを外に出せなってしまいます。そういう状態においては、自ら助けを求めることも難しくなってきますので、周囲の人が気づかなければなりません。産後はそういったお母さんの状態を気にかけてあげることも非常に重要なことです。

周囲(特に夫)の人は、使った食器を片付けたり、「ありがとう」と軽く声をかけたり、そういうちょっとしたことが、お母さんの気持ち軽くしてくことになると思います。

産後うつ病の治療・病院への受診

受診

産後うつ病になってしまった場合、もしくは、うつ病の傾向が出てきた場合は、医療機関を受診してください。受診することは、少しも恥ずべきことではありません。重症化すると、子どもに危害を加えることもあります。原因は病気であることを認識して、専門医を受診するようにしましょう。

 直接、心療内科などへ行くのがためらわれる場合は、産婦人科の先生に相談して、心療内科などを紹介してもらうといいでしょう。また、市町村に設置されている精神保健センターへ相談することもできます。


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産後うつ病は完治・回復するのか。

産後うつ病は正しく介入すれば完治しうる病気です。産後うつ病は、前述のとおり、出産によるホルモン変化と産後の慣れない育児に大きな原因があるもので、通常のうつ病と異なり、その原因がはっきりしています。したがって、その原因が取り除かれることによって、治癒していくこととなります。

心療内科などにおいては、カウンセリングや薬物療法が行われていきます。また、生活面においては、周囲の人の育児や家事への積極的な協力や、支援機関などによる精神面へのサポートにより、少しずつ改善を促していきます。症状によっては、入院をすることもあるようです。

完治までの期間は人によって異なるようです。症状が重い状態は非常につらいものだと思いますが、家族と協力して、継続的に治療を行っていくことが大切です。

夫(男性)の産後うつ

男性でも、産後うつになってしまうことがあります。男性は出産する訳ではないので、ホルモンバランスに変化が出るということではありませんが、生活に大きな変化が出るという点では、出産するお母さんと同じです。

出産までの夫婦中心の生活から、子ども中心の生活へ変わっていくことは、大きなストレスとなることがあります。

また、近頃は特に育児をきちんとするお父さんが多くなっていますので、仕事と育児をしっかりと両立させたいという気持ちと、そう上手くはいかない現実にギャップが生じることがあります。こうしたことから、お母さんと同様に産後うつの状態になってしまうことがあります。

まとめ

  • 産後うつとは、出産して2~3週間後から症状が出てくるうつ病の一つで、長い場合は2年近く続くこともあります。
  • 一過性のマタニティブルーと異なり、産後うつは病気であり、その症状は軽度のものから重度のものまであります。
  • 原因は、出産によるホルモンバランスが急変や、生活の大きな変化にあると言われています。
  • 気持ちが落ち込むことを契機に、家事をうまくできなかったり、食欲不振、睡眠不足などの症状がでたりしてきます。
  • チェック方法として、「エジンバラ産後うつ病質問票」(EPDS)というものがあります。
  • 出産前から悩みを話せるママ友を作っておくことや、育児をがんばり過ぎないようにして、予防することが大切です。
  • 産後うつは完治する病気といわれています。家族などの協力のもとで、継続的に治療をしていくことが大切です。
産後うつに関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:女性の病気, 妊娠・出産]

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