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更新日:2017年10月09日
高血圧とは
2016年に厚生労働省が公表した「平成26年患者調査の概況」によると、日本の高血圧者数は約1,010万人にものぼります。
3年前に行われた調査と比べると、約104万人増えており、高血圧者数は、年々増加傾向にあります。
高血圧は脳・腎臓・肺などに様々な合併症を生んでしまうことから、予防することにより脳卒中死亡者が年間約1万人、冠動脈(心臓の血管)疾患が年間約5千人も減少するとされており、予防が大変重要な疾患の1つです。
高血圧の基準
血圧の基準は概ね下記の通りです。(既往症などによって細かいあたりは変わります)
- 上(収縮期血圧)が140㎜Hg以上
- 下(拡張期血圧)が90㎜Hg以上
ただし、このラインを守ればいいかというと、そうではありません。このくらいでコントロールしておきたいという「至適血圧」値は、次の値とされています。
- 上が120㎜Hg未満
- 下が80㎜Hg未満
これは循環器学会が提唱している値です。この至適血圧をキープしていると、合併症が少ないとされています。
まずは、血圧がどのような仕組で上がるのか考えていきましょう。血圧が上がる仕組みや理由を理解すれば、自然と予防方法や自宅で心がける点が理解できると思います。
血圧とは?
高血圧の原因をお話する前に、そもそも血圧とはどういうものなのかご説明します。
血圧というのは、血管の中を流れている血液が、血管の壁に与える血管の内圧のことで、血管の内側から外に向けて「血管にかけている圧力」と考えてください。
血圧は下の式で求められます。
血圧 = 心拍出量 × 血管抵抗
- 心拍出量とは、1分間に、心臓が全身・肺へ送り出す血液の量のことです。
- 血圧抵抗とは、血管の硬さ、弾力を表すものです。
心拍出量は下の式で求めます。
心拍出量 = 1回の拍出量 × 脈拍
二つを合わせると、下の式になります。
血圧 = 1回の拍出量 × 脈拍 × 血管抵抗
血管抵抗について
血管は年齢とともに若い時の弾力性が失われて硬くなり、血管抵抗は大きくなります。
加齢だけでなく、血管の中が狭くなることで、血液が通りにくくなる脂質異常症(高コレステロール血症)のある場合も、血管抵抗は大きくなります。
高血圧の原因
上記の血圧の仕組みを考えると、高血圧の原因は次の3つに影響を与えるものということになります。
- 1回の拍出量
- 脈拍
- 血管抵抗
その要因となりえる主なものとして、次のものがあります。
- 脂質異常症(高脂血症)
- 動脈硬化(血管そのものが硬くなる)
- 食塩過剰(塩分とともに水分が貯留する)
- 運動不足によるメタボ、肥満(動脈硬化が進行する)
- 精神的ストレス、過労、不眠(交感神経が過緊張になり、血管抵抗が増える)
- 飲酒(長年飲んでいると、血管が収縮しやすくなったり、心拍数が上がる)
- 喫煙(タバコの含まれているニコチンには、血管収縮作用がある)
例えば、塩分と血圧の関係について言えば、一般的に塩(ナトリウム)には、本来、尿として出す分の水分を再吸収して、体内の水の総量を多くしてしまう作用があります。水分が増えると血液量が増えるため、心臓からの拍出量(心拍出量)は増大し血圧が上がります。
また、メタボや肥満などで体重そのものが増えることも、心臓に負担をかけることになります。
高血圧の二種類のタイプ
高血圧には二種類のタイプがあります。
本態性高血圧
高血圧の原因となる明確な病気がないのに、血圧が上がることをいいます。
脂質異常症や運動不足などによる肥満、塩分の取りすぎや老化、喫煙などが原因と言われています。
一般的に中高年の高血圧は、ほとんどがこれに該当し、高血圧症の人の90%〜95%が、この本態性高血圧とされています。
二次性高血圧
他の病気が原因となって高血圧が起こっている場合、二次性高血圧といいます。
本態性高血圧は、徐々に進行するのに対して、二次性高血圧は急速に進行することがあります。
血圧を上げる病気としては、腎臓の病気、副腎疾患などのホルモンの分泌に関係する病気、血管に炎症が起こるなどの血管性の病気、神経性の病気などがあります。
特に近年、副腎腫瘍に伴う高血圧が意外に多いことが分かってきました。原発性アルドステロン症などが代表的ですが、高血圧患者のおおよそ10%程度は、二次性高血圧である可能性があります。
高血圧の症状
高血圧の人が多い理由は、食生活の問題だけではなく、血圧が上がっても症状の出ないことが多いからです。毎日少しずつ病気が進行するため、身体が慣れてしまうということもあるでしょう。
頭痛や眩暈(めまい)、嘔気・嘔吐、手足のしびれが出るのは、突発的に血圧が上昇した場合です。
自覚症状がなく進行していくところに、高血圧の怖さがあります。そのため、症状が出る頃には体全体の血管がぼろぼろになっていることが多いのです。
最近は、家庭用血圧計も多く販売され、簡単に血圧を家庭で測定できるようになりました。日ごろから、定期的に血圧測定を行い、血圧が高くなっていないかチェックしておくことが重要です。
高血圧の予防法
高血圧の予防は原因と対比させて考えてみると、わかりやすいでしょう。
- 脂質異常症による動脈硬化に伴う高血圧の場合
規則正しい、バランスのとれた食事をする。 - 運動不足によるメタボ、肥満による高血圧の場合
運動、適性体重の維持(BMI25未満) - 食塩の取り過ぎによる高血圧の場合
食塩摂取量は1日8g未満を目標とする(2012年策定の“健康日本21”で定めている基準) - 老化による高血圧の場合
老化によるものは、ある程度やむを得ない部分があります。
高齢者はヒートショックに注意
冬に暖かい家の中から冷えた外へ出たり、冷え切った脱衣所やお風呂場から熱い湯船に入ったりしたときなど、体の周囲の温度が急激に変化することによって、血圧が急上昇することがあります。
このような、温度差が身体に与える悪い影響のことをヒートショックといいます。浴槽内で溺死する人の多くがヒートショックと見られていて、その8割以上は高齢者となります。
普段は血圧が高くなくても、注意しなければいけません。
日本人の塩分摂取量は多い!
日本人の食生活は塩分が多い傾向にあります。1950年代の東北地方の食塩摂取量推定値は、1日なんと25g!
それを1日8g未満にすることは、減塩商品に頼っても難しい場合があります。食生活は文化として根付いているものが大きいので、意識しないとクリアできる値ではありません。
また、世界保健機構(WHO)の食塩摂取量に関するガイドラインでは、一般成人の食塩摂取量を1日5g未満にするべきとしていますが、日本人にとっては、かなり厳しい基準といえるかもしれませんね。塩分を控えた食事療法については、栄養士さんの指導を受けるといいでしょう。
高血圧の合併症
高血圧を放置しておくと、どのようなことが起こるでしょうか?主に4つをあげることができます。
腎臓病
まず1番に腎臓病があげられます。腎臓の血管は非常に細いので、高い圧がかかりすぎると傷んでしまいます。
腎臓の機能が著しく低下すると、尿を適切に濃縮したり血液を正しく濾過したりすることができなくなってしまいます。
そうなると、体内に溜まった毒素を自力で体外に出すことができなくなるため、最悪の場合、人工透析を行い、毒素を体外に出すことが必要となってきます。
脳出血・脳梗塞
次にあげられるのが、脳血管へのダメージです。特に脳出血は高血圧患者に比例して患者数が多くなります。
脳血管にずっとかかっていた圧が限界を通り越してしまったときに、細い血管から出血を起こします。これが脳出血です。
逆に、脳血管に高い圧がかかり続けることで動脈硬化が起こり、血管が詰まってしまう脳梗塞もあります。
もし太い血管が破綻して出血・詰まった場合は、発症後すぐに命を落とすこともありますし、一命をとりとめた場合でも、麻痺や、言語障害などの後遺症が残ることが多いです。
心肥大・心不全
心臓の血管に圧がかかり、そして心臓が頑張って拍出量を稼ごうとすればするほど、心臓は疲れてきます。
そうすると心肥大(心臓が大きくなってなんとかしようとする)を起こし、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送ることが出来なくなる心不全を起こします。
心不全になると、体がむくんだり、息切れ、呼吸困難などの症状が出てきたりします。
眼底出血
糖尿病の合併症にもあるように、腎臓と並んで血管のもろいのが目(眼底)です。
圧に耐えかねた血管が破綻して出血したり、先が詰まったりして血流不全を起こすと、高血圧性網膜症を起こすことがあります。
高血圧は、症状がないため放置しがちだったり、治療をやめてしまったりする人が多くいます。しかし、このような合併症が起きてからでは遅いのです。命に関わるものだと意識しなければなりません。
高血圧の検査
高血圧に対する検査は、基本的には血圧測定です。高血圧の人の多くが規則正しい食生活をしていないことから、採血やエコーも含めて検査をすることもあります。
健康診断で血圧が高くて“H”マークがついてしまった人、いませんか?中には「こんな高いはずないんだけど・・・。」という人もいます。
実は、医療機関や健康診断で測る場合だけ、血圧が高くなる場合があります。
世の中には白衣高血圧といって、病院関係者(白衣を来た医師・看護師)が測定すると、緊張して上がってしまうという人もかなりの数いるからです。
以前は白衣高血圧は問題無いのではとも考えられていましたが、最近の研究ではやはり健康な人と比べると動脈硬化のリスクが高いとする報告も出てきました。
健康診断で血圧が高かった人は…
白衣高血圧と自覚している人も、していない人も、健診結果で高血圧と言われて病院を受診した場合は、受診時にもう一度血圧を測定します。
そこで血圧が高かったとしても、二次性の高血圧やよほどの高値でなければ「いきなり薬を使いましょう。」とはなりません。
まずは2~4週間、朝晩自宅で血圧を測定するようにいわれます。
毎日、血圧を測定することで、血圧がずっと高い人、朝だけ高い人などを診断していきます。
上腕用の血圧計で朝・夕の安静時に測定
家庭用の血圧計には色々な機種がありますが、使用するのであれば上腕用のものをお勧めします。
血圧測定の基準は、心臓、測定部位、血圧計を可能なかぎり同じ高さにするように決められています。このことで、測定した数値のバラつきが少なくなり、正しく測定できるのです。
手首で血圧を測る場合、血圧計を心臓の位置で固定することが難しくなりますので、数値にバラつきが見られることが多くなります。
上腕式の場合は腕を上げない限り、血圧計が心臓の位置に近い状態になるため数値の誤差が少なくなります。このようなことから病院でも上腕式の測定器が使用されています。
また、家庭で血圧を測定する際は、次の時間帯の安静時に行うことが望ましいとされます。
- 朝(起床後1時間以内・食前・排尿後)
- 夜(就寝前)
血圧は、測定する時間や些細な事で変動します。家庭で血圧を測定する場合は、毎日決まった時間帯に同じ状況で測定するようにしましょう。
年を取るにつれて血圧は高くなる傾向があります。高血圧には止めに気づくために、ある程度の年齢になったら家庭に一台は血圧計を用意しておくことをお勧めいたします。
高血圧の治療法
自宅で測定した血圧が高い場合には、薬による治療や食事指導を受けることとなります。
食事指導は、管理栄養士に普段食べているものをチェックしてもらうところから始まります。このチェックをすると、自分の食べ物の好みが、しょっぱいものや脂っこいものに偏っていることが分かったりします。
1日の塩分摂取量を減らすために、塩分の代わりとなる味付けを教わっておくといいでしょう。
降圧薬については、よく使用されるものとしては5つのタイプがあります。また、薬ですから副作用もあります。
主な降圧薬
- カルシウム(Ca)拮抗薬
カルシウムが細胞内に取り込まれることを抑え、血管を拡張させます。 - アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
血管を収縮させる作用を持つアンギオテンシンⅡの働きをブロックします。 - アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
血管を収縮させる物質「アンギオテンシンⅡ」が作られることを抑えます。 - 利尿薬
塩分と水分を体外に排泄して血圧を下げます - β遮断薬(含αβ遮断薬)
血圧を上げる神経の働きを抑えて心臓から拍出される血液の量(心拍出量)を抑えたり、血管の収縮を弱めます。
主な治療薬は上の5種類です。それぞれ微妙に違った作用で血圧を下げます。
また、脂質異常症(高コレステロール血症)の人には、上にあげた降圧薬と一緒に抗高脂血症薬であるスタチンが処方されることもあります。
1~5のうち複数を一緒に内服することもあります。
薬の内容などは、自宅で測定した家庭血圧の変動や季節(寒い時期には血管が収縮するので、血圧は上がります)を考慮して、医師が調整します。
血圧は上がりすぎても下がりすぎても危険です。勝手な飲み方をしたり、家族のもので代用しようとしたり、「高血圧に効く」とうたわれているサプリメントや、つぼ等の民間療法で治療したつもりにならないように注意しましょう。
必ず医師の診察を受けて、適切な薬を処方してもらいましょう。民間療法は高血圧の予防の段階まで、と考えておくといいでしょう。
高血圧を放っておくと、ある日突然脳出血で倒れた・・・なんてことにもなりかねません。あなたの健康・生活だけでなく家族を守るためにも、血圧管理、しっかりしましょう!
看護師からひとこと
高血圧を予防するためには、生活習慣の改善が大切です。
塩分を控えること、野菜・果物によりコレステロールを低くすること、そして、魚を積極的に摂取することが必要です。また、アルコールやタバコについても制限が必要になります。
生活習慣を意識することは、血圧が高い人だけでなく、すべての人にとって重要です。健康管理を意識した生活をしましょう。
高血圧のまとめ
血圧は、1回の拍出量、脈拍、血管抵抗で決まってきます。高血圧になる原因としては、脂質異常症、老化、運動不足による肥満、食塩の取り過ぎなどがあげられます。
高血圧は自覚症状がほとんどありませんので、気づいた時には合併症が発症していることがあります。高血圧の予防には規則正しい食生活など、生活習慣の見直しが必要となります。
血圧は加齢によっても上昇することがありますので、定期的な健康診断や自宅での測定など、意識して生活することが大切です。