更新日:2017年06月23日
目次
鼠径ヘルニアとは?(脱腸)
鼠径(そけい)ヘルニアとは、太ももや足の付け根付近(鼠径部)に柔らかいふくらみできる病気です。
そもそもヘルニアとは、臓器が正しい位置からはみだして体の隙間や弱い部分から出てくるもので、鼠径部にできるから「鼠径ヘルニア」といいます。
太ももや足の付け根にできるヘルニアには、鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアがありますが、鼠径ヘルニアは鼠径部の筋膜の間から皮膚の下に小腸が出てくる場合が多いので、一般的には「脱腸」と呼ばれています。こちらのほうはなじみがありますよね。
鼠径ヘルニアのふくらみの大きさは人それぞれですが、ピンポン玉や卵くらいにまでなることもあります。
さわってみると柔らかく感じることが多く、初期の段階では指で押したり体を横にしたりすると引っ込んでしまいます。
はじめは痛くありませんが、放置していると押しても引っ込まなくなってしまい、痛みも伴うようになって腸閉塞や腹膜炎などを起こしやすくなります。そうなる前に、きちんと医師(外科)に相談しましょう。
鼠径ヘルニアの原因は?
太ももの付け根付近には、筋膜を貫くように筒状の鼠径管が通っています。鼠径管は、男性の精管や女性の子宮を支えるじん帯を保護しています。
加齢などが原因で筋膜が弱くなると、鼠径管の入り口が緩んで鼠径管周辺にすきまができます。おなかに力が入ってすきまが広がると、そのすきまから腹膜が出てくるようになり、次第に袋状(ヘルニア嚢)に伸びて鼠径管内を通り脱出します。
ヘルニア嚢は一度できるとなくならないため、お腹に力を入れるとヘルニア嚢の中に腸などが入り込んでくるようになり、鼠径ヘルニアとなります。
また、もともと腹壁には弱い場所があり、そこから袋状に伸びるもの(内鼠径ヘルニア)や太ももの筋膜が弱くなって膨らみが発生するもの(大腿ヘルニア)もあります。
小児の場合は、もともと隙間があいてしまっていて、そこから脱腸してくることで起こります。
年齢による原因の違い
鼠径ヘルニア(脱腸)といえば、乳幼児に起こる「小児鼠径ヘルニア」を思い浮かべる方が多いかもしれません。小児鼠径ヘルニアの場合は先天的なものが原因であることが多くなります。
成人の鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は、前立腺癌をはじめとした下腹部の手術、肥満、立ち仕事、腹部に衝撃がかかる仕事(重いものを持ち上げる)などのほか、運動不足による腹筋などの低下や便秘、老化に伴って体組織が弱くなることなどです。
また、遺伝に関しては明確ではありませんが、親子で顔が似るのと同じで、鼠径部の形状が似てくることがあり、子どもも鼠径ヘルニアになりやすいと言われています。
大きな咳やくしゃみ、トイレでいきむといった動作も要注意です。(特に洋式トイレはその形状上なりやすいと言われています。)
腸などがでてくる鼠径管が女性よりも男性の方が大きいため、中年以降の男性に多く、30歳代から増え始め、50~60歳代がピークと言われています。
また、出産が原因で鼠径ヘルニアになる人が多く、妊娠中は腹圧がかかりやすいので注意です。
鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニア(脱腸)には大きく分けて3つの種類があります。発生する場所が異なりますが、遺伝的なものを除けば原因はほぼ同じです。
外鼠径ヘルニア(脱腸)
間接(外)ヘルニアともいいます。鼠径管にある隙間から腸がでてくる鼠径ヘルニア(脱腸)で、幼児の場合は、ほとんどがこのタイプです。患者数が最も多いのもこのタイプです。
内鼠径ヘルニア(脱腸)
直接(内)ヘルニアともいいます。筋肉層の隙間からでてくるタイプで、中高年のほとんどはこのタイプの外鼠径ヘルニアです。
大腿ヘルニア(脱腸)
鼠径管よりも下の足への血管の脇へはみ出すタイプで、特に出産後の女性に多いのが特徴です。
鼠径ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアは2段階の症状があります。初期段階では痛みなどはありませんが、早めに医師に相談しましょう。
初期段階
鼠径ヘルニアの初期段階では、立ち上がったり、おなかに力をいれたりしたときに、足のつけ根がふくらみます。
このふくらみは、体を横にしたり、手で押さえたりすると消えます。ふくらみを出し入れしているときは、軽い痛みやつっぱりが起きることがありますが、強い痛みなどはほとんどありません。
嵌頓(かんとん)状態
初期状態では特に痛みなどは感じませんが、ふくらみの原因は「腸」や「腹膜」です。放置していると、痛みや違和感が出るようになります。
「長時間立っているのがつらい。」「おなかが突っ張っている感じがする。」「急におなかが痛くなることがある。」といった症状がでてきたら、外科医師に相談しましょう。
さらに症状が進むと、出てきたふくらみが筋肉でしめつけられ戻らなくなる嵌頓(かんとん)状態になります。この状態を嵌頓ヘルニアと呼びます。
嵌頓ヘルニアになると、腸が締め付けられて食べ物が流れていかなくなってしまい、腸閉塞を起こしたり、さらには腸の細胞が壊死してしまったりする可能性が高まります。
また、壊死した腸管が破れて、腸の内容物がお腹の中に広がるとショックを起こし、放置すれば死に至ります。
薬などでは治りませんので、外科手術が必要になります。痛みを伴うヘルニアが時間の経過で元に戻らない場合は念のため医療機関で診察を受けたほうが良いでしょう。
予防法と注意
鼠径ヘルニア(脱腸)の原因には遺伝によるものもありますが、それ以外のものであれば生活の中で予防できることもあります。
鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は「腹膜などが弱くなっている状態でおなかに力が入ること。」であり、肥満・便秘なども要因となっているため、それを解消することが1番の予防法です。
- 重いものを持ち上げるときには、息をはきながらゆっくりと行う。大きく呼吸することで、急激に腹圧がかかるのを防ぐことができます。
- 便秘を解消する。トイレでいきまない。
- 適度に運動をして、肥満を解消する。腹圧を軽減させるほか、腸の動きもよくなります。
- くしゃみや咳は座って支えがある状態でする。(ぎっくり腰対策にもなります)
鼠径ヘルニアの治療法は?
一度ヘルニア嚢ができてしまうとなくならないため、鼠径ヘルニアの治療には外科手術が必要です。ヘルニアバンドやヘルニアサポーターなどもありますが、根治のためのものではなく、症状や痛みを軽減するためのものと考えましょう。
子どもの鼠径ヘルニアの治療
子どもの鼠径ヘルニアは先天的なものであることがほとんどです。もともと腹膜には弱い部分があり、そこから腸などが押されてふくらみます。
しかし、成長とともに筋力がついてきて鼠径ヘルニアが自然治癒することが多いので手術などはほとんど行われません。
検診などでも「見守りましょう。」と言われることが多いです。あまり心配しなくて大丈夫。
手術
鼠径ヘルニアの手術は、アメリカでは年間に80万件も行われており、日本では年間14万件から16万件程度です。
鼠径ヘルニアの治療では、次のような手術が行われています。
バッシーニ法
足の付け根を6センチから8センチほど切開し、腸などが入り込んでしまうヘルニア嚢を根元でしばって周りの筋肉などでヘルニアの出口を塞ぐ方法です。
術後に安静期間が必要であり、ツッパリ感などが残ることがあります。また、加齢によってさらに筋肉が衰えると、再発する可能性があります(20〜30%)。最近、鼠径ヘルニアの出口を塞ぎ、さらに近年開発された人工補強材を使って腹膜を補強する手術が行われてきています。
メッシュ&プラグ法
緩んですきまができた鼠径管の部分に、メッシュのプラグ(栓)(バトミントンの羽のようなもの)を入れる方法です。
局部麻酔ですむので日帰りでの手術が可能であり、術後のツッパリ感なども少ないなど体へのダメージも小さいというメリットがあります。感染がある場合などには使用が制限されることがあります。「鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り手術」というとこの方法が一般的です。
ダイレクトクーゲル法
体内で広がってすき間をふさぐ形状記憶タイプのメッシュシート(クーゲルパッチ)を使用する方法です。再発が1%〜5%と少なく、体へのダメージも小さいと言われています。鼠径ヘルニアの発生部位や症状などによって、メッシュ&プラグ法やダイレクトクーゲル法が選択されます。
腹腔鏡を使った手術
お腹に5~10mm程度の穴を数か所所開けて、腹腔鏡という内視鏡を使って手術します。手術後の痛みが少なく傷跡も小さいのですが、全身麻酔が必要なため、部分麻酔よりも手術時間が長くなる傾向があります。
手術後の経過
日帰り手術であっても、体に傷をつけている以上、感染症などにはかかりやすい状態です。できれば、傷口がふさがってくる3〜4日は休養して体を休めましょう。
デスクワークなどであれば、退院後、すぐに再開できますが、運動や重たいものを持つなどといった腹圧がかかる動作はしばらく避けてください。
それぞれの術式や体調や回復状況によってシャワ―の入れる時期や入浴時期は変化します。術後や退院後の生活については、医師の指示に従って生活するようにしてください。
看護師からひとこと
鼠径ヘルニアの術後の生活については、それぞれの体力や回復状況に差があります。医師とよく相談のうえ生活するようにしてください。
鼠径ヘルニア(脱腸)のまとめ
鼠径ヘルニア(脱腸)についてのまとめです。
原因など
鼠径ヘルニアは太ももの付け根あたりにできる柔らかい膨らみのことで、脱腸ともいいます。
重いものを持ち上げたり、くしゃみをしたり、トイレでいきんだりなど、日常生活の中でお腹に力が入るような動作が原因となることもあります。せきやくしゃみなどは壁に手をついて落ち着いた姿勢で行うといった注意が必要です。
注意点
初期症状は痛くなく、押せばもとに戻るので気にしないかもしれませんが、症状が進んでいくと痛みを伴い手術が必要になります。嵌頓ヘルニアになる前に医師に相談しましょう。
[カテゴリ:下半身]