更新日:2017年11月05日
迷走神経反射とは
迷走神経は、脳の延髄部分から体内の臓器にまで広くつながっている神経で、体を落ち着けるための重要な神経です。
この迷走神経が何らかの刺激によって必要以上に働くと、心臓や血管の働きが弱くなり、ひどいときには失神を起こしてしまいます。
迷走神経反射とは、迷走神経に起因する血流の不足によって起こる様々な症状のことをいいます。
血流は迷走神経によって調整されている
長時間立つなど、緊張している状態が続くと、交感神経が緊張し、心臓が脈を速めて多くの血液を送り出し、さらに血管を収縮することで血圧が高くなります。
これは、蛇口につないだホースの先をキュッとつまむと水が勢いよく出るのと同じです。心臓が多くの血液を送り出し、血管が縮まることで、血が勢いよく流れるのです。
反対に、緊張がとけてリラックスする際には、迷走神経が代表する副交感神経が働き、脈拍がゆっくりとなり、血管が拡張します。
このように、体の状態に応じて心臓や血管が調節されるため、多少無理な姿勢や状態が続いても、私たちはいつもと変わらずに生活ができるのです。
さらに無理な状態が続くと調整できなくなる
しかし、そのままの無理な状態が続くと、心臓や血管の働きを抑えるような反射が起こってしまいます。
すると、それまで頑張っていた心臓や血管は力が抜けてしまい、脈が遅くなり、血管が開いてしまいます。
血圧も下がってしまい、脳への血流も急激に落ちてしまうために失神などが起こります。
迷走神経反射は若い人に起こりやすいものです。また、うつなどの精神障害がある患者さんにも多く、失神など重度の症状が出やすいこともわかっています。
迷走神経反射と起立性低血圧の違い
迷走神経反射で失神してしまうことを、正式には「血管迷走神経性失神」といい、反射性失神と呼ばれるもののひとつです。
迷走神経反射で失神する直前には、起立性低血圧に似た気分の悪さや目の前が暗くなる症状が起こります。
この2つはどちらも急に血圧が下がることで、同じような症状が起こるので混同されがちですが、起こる原因とタイミングが全く違います。
起立性低血圧の特徴
起立性低血圧は、急な体の動きに心臓のポンプ機能が付いていけずに、血圧が下がってさまざまな症状が出る病気です。そのため、立ち上がるなど姿勢を変えた直後に起こりやすいのが特徴です。
迷走神経反射の特徴
迷走神経反射は、体に負担がかかる動作や姿勢を長時間保った時に、一定の時間は心臓が頑張って血圧を保つのですが、迷走神経がその頑張りにストップをかけた時に血圧が下がってしまう仕組みになっています。
そのため一定時間、同じ姿勢や同じストレスが体にかかり続けた後に、急に症状が起こることが特徴です。
どちらも一過性のもの
ただ、起立性低血圧も迷走神経反射も、症状が一過性のもので後に残らない、という点は同じです。
そのため、どちらが原因で症状が起きているかは、「どういうときに症状が起こったか」という本人からの情報がとても大切になるのです。
病院で医師に正しく状況を伝えるためにも、症状の再発を防ぐためにも、「どんな姿勢で」いたときに「どのぐらいのタイミングで」症状が起こったのか、よく把握しておくようにしましょう。
迷走神経反射の原因
主に次のようなことをきっかけにして症状が現れます。
長い間、同じ姿勢でいたとき
朝礼や電車の中など長い時間、立っているときに脳貧血のような気分の悪さを自覚したり、倒れたりしたことのある人は多いのではないでしょうか。
その他、立っているときだけでなく、長い間座っているときにも、迷走神経反射は起こりやすいのです。
電車で座っていたはずなのに急に気が遠くなったり、授業中に急に気分が悪くなったりしたときは、迷走神経反射が起こっているかもしれません。
強い痛みを感じたとき
痛みの感じ方は、その人の感覚に大きく左右されますが、例えば思わぬところで転んでしまったあと、急に気分が悪くなってしまうことがあります。
転んだことの後遺症や脳の病気を心配される人が多いですが、痛みをきっかけに迷走神経反射が起こっていることも考えられるのです。
おしっこや排便をしたとき
迷走神経反射では、失神をする直前にトイレに行きたい感覚になることがあります。排便・排尿そのものが、失神の原因になることもあるのです。
排尿時に失神してしまうのは中年以降の男性に多く、排便のときに失神してしまうのは50代以降の女性に多いとされています。
男性は立って排尿すること、女性はいきむことが原因と考えられます。
どちらも夜中や明け方など、寝ている状態から起き上がって、トイレに行ったときに起きやすいという特徴があります。
睡眠不足・疲れ
疲れていたり、十分な睡眠がとれていなかったりすると、血の巡りが悪くなるものです。そんなときにも、迷走神経反射が起こりやすくなっています。
寝不足や疲れでフラフラするときは、長く立つことや、ストレスを感じるようなことは避けて、早めに休むようにしましょう。
採血のときの不安や恐怖
不安や恐怖を感じることも、迷走神経反射を起こしやすくする原因のひとつです。
たとえば、採血が嫌いな人が採血のときに気分が悪くなるということがよくあります。
採血の痛みで迷走神経反射が起こっている可能性もありますが、それに加えて採血に対する大きな不安や恐怖も、引き金になっていると考えられます。
ストレス
精神的にせよ、肉体的にせよ、大きなストレスを感じると迷走神経反射は起きやすくなります。
居心地の悪い空間にずっといたり、体力的に無理がある運動を長く続けていたりすると、「これ以上、続けないで!」というサインとして、症状が出てくることが考えられます。
周囲の環境
人ごみや密閉された空間は、人に圧迫感やストレスを与えます。こうした環境に敏感な人は、迷走神経反射を起こしやすいといえます。
週末のショッピングで気分が悪くなったり、エレベーターで息苦しくなったりするときは、迷走神経反射が起こっているかもしれません。
咳
咳をたくさんした時に血の巡りが悪くなって迷走神経反射が起こり、失神してしまうこともあります。
太っていたり、がっちりしている体型の中年男性に多く、飲酒や喫煙、肺の病気(COPDなど)を持っていたりすると、ますます起こりやすくなります。
これは、咳をすることで胸の中の圧が上がって、心臓からの血流が悪くなってしまうためです。
症状の出方は人それぞれ
様々なことがきっかけになることが理解できたと思います。このきっかけは人それぞれで、症状の出方も異なります。
多少の血圧の変動なら問題ない人もいれば、少しの変化で極度に具合が悪くなる人もいます。
たとえば普段から低血圧の人は、少し血圧が変動しただけで具合が悪くなってしまいます。
また、妊娠中の人は水分の量が多くなっている分、血が薄いため、血圧が低い人と同じように症状が出やすくなります。
ストレスに対する耐性によっても症状に違いが出てきます。
自律神経失調症やパニック障害の人は、ほかの人より神経が過敏であるため、迷走神経反射が起こりやすくなると考えられるのです。
予防がもっとも大切
迷走神経反射は、何かをきっかけとして、自分ではコントロールできないままに起こってしまいます。
そのきっかけや、起こりやすい状況については、人によって特徴があります。
まずは、どんな時に迷走神経反射が起こりやすいのか、自分の傾向を知ることが大切です。
そして、そういう状況を作らないこと、そういう状況に近づかないことが大切です。
特に午前中に起こりやすいことがわかっていますので、通勤の電車では座れるように工夫したり、排便がスムーズにいくようにコントロールすることも予防になります。
また、脱水やアルコールの飲み過ぎ、塩分の不足でも、迷走神経反射による失神は起きやすいことがわかっています。
普段の生活や、日常のちょっとした習慣を意識することが大切です。
迷走神経反射の治療法とは
病院を受診する場合は循環器内科にかかります。
受診すると、まずは予防に関することや、失神が起きてしまった場合の対処法について診断を受けます。
予防などが難しいと診断された場合には、内服薬が処方されます。薬は症状の度合いによって処方されることになります。
症状の度合いとは
- 失神の頻度
- 失神による危険性(予兆が全くないまま突然失神してしまう場合や、仕事中に失神すると命に関わる場合など)
こういった症状をもとに処方薬が決まります。薬には以下のものがあります。
処方される薬
- 心臓の力を強くする薬
- 不整脈を予防する薬
- ステロイド薬など
ただし、どれも決定的に効くというものではありません。迷走神経反射が起こった時の状態に合わせて、効果をみながら処方されます。
ペースメーカーが効果的な場合も
場合によってはペースメーカーを植込むこともあります。
ただし、効果があるのは、ペースメーカーが作動することで迷走神経反射による心停止を防ぐことができる場合となります。したがって、全ての人に効果的なわけではありません。
失神予防の訓練「ティルト訓練」
その他に、失神を予防するための訓練を指導されることもあります。
ティルト訓練と呼ばれるもので、壁に寄り掛かった状態で30分ぐらい立ち続ける練習をします。
繰り返すうちに立ち続けられるようになり、失神の回数を減らすことができます。薬で治療するよりも高い効果が得られたというデータもあります。
入院中の迷走神経反射について
病院で迷走神経反射が起こりやすいのが、カテーテル検査室や手術室などです。
長い時間同じ体勢でいることや、本人のストレスや不安、止血などのために血管を圧迫して血流を落とすことが関係していると考えられます。
症状は一過性で、ほとんど数分以内に元通りになりますが、入院中の患者さんは全身状態があまり良くないため、薬を投与しながら様子をみることもあります。
具体的に使用する薬には、不整脈を止めるアトロピンや、血圧を上げるアドレナリン(点滴で使う)などがあります。
検査・診断
迷走神経反射で起こる症状は、心臓や肺の病気などで起こる症状に似ているため、本当に迷走神経反射で起きているのかを確認しなければなりません。
そのためには、主に次のような検査が必要となります。
心電図
不整脈の有無や、心臓の動きを調べます。
ホルタ―心電図
常に起きている不整脈ではなく、時々現れる不整脈を調べる検査です。
24時間、心電図を記録する小型装置をつけたまま、普段どおりに生活して、不整脈が記録されるかを調べます。
脳波
失神時に痙攣を起こしてしまう場合は、てんかんの可能性もありますので、脳波を検査します。
検査は、心電図のように頭のまわりや体にシールを貼って調べるもので、痛みはありません。
ティルト試験
検査台に横になって徐々に頭を起こすことで、血圧がどのように変化するかを調べます。
経過時間に応じて採血をすることもあります。
長時間同じ姿勢でいた後に急に血圧が下がったり、心臓が止まったりする反応が見られれば、迷走神経反射が原因の血圧変動だと確認できます。
症状に対する対処法
迷走神経反射の症状は、短い時間で収まることがほとんどです。
失神が起きても、ほとんどの場合は1分以内で意識を取り戻します。後遺症はほとんどありません。
「気分が悪くなりそうだ!」と思ったら、すぐに座ったり、頭を低くしたり、できれば横になるようにすることが大切です。
こうすることで、倒れることを防ぐことが期待できますし、万が一倒れてしまった場合でも頭を打ったり階段から落ちたりして、怪我をすることを予防できます。
家族に迷走神経反射で具合を悪くしたり、失神したりする人がいる場合は、本人の顔色や急に黙ってしまうといった予兆を見逃さないようにしましょう。
気分が悪くなったりしたときには、すぐに横にしてあげて、危険がないように見守りましょう。
症状
迷走神経反射の症状としては、脈が遅くなること(除脈)や、血圧が低くなる(血圧低下)といったことが現れます。
そこには不整脈が隠れていることや、すぐに意識は戻るものの、一瞬だけ心停止しているといったことも考えられるのです。
しかし、迷走神経反射はいつ起こるかわからないため、心電図を確認することは難しく、その時の心臓の状態を知ることできないのです。
ただし、症状としては概ね次のようなものが考えられます。
- 頭が重い感じや、頭痛
- ものがぼやけて見える
- 吐き気、もしくは実際に吐いてしまう
- 腹痛
- めまい
- 息苦しさ
- 目の前が暗くなる
これらの症状は全部、血流が悪くなって起こるものです。血圧が低下することで脳をはじめ全身にいく血液が少なくなってしまうのです。
例えば、腹痛は下痢の時の腹痛に近いものです。血圧が下がると肛門括約筋が緩んでしまうので、排便したくなり腹痛が起こるのです。
そして、このような症状のあとに失神してしまいます。つまり、不整脈や除脈が起こった後、意識を保つために必要な血流が不足するため、失神が起こるのです。
上記の症状は、失神の前兆症状とも言えるのです。
看護師からひとこと
迷走神経反射は人によっては本当に苦しいものです。
自然治癒することも多いのですが、何かが気になると、そのストレスや不安が引き金となり、また起こってしまったり、パニック障害として似たような症状が起こってしまったりと、負の連鎖のようになってしまうこともあります。
迷走神経反射が起こりそうだと感じたときは、なるべく横になって安静にすること。安全にやり過ごすことを心がけましょう。
また、自己判断で迷走神経反射だと思っていると、思わぬ病気が隠れていることもあります。失神による事故を防止するためにも、心配な症状がある人は、一度、病院にかかって医師に相談してみるとよいでしょう。
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