更新日:2017年08月02日
飛蚊症とは?
飛蚊症とは字の通り「蚊が飛んでいるように見えてしまう」病気です。どうして「蚊」のようなものが視界をちらつくのでしょうか?
その原因は眼の中の「硝子体」に隠されています。硝子体は眼球の中を満たしているゼリー状の組織で、目に入った光を網膜に届けそれを画像として認識させるという働きがあります。
本来透明である硝子体に濁りや歪みが生じるとその影が網膜に映るため、目の前に虫が飛んでいるように見えてしまうのです。
40歳以上の年齢で発生しやすいと言われていますが、10代でも近眼の場合は発症する可能性があります。
多くの飛蚊症は症状も軽く治療の必要はないのですが、稀に重大な目の病気が原因となって飛蚊症の症状があらわれている場合があるので、眼科を受診して原因をはっきりさせることが重要です。
飛蚊症の原因
飛蚊症は硝子体の濁りができる原因により、2つに分類されます。
- 生理的な飛蚊症(基本的に治療が必要でないもの)
- 病的な飛蚊症(基本的に治療が必要なもの)
1. 生理的な飛蚊症
生まれつき
胎児の眼球が作られる過程で、本来無くなるはずの血管や組織の名残などが濁りとして硝子体に残存することで起こります。
健康な目にも起こりうることで、症状も軽度の場合が多く、問題はありません。
加齢(老化現象)や近視
硝子体が加齢と共にゼリー状から液状に変化していく過程で、ぴったりくっついていた硝子体と網膜が離れてしまうことで起こります(後部硝子体剥離)。
離れきっていない硝子体が網膜を引っ張ると、目に光が当たっていないのに閃光を感じることがあります(光視症)。
後部硝子体剥離の進行が、網膜裂孔や網膜剥離を引き起こすきっかけになる場合もあります。
生理的な飛蚊症は基本的に治療の必要はありませんが、症状の悪化を感じた場合は、病的な飛蚊症に移行していないかを確かめるために、再度検査を受けましょう。
2. 病的な飛蚊症
以下の眼病が原因で飛蚊症の症状を示す場合があります。
- 網膜裂孔
網膜に穴が開いている。 - 網膜剥離
網膜が剥がれている(失明の危険があります)。 - 硝子体出血
何らかの原因で網膜表面から出血し、硝子体の中にまで入り込んでいる。 - ぶどう膜炎
ぶどう膜(虹彩+毛様体+脈絡膜)が炎症を起こしている。 - 糖尿病性網膜症
糖尿病の影響で血管が弱くなり硝子体出血や眼底出血が起こりやすくなっている。アレルギーなどの治療薬であるセレスタミンの副作用で糖尿病が悪化する場合があります。
病的な飛蚊症は治療をしないで放置していると、視力に影響が出たり失明したりする可能性があるため、早急に医療機関を受診し治療を開始する必要があります。特に網膜には痛覚がないため、気づきにくい点にも注意が必要です。
元の眼病を治療することで飛蚊症症状の改善が期待できます。
物理的原因による飛蚊症
何らかの原因で外部から眼球を打撲すると飛蚊症を発症する事があります。網膜剥離の前兆の可能性もあるため経過に注意し、早めに医療機関を受診しましょう。
飛蚊症の症状
飛蚊症は目の前に浮遊物(虫や糸くずのようなもの)が飛んでいるように見えることが特徴ですが、この浮遊物は視線を動かしたり、まばたきをしても視界の中を移動するだけで消えることはありません。
これらの浮遊物は明るい場所・白い壁・青空などではっきり見え、逆に暗いところでは目立ちません。飛蚊症の症状に慣れるには数ヶ月かかることが多いようです。
浮遊物の見え方
- 形
糸くず状、虫状、煙状、ごま状、球状 - 色
白、黒、半透明 - 場所
視界の中心部に見えることが多い。 - 数や大きさ
様々
自己判断は禁物ですが、自分の飛蚊症が「生理的」か「病的」なのかを見分けるために、以下の症状を参考にすると良いでしょう。
- 生理的飛蚊症 → 眼を動かした時に浮遊物が動く。
- 病的飛蚊症 → 眼を動かした時に浮遊物が動かない、浮遊物の色が真っ黒、視野が一部欠けている。
治療の必要がない「生理的飛蚊症」と診断されても、以下の様に症状が変化した場合は「病的飛蚊症」に移行している可能性があるため、再度検査を受けるようにしましょう。
- 浮遊物が大きくなる。
- 浮遊物の数が増える。
- 光が差しこむように感じる(光視症)。
飛蚊症の予防法
紫外線を予防
- 外出時はサングラスをつける。
- テレビやパソコンの利用時間を減らす。
飛蚊症は、長い人では数十年に渡って共存することになるかもしれない病気です。不快感のためノイローゼになってしまう場合もあります。
そうならないためにも「気にならなくなる方法」があればよいのですが、残念ながら浮遊物を消す効果的な方法はなく、結局は「気にしない」、「慣れるしかない」というのが飛蚊症の現実です。
克服した人の中には、生活習慣や体調を整えることで症状が改善したという声も多くあります。生活改善によって悪化防止に努めましょう。
飛蚊症を悪化させない為に心がけたいこと
- 眼の疲れをためない。
- 眼を酷使した時は休憩を取る。
- 栄養バランスの良い食事を心がける。
- 眼を温める。
- 眼球を強く指で押さえない。
- ストレスを溜めない。
- 浮遊物に対して神経質になり過ぎない。
- 夜更かししない。
- 飲酒・喫煙を控える。
- 目の体操や目の周りのツボを刺激(指圧)して目の負担を軽減する。
飛蚊症の合併症
飛蚊症をこじらせて何かの病気になるというよりは、別の病気が原因で飛蚊症の症状があらわれることの方が多いです。
飛蚊症を引き起こす可能性のある病気
- 網膜剥離
- 網膜裂孔
- 糖尿病性網膜炎
- ぶどう膜炎
- 硝子体出血
飛蚊症と併発しやすい病気
光視症
光視症の中には網膜剥離の前触れと考えられるものもあるので注意が必要です。
治療が引き金になる飛蚊症
白内障手術
白内障は眼球内にある「水晶体」というレンズが濁ることで起きる病気です。白内障手術では、濁った水晶体を水晶体の代わりとなる眼内レンズと交換します。
白内障手術後は水晶体の濁りがなくなり手術前より入ってくる光の量が増えることで、それまでは気にならなかった硝子体の混濁がはっきりした影となり、飛蚊症を自覚することがあります。
治療が必要な飛蚊症であるか、確かめるための検査は必要ですが、多くの場合心配はなく時間とともに軽減していきます。
飛蚊症の検査
飛蚊症では治療が必要か必要でないかを見極めることが重要になるため、硝子体や網膜の状態を確認する眼科での検査は欠かせません。
飛蚊症が疑われる時に主に行われる検査は、散瞳薬(目薬)を使った眼底検査です。
散瞳眼底検査
目的
穴や裂け目ができやすい網膜周辺に異常がないかを確かめます。
方法
瞳孔を広げる目薬(散瞳剤)をさして約30分待ち、光を当てて眼球内部を観察します。瞳孔が開くため眩しく感じたりぼやけて見えたりしますが、痛みのない検査法です。
注意点
目薬の効果が切れるまでの約5~6時間は視界が不安定なため、自動車・オートバイ・自転車などの運転はできません。
他にも眼の状態を調べるために、視力検査・視野検査・眼圧検査などを行う場合があります。
飛蚊症の治療法
基本的に「生理的飛蚊症」では積極的な治療を行わず経過観察のみ、「病的飛蚊症」の場合は眼病に応じた治療が行われます。
病的飛蚊症の主な治療法
- 網膜裂孔
光凝固治療、レーザー治療。 - 網膜剥離
強膜バックル術、硝子体手術、レーザー治療。 - ぶどう膜炎
炎症を抑えるため抗生物質やステロイド剤の投与。 - 硝子体出血
硝子体手術、基礎疾患(糖尿病や高血圧など)に対する投薬治療、レーザー治療。
硝子体手術について
硝子体を取り除きます。眼球内を満たしていたものが無くなるため、網膜剥離などの合併症を引き起こす危険があります。
レーザー治療
濁りをレーザーで砕きます。濁りが無くなるわけではなく、濁りの塊を小さくするだけなので完治ではなく改善程度の効果しか期待できません。
生理的飛蚊症の治療について
生理的飛蚊症でも硝子体の濁りを取り除く方法として「硝子体手術」や「レーザー治療」があります。
しかし、それぞれに問題点があり、リスクのほうが高いと判断されることも多く、生理的飛蚊症の治療にはほとんど行われていません。
飛蚊症と妊婦さんの関係
科学的に証明されてはいないのですが、一部の妊婦さんは、「きっかけは妊娠」と思われるような経過の飛蚊症に悩まされています。
原因として考えられること
- 妊娠高血圧の影響で眼底出血が起こり、血液が硝子体に入り「濁り」となった。
- 妊娠中は眼のレンズの調節機能が低下しやすいため眼精疲労が起こりやすく、目を酷使したことが飛蚊症に繋がった。
妊娠中の飛蚊症は出産後に自然と症状が消える場合が多いですが、産後にも残ってしまう場合があります。
一時的なものと思われますが、飛蚊症の症状を感じたら念のため眼科を受診して相談してみましょう。
飛蚊症と子どもの関係
飛蚊症の原因で最も多いものは老化現象によるものなので、年齢の若い子どもは飛蚊症とは無縁のように思われますが、子どもでも飛蚊症の症状を訴える場合があります。
子どもが飛蚊症を発症する原因には以下のようなものが考えられます。
生まれつき
子どもの飛蚊症の多くの場合の原因は「先天性繊維様混濁」と言われるもので、生まれつき硝子体の中に濁りがあり、それが原因で飛蚊症を発症すると考えられています。
「先天性繊維様混濁」は飛蚊症患者の中でも少数で、子どもの飛蚊症は網膜剥離につながる可能性も少ないため、眼科を受診して問題がないようであれば経過観察して様子を見る位で大丈夫でしょう。
近視に伴うもの
成長期の子どもは近視が進行しやすいため、生理的飛蚊症が起きやすいと言えます。
硝子体自体が変性しやすいため硝子体剥離を起こしやすく、その結果、網膜裂孔や網膜剥離に繋がる場合もあるため注意が必要です。
眼球打撲
部活や体育の授業などで眼球にボールが当たったりして衝撃を受け、網膜剥離を起こし、飛蚊症の症状が出る場合があります。
看護師からひとこと
(生理的な)飛蚊症であれば積極的な治療は不要ですが、網膜剥離や網膜穿孔の場合は、失明という取り返しのつかないことになってしまうこともあります。場合によっては、その日のうちに緊急手術となることもあります。
自分で判断し、診断と治療の遅れることがないよう、まずは早めに眼科で相談しましょう。
飛蚊症のまとめ
- 見える浮遊物の形は大小様々。
- 原因は硝子体の「濁り」。
- 飛蚊症の原因で最も多いのは老化現象によるもの。
- 主な検査は散瞳眼底検査。
- 治療が必要ではない飛蚊症が大半を占める。
- 飛蚊症は生活習慣によって改善する可能性がある。
- 妊婦さんは一時的な飛蚊症になりやすい。
- 自分なりの「気にならなくなる方法」を見つけることが大事。
- 浮遊物の数が増えたり、見え方が変わったりしたら悪化の可能性がある。
- 失明につながる病気が隠れている場合があるので、自己判断での放置は禁物。